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神の去った世界で  作者: ジョニー
第7章 天の回廊
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82話 女神との戦い



 ルネから放たれた稲妻をシオンが払い退けると、女神はフワリと宙に舞い上がりシオンを見下ろした。それに合わせてシオンも宙に舞い上がる。


 ルネは再び左手に稲妻を纏わせた。


 目の前の少年がエーベルハストを容易く打ち倒した事は知っている。神性を以て圧倒出来る様な並みの相手では無い。




『霧となれ』


 ルネの神言が響くと左手の稲妻が拡散する。




 稲妻は霧散し、パチパチと小さな紫電を揺蕩わせる霧となって広間を包み込んだ。


「うっ!」


 ミシェイル達が苦痛に顔を顰める。


 紫電が触れる度に痛みが走り、身体がビクリと震える。ルーシーとカンナはその神性で直ぐに紫電の侵食を防ぎ3人を護りの結界で包んだが逆に動きが取れなくなる。




 ルネの紫電に身を包まれたシオンの表情も一瞬苦痛に歪む。


 その表情を確認したルネは構えた右手の剣を翳してシオンに突撃した。


「!」


 シオンは辛うじて身を躱す。


 速い。


 女神の動きはエーベルハストよりも速く鋭かった。更に周囲の紫電の霧がシオンの動きを不自由にさせている。


 シオンの大腿部から血筋が一本流れた。




 ルネが再び斬りかかる。シオンはその一撃を残月で弾く。

 女神は急旋回して三度斬りかかった。シオンは身体の向きを合わせるのが間に合わず残月での防御が間に合わない。再びシオンの今度は右腕から鮮血が吹き出した。




「どうやら空中戦は苦手な様ね。」


 ルネはシオンが自分の速さに付いてこられないと見てとると、彼の背後に回りながらの一撃離脱を繰り返した。


 見る見る内にシオンの身体が鱠の様に切り刻まれていく。




 突然、ルネがシオンに斬りかかる手前で急停止した。


『ブンッ』


 とシオンの残月が横薙ぎに振られ空振った。瞬間にルネの脚が伸びシオンの腹を蹴り飛ばした。


「グッ」


 女性の蹴りとは思えない程の強い衝撃に思わず呻くシオンにルネが冷静な口調で言う。


「残念だったわね。けど私の速度に付いてこられない時点で、貴男に勝ち目は無いわ。」




 突然シオンが動いた。


「!」


 シオンの予想以上の飛行速度にルネは一瞬だけ表情を引き攣らせたが、即座に対応して身を躱す。しかしシオンは急旋回して再びルネに斬りかかった。


「!・・・コイツ!」


 自分と同じ動きをし始めたシオンにルネが屈辱の声を上げる。


「遅いのよ!」


 急旋回からの一撃離脱を繰り返そうとするシオンにルネは身を躱して蹴りつけた。




 シオンは一瞬グラついたものの、更に突撃を繰り返す。


「!」


 ルネは躱すことが出来ずに剣でシオンの一撃を受け止めた。が、『グンッ』と制御できない力が身を襲い後ろに弾き飛ばされる。




 慌てて翼を羽ばたかせて体勢を整えるとシオンを見た。




「やはりな。」


 シオンが呟いた。


「下半身の力は強い様だが上半身の力は弱い。従って剣の威力も低い。」


「!」


 ルネの表情が変わる。




 ルネ自身も感じていた事だった。


 刃物で斬り付けている以上、急所を狙えば強いも弱いも無いのだがシオンは動きが遅いだけで、決してルネに急所を見せない。更には彼の身体を覆う神性が盾の役目を果たし肉体を傷付けても深手に至らない。


