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神の去った世界で  作者: ジョニー
第7章 天の回廊
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87話 英雄達の帰還



 終結――と考えて良いのだろう。




 天央12神を撃破して、天の回廊には穏やかな時間が訪れる。




「シオン・・・。」


 いつの間にか近くに歩み寄って来ていたルーシー達が声を掛ける。


「ルーシー、みんな・・・。」


 シオンの表情に笑みが浮かぶ。


「終わったの?」


 アイシャが恐る恐ると尋ねるとシオンは力強く頷いた。


「ああ、終わった。みんな、お疲れ様。」


「・・・。」


 戸惑っていた全員の顔に喜色が浮かび始める。


「やったぞーっ!!」


 ミシェイルが叫び、全員が其れに続いた。




「お疲れ様、シオン。」


 ルーシーがシオンに微笑んだ。その頬を染める少女にシオンも微笑みを返す。


「ルーシーも、お疲れ様。」


「うん。」


 ルーシーはシオンに手を伸ばそうとして直ぐにその手を下ろした。流石に皆の目のつく処では触れ辛い。


 だからシオンは自分からそっとルーシーの頬に手を添えて其の紅色の唇に指で触れた。


「!」


 ルーシーは一瞬驚いた顔を見せる。が、直ぐに嬉しそうに微笑んで、頬に触れるシオンの手を自分の手で包んだ。




 少年少女達の喜ぶ姿を暫く笑顔で眺めていたクリオリングがシオンに視線を向けた。


「シオン殿、貴方から頂いたこの身体はどうしたら良いでしょう?」


 クリオリングの問いにシオンは答える。


「その身体は俺の神性から作りあげた物ではあるが、既に貴方の物です。好きに使ってくれれば良いです。」


「・・・感謝します。」


「ただ、その身体を受け容れる場合、貴方は神と同格の存在になる。其れは忘れないで居て欲しい。」


「心得ました。」


 クリオリングが深く騎士の一礼をとる。




「ルネ殿。」


 シオンは女神ルネを見た。


「グースールの聖女と他の魂について訊きたいんだが。」


「はい、私で答えられる事で在れば何なりと。」


 ルネはシオンに頭を下げる。


「有り難う。あの方々の魂を連環の流れに戻してやりたいのだが、方法は無いだろうか?」


「・・・。」


 シオンの問い掛けにルネは少し言い辛そうな表情になる。


「連環に戻す方法は在ります。・・・ただ・・・。」


「ただ、何だろうか?」


 クリオリングが急くようにルネに尋ねる。


「・・・連環に戻す場合は天央12神の主神の導きが必要になるのです。」


「ゼニティウスの・・・。」


 シオンとクリオリングが顔を見合わせる。




 重苦しい沈黙が流れる。


「でも、あの主神が居たとしても決して此方に協力はしなかったわ。」


 セシリーが言い捨てる。


「だからシオンとクリオリングさんが後悔する必要は無いわ。今するべき事は後悔では無く、どうしたら彷徨える魂を救えるかを考える事よ。」


 カンナが頷く。


「セシリーの言う通りだな。ルネ殿、良いかな?」


「はい、伝導者様。」


 ルネはカンナを見る。


「その連環に戻す手法を教えては貰えないだろうか?」


「はい。」


 ルネは頷くとゼニティウスが座っていた玉座の後ろ側へ一行を案内した。




 其処には魔方陣が描かれている。


「此れは転移魔方陣です。この陣を使ってこの城の最下層に向かいます。」




 魔方陣が輝き、8人はその光に呑み込まれた。




 ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆




 魔方陣に導かれた先には、今までの広間の数倍は在りそうな空間が広がっていた。




 ルネはその空間の中心に向かって歩いて行く。其処には大きな石の台座に据えられた巨大な水晶が置かれて居た。




「途轍もない神性を感じるな。・・・此の水晶は?」


 カンナが尋ねるとルネが答える。


「この水晶には真なる神々の1柱である1級神が遺された神性が宿っております。この水晶の力を発動させれば、この世界に存在する魂に様々な影響を与える事が出来ます。勿論、彷徨う魂達を連環の流れに戻すことも可能です。」


