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第127話 エキム

 タルブクを出発してから二日後、タルブクの北の道をエキムの案内で歩いている。


「ここから進んだ先がこの道で一番高いところなんだ。でも、勾配がきついのは今の場所。それで、どうだろう?」


「これくらいの傾斜ならいけそうだね。この先の下りも見てみないといけないけど、道もそこまで狭いところもなかったから大丈夫そうだよ」


「よかったー。それじゃ作り方を教えてくれよ」


「いいけど、カインに来てもらわないといけないよ」


「わかった。若いのを送り出すことにする」


 ユーリルとエキムはやっぱり気が合うようで、あっという間に仲良くなった。


「鍛冶工房はあったんだっけ」


「うん、小さいのが一つ。村の近くで銅の鉱石が取れるから、放牧の合間に村で使う分だけ作っているよ」


「それじゃ、荷馬車に使う部品の作り方も教えるから、鍛冶出来る人も一緒にお願いね」


「え! 鍛冶やっているの爺さんなんだよなー。さすがにあの年でカインまで行かせるわけにはいかないか……。考えてみるよ」


 エキムは私たちと年は同じだけど、かなりしっかりしている。すぐにでも村長の仕事の後は継げるんじゃないかな。


「ねえ、ユーリル。タルブクで荷馬車も作るようになるんなら、カインとの間も荷馬車で行けるようにしてもらいたいよ」


 今回のユーリルとエキムとの話が進むと、タルブクでも荷馬車を作るようになる。そうなると、タルブクと北の町との交易がより盛んになるけど、多くの荷物が運べないカインとタルブクの交易は下火になってしまう。マルトの北の村が荷馬車が川を渡れないせいで隊商が来なくなったみたいに……。

 隊商を率いているリュザールとしては、そこのところは見逃せないところなんだろう。


「うーん、あの傾斜なら二頭立てを四頭立てにして、重たいと止まるのに苦労するから……、荷物をあまり積み込まずに制動装置を変えたら……いけるか。狭いところを広げる必要はあるけど一度調べてみよう」


 荷馬車が通れるようになったら、馬に乗って移動ができるようになるからタルブクまでの時間も短くなるし、積み込める荷物も多くなる。タルブクの銅鉱石も集まるのなら銅貨も今以上に作ることができるから、普及には役立つと思う。


「それで、エキム。シュルトの村長(むらおさ)さんにお願いするのってそんなに大変なの?」


 今回の旅にエキムが付いて来てくれることになったのは、この村長さんと話をするには私たちだけで行っても難しいと言われたからだ。


「そうだね。ものすごく面倒見がよくて、シュルトの町の人たちだけでなく周りの村の村長さんからも信頼されているんだけど、知らない人の話は聞いてくれないんだよね。君たちだけで行ったら、会うのにも時間がかかると思うよ」


「いくつぐらいの人なの?」


「俺らとあまり変わらないよ。2つ上かな」


 2つ上なら20才か。その若さで村長を継いで、みんなから信頼されているのか。協力してもらえるようになったら力強いかもしれない。







「ねえ、エキム。この先に湖ってなかったかな」


 ユーリルが聞いている湖ってあれかな、天空の湖と言われているやつ。人工衛星からの画像で見た覚えがある。名前は何だったかな……。

 私たちは、あれから少し進んだ谷あいの道を登っている。このまま真っすぐ道を進むみたいだけど、確かにここから左の方に行くことができそうな感じがする。


「よく知っているね。この先には青くてきれいな湖があるよ。今はまだ雪があるからいけないけど、そこは夏にはいい草が生えるんだ。このあたりの人たちは家畜を連れて放牧に行っているよ」


