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第110話 収穫祭3

「それではお時間になりました。腕相撲大会の決勝戦を開始します。選手の方はお集まりください!」


 案内の声に導かれ、広場中央には試合を見ようと多くの人たちが集まってきた。


 私はこのまま、ラーレ達と一緒にテーブル前の特等席での見学だ。



 対戦用のテーブルは木製だけど、強度を保つために所々を金属で補強してある。そう簡単には壊れないよとユーリルが言っていたから、壊れて二人の勝負に水を差すということは無いだろう。


 そのテーブルの前では、アラルクとラーレのお父さんが向かい合い、開始の合図を前に火花を散らしていた。


「アラルクよ、ルフィナはきっと強いやつが好きに決まっている。おめえが強いのは認めるが俺にはかなわねえ、諦めて二番手に甘んじてな」


「いくらお父さんでもルフィナの一番は譲れません。全力で行かせてもらいます」


 (はた)から聞いていても、何言っているんだこいつらって感じだけど、当人たちはいたって真面目なんだと思う。


「ねえ、ラーレ……」


「言わないでソル」


 まあ、それだけ普段は仲良しだってことなんだろうね。


「はじめ!」


 おっと、いつの間にか始まっていた。


 力と力の激突!

 テーブルの上では男の意地をかけた戦いが繰り広げられている。


 ラーレのお父さんは、さっきとは打って変わって最初から全力だ。アラルクももちろん手を抜くことはできない。


 二人は互いに右手を組み、左手はそれぞれがテーブルの端をつかんで、力を逃がさないようにしていた。


 今のところ力が拮抗しているのだろう。テーブルの中央でがっしりと組まれた二つの腕は、時折揺らぐくらいであまり動くことは無い。しかし、腕まくりされ、あらわになった二人の腕には、()(うで)にかけて青く太い血管が浮かび上がっているのが見える。お互いが全力なのは誰の目にも一目瞭然だ。


 手に汗を握る一進一退の攻防は続く。




「いいぞー!」「アラルク負けるなー!」「馬屋の力見せてやれ!」


「二人ともケガしないでねー」


 二人には、周りの声援がまるで聞こえていないかのように見える。

 何がここまで真剣にさせているのだろうか。


「あー、あー」


 その時、ルフィナがテーブルに向けて手を上げ、なにか話しかけたように見えた。


 刹那!


 アラルクはカッと目を見開き、満身の力で()めにかかる。その反応に一瞬だけ遅れたラーレのお父さんは、抵抗虚しく手の甲をテーブルにつけていた。






「アラルク、おめでとう。勝因は?」


 中央のテーブル前ではユーリルがアラルクに質問していた。


「ルフィナが……娘が応援してくれたから勝てました!」


 みんなから大きな歓声が上がっているけど、応援って、あの『あー、あー』?


 ルフィナは確かに二人の方を向いて話しかけていたように見えたけど、まだ四か月だからなんか見たことある人がいるよ程度の意味しかないと思う……。

 それしてもアラルク、あの声援の中でルフィナの声がよく聞こえたな。


「アラルク選手には優勝の商品として、工房特製の新型糸車をお送りします! 皆さん盛大な拍手を!」


 広場全体に響いた拍手の中、腕相撲大会が終了した。






 収穫祭も予定通り進み、残りのイベントは若者によるフォークダンスだけになった。フォークダンス自体この世界で初めてのことだと思うけど、参加予定の若者には昨日の夕方練習させた。そのダンスも地球の私たちが知っている中でも簡単な踊りを選んだし、多少間違ってもそれはそれで盛り上がるはずだ。


 開始時間まで余裕があるので、出店の様子を見てみる。


 工房のタオルはもう少しで売り切れそう。オジャクさんの箸はすでに売り切れているようで、出店には何も残っていない。今はたぶん追加の注文を受けているんだと思う。


 ハチミツの屋台には……もう誰もいない。ここはすぐに売り切れたみたいで、リュザールに頼んで先に買ってもらっていて正解だった。やっぱり自然のものを集めるのは大変みたいだ。


