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神の去った世界で  作者: ジョニー
第7章 天の回廊
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81話 12神なる者達



 玉座の後ろには、巨像に狭まれる様に豪奢な大扉が据えられていた。その扉を開けると再び塔の外郭に出る形となり、同様に大きな階段が伸びている。


 シオンはカンナを小脇に抱えると


「ミシェイル、お前にコレを渡して置く。」


 そう言ってイージスリングをミシェイルに渡した。


「お前の意思に従って結界が展開される。盾をイメージすればお前の上半身をカバー出来るくらいの大きさの半透明な盾になってくれる。」


「・・・」


 ミシェイルがリングを指に填めて効果を試していく。


「コレは良いな。でも貰って良いのか?」


 ミシェイルは気に入った口ぶりで頷いた後にそう尋ねた。




「構わない。俺にはもう必要が無い。」


「解った。貰っておく。」


 少年2人のやり取りをカンナは見ながら満足げな笑みを浮かべる。




 次代を担う少年少女達が、互いの力を認め合い無事を祈りながら、困難に立ち向かう姿に立ち会える自分の幸運にカンナは喜びを禁じ得なかった。




 カンナはその喜びを一入噛み締めると表情を改めた。


「さて、今の戦いで予想出来る事がある。」


「?」


 一行はカンナに視線を向けた。




 カンナを抱えているシオンとその横に立つミシェイルは気付かないが、後ろから歩くルーシーとセシリー、アイシャはシオンに抱えられてお尻を此方に向け足をブラブラさせたままのカンナの姿に思わず笑ってしまう。




 そうとは気付かずにカンナは話し続ける。


「さっき私達を迎え撃ったのは天央12神の1人だった。そして12神の1人は太古に騎士クリオリングの手に因って斃された。そうなると8体のゴーレムが動かない事を前提に考えたとして、主神ゼニティウスの他にあと1人12神が居る筈だ。つまりもう1戦、12神との戦いが在ってもおかしくは無い。」


「そうなるな。」


 シオンが頷く。


「つまり逆に言えば、ソイツさえ退かせれば残るは主神しか居ないって事か。」


「そう言う事だ。」


「分かり易くて良い。」


 ミシェイルが笑う。






 長い階段がまた終わりを告げ、塔の内部に入る為の扉が用意されている。




 内部はやはり大広間となっていた。


「告げねば鳥は空にも居られぬだろうに・・・。」


 声が響く。




 広間の最奥にはエーベルハストの時と同様に巨像が2体置かれて居り、その前方には玉座が据えられていた。しかしその玉座に主は居なかった。




 玉座の前にはテーブルが置かれ椅子が複数置かれて居り、主と思われる初老のエルフの男は其処に腰掛けていた。




「腰掛けたまえよ。」


 近づいた一行にエルフの男は椅子を勧める。


「・・・」


 シオンは無言で腰掛けた。


 全員が其れに倣って椅子に腰掛けた。




「エーベルハストを斃したのか。」


「ああ、斃した。」


「・・・」


 エルフの男は暫く瞑目した。男はやがて目を開くとシオン達を見た。


「・・・儂の名前はクリソストと言う。天央12神の1人だ。」


「・・・」


 凡そ友好的とは呼べないシオンの視線を受けてクリソストは僅かに苦笑した。




「フフ・・・。真なる神々の御子から是れほどの怒りを買うなど、やはり我らは君の言う通り『偽りの神』なのかも知れんな。」


「訊いていたのか?」


 シオンの問いにクリソストは頷く。


「・・・そうか。別に構わん。」


「だろうな。それ程の力を持って居るなら我らなど怖れるに足りんだろう。『竜王神の鱗1枚分の力』が四方や是れほどとはな・・・。」




「1つ訊きたい。12神よ。」


 カンナが口を挟む。


「何かな、伝道者よ。」


「ほ・・・私の事は知っているのか。」


「知っている。伝道者は代が代わる度にその姿を確認している故な。」


 カンナはジッとクリソストを見遣ったが「そうか」と頷くと話を戻した。


「エーベルハストはシオンの正体に最後まで気付かなかった様だが、何故、お主はシオンを竜王の御子だと判っているのだ?」


 クリソストはシオンを見た。


「彼が光の翼を見せたからさ。アレはどう見ても竜の翼だった。そしてエーベルハストの神性を凌駕する強い神性。考えられる存在は幾つも無い。伝道者か竜王の巫女と御子か。」


「・・・更に訊きたい。」


 カンナは質問を続けた。


「伝道者は精霊神様より『神話時代の出来事を伝え、人々に知恵を授ける』と言う使命を与えられた。竜王の巫女と御子は『人の手に余る災厄を払う』為に竜王神より力を託された。・・・では天央12神とは何者で、何を使命として存在しているのだ?」




