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神の去った世界で  作者: ジョニー
終章 それぞれの結末
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89話 その後 2



 入り口の詰め所から出て来た騎士と兵士達の出迎えを受けて、公王一行がレイアート遺跡に到着したのは翌日の正午であった。




「異常は無いな?」


「は、問題御座いません。」




 簡単な状況確認の後、公王一行はメンバーを選出し、ロイヤルガードを含む50余名で遺跡に入る事と定める。




 カンナが遺跡の入り口に立つと奥に向かって呼び掛けた。


『我が友、ビアヌティアン殿。伝導者カンナが地上の友人達とこの国の公王陛下を連れて遊びに来た。迎え入れて欲しい。』


 すると奥から嗄れた声が返ってくる。


『おお・・・待っていたよ。入ると良い。』




 カンナが振り返ってレオナルドを見ると、レオナルドは頷いて了承の意を返す。




「では、入ろうか。危険は全く無いが、定められた隊列と言うモノも在るだろうから、その形を組んで入れば良い。・・・シオン達は先頭を歩け。」


「解った。」


 シオン達が前に出る。




 一行はカンナの言葉通り、何の妨害を受ける事も無くビアヌティアンの座す地下3階まで到達した。




「やあ、ビアヌティアン殿。」


 カンナが片手を上げる。


「アレから幾日も経って居らぬのに、まるで数百の年月を待ち焦がれた様に感じていたよ。」


 干からびたビアヌティアンの口から放たれた声に抑揚は無い。だが、喜びに満ち溢れている事は誰の耳にも明らかだった。


「ふふふ。其処まで待たせたつもりも無かったがな。では報告させて貰おう。」


 カンナはそう言うとレオナルドを振り返る。


「陛下、申し訳無いが、先にビアヌティアン殿への報告を済ませてしまっても宜しいだろうか?」


 レオナルドは頷いた。


「無論。余の事は気遣い無用だ。存分にご報告なされるが良い。」




 カンナは頷くとシオン達を呼び寄せてビアヌティアンの前に立った。


「では、結果を伝えさせて貰う。主神ゼニティウスは滅ぼした。もう2度と現世に現れる事は在るまいよ。それから貴方が気に掛けて居られたグースールの聖女様と貴方の仲間達の魂も連環に戻す事ができる。」


「そうか・・・そうか・・・。」


「あと・・・な。」


 カンナは少しだけ言い淀んだが、やがて言葉を続けた。


「聖女の1人であるレシス様に天央12神の主神となって貰った。それと騎士クリオリング殿にも彼女のガーディアンとなって付き従って貰う事となった。・・・貴方に断りも無く進めてしまい申し訳無いと思っている。」


