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神の去った世界で  作者: ジョニー
終章 それぞれの結末
92/215

最終話 若者達の旅路



 正直、こうなるとはカンナも思っていなかった。




 セルディナに腰を落ち着けるとは言った。暫くはこの国の為に動くのも悪くないとも言った。




 だが、と思いながらカンナは呆然と眼前の豪邸を見遣り呟いた。


「これはやり過ぎだろう・・・。」






『このままシオン君の家に居候を続けるのも気が退けるだろう?』


 ブリヤンに言われて


『ソレもそうだな。』


 と頷いたものだ。


 確かに自分が居ては、シオンもルーシーと事を運び難かろう。


『しかし、他に住む場所が無いしな。』


『なら、国から感謝の印として住まいを提供しようじゃないか。』


『おお、ソレは助かるな。出来ればシオンの家の近くがいいな。』






 などと気軽に答えた自分の迂闊さにカンナは嫌気が差す。




 確かにシオンの家からそんなに離れてはいない。馬を走らせれば600を算える内に着いてしまう距離だ。


 だが区画が違う。カンナの眼前に立つ豪邸はシオン達冒険者が住むエリアの隣、小高い丘陵地帯を整地した王宮勤めの重臣達が住むエリアなのだ。


 寧ろシオンの家よりも、ブリヤンやセシリーが住む公邸の方が距離的には近い位置に在る。しかも門に刻まれた紋章はカンパネルラの花であり『王家の友人』の証とされている。




 此れはカンナが名実ともにセルディナ公国の重要人物であると、公王が明言したようなモノだ。


『やられたな・・・。』


 と思わなくも無い。


 が、考えように因っては悪くない。以前に貰った『御免状』も合わせれば国や魔術院の様々な資料を読み漁れるだろう。


 単純な知的好奇心を満足させられるのは非常に愉快だ。




 渡された鍵を使って豪邸の中に入ってみる。




 豪奢な調度品の数々に、幾つ在るのか算える気にもならない程の扉の群れ。よく見るとその扉の1つ1つにはノブが2つずつ付けられている。1つは通常の高さに。そしてもう1つはかなり低い位置、つまりカンナには丁度良い高さの位置にノブが付いていた。


「・・・」


 低い位置のノブを回すと、上のノブも連動して回り扉が開けられる様になっている。


「ほー・・・わざわざ付けてくれたのか。此れは良いな。」


 細かい気配りにカンナの頬が緩む。




「あ、カンナさん!」


 開けっ放しにしていた玄関口から声が聞こえてカンナが振り返ると、セシリーが息を弾ませながら立っていた。


「お、セシリー。どうした?」


「どうしたじゃ無いですよ!案内するって言ったじゃないですか!」


 カンナはセシリーの顔をポカンと見る。


「・・・あ。ああ、そうだったな。忘れてた。」


「もう。」


 セシリーが苦笑しながら中に入ってくる。




「しかし、セシリー。此れはいくら何でも大きすぎないか?私1人では持て余すぞ。」


 カンナのボヤきにセシリーは何言ってんだと言いたげな表情を見せる。


「何を言ってるんですか?カンナさんのお世話をする人達も40人くらい住むんですよ。」


「な・・・世話だと?メイドが付くのか?」


「そうですよ。侍女の他に家令や下働きの人達、護衛の人達も来ます。」




 カンナは今度こそ呆気に取られた表情でセシリーを見上げた。


「・・・それじゃあ、まるで貴族じゃないか。」


「爵位は無いけど、カンナさんは既にそう言う立場と変わらないんですよ。人を使う立場です。」


 セシリーがそう説明すると、カンナは眉間に皺を寄せて両腕を組んだ。


「うーん・・・1人がいいなぁ・・・。」


「ダメです。」


 セシリーが即答で却下する。


「少しは考えてくれよ。」




 トルマリンの髪の美しい少女は軽く溜息を吐いた。


「あのですね。雇用の問題も有るんです。既に国が雇ってしまっているんです。カンナさんの役に立ちたいって人が予想以上に集まってしまって審査までしたんですよ。」


「其れは単にノームが珍しいだけだろう。」


 ノームの娘は少し膨れっ面で抗議する。


「其れに侍女に採用した人達は下級貴族の次女三女以降の方々です。彼女達の立場は自分の生きる道を確立させるのが本当に大変なんです。」


「・・・。」


「カンナさんが要らないと言ってしまったら、彼ら彼女らはせっかく決まった新しい職場を失ってしまうんです。」


「お前、そんな事言われたら断れじゃないか・・・。」


 愕然と言うカンナにセシリーは更に言葉を繋げる。


「あと、カンナさんは国の要人だとセルディナ中の貴族や識者達が知っています。個人的に関係を作ろうと面倒な誘いが此れからは山ほど来ますよ。その誘いの全部に1人で対応する気ですか?」


