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第126話 タルブクの村長さんの家で

 チャムさんは井戸のところで野菜を洗っているようで、隣には小さな男の子が一人で遊んでいた。


「ソルじゃない! どうしてここに?」


 私の後を付いてきたユーリルは、ここに来た理由をチャムさんに説明する。


「あ、お義父さんが父さんに頼んでいたんだ。ほんと困っているのよ、助かるわ。居間に案内するから付いてきて」


 そういうとチャムさんはそばの男の子を呼び、一緒に私たちを家の中へと案内してくれた。




 通された居間の中央には火が焚かれ、冷え切った私たちの体を温めてくれる。しばらく待っていると、中年の男性と私たちと同じくらいの年の男の子がやってきた。


「お待たせしました。セムトから頼まれたとお聞きしましたが、この村を助けていただけるのでしょうか」


 話し始めたのは中年の男性、声も表情も似ているから、この人がセムトさんのお兄さんなんだろう。


「あ、これは失礼。自己紹介がまだでしたな。私はセルト、セムトの兄です。この村の村長(むらおさ)をやっております。そしてここにいますのは息子のエキム。そして、嫁のチャムはよくご存じですね」


 エキムと呼ばれた少年とチャムさんが私たちに頭を下げてくれた。


 私たちも自己紹介を行い。ここに来た理由を改めて話す。


「なるほど、確かにこの村では作物はあまり採れませんが、羊や馬はたくさん飼うことができる。今はその家畜を売る場所が無く困っておりますので、それさえ売れるようになったら村は持ち直すことができます」


「はい、それで俺らはこれより北の村や町のことをよく知りません。新しい作物を作ってくれそうなところを、教えていただけませんでしょうか?」


「お聞きしたところその作物は、寒さも必要だし夏にはある程度温かくないといけないようですな。それでしたらここから北にしばらく進んで、山を下りたところの平野がいいでしょう。それでエキム、あのあたりで話をつけるとしたらどこがいいだろうか」


 なんでもエキムさんは、チャムさんと結婚する前に北にある町で、村長の仕事の修行のため数年間暮らしてきたことがあるそうだ。


「そう言うことでしたら、シュルトの町がいいかと思いますが……」


「シュルトか、確かにそこと話が付いたら周りの町も協力してくれると思うが……」


 なんだか二人の歯切れが悪い。都合が悪いことでもあるのかな……


「その町について、話を聞かせてもらうことはできますか?」


 ユーリルがそう尋ねると、話が長くなりそうだということで、私たち三人はセルトさんの家に泊まらせてもらうことになった。早速リュザールとユーリルが私たちの馬を隊商宿に取りに行き、私は料理を手伝い、食事の後もこの話を続けた。






「ごめんなさいね、チャムさん。急に私たちまで泊まることになっちゃって、忙しかったでしょう」


 その日の夜、チャムさんは子供をエキムさんに預け、カルミルをもって私の部屋まできてくれた。


「構わないわよ、それにソルからいろいろな料理を教わったから。お母様も喜んでいたわ」


 こちらにはプロフはあったけど、唐揚げのようなものはまだなかったから教えてあげたんだ。こちらでの発案者のルーミンも、この旅の前に尋ねたら気にせずに広めてくださいって言っていたので、その言葉に甘えさせてもらったよ。


「それに、エキムさんまで一緒に連れて行くことになっちゃって……」


「あはは、気にしないで、エキムは結構旅好きなのよ。それにシュルトには友達も多いみたいだから、遠慮なく使ってあげてね。それよりも早くカインの話を聞かせて」


 ということで、時間の許す限りカインのことをチャムさんに教えてあげた。


「ラーレのところは女の子か……うちの子のところにお嫁に来てくれないかしら」


「うーん、ルフィナは人気なんだよね。一緒に来たユーリルの奥さんがうちの子と一緒にさせるって張り切っているよ」


「そうなんだ、身近な子の方にはかなわないかな、残念。それじゃソルの子供が女の子だったら、うちの子に頂戴ね。年の差もちょうどいいと思うから」


「はは、考えておくよ」


 パルフィからも頼まれているんだけどね。


「それにしてもあのリュザールがねえー。あまり他の子に関心なかったように見えていたけど、やるときはやるのね。結婚式には行けないけど幸せになりなさいよ」


「ありがとう。チャムさん」


「それじゃ、さっきカァルに会ったって言ってたよね。詳しく聞かせてもらえないかしら」


 あはは、チャムさんの目が輝きだした。今夜は眠るのが遅くかも。






 翌朝、チャムさんたちに別れを告げた私たちは隊商の人たちと合流し、北の町シュルトに向かって出発する。


「エキム、ごめんね。一緒に付いてきてもらって」


 エキムとは、最初の頃は敬語で話していたんだけど、私たちと一緒の年ということで、まあいいかという感じになった。


「気にしないで、俺たちも物資の補給に行きたかったしさ。一緒に付いてきてくれる人がいるだけでありがたいんだよね」


 エキムの馬には、シュルトで物資に交換するためのたくさんの荷物が載せられている。当然私たちと同じように歩きだ。


「ここから先は危ないの?」


「うん、食べるに食べられなくなって、盗賊になる人もいるんだよね。だから隊商も人数が必要だし、費用が掛かって大変なんだ」


 銅貨が普及していないこの地方では、交易にはたくさんの荷物を運ばないといけない。それだけでも人が必要なのに、護衛のためにも人を派遣したらそれだけ余分な経費が掛かってしまう。

 その費用は結局村人が負担することになるので、生活が苦しくなっていくのは仕方がないことなのかもしれない。


「仕方なく盗賊になるのか……」


「ソル、ダメだよ。一度盗賊になった人はもう戻れないから、楽にしてあげないといけない」


「そうそう、探し回ってまでは討伐はしないけど、襲われたらしょうがないよね。逃がしたら後でほかの人が困ることになるからね」


 やっぱりいちばんいいのは、人を襲わなくても生活できるようにすることなんだろうな。

あとがきです。

「ソルです」

「ユーリルです」

「「いつもご覧いただきありがとうございます」」


「エキム、話やすくてよかったね」

「なんだか他人じゃない気がしているんだけど……」

「ま、まあ、そういうこともあるんじゃないかな。それで次の目的地の北の平野まではどれくらいかかりそうなの?」

「エキムによると10~11日ぐらいらしい」

「車なら?」

「319キロ、4時間半」

「お、こっちの方がカインより遠いのに早く着く感じなのかな」

「たぶん山道が少ないんだと思う」

「途中に村はあるの?」

「あっても隊商宿があるほどの規模のところはないみたいだね。だから泊りはユルト」

「ユルトかー、もう慣れたよ。そろそろ隊商にもなれるんじゃないかな。それでは次回更新のご案内です」

「次回は一緒に旅することになった彼のお話です」

「次回もお楽しみにー」


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