 其れでもこのまま攻撃を続ければシオンを弱らせる事は可能だが、彼が其れをさせる筈も無い。




「・・・」


 ルネは剣を収めるとシオンから距離を置いた。




 ルネの双眸が輝いた。途端に彼女の身体から更に強力な神性が溢れ出し霧の中に溶け込んでいく。


「!?」


 紫電の大きさが増していきシオンを蝕む苦痛が増大していく。




『これは・・・!』


 マズい。まともに動けない。ルネの神性がシオンに侵入し肉体を押さえ付ける。


『こんな使い方も在るのか・・・!』




「貴男・・・凄いわ。本気になって居なかったのね・・・でも、是れでおしまい。」


 ルネが両手を翳すと紫電達が一斉にシオンに襲い掛かった。




「!」


 躱す。避ける。剣で弾く。最初の数発はやり過ごしたシオンも、遂に被弾してしまう。


『バチッ』


 と全身が弾ける様な衝撃と焼け付く熱がシオンを襲う。


「うぐっ」


 呻き仰け反るシオンに幾つもの紫電が突き刺さる。




 肉体から煙が上がり、シオンは地面に落下した。




「シオン!」


 ルーシーが悲鳴を上げる。今の攻撃はシオンに大きなダメージが入ってしまった。巫女と御子の感覚がそれを明確にルーシーに伝えてくる。


「動くな!」


 堪らずに結界から飛びだそうとするルーシーをシオンが制止した。


「大丈夫だ。」


 言いながらシオンはユラユラと立ち上がる。


「そうか・・・神性の強弱で技の通りが変わって来るのか。」




 シオンを見下ろしながらルネは若干の戦慄を覚える。


「あの量を受けて何故生きている・・・堪えきったとでも言うのか・・・」


 ルネは自分の周囲に紫電の塊を集めた。


「だが、これ以上は堪えられまい。」


 御子さえ斃せば他の者達を片付けるのは容易い筈だ。


「是れで終わらせる!」


 女神がシオンに向けて手を翳すと紫電の群れがシオンに向かって飛んでいく。




『ドンッ』


 と異様な爆発音が鳴り響く。


 シオンの全身が震え、巨大な神性が吹き出した。


「!?」


 ルネはシオンの神性に戦慄しビクリと身を震わせる。そんなルネを目掛けてシオンは一直線に飛翔した。




 紫電がシオンの腕に、剣に、払われて次々とかき消されていく。


「クソッ!」


 更にルネは紫電を放つがシオンが腕をルネに向けると紫電は動きを止めて逆にルネに向かって行く。


「な・・・!?」


 向かって来る紫電にルネは慌てて手を翳し制御を試みるが、紫電はルネの神性を受け付けずにルネに直進して来る。


『ドンッ』


 と紫電がルネに直撃する。全力を防御に回したお陰で紫電その物の威力は防いだが、弾けた衝撃が彼女の身体を激しく弄ぶ。


「うぁっ!」


 立て続けに向かって来る紫電から逃れながらルネは混乱していた。


「何なんだ!?」


 何故、こうなっているんだ!?




 ルネはすんでの所で紫電を霧散させて紫電の脅威を避けた。




 その直後、紫電に気を取られているルネの隙を突いて眼前まで距離を詰めていたシオンに、彼女は戦慄する。


「!?」


 伸びて来たシオンの左腕から逃れようとルネは身を捩らせるが、シオンの腕は確実に彼女の首下を捕らえた。


「う・・・ぐ・・・」


 首を絞められルネは呻く。


「何なんだ、お前は!?」


 女神は激しく壁に身体を押し込まれながら声を振り絞って叫ぶと、左手で少年の腕を掴み、苦し紛れに右手で腰の剣を引き抜こうとする。




 しかしその右腕もシオンが反対側の腕で掴み動きを封じる。ルネは尚も脚でシオンの腹を蹴りつけるが少年はビクともしない。




 シオンは今の戦いで彼女がシオンにやった事を試してみた。自分の神性を掴んだ首下と右腕からルネに注ぎ込む。




「うああっ」


 ルネの身体が激しく震え、全身が弛緩する。




「く・・・そ・・・」


 呻くルネを抱えるとシオンは地面に降りる。




 ルーシー達がシオンに歩み寄る。


「殺さないのか?」


 カンナの問いにシオンは頷いた。


「エーベルハストは聖女達を殺して当然だと嘯いた。だから斬り捨てた。クリソストも聖女達を手に掛けたのだろうが反省はしていた。だから生かすか殺すかの判断は聖女の魂に任せようと考えた。そしてルネは聖女達を殺めた訳じゃない。なら命まで奪うつもりは無い。」


「そうか。」


 カンナは少し笑って頷く。




 ルネは薄らと目を開けてその会話を聞いていた。




 ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆




『地上の皆を護ってあげて下さい。』


 嘗ての遠い記憶がルネの脳裏に甦る。あの一級神様の優しげな微笑みを、自分達の行いは踏みにじって居たのか?


『お任せ下さい』


 頬を熱くして答えたあの時の自分達の想いを、私達は踏みにじって居たのか?




 ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆




 シオンから自分に流れ込んできた強大な神性は哀しみと怒りに満ちていた。彼は竜王神に、そして其の巫女に認められた存在。・・・ならば私の今の戦いに何の意味が在ったのか?