「!?」


 カンナは衝撃を受けた様な表情でセシリーを見つめる。


「ホントか!?」


「ええ。ですからカンナさんの性格を考えるに、少なくとも家令だけは必要だと思いますよ。」


 カンナは深く溜息を吐いた。


「わかったよ。もう全員纏めて来たら良いさ。」




 門の前が騒がしくなって来た。


「?・・・なんだ?」


 カンナが玄関から外を覗くと結構な数の人が集まってきている。


「来たみたいですね。」


 カンナの後ろからヒョコリとセシリーも顔を出してそう言った。


「アイツらが此れから此処で働く連中か?」


「そうですよ。・・・さあ、迎え入れましょう、カンナさんを主と呼んでくれる人達を。」


「主か・・・。」


 セシリーの言葉を反芻してカンナは微笑んだ。


「まあ・・・退屈はしないで済みそうだな。」




 セシリーに手を引かれたカンナは、頭を下げる人々に向かって歩き始めた。




 ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆




「カンナ殿はどうだった?」




 カンナ邸から戻って来たセシリーと夕食を共にした後、ブリヤンは愛娘を自室に招いて尋ねた。


「どうもこうも・・・」


 昼間のやり取りを思い出してセシリーは苦笑する。


「不満囂々でしたよ。」


「ハハハ。やっぱりか。」


 笑う父親をセシリーはジトリと見る。


「幾ら何でも内緒にし過ぎですよ。少しカンナさんが可哀想でしたわ。」


「まあ其れは今度、謝っておこう。」


「そうした方が宜しいですわ。」


「うむ。」


 ブリヤンはセシリーを眺める。




 美しく成長を遂げはしたが、幼い頃から変わらないちょっとした仕草を見出す事が出来ると懐かしさを感じてしまうのは、自分の手元を離れて行くで在ろう娘に対しての寂寥感からなのだろうか。