「・・・。」


 カンナは翠眼を光らせて水晶を眺め、台座を調べ、周囲を見渡した。




 その間、一行は思い思いに周囲に散って、初めて見る神々の遺物を観て回る。




「どうやら・・・。」


 かなりの時間を掛けた後、カンナが呟いた。


「・・・ゼニティウスで無ければ動かせないと言う訳でも無いようだ。」


「そうなのか?」


「ああ。」


 カンナは頷く。


「ただ、水晶に対して主神たる者の命令・・・つまり主神と認められた者に依る呪文詠唱は必要のようだ。」


「主神と認められた者・・・とは、誰に認められたら良いんだ?」


 シオンが尋ねると、カンナはシオンを指差した。


「格上の存在。今ならシオン、お前だ。お前がコイツなら主神として任せられると思う者だよ。」


「俺が!?・・・いや、俺はどう言う者が主神に相応しいかの条件が解らん。」


「とは言ってもな、お前以外に其れが出来る者はいないしな。」


「うーん・・・。」


 シオンは眉根を寄せて考え込む。




 やがてシオンの眼がルネに向いた。


「そうだ、ルネ殿なら。」


 呟くシオンにルネは首を振って見せた。


「申し訳在りません、御子様。私は既に従神として1級神様より任を賜った者。其れにその資格すらも今は失っております。主神には成れません。」




 シオンが現在の天央12神を否定した時点で、既に召喚されていたルネも天央12神としての資格を否定されていた。


「そうか・・・。其れは申し訳無かった。」


「いえ、こうなって良かったと私は思っています。私はクリソスト様が愛されたこの世界に久しぶりに降りて、人々に触れてみたいと思っていますから。」


 微笑むルネを見ながらシオンは女神の意思を知った。


『下天するつもりなのか・・・。』


 元はエルフの彼女だ。勝手知ったる森などに降りるつもりなのだろう。




「となると・・・。」


 シオンはカンナを見る。その視線に気付いたカンナが眉間に皺を寄せる。


「おい、私は駄目だぞ。私は伝導者だからな。既に役目を負っている。」


「そうだよなぁ・・・。」


 シオンは溜息を吐いた。




「何処かにグースールの聖女様の様な人が居れば喜んで任せるんだが。」


 ボヤくシオンの言葉にカンナとクリオリングが反応する。


「・・・其れはアリかも知れんな。」


 カンナが独り言ちる。


「確かにあの方々ならば・・・いや、しかし折角、安寧への道が開かれたのだ。此処でまたあの方々を現世の柵に戻すのは不憫だ。」


 クリオリングが首を振る。




「・・・訊いてみよう。」


 2人の反応を見ていたシオンが提案する。


「クリオリング殿の魂を召喚した時の様に、彼女達の魂も未だこの世を彷徨っている。彼女達の意思を確認してみよう。」


「しかし、御子様・・・。」


 クリオリングの心配げな表情にシオンは微笑む。


「安心なされよ。無理強いは決してしません。クリオリング殿の仰る様に、本来なら彼女達の魂も連環に戻すのが最良。其れは俺も解っていますから。」


 心配げな表情は変わらないが、クリオリングはぎこちなく頷いた。


「シオン、主神に据えられるのは1人だけだからな。」


「解った。」




 シオンは瞳を閉じる。




「・・・。」


 一行は何となく息を潜めながらシオンを見守った。




 やがてシオンは目を開けた。


「1人、了承を得た。」


「本当か。」


 カンナが少し驚いた様に言う。


「ああ、今から顕現して貰う。」


 シオンはそう言って光の翼を生やし、クリオリングの身体を作った時の様に前方に光の球体を生み出す。そして虚空に向かって


「此方へ。」


 と呟いた。




 光の球体が少しずつ変化していく。其れは人間の姿を象っていき、やがてローブを纏った女性の姿に変わった。




「あ・・・ああ・・・。」


