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第116話 前日だというのに……

「ねえ、ソルさん。結婚式を伸ばしてもらうことって、できませんかね」


 雪も解け、歩きやすくなった道を村の広場から工房へと向かっている道の途中、ルーミンがなんか言い出した。


「何言ってんの! 結婚式はもう明日だよ。たった今、準備の打ち合わせをすませたところじゃない」


 明日は春の中日、一年の始まりの日だ。そしてジャバトとルーミンの結婚式の日でもある。


 その結婚式の最終の打ち合わせのために、ルーミンと二人で村の奥様方のところまで行ってきて、今はその帰りなのだ。


「そうなんですけど……」


「どうしたの?」


「あのー、私、明日とうとう女になっちゃうんですよね」


 あー、そう言うことか。

 結婚式がすむと、その夫婦はその日から一緒に生活することになる。それまで手を繋ぐこともままならなかった若い二人が一夜を共にする。つまり初夜が訪れるのだ。

 当然何もないということは考えられないし、また、周りからも期待されている、子供を授かるための大切な儀式……。


「ルーミンは男の人を受け入れるのが怖いんだね」


「う、有体(ありてい)に言えばそうです。まだ、男にもなっていないんですよ。それが女になるのが先だなんて……」


 唯ちゃんとの経験はまだなのかな。


「唯ちゃんとは何もないの?」


「うぅ、唯ちゃん。樹先輩並みに硬物で、年末にキスしたのもやっとなんです」


 唯ちゃんは、クリスマスの時に風花のお母さんの水樹さんに尋問を受け、海渡とのキスのことを告白していた。

 その時は幸せオーラを出していたから、そういうことが嫌というわけではなく、まだ早いと思っているのだろう。


「唯ちゃんは女の子なんだから、無理強いなんてしちゃだめだよ。というわけで、ジャバトとの結婚式は今更伸ばせないから、諦めて明日を迎えなよ」


「もちろん唯ちゃんの気持ちを考えていますよ。大切にしたいですし……。ちなみに私も女の子ですよ、お願いしたら伸びたりしませんか?」


「テラと地球では事情が違うの!」


 テラでは医療が発達していないから、平均寿命が地球に比べてかなり短い。子供が病気で亡くなってしまう割合も多いんだけど、大人も病気や事故で簡単に命を落とす。

 そのため、若いうちから子供を作っておかないと、育てられないことも出てくるのだ。一般的には40才になる前に最初の子供が結婚して、孫ができているのが理想とされている。


「早く赤ちゃん作って育てないと、大きくなるのを見ることできないかもしれないよ」


 いくら私たちが地球の知識を持っていると言っても、テラの文化水準では実現できないものはたくさんある。それが命のかかわることであった時、私たちにできることはあまりない。


「せっかく赤ちゃんを産むのなら、大きくなるのは見届けたいです」


「でしょ。パルフィはルーミンが女の子を産んだら、ラザルがラミルのどちらかのお嫁さんにするんだって言っていたよ」


「ラザルとラミルですか。確かにあの子たちはイケメンになるのは間違いなさそうですね。イケメンからお母さんと呼ばれる……ふむ、悪くないかもしれません」


「もう大丈夫?」


「ふふふ、任せてください。立派な女の子を生んで見せますよ!」


 赤ちゃんを授かるか、授からないか、男の子か女の子かはその時になってみないとわからないことだけどね。


「そうそう、ルーミン。これから新居を見に行くんでしょう?」


「ええ、ようやく完成しましたからね。どんな出来栄えか確かめないといけません」


 最初の予定では、もう少し早くに完成する予定だったと思うんだけど、


「結構ギリギリに完成したよね。ユーリルにしては珍しいけど、どうしたんだろう」


「いえ、私が無理なお願いをしてしまって……でも、それを実現してくれたみたいですから、ユーリルさんて本当にすごいですね」


 ユーリルがすごいのは知っているけど、


「無理なお願いって何を頼んだの?」


「まだ見ていないので内緒です。でも、うまくいったって言っていましたから、今から見るのが楽しみなんです」


「結婚伸ばしてーって言っていたのに?」


「う、それとこれとは別です。……別にジャバトと結婚するのが嫌ではないんですよ。ただ、男としてを考えちゃうとあれなだけで……。でも、もう吹っ切れましたからね、新居で幸せになってやりますよ」


 ルーミンが頼んだことは気になるけど、新居を始めて見るのは夫婦になる二人だけの方がいいから、邪魔しない方がいいだろう。





 工房まで戻った私は、ルーミンとはそこで別れ、リュザールを探しにアラルクたちの元へ向かった。


「みんな、お疲れ様。それと、ごめんね。ルーミンたちの家が終わったばかりなのに手伝ってもらって」


「平気だよ。もう慣れた作業だからね」


 アラルクたちにはルーミンたちの家が完成したあと、私とリュザールの新居の建設をお願いしている。場所はルーミンの家の隣だ。

 今はその基礎工事中なんだけど、ルーミンたちに限らず工房の子たちが新居を構える時にはみんなで手伝うので、建設の熟練度も上がってきているのだろう。


「あ、ソル。ジャバトとルーミンの家はもう見たの?」


「ううん、外だけ。中は見てないよ」


 ここに来る途中というかすぐ隣にあるから見えるけど、外から見た感じはテラで見る普通の家とあまり変わらないように思う。


「そうか、それじゃ中を見るまで内緒にしておいた方がいいね」


 アラルクたちは建設を手伝っているから知っているのかな、気になるなぁ。よし、後からルーミンにお願いして見せてもらおう。


 でも、その前に明日の結婚式の準備が先だ。


「ねえ、アラルク。リュザールしらない?」


「リュザールなら料理の手伝いをするって言って、寮まで向かったよ」


 あ、先に行ってくれている。私も急がないと……


「ありがとう。あとはよろしくね」


あとがきです。

「ソルです」

「ルーミンです」

「「いつもご覧いただきありがとうございます」」


「ようやくだね、ルーミン。おめでとう!」

「あ、ありがとうございます」

「新居たのしみだねえ」

「え、そっち?」

「そっちって……ははーん、さては初夜の心構えを聞いてほしかったのかな」

「え、いや、それは勘弁してくださいって、ソルさんも経験ないでしょう!」

「まあ、それはそうだけど」

「あ、そうか、樹先輩は……くそ!」

「言葉遣い! それはそうと、一安心だよルーミンが身を固めてくれて」

「賑やかだったあの部屋から出ていくのは寂しいです」

「そうだね、だいたい4人はいたからね。……ん、そういえば、リムンはどうするの? ジャバトがいなくなったら、リュザールがいないときには一人だよ」

「リュザールさんもすぐに結婚して出ていかれますけど、夏にはテムスが戻って来るから待っとくよって言ってましたよ」

「そっか、テムスとコペルは戻ってもすぐには結婚できないからいるんだ」

「はい、リムンはそれまでは地球では難しい一人部屋を満喫するそうです」

「そうなんだ、それならよかった。それでは次回更新のご案内です。ルーミンの結婚式の前に、もう一つエピソードが入ります」

「次回もお楽しみに―」


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