「おお・・・その様な事に・・・。」


 ビアヌティアンは感動の声を上げた。


「あの御二人が・・・。そうか・・・。」




 旧き守護神の枯れた手が前に伸びた。その手をカンナが取り、シオンとルーシーがその繋がれた手に自分達の手を重ねる。


「竜王の御子様、巫女様。そして伝導者様。よくぞ、儂の積年の悲願を叶えて下さいました・・・。」


 僅かに震える干からびた手に想いの巨大さを感じ取ってシオンとルーシーの胸は一杯になる。


「ビアヌティアン殿。悪しき天央12神は滅びました。此れよりはレシス様の慈愛の下、生まれ変わった天央12神がこの世界を見守って下さる事でしょう。」


「きっとチェルシー様も喜んでくれていると思います。」


「左様で・・・御座いますな・・・。」


 ビアヌティアンの虚ろな双眸から涸れたはずの涙が流れ出る。


「・・・有り難う御座います・・・。偉大なる神の子達・・・。」


 守護神の顔が僅かに動き、後ろのミシェイル達に向けられる。


「そして御子様達を支えて下さった若き英雄達にも感謝を。」


 セシリー、ミシェイル、アイシャもビアヌティアンに近寄ると組み合わされている手に自分の手を重ねた。


「・・・若く、熱い血潮を感じる・・・。此れよりはこの老骨がこの温かさを護らねばならんな。」


「ビアヌティアン様・・・。」




 守護神の誓いが破られる事は在るまい。




 カンナはレオナルドを見ると、ビアヌティアンに声を掛けた。


「ビアヌティアン殿、実はな今日はこの国の公王陛下もお連れしたのだ。言葉を掛けて貰えるかな?」


「そうだったな。」


 ビアヌティアンが答える。




 カンナの視線を受けて、レオナルドはビアヌティアンに向かって歩みを進めた。ロイヤルファミリーが其の後に続き、重臣、ロイヤルガードが其れに続く。


 彼の前に立つとレオナルドは片膝を折り頭を下げた。全員が公王の所作に続き一斉に片膝を着く。




「初めてお目見え致します、守護神ビアヌティアン様。現公王のレオナルドⅣ世に御座います。」


 レオナルドの太い声が響く。


 公王の挨拶にビアヌティアンは嗄れた声で返す。


「ホホホ・・・公王自ら挨拶に来てくれるとは、些か緊張するな。」


「とんでも御座いません。此れまでの挨拶にも来なかった我らの非礼をお許し願いたい。」


 レオナルドの謝罪にビアヌティアンはゆっくりと首を振る。


「いや、知らなかったのだから致し方在るまいよ。知らないが故に来られなかったは道理であるしな。お気になされるな、公王よ。」


「寛大なお言葉、痛み入ります。」


 更に公王は深く頭を下げる。




 そして視線をビアヌティアンに戻すとレオナルドは口を開いた。


「今回、私が貴方様の下に赴いたのは、偉大なる守護神のご尊顔を拝するに加え、国を代表してお願いが在ったからに御座います。」


「うむ、解っている。加護の件で在ろう?」


「正に。」




 ビアヌティアンは暫しの沈黙の後、レオナルドに視線を合わせる。


「・・・本来で在れば、ここに眠る汚れた魂達を浄化した後はひっそりと消えて行くつもりで在った。だが、友人カンナ殿と出会い、竜王神の巫女様と御子様に出会い、若き英雄達に出会い・・・貴方の子である公太子と姫君達に出会った。・・・若く熱い魂に触れて、護ってやらねばならぬと言う気持ちを呼び起こしてくれた・・・。」


「・・・。」


「公王よ、貴方の魂も実に心地良いモノを持たれている様だ。・・・要は気に入った。出来る事は為そう。・・・しかし・・・。」


 ビアヌティアンの言葉をレオナルドは手を上げて止めた。


「心得て御座います。そちらに関しましては我がセルディナ王家が責任を持って広めまする。無論、守護神様のご意向を汲み、民に無理な事を強要する気は一切御座いませぬ。」


「左様か・・・。」


 ビアヌティアンは頷いた。




「ならばビアヌティアンが友人レオナルドに誓おう。守護神ビアヌティアンは力を取り戻した後は此のセルディナの地に加護を与えよう。その年月はこの身が保つ迄とする。」




 ビアヌティアンの言葉に感銘の表情を見せたレオナルドは腰に佩いた剣を抜くと眼前に立てた。剣を持つ者の全員が公王に続き、剣を持たぬ者達は胸に手を当てて傅く。




「公王レオナルドⅣ世が友人であり敬愛すべき師である守護神ビアヌティアン様に誓う。以降、セルディナ公国はビアヌティアン様を守護神と定め、敬愛の念を捧げ、信仰して行くもので在る。」




 王を筆頭に整然と掲げられた剣の列を眺めるとビアヌティアンは穏やかに言った。




「壮観で在るな・・・。その誓い、確かに受け取った。ならば此れより皆は儂の子となる。慈愛を旨に熱く生きられよ。」


「「「はっ!」」」


 全員の声が響き渡る。






「ビアヌティアン殿。」


 カンナが再び声を掛ける。


「何かな?」


「此処にずっと座っているのも飽きただろう。どうかな?そろそろ引っ越しでもしてみないかな?」


 ノームの少女の真意を察したビアヌティアンは頷く。


「ふむ・・・。確かに飽きたな。しかし何処に行く?この身が崩れてしまえば加護を与えてやる事が出来なくなってしまうが・・・大丈夫かな?」


「移動は心配要らない。なあ、シオン。」


 カンナに名を呼ばれて竜王の御子は仰天する。


「お・・・俺か!?」


「お前の光の翼で包めば安全に運べるだろう?」


「出来なくは無いが・・・緊張するな。」


 ブツブツと呟くシオンに頷くとカンナはレオナルドを見る。


「陛下。セルディナ公国の近辺に良い場所は無いかな?此処では遠すぎて民が足を運べんのだよ。」


「成る程な。」


 レオナルドは頷くとブリヤンを見た。


「大至急、検討致します。」


 ブリヤンが命を受けて畏まる。




 公王は守護神に申し出る。


「我らが守護神よ。暫くの後、貴方に相応しい神殿を捧げます。此の神殿を以て『友好の証』とさせて頂きたい。」


「左様か、有り難い事だな。では、儂もお返しをせねばな。」


 ビアヌティアンはそう返すと、宝具棚に残る幾つかの武具をセルディナ王家に与えた。


「此れらの宝具を以て、セルディナ公国への『友好の証』とさせて貰おう。」


「おお・・・。」


 レオナルドは小さく呻く。


「陛下、正真正銘の宝具だ。シオン達が持っている武具と何ら遜色は無い。」


 カンナが説明を加えるとレオナルドはビアヌティアンに向かって静かに頭を下げた。


「国宝と致しましょう。感謝致します。」


 ビアヌティアンが笑う。


「ホホ・・・大事にして貰えるのは嬉しいが、儂としては王家の人間が其れらを身に付けてくれる事を望むよ。護身用に渡したのだから使って貰わねば意味が無い。」


「承りました。」




 何と実り多き行程であった事か。


 守護神と友好関係を結び、其れに伴ってセルディナ公国の加護が約束され、王家に幾つもの宝具がもたらされた。加えて守護神からもたらされる叡智は掛け替えの無い物となろう。