 クリオリングが双眸から涙を流し、女性に向かって片膝を着く。


「レシス様・・・。」


 蒼金の騎士に名を呼ばれて女性は目を開き、クリオリングに微笑んだ。


「・・・クリオリング様・・・。」


 グースールの聖女を束ねていた女性の其の美しい双眸から涙が零れる。




「もう一度、貴男にお会いしたかったです。」


「私もです、レシス様。」


 レシスは優しくクリオリングの手を取り、額に押し戴いた。




 そしてその光景を黙って見守っていた一行を見渡すと、レシスは頭を下げる。


「レシスと申します。」


 全員が頭を下げて返礼した。




 レシスはシオンとカンナの前に歩み寄ると、視線を少し離れた所に立つルーシーに向けた。


「ルーシー。」


 シオンが呼ぶとルーシーは恐る恐るとシオンの横に立つ。




 レシスは3人を見ると、改めて頭を下げた。


「地底では・・・本当に御迷惑をお掛けしました。どうぞお許し下さい。」


 その謝罪にシオンは首を振る。


「どうぞ、お気に為されぬよう。貴女方に落ち度は御座いません。そして罪を贖うべき者達は、全て叩き伏せました。1400年に渡る呪われた刻は終わったのです。」


「はい・・・。」


 レシスは涙に濡れた双眸をシオンに向けると微笑み、続いてルーシーとカンナに視線を向ける。


「巫女様、伝導者様。」


「・・・本当に・・・良かった・・・。」


 ルーシーは涙を流しながらレシスの両手を握る。


「ふふふ、在るべき形に成ったと言う事ですよ、聖女殿。貴女方の深い慈愛が刻を超えて此の若者達に伝わり、世界を救ったのです。」


 カンナが嘗て聞いた事も無い様な優しい声でレシスを労う。




 レシスはルーシーを抱き締め、カンナを抱き締める。




 シオンは笑顔でその光景を見届けると声を掛けた。


「では、レシス様。主神となる事、お願いしても宜しいですか?」


 レシスは微笑んで頷く。


「はい、御子様。」


 シオンは頷くとクリオリングを見る。


「クリオリング殿、貴男にはガーディアンと成ってレシス様を守って頂きたいのだが・・・。」


「謹んでお引き受けさせて頂きます。」


 クリオリングはシオンに対して最上礼の形を取って誓う。




「次こそは必ずやお守り致します、レシス様。」


「有り難う御座います、クリオリング様。」




 ルネがシオンを見た。


「では、御子様。御二人に任命をなさって下さい。」


「任命?」


「はい。竜王の御子様の名に於いて御二人に主神とその警護の任を与えて下さい。」


「成る程。」


 シオンは複雑な表情をしながらも得心した。




 レシスとクリオリングがシオンの前に並び立つ。


「では。」


 シオンが改まる。


「竜王の御子の名に於いて、聖女レシスよ、貴女を天央12神の主神に任じます。」


「はい、お引き受け致します。」


 レシスが胸に手を当てると、彼女の全身が輝く。


 シオンは続いてクリオリングを見た。


「竜王の御子の名に於いて、騎士クリオリングよ、貴男を主神レシスのガーディアンに任じます。」


「拝命致します。」


 クリオリングが最上礼の形を取ると、彼の全身が輝く。




 儀式を終えて、新たな主神が此処に成った。




 レシスに対してルネが両膝を着き一礼する。


「主神レシス様。ルネと申します。どうぞこの世界をお導き下さいますように。」


「解りました、ルネ様。どうぞご指導下さい。」


 微笑みを向ける女神レシスはルネは寂しげな笑みを返す。


「はい、仰せの儘に。・・・ですが、事が一段落を迎えたら私は地に降りたいと考えて居ります。」


「何故でしょうか?」


「私は一度は竜王の御子様に剣を向けた身。この身を清めるべく彼の地に於いて今一度、自分の為すべき事を見つめ直したいと思います。それが亡き恩師の願いでも在ります故に。」