 女神の双眸から涙が零れた。




『もう良かろう、ルネ。』


 クリソストの声が広間に響く。




 一行の側にクリソストが現れた。


「彼らを通してやろう、ルネ。」


 倒れている彼女にクリソストが諭すように言うと女神は静かに頷いた。




「手間を掛けたな、竜王の御子よ。」


「構わん。」


 クリソストの言葉にシオンは頷くとルネを見た。


「女神よ。もう一度、天央12神の是れまでの行いを見直せ。そして何を為すべきかを考えろ。」


「・・・」


 ルネは流れる涙をそのままに目を閉じる。




「行こう。」


 シオンはそう言うと玉座の裏の大扉を目指して歩き始める。


「儂たちも後で行く。」


「わかった。」


 シオンはそう返す。




 シオン達が広間を出て行った後にはクリソストとルネが残された。


「随分と派手にやられたな。神性がズタズタになっている。」


「・・・」


「まさかお前が呼び出されて居たとはな・・・。竜王の御子を相手にしてよくも此の程度で済んだものだ。・・・とは言え、碌に動けないだろう。待って居れ。」


 クリソストはルネの首下と右腕に手を伸ばすと、彼女の神性の流れを元に戻すべく癒やし始める。




「クリソスト様・・・」


「なんだ?」


「私達は彼らにとって必要だったのでしょうか?」


 嘗ての教え子の問いに嘗ての師は言い淀んだ。が、暫しの逡巡の後、彼は答えた。


「・・・必要では在った。大地を平定していたあの時までは。」


「・・・では、今は不要の存在であると言う事ですね?」


 ルネの問いにクリソストは直接は答えなかった。


「・・・1つだけ言える事は、主神がゼニティウスであった時点で、我々は平定した後に此処を去るべきだったと言う事だ。あの大罪を犯す前に。」


 ルネの涙を拭うとクリソストは言葉を続けた。


「だが今となっては、ただ此処を去るわけには行かん。儂もゼニティウスに確かめなくては為らない事が幾つも有るのでな。」


「従います。我が師よ。」


「うむ。だが先ずはお前の傷を癒やさんとな。」


 クリソストは微笑むと、エルフとして生きていた時代の嘗ての愛弟子への治癒を続けた。




 ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆




 塔外に出た一行は四度、階段を上っていく。




 その中で、カンナはミシェイル、アイシャ、セシリーの神性が高まっている事に気付いた。強い神性に当てられ続けて、彼らの中に宿る神性が活性化し始めたのかも知れない。


「体力に自信が有る方では無かったけど、是れだけ高い塔を上っているのに全然疲れないわ。」


 セシリーが不思議そうに言う台詞にカンナは確信して言った。


「其れは恐らくはお前達の神性が高まった影響かも知れないな。」


 カンナがセシリーに答えた。


「え?」


「ハッキリとした理由は解らんが、お前達3人の力が高まりつつ有る。」


 セシリー達は何となく自分達の手を見つめる。




 何にせよ、最終決戦に向けて力が高まるのは悪い事では無い。


 戦っているのはシオンだけではあるが、いつ神を相手取る戦いの出番が回ってくるか判らない以上、神性は高い方が良い。




 準備は整いつつある。






 階段は終焉を迎えた。壁には大きな両開きの扉が据えられている。恐らくは是れが最後だ。此の扉の向こうに主神ゼニティウスが居る。




 シオンは一度振り返ると皆を見た。


「是れが恐らく最後だ。みんな、いいか?」


 シオンの確認に全員が頷く。


「よし、行くぞ。」


 シオンとミシェイルが扉に手を掛けて押し広げた。






 扉の奥は案の定、大広間となっていた。




 その広間の最奥には巨像が1体だけ立っており、是れまでもう1体立っていた場所には何も置かれていなかった。そしてその巨像の足下には、是れまでよりも一際豪奢な玉座が据えられている。




 其処に腰掛ける者が1人。




 脚を組み、肘掛けに肘を着いて頬を乗せている。遠すぎて表情は見えないが放たれる神性の大きさから考えても主神ゼニティウスで在ろう。




 シオン達が中に脚を踏み入れると大扉が勝手に音を立てて閉まっていく。




「・・・」


 一行は無言で歩を進めると、主神に近づいた。


 近づくに連れ主神の顔が露わになる。見た目は初老とは言えないくらいの普通の男だった。体格が特別に良いわけでも無い。しかしその眼光から放たれる虚無感は底知れぬモノで、見る者を不安に落とし込む。




 男が嗤った。


「神の住まう聖なる神殿に忍び込んだ愚か者が6匹。よくぞ此処まで這い上がって来たものだ。」


 シオンが眼光も厳しく問うた。


「貴様がゼニティウスか。」




 男の視線もまた険しくなる。




「そうだ。私が天央12神の主神ゼニティウスだ。」









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