「もしかしてタルブクからも?」


「うん、馬と羊が喜ぶからね。その頃になると村の人たちの半分くらいはいなくなるんじゃないかな」


 遊牧民の話はユーリルから聞いていたけど、そんなにたくさんの人が移動するんだ。


「じゃあ、今年はこれから移動することになるんだね」


「今年は難しいかな。去年盗賊の被害に遭って亡くなった人がいるんだよね。危ないのがわかっていて送り出すわけにはいかないから……」


「え、それじゃ大変じゃん。羊たち痩せちゃうよ」


 遊牧の大切さを知っているユーリルは、心配しているようだ。


「そうなんだよ。それが一番困っていることかな。村の近くの牧草地には限りがあるから、年取った人たち用にしていたんだけど、そうは言ってはいられないし、だからと言って羊や馬を減らしちゃったら来年以降が困るし……。だから俺もなんだって協力するから頼む」


 と言って、エキムは頭を下げた。


「わかったから、頭をあげて。元々がセムトさんから頼まれてタルブクのために来ているんだから、できるだけのことはするよ。ねえ、ソル」


「もちろん!」


 エキムはもう友達だし、チャムさんの旦那さんだ。どれだけやれるかわからないけど、手伝ってあげたい。







「なあ、ちょっといいか」


 その日の夜、ユルトの中で夕食後の勉強をしていた私たちのところにエキムがやってきた。


「どうしたの? エキム」


 エキムをユルトの中に招き入れ、車座になって話す。


「いや、用というか…………。昨日お前たちが一緒のユルトだと知って、さすがに驚いてさ。他の村のことに口挟むのはどうかと思って黙っていたけど、一応俺も村長になるだろう。やっぱりそのまま見過ごすことはできないんだよね」


 なるほど、カインにいたら気にならなくなるけど、テラでは未婚の女性が他の男性と一緒にいるのはご法度だからね。エキムが心配するのもわかる。


「エキムさ、だいたい2日ソルと一緒にいたと思うけど、どう思った?」


「思いのほか話しやすかった」


「女の子と思ったことは」


「最初はそう思っていたけど、途中からわからなくなってきた……」


「だろ、こいつの中身は男だから、みんなそう思うんだって」


 コルトと同じこと言われている。さすがに昔のように女の子らしくしないといけないって思うことは無くなったけど、改めてそう言われると魅力がないんじゃないかって不安になってしまう。


「でも、今度リュザールと結婚するんでしょ?」


「そうそう、リュザール以外の男はソルのことを友達としか思えないけど、リュザールだけは女として見えているんだよね」


「あのー、さすがに失礼じゃないかな」


 さすがに言われっぱなしでは(しゃく)(さわ)る。


「リュザールもなんか言ってよ」


「ソルの魅力をわかるのはボク一人で十分だからね。今のままのほうがいいね」


 ううー。


「それでもリュザールとソルはまだ結婚してないんだから、一緒で大丈夫なのだろうか……」


「リュザールはさ、ソルと会って以来もう3年以上我慢できているだよ。それに、戻ったらいくらでもイチャイチャできるんだから、わざわざ俺の目の前で始めないって。心配ならお前もこのユルトで寝たらいいよ」


 と、言うことでエキムも旅の間、同じユルトに泊まることになった。


あとがきです。

「ソルです」

「リュザールです」

「「いつもご覧いただきありがとうございます」」


「リュザールだけだよ、私を女の子として見てくれるの」

「ソルは今のままで十分魅力的だと思うよ。でも、これ以上他の人にそれが知られるのは困る」

「そうは言っても、女の子ならみんなから可愛いとか言われたいと思うんだけど、風花はどう思っているの?」

「風花は樹にさえ見てもらえたらいいから、今は樹に見てもらえるように頑張っているよ」

「う、そうなんだ。それじゃ私は、リュザールに見てもらうために……」

「うん、頑張って!」

「ど、努力します。それでは次回更新のご案内です」

「次回のお話は第128話『エキム、初めての経験』です」

「初めての経験って何だろう。チャムさんに子供いたしなー」

「そう言うのではないみたいだね。それでは次回もお楽しみにー」


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