 毛皮が付いた靴のお店は、腕相撲大会を終わらせたユーリルが話をしている。お店のおじさんも感心している様子だから、次はもっといい物を作ってくれるんじゃないかな。




 それと……ルーミンの屋台の方を見ると、あらかた片付けも終わっているようで、ジャバトと二人で他の屋台から持ってきた料理を食べていた。


「お疲れ様。だいぶん片付いたみたいね」


「おかげさまで、もうあとはみんなに手伝ってもらう分だけですね。それにしてもすごい盛り上がりでした。ここまで聞こえていましたよ。アラルクさんが勝ったんでしょ」


「そうそう、ルフィナの応援で勝ったって言っていたよ」


「小っちゃいルフィナが応援なんてできるはずないのに、アラルクさんは幻想でも見たんですかね」


「なんだかわかる気がする。俺もたぶんルーミンとの子供ができたらそうなる気がする……。あ、俺、追加の料理取ってきますね。ソルさんも食べるでしょう」


 そう言うとジャバトは、料理を取りに屋台まで走って行った。


 それにしても……


「いつの間に呼び捨てされるようになったのかなぁ」


「うっ、つい先日からそう呼ばれるようになりました」


 つい先日か、そういえば海渡と唯ちゃんがお祭りデートをしたのもその頃じゃなかったかな。その当日、海渡がなんだかそわそわしているから問い詰め……尋ねたら、そう白状……話してくれた。もちろん、みんなで影から温かく見守ってあげたのは言うまでもない。


「思った以上に順調そうでびっくりだよ」


今のところはいい感じに進んでいるのかな。


「あはは、もう開き直っちゃいましたからね。どんとこいですよ。ところでソルさん、さっきリュザールさんの屋台で話し込んでるのを見かけたんですが、どうされたんですか?」


「あ、そうそう。リュザールの屋台の商品がまだ売れ残っているんだよね。ルーミン何か欲しいものがあったら買ってあげてね」


宣伝を頼まれていたんだった。


「リュザールさんの屋台って、普段使いの雑貨でしたのよね。……まだ新居で使うものを揃えるのには早いのですが、後でジャバトと見に行ってみますね」


「お願い。売れ残ったらすねちゃうからさ」


「すねたリュザールさんて可愛らしいですけどね」


「止めてよ、後が大変なんだから」


「はーい」


「料理持ってきましたよー。ソルさんもどうぞ」


 そのあと、ジャバトが持ってきてくれた料理を食べているうちにフォークダンスの時間がやってきた。





「それでは、これからこのお祭りの最後に結婚前の若い方のみで踊りを披露したいと思います。参加予定の方は広場の中央までお集まりください!」


 指定された場所には三つの村の若者が集まって輪になっている。


「さあ、行くよ!」


 私たち工房の職人もその周りを囲む。


 というのは、フォークダンスを踊ろうにも、こちらにはスマホもCDもラジカセもない、それに楽器もほとんどないから、音楽を鳴らすものがないのだ。だから、これから、工房の職人で歌って踊りを盛り上がらせないといけない。


 私たちが歌い、それに合わせて若者たちが踊る。そして、次第にその歌は周りで見ていた人たちにも広がり、中には真似て踊りだす人たちもでてきた。


 収穫祭は最高潮を迎え、そして閉幕した。


あとがきです。

「ソルです」

「ユーリルです」

「「いつもご覧いただきありがとうございます」」


「収穫祭無事終わりました!」

「樹の思い付きに振り回された格好になったけど、何とかなったね」

「思いついたのは確かだけど、みんなもノリノリでやってたでしょう」

「うん、楽しかった。特に素朴な感じがよかった」

「初めてのことだったからね、難しいことはできないよ。でも、村人のほとんどが参加してくれたみたいだよ」

「屋台も人気だったみたいだけど、みんな売り切れたんだよね」

「リュザールの屋台以外はみんな売り切れてた……」

「え、そ、それはソル、ちゃんと慰めてあげなよ」

「わかってる。さっき急遽風花とデートすることにしたからその時に」

「そっか、こっちじゃまだ二人っきりになれないもんなー」

「うん、これで機嫌を直してくれたらいいんだけど」

「まあ、頑張れ。それでは次回更新のご案内です」

「次回は祭りを企画したらその後は……という内容です」

「「次回もお楽しみに―」」


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