 しかし伝えてやろう。この子の幸せの為にも。




「セシリー。」


「はい、お父様。」




 ブリヤンは一呼吸おいて言葉を繋いだ。


「バーラントがな・・・。」


 その名を聞いた途端、彼女が身を固くした。


「・・・お前を妻にしたいと言ってきた。」


「!!」


 セシリーの顔に驚愕と喜びと戸惑いの感情が同時に浮かび上がる。


「え・・・。」


「お前はどうしたい?」


 揺れる娘の表情を温かく見つめながらブリヤンは尋ねる。




「わ・・・私、・・・私は・・・。」


 セシリーの双眸に涙が浮かび始める。


「うん。」


「私も・・・お兄様の妻になりたいです・・・。」


 俯き、申し訳無さそうに答える愛娘にブリヤンは頷いて見せた。


「わかった。」


「え・・・?」


 セシリーは驚いた表情でブリヤンを見返す。


「・・・良いんですか?」


「良い。」


 セシリーの瞳が揺れる。


「・・・ホントに・・・?」


「勿論だ。」


 こんな事で冗談を言う父親など世界の何処にも居る筈が無い。ブリヤンは流石に苦笑してセシリーの念押しに頷く。




 セシリーの双眸からポロポロと涙が零れて、彼女は泣き始める。


「・・・う・・・う・・・きっと反対されると思ってた・・・どうしたら認めて貰えるのかって・・・ずっと・・・。」


 ブリヤンはセシリーの隣に座るとその髪を撫でた。




 セシリーはその手を優しく掴むと、父親に向けて笑顔を向けた。


「有り難う御座います、お父様。」




 翌々日、セシリーはアインズロード領地へ戻って行った。


 バーラントと合流し、改めてブリヤンに許しを貰う為に、今度は2人で手を取りブリヤンの下にやってくるだろう。




 考えてみれば僥倖とも言える。愛娘を遠くへ嫁にやらずに済むのだ。寧ろ、バーラントは親孝行者なのだろう。


 侯爵兼宰相の男は遠ざかる馬車を見て微笑んだ。




 ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆




「フック付きロープは要る?」


 アイシャがミシェイルに確認するとミシェイルは首を振った。


「今回は只の討伐依頼だから必要ない。」


「わかった。」




 2人はゴソゴソと荷物を纏めると立ち上がった。




 天の回廊から戻った翌々日には、ミシェイル達はクエストボードを覗きに行っていた。


「少しは身体を休めたら良いのに。」


 ミレイが少し呆れた様にミシェイルに言うとアイシャが苦笑いしながら返した。


「天の回廊で手にした力を、少しでもモノにしたいんだって。」


「神性・・・って奴?」


「そう。」


 フーン・・・と理解したのかしてないのか良く判らない返しをした後、ミレイはアイシャに言った。


「アイシャちゃんは大丈夫なの?疲れてない?」


「・・・。」


 その言葉にミシェイルがアイシャを振り返る。


 アイシャは笑った。


「平気です。其れにミシェイルが行くって言うなら、あたしも行きたい。」


「!」


 頬を少し染めて言うアイシャにミシェイルの顔が真っ赤になる。




「ふふふ。」


 ミレイがその様子を見ながら微笑む。


「ミシェイル君。こんな健気に付いてきてくれる子、他に居ないわよ。無理をして危険な目に遭わせない様にね。」


「も・・・勿論です。」


 ミシェイルは頷いた。






 秋もとうに過ぎ去り、厳しい冬が訪れている。


 寒風が身を切る様に馬上の2人を包み込む。




「なあ、アイシャ。」


 自分の前に跨がり腕にスッポリと収まっている少女にミシェイルは呼び掛けた。


「ん?」


 アイシャが首だけをクルリとコチラに向ける。


「・・・いや、終わってからで良い・・・。」


「・・・?」


 アイシャは首を傾げた。




 討伐対象は3体のはぐれオーガ。恐らくは以前のアインズロード防衛戦に於いて討ち漏らした魔物達だろうが、公都近くに姿を現し被害が出ているとの事だった。




 依頼は拍子抜けする程に呆気なく終わった。


 天の回廊で主神の分身体と互角に渡り合った2人にとって、オーガ3体程度ではもはや敵に為らなかった。




「お疲れ、アイシャ。」


「ミシェイルもお疲れ様。」


 輝く様な笑顔を向ける少女にミシェイルは堪らなくなる。が、一旦は気持ちを鎮めて帰り仕度をし、馬にアイシャを乗せた。その後ろにミシェイルも跨がって手綱を掴む。が、ミシェイルは馬を出さずにそのまま動きを止めた。