 絶大な成果にレオナルドは満足する。




 意思の疎通が図れる守護神の存在は他国への強烈なアピールになる。また最近、イシュタル大神殿に噂される教皇猊下周りの黒い噂に対して対策も取りやすくなろう。カーネリア王国の不穏な動きに対しての牽制にもなる。




 この方に相応しい荘厳な神殿を用意せばなるまい。




 レオナルドは久しぶりに胸躍る使命を自らに課して高揚する自分を感じて居た。




 ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆




 公都に戻ったレオナルドはブリヤンやその他の重臣を交えて、神殿の選定に心を砕いた。公王が率先して事に当たっている事を聞きつけて、多くの貴族や識者から情報が寄せられた。




 セルディナ公都の周辺には幾つもの旧い遺跡が点在している。


 その中から民が足を運びやすい場所に在る事、スケールが大きく頑丈な造りの物、尚且つ荘厳な造りの物が、寄せられた情報を元に候補に上げられていく。




 選定の結果、公都の東の外れ、ペールストーンの丘陵地帯に若干差し掛かった少し小高い土地に遺されていたバスティール遺跡が選ばれた。


 旧い時代にこの地に座していた神を祀ったとされている神殿である。公都の観光名所の1つにも算えられている場所で、打って付けの場所だった。


 更に入念な調査が行われ、この神殿にビアヌティアンを招く事が確定する。




 忽ち業者が大量に投入され、大規模な修繕工事が始まった。




 何しろ公王が陣頭指揮に立っている。貴族達から資金や資材が有り余る程に提供され、識者達から挙って加えるべき施設の提案と類する知識が提供されていく。




 少し前まで漠然とした不安が漂っていた公都に、久しぶりに活気と一体感が漲ってきた。






「陛下、商人達から神殿の周りに店舗や施設を建てたいとの要望が上がっているようです。」


 ブリヤンの報告にレオナルドは首を縦に振った。


「良かろう。そう為れば民達も足を運び易かろう。但しビアヌティアン殿の邪魔に為らぬようエリアは定めよ。」


 ブリヤンが頭を下げる。


「御意。・・・更に申し上げれば、恐らくは経済効果も望めましょう。」


「うむ。」


「但し、治安もある程度は悪化する事は予想されます。」


「様子を見ながら必要で在れば警備を厚くせよ。」


「畏まりました。」




 ブリヤンが笑う。


「しかし・・・一時はどうなる事かと思いましたが・・・思いの外、事態は好転致しましたな。」


 レオナルドが頷く。


「・・・あの小さな伝導者殿には感謝をせねば為るまい。そして聖女殿と竜王の御子殿がその大いなる力を振るい闇を祓ってくれた。」


「はい。」


「セシリー嬢を含む若き英雄達も忘れては為らぬな。彼らが居なければ、この国は今頃、邪教徒共の奸計に呑まれ滅んでいたやも知れぬ。」


「有り難いお言葉に御座います。」


 ブリヤンは一礼を施した。




「人は国の宝、とは良く使われる言葉だが・・・今回ほど、其れを強く感じたことは無い。」


 レオナルドの脳裏にシオン達とビアヌティアンの姿が浮かぶ。


 そして民を虐げた貴族至上主義者達の妄言の数々も。




「国は無くとも人は生きていける。だが人が居なくば国は存在し得ないのだ。当たり前の事では在るのだが、民の上に立つ者はついつい其れを忘れがちだ。改めて肝に銘じねばな。」


「陛下。次の御前会議には、是非そのお言葉を前で前でお話し下さいませ。」


 ブリヤンの進言にレオナルドは頷いた。


「そうしよう。」




 完全に平穏が訪れた訳では無い。公都には未だ行き場を失った邪教徒の残党共が潜んでいるだろう。だが其れもビアヌティアンが力を取り戻せば解決に向かって行く筈だ。


 また宮中にも様々な問題は厳然と存在する。




 それでも『一段落着いた』と言っても良いのでは無いだろうか?




 公王の口許には久しぶりに自然な笑みが浮かんでいた。











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