 ルネの真摯な双眸を見てレシスは静かに頷いた。


「解りました。貴女の思う様になさって下さい。そして為すべき事を見つけた貴女が、いつか此処に戻って来て頂ける事を願います。」


「はい、お約束致します。」


 ルネは深く頭を下げた。




 ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆




 ルネが今後の段取りを話した。




 先ず魂を連環に戻す作業は天央12神だけで行う必要が在るらしく、シオン達が天の回廊に留まっていると出来ない事らしい。そして従神を召喚する作業もその時に行う方が良いとの事。




 結果、最初にシオン達を地上に戻す作業が最優先に選ばれたのだが。




「さて、問題はどうやって帰るかだな。」


 カンナが腕を組む。




 シオンに光の翼で飛んで貰い地上に連れて行って貰うつもりだったが、レシスとクリオリングを顕現化させる為にシオンは神性を使い切ってしまい、光の翼が神性が溜まるまでの暫くは使えない。




「他にも手は在るんだが・・・。」


 カンナは呟く。


「どんな手なんだ?」


 尋ねるシオンにカンナは気が乗らなそうな表情で言った。


「余り使いたく無い手なんだよな。・・・私の生命力と神性を使って地上に瞬間移動させる。」


「え・・・?」


 一行は理解出来なくて訊き返した。


「生命力・・・って、其れをやったらお前はどうなるんだ?」


「死ぬな。」


「!?」


 全員の目が驚愕に見開かれる。


「却下だ!!」


「そんなの『手が在る』とは言わないわ!」


「余り使いたく無いって、当たり前でしょ!?」


「絶対使わないで下さい!」


 全員が半分怒りを滲ませてカンナに詰め寄る。




「な・・・なんだよ、そんなに怒らなくても良いだろ。」


 カンナにとっては予想外の反応だったらしく、珍しく気弱な様子で口籠もる。そんなノームの娘をシオンは呆れた様な目で眺めた。


「お前・・・そりゃ、みんな怒るだろ。もう少し自分を大事にしろ。」


「い・・・いや、死ぬと言っても伝導者の役目が終わっていない今なら、数年の時間を掛ければ復活出来るんだから・・・」


「其れでも論外だ。」


 シオンの眼にも若干の怒りが籠もるのを見てカンナは口を噤んだ。


「解ったよ。」




 全員で最下層の探索を始める。


 何か地上に降りる手段は在ってもおかしく無い。もし無いなら無いでシオンの神性が溜まるのを待てば良いだけの話だ。そう結論づけての、のんびりとした探索だったが、あっさりと地上に戻る装置が見付かった。




 大水晶から取り出した膨大な量の神性を描かれた魔方陣に移し終えた後、シオン達6人は魔方陣の上に立った。


「お世話になりました。」


 レシスが頭を下げ、クリオリングとルネが其れに続く。


「どうぞ世界を見守ってあげて下さい。それと、地上に残られているビアヌティアン殿の事も。」


「勿論です。あの方も私達の恩人です。あの方が旅立たれる刻には必ず導きます。」


「お願いします。」




 微笑むシオン達の姿が薄まっていく。


 そして魔方陣が光輝くと、彼らの姿は消えていた。






 次に6人が目にした光景は、天の回廊に飛んだ場所と同じ冒険者ギルド前の大通りだった。


 光と共に現れた6人の姿に、居合わせた人々が目を瞠る。






 1つの大事を成し遂げた若者達は、漸く心安まる愛すべき場所に戻って来たのだった。









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