「?・・・ミシェイル?」


 振り返ろうとするアイシャの細い身体をミシェイルは抱き締めた。


「わ!?」


 驚いて声を上げたアイシャは思わずミシェイルの腕を掴む。


「・・・。」


「・・・どうしたの?」


 火照る顔もそのままに、無言で抱き締めてくるミシェイルにアイシャは尋ねる。




 ミシェイルの吐息がアイシャの耳を擽りアイシャは身を震わせた。


「なあ、アイシャ。」


「な、なあに?」


 高鳴る鼓動を押さえてアイシャは訊き返す。




「この依頼を終えたら・・・家を買って一緒に住まないか?」




 ドクンと少女の胸が更に高鳴った。


「一緒にって・・・その・・・シオンとルーシーみたいに、ずっと一緒って事・・・?」


「ああ、そうだ。日常も、冒険も、朝も・・・夜も。」


 夜も。




 その意味は訊かなくたって当然判る。つまり、そう言う事だ。恥ずかしくはあっても嫌な筈が無い。でも、と思う。


「でも、あたしは親に売られそうになってから親とも上手くいってなくて・・・」


「判っている。」


 ミシェイルはアイシャに全部を言わせなかった。


「全て知っているつもりだ。お前が父親からどんな仕打ちを受けたかも。全てを知った上で俺はアイシャと一緒になりたい。・・・困った奴が来たら全てから俺がお前を守る。」


「・・・。」


 アイシャは自分の身体を優しく包み込む太い腕を強く掴んだ。


「・・・ホントに守ってくれる?」


「必ずだ。」


「ありがとう・・・。あたしも貴男と一緒に住みたい。」




 焦る必要は無い。そんな事は判ってる。でも、ずっと一緒に居たい。依頼を終えて借家に帰る度に彼女と別れるのはもう嫌なのだ。


 金も稼げる様になった。思わぬ報酬も手にした。生涯、彼女を守る覚悟もある。なら、時間を置く必要なんて無いじゃないか。


 もし彼女が嫌がったら、一旦身を退けば良いだけの話だ。




 そう考えた上で、思い切ってアイシャに提案して見たが・・・彼女は受け容れてくれた。喜びでどうにか為りそうだ。




「あ、でもね・・・。」


 アイシャがモジモジと言う。




「なんだ?何でも言ってくれ。」


 彼女の願いは何でも叶える。


 ミシェイルはその覚悟でアイシャ促した。




「うん・・・その・・・夜は・・・その・・・ちょっと恥ずかしい・・・かな・・・。」


 彼女が何に引っ掛かっているのかは直ぐに察した。




「あ・・・ああ、そうか・・・。」


 少し・・・いや、かなり残念な気持ちが押し寄せてくる。いや、だが、それでも一緒に住む事を了承してくれたのだ。今は其れで充分じゃないか。




「・・・いや、モチロンだ。其処は全部アイシャのタイミングに合わせるさ。俺はお前と一緒に住めるだけでも本当に嬉しい。」


 不安そうにミシェイルの顔を覗き込むアイシャの顔が見る見る嬉しそうな笑顔に変わるのを見て、ミシェイルは自分が間違えなかった事を知った。




 ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆




『ルーシーは此れから何がしたい?』


 シオンが尋ねるとルーシーは少し考えてから言った。


『クレオ湖のお祭りはもう終わっちゃったよね。』


 秋の豊穣を感謝するお祭りがクレオ湖の湖畔で開かれ「その祭りで互いの出会いを祝福した男女は末永く結ばれる」というジンクスが在る事をシオンがルーシーに話したのは、彼女がテオッサの村に連れて行かれる前日の事だった。


 あの後は怒濤のように色々な事が起こり、シオンも話した事を忘れていたのだが。




『・・・覚えてたんだね。』


『うん・・・本当は凄く行きたかったから。』


 ルーシーの少し残念そうな微笑みを見てシオンは考えた。




 確か・・・。




『ルーシー、クレオ湖の祭りは終わってしまったけど「2人の出会いを祝福する場所」はまだ他にも在るよ。』


『え?』


『雪山を登る事になるけど・・・行ってみるかい?』


 ルーシーが笑った。


『行きたい。』






 そんなやり取りの後、2人はこの雪山にやって来た。




 アインズロード領を抜けて低地アインを登頂するコースだ。


 吹雪いてはいるが、シオンが先頭を歩いて雪を搔き分けていく。神性でルーシーを包み込み、吹雪からも彼女を守る。ルーシーも時折、体力回復の魔法を唱えてシオンに掛けているため、吹雪は2人にとって全く妨げになっていなかった。




 本当はシオンがルーシーを抱えて飛べば済む話なのだが彼女が首を振った。


『2人で歩いて行こう。』


 その提案がとても嬉しくてシオンも直ぐに同意した。




「この辺に在ったと思うんだけどな・・・あ、在った。」


 シオンが前方を指差してルーシーを振り返る。




 彼の指し示す先には、古い山小屋が建っていた。




 ルーシーが中に入ると、シオンが山小屋の扉を閉めた。


「使えるかな・・・」


 シオンが呟きながら奥の薪置き場から幾つかの薪を持ってくる。


「この小屋ってシオンは良く使うの?」


 勝手知ったる風のシオンにルーシーが尋ねる。


「いや、此処に来たのは1年半振りくらいだ。でも此処は冒険者仲間の間では結構有名な小屋でね。みんな良く使うから、春夏秋に来た冒険者達は必ず使った分の薪を追加して帰って行くんだよ。冬に来た冒険者達が困らない様にね。」


