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第125話 タルブク到着

「今日もお疲れさまでした。それでは始めようか」


 夕食後のユルトの中では、私、リュザール、ユーリルの三人がそれぞれ毛布をかぶって寒さをしのぎ、車座になっている。


「最初はソルだっけ」


「うん、それじゃいくよ、よく聞いてね。今日は英語です。…………old man talked about? はい。この答えはなに? わかったら私の手に書いてね」


 カインで夕食後、ユーリルの家で行っていた勉強会をここでも引き続きやっているのだ。


「うーんこれかな……」「たぶん……」


「はい、リュザール正解! ユーリルも正解!」


 とまあこんな感じで、昨日地球で覚えてきた問題を他の二人に解いてもらっている。


 地球とテラとで持ち運べるものは記憶だけ。だからこちらで勉強するためには、地球で勉強する内容を覚えておく必要がある。それじゃ、テラで勉強する意味ないと思うかもしれないけど、実はそうでもない。問題の出し手も答え手も何の教科の何の問題を出すかを決めない。だから、常に試験をやっているような感じがして気が抜けないのだ。

 もちろん、意地悪する必要なんてないから、私もみんなも相手が知っている問題を出すようにしているけどね。


「次は俺ね……今日は世界史。南アフリカであった人種差別的政策の名前はわかるよね。それじゃ、それが撤廃された意味について話し合ってください」


「えっと、なんだっけ……マンデラさんが……」


「その前に大統領さんがいなかった?」


「そうそういた、確か……」


 ね、こんな感じで応用問題も出されるから、大変なんだよ。


 一応、文章を読まないとできない問題や、図形や表を見て答える問題なんかは地球で勉強することにしている。こちらでは、記憶力で解ける問題を中心にやっているけど、地球との勉強時間の振り分けができるようになったから、これまで以上にみんなの成績も上がっているのだ。


「ルーミンの奴、ちゃんとやってんのかな」


 この旅に出る少し前から、リムンとルーミンも私たちと一緒に勉強していたんだけど、ルーミンは新婚ほやほやだ。本当ならば夜はジャバトと一緒に過ごしてほしい。でも、今の海渡の成績では受験がちょっと心もとないんだよね。


「夜はリムンと一緒にパルフィのところで勉強しているんでしょ」


「昨日凪ちゃんに聞いたら真面目にやっているって言っていたよ」


 せっかくなら凪ちゃんも海渡も同じ大学に来てほしいんだけど、まずは私たちの受験が先だ。落ちないようにしないとね。




「さてと、今日はこれくらいにしようか。リュザール、タルブクには明日到着だっけ?」


「うーん、夕方前には着けるかな。ねえ、ソル。最初はセムトさんの実家に行っていいんだよね」


「うん、そこにはチャムさんがいるはずだから、きっと力になってくれるよ」


 セムトおじさんの実家はタルブクの村長(むらおさ)さんで、チャムさんの旦那さんのエキムさんはその後を継ぐ予定だ。確かエキムさんって、私たちと同じ年じゃなかったかな。4つ上のチャムさんと結婚しているから、年上好きのユーリルと話が合ったりして……





 リュザールの言った通り、私たちの隊は夕方近くにタルブクに到着した。カインを出発してから15日、近くて遠い隣村へようやく行くことができた。


「それじゃ、みんなは隊商宿の手配お願いね」


 私とリュザール、ユーリルの三人は宿の手配を隊商の人たちにお願いして、セムトおじさんの実家へと向かう。


「チャムさんって確か、俺とコペルがカインに来てすぐに結婚して、村を出て行った人だよね」


 そっか、チャムさんが結婚してタルブクに行ったのは夏だったから、ユーリルはまだ竹下と繋がっていない頃に会っているんだ。


「うん、お別れの会の時に会ったんだっけ」


「多分その時かな、セムトさんが大泣きしていてびっくりしたのは覚えている」


 そうそう、あの時はいつも冷静なセムトおじさんでも、娘を送り出すときにはこうなるんだって思ったんだった。


「ボクは、カインに行ったときにセムトさんから紹介されたことあるよ。面倒見がよさそうな感じがしたね」


 そっか、リュザールはカスム兄さんと一緒に隊商をしていたんだった。それならカインに来た時にチャムさんとも会うこともあるのか。


「うん、チャムさんは、面倒見がよくて明るくて、私たちのお姉ちゃんみたいな存在だったよ。ふふ、それにカァルが大好きでね。いつも用もないのにうちに来てた」


「あーカァルー、また会いたいよー。子供のころのカァルにも会いたかったよー」


 相変わらずのユーリルはほっとくとして、カァルと別れた後の私たちの旅は、クマや盗賊に会うこともなく順調だった。


 ただ、途中で盗賊に襲われたと思われる集落の後を見つけた。たぶん、カインに逃げてきた人たちが住んでいた場所だと思うけど、そこにはすでに人の気配もなく朽ち果てた建物が残っているだけだった。

 仮に人が住んでいたとしても、その場所は裕福とは程遠い日々の暮らしがやっとだと思われる場所で、襲われた人たちもそうだけど、そこを襲わないといけない人たちがいることにやるせない気持ちになった。


「ソル、もうそろそろつくよ」


 リュザールのその言葉を聞き終わる前に、私は駆け出していた。


「チャムさん!」


あとがきです。

「ソルです」

「ユーリルです」

「「いつもご覧いただきありがとうございます」」


「それにしてもタルブクは遠かった」

「カインからタルブクまでは直線距離で210キロ、地球の地図アプリで調べると288キロ、車で6時間半だってよ」

「私たちは半月かかってようやく……理不尽な気がする」

「仕方がないよ。歩いた上に山道だからいつもより進めないしさ。でも、今回の旅は楽しかった」

「カァルに会えたからでしょう」

「それはもちろんそうなんだけど、ソルとリュザールの二人とたくさん話すことができたからね」

「確かに最近はそれぞれの仕事が忙しくて、テラでは話す機会があまり無かったよね」

「だから二人と話せて、もっと頑張らなくちゃって思ったよ」

「えへへ、期待しています。それでは次回更新のご案内です」

「次回はタルブクの村長さんのところでのお話です」

「皆さん次回もお楽しみにー」


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