「へぇ・・・何か、そういうの良いね。」




 シオンは微笑みながら火を起こすと濡れた防寒具を乾かし始め、持って来た食料を鉄串に刺して焼き始める。


「こういう時の料理はシオンが上手だね。」


 焚き火の炎を見ながらルーシーが呟く。


「ただ、焼いてるだけだよ。俺としてはルーシーの料理が食べたい。」


「ふふふ。」


 少女は嬉しそうに笑った。


「うん、私もまた食べて貰いたいな。」




 外の風は収まってきた様子で騒がしかった風音も聞こえなくなっている。


「目的の場所はどの位で着くの?」


「明日の朝には着くよ。もう、そんなに離れていない。」


「そうなんだ。・・・何が在るの?」


 ルーシーが小首を傾げて尋ねるとシオンは微笑んで言った。


「着いてからルーシーの目で確認すると良いよ。」


「もう・・・焦らすんだから。」


 ルーシーは楽しそうだ。




「そう言えば、カンナさんは凄い所に住み始めたね。」


 ルーシーが思いだした様に言うとシオンは頷いた。


「そうだな。ブーブー文句を言いながら荷物を取りに来てたけど楽しそうだった。」


「寂しい?」


 ルーシーの問いにシオンは少し考えた後、首を振った。


「そうでも無いかな。遠くに行った訳じゃ無いし会おうと思えば何時でも会えるしな。・・・まあ、全く寂しくないかって言ったらそんな訳無いけどさ。」


「そうだね。」


 シオンはルーシーを見た。


「それにルーシーが居るから、寂しさは感じてない。」


 その言葉に銀髪の少女は微笑む。


「あ、こんな事言ってたなんてカンナには内緒にしておいてくれよ。こんな事を言ったなんてあいつの耳に入ったら薄情だの冷たいだのブーブー文句を言ってくるからな。」


 シオンが慌ててルーシーに口止めをお願いすると少女は可笑しそうに笑い出した。






 翌朝は晴れていた。




 陽光に照らし出された白銀の雪景色が眩しい程に光を乱反射させて2人を包み込む。




 シオンが指差した。


「はら、あの突き出している岩場の上が目的地だ。」


「ホントに直ぐだね。」




 小さな寄合水が2人の進む道の横を流れていく。雪が溶けて途轍もなく冷たいであろう水の流れにルーシーは手を突っ込みたくなる衝動に駆られながらシオンの後を付いて行く。




 やがて視界が開けた。




「着いたよ。」


 シオンがルーシーを振り返る。




「!」


 ルーシーは声にならない欣喜の声を上げた。




 雪が積もる一面の平原に青白く輝く不思議な花が咲き乱れていた。


 陽光に照らされた雪の白の中に浮かび上がる青白い光の群れ。幻想的とはこういう事を言うのだろうか?




「綺麗・・・。」


 ルーシーが呟くとシオンが少女に教えた。


「雪月花って言うそうだよ。高い山にしか生えなくて、しかも雪が降った後の月明かりを浴びないと花を開かせないそうだ。」


「雪月花・・・。」




 雪月花に見惚れるルーシーの腰をシオンは抱き寄せた。


「雪月花の光に包まれた2人はどんな困難にも立ち向かえる程の強い絆を得られるんだ。」




 ルーシーが片手を伸ばしてシオンの服を掴んだ。


 シオンがその華奢な手を自分の手で包んで彼女を引き寄せる。




「ずっと一緒に居よう。愛しているよ、ルーシー。」


「私も愛してる。ずっと貴男の側に居るわ、シオン。」




 唇を重ねる2人を祝福するかの様に冬の風が舞い、雪月花の花びらの幾つかを連れ去る。その花びら達は青白い光を放ちながらシオンとルーシーを包み込み、冬の冷たく澄んだ大気の中に溶けて行った。










 一つの大陸に起こった小さな光と闇の動乱。




 其れは放って置けば、災厄で世界中を呑み込み兼ねない程の邪悪に満ちていた。




 だが沢山の人々の縁と、僅かばかりの神々の力に導かれた若者達の想いと力に依って、その災厄の種火は消し去られた。






 また災厄は起きるだろう。


 しかし人々が縁を忘れぬ限り、其はまた討たれるだろう。




 願わくばそう在らんことを。




 若者達を導いた小さな伝導者は、暖炉の前で小さな椅子に腰掛けながらクスリと微笑ってそう願った。





これで物語は終了です。

補足の設定などは出すかも知れませんが、シオンのお話は終わりとなります。


足掛け1年程の旅路となりましたが、拙い文章にも呆れずにお付き合い頂いた読者の皆様には感謝の気持ちで一杯です。


続編なども考えては居りますが、どうするかは未だ決めてません。一応、続編を書く場合は世界は同じで主人公が変わります。

もし、こんな話も追加して欲しい等の要望が御座いましたら感想などで教えて頂けると参考になります。

あと、タイトルなどは後日変える予定ですので、変えた場合は「あらすじ」にて既存の読者様にも判る様にしますので宜しくお願いします。


最後にもし宜しければ高評価なども頂けると幸いです。


其れでは皆様、長い間、本当に有り難う御座いました。


ジョニー

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