 クリソストの眉間に皺が寄る。しかし表情は直ぐに元に戻った。


「我々天央12神は『時の袋小路』に入る直前の時代の知有種から選ばれた。エーベルハストの様な精霊人や儂の様なエルフ、人間も居た。様々な候補者が選ばれ、特に優れた力を持った者4人に1級神から僅かな神性が与えられた。そしてその中の1人を主神と定め、他の3人を従神とし、その4人と護衛8体のゴーレムを以て『天央12神』とした。そして何らかの不都合に因り人数が減った場合は、残りの候補者から補充する事。」


「・・・」


「天央12神に与えられた使命は、地上に混乱が起きた時『竜王の御子』が起きなければ、代わりに是れを平定する事。」


 クリソストの話にカンナは首を傾げた。


「・・・妙だな。そう言う割には伝道者の記憶の中に、お主達の活躍は残されて居ないが?」


「・・・」


 クリソストは答えない。


「・・・各時代、各地で起きた邪教徒の蠢動は『混乱』には値しないのか?」


 シオンの眉がピクリと動く。




 クリソストは首を振った。


「全ては主神が決める事。我ら従神は主神の決定に従うのみだ。それ以外の事は許されていない。それが秩序を保つ基本となるが故に。」


 カンナは溜息を吐いた。


「では、1400年もの間、何もせずにこの塔から地上を見下ろしていたのか。・・・暇な事だな。」


「いや。」


 クリソストは否定する。


「我らは神を名乗ってはいるものの、元は只の生き物に過ぎん。そんな事をして居ては心が死ぬ。故に我らは1人100年交代で地上を見張り、他の者は眠りに就いていた。何かが在ればその都度主神を起こし判断を仰いで居た。・・・今回はエーベルハストの招集に拠って眠りから覚めたのだ。」


「つまり・・・」


 シオンが口を開く。


「全ては主神ゼニティウスに訊けという事か。」




 クリソストの答えにシオンは厳しい視線を向ける。そして其のまま尋ねた。


「序でだ・・・お前にも訊こう。嘗て、お前達は混沌期の終わりに人間を滅ぼした。・・・違いは無いか?」


「その通りだ。」


「彼らは、ただ安寧の日々が訪れる事を願っていただけなのに滅ぼしたのか?」


「そうだ。」


「其れは貴様等が言う『秩序』とやらを保つ為か。」


「・・・そうだ。」


「・・・」




 暫しの沈黙が流れた後、クリソストは再び口を開いた。


「竜は・・・嘗て正の神々と共に戦う事を唯一許された、真なる神々と同格の生き物だ。そして巨人は負の神々と共に戦う事を唯一許された、真なる神々と同格の存在。」


「それが?」


「今の世もまた、竜や巨人の姿をした生き物達が僅かに存在する。神性を持たぬ、目も当てられん程に劣化した偽物がな。・・・同様に、神と名乗る存在も著しく劣化した偽物しか居ない。今の世界に本物は何処にも居ないのさ。」


「神の言葉とは思えんな。」


「神を名乗るが故だよ。神が唯一絶対に禁じられた事。其れは『偽り』を告げる事。・・・だから竜王の御子に『偽物』と断じられた今、儂は本物は居ないと言うしか無いのさ。」


「嘘が禁忌とは難儀な事だな。」


 カンナが苦笑する。




「貴男はどうしたいと考えていますか?」


 ルーシーが口を開いた。その紅の双眸が僅かに光を放っている。




 クリソストはその紅の瞳を見つめたが、やがて目を閉じて言った。


「巫女に訊かれては答えぬ訳にも行かぬか。・・・先程も言った様に従神は主神に抗う事は許されぬ。だが、その掟も四方や是れまでかも知れんな。」


「貴男自身の考えを訊きたいのです。」


 ルーシーは言葉の暈かしを許さずに問いを重ねる。


「・・・天央12神は・・・いや、我らは終わるべきなのだろう。」


「・・・そうですか。」




 クリソストは目を開けると一行を見渡して言った。


「行くが良い。行ってゼニティウスに会え。」




 シオンは立ち上がる。


「無論、そのつもりだ。」


 全員が其れに続いて立ち上がった。




「お前達がゼニティウスの下に辿り着いたら、儂も行こう。・・・主神には訊きたい事も在る故な。」




 ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆




 一行はまた塔の外に出た。階段を上っていく。


「戦いになると思っていたんだけどね。」


 セシリーが呟く。


「最初の奴とは全然雰囲気が違ったね。」


 毒気を抜かれた様な表情でアイシャが応じる。


「いや、あの男も戦う気だったさ。」


 シオンが否定が否定した。


「え・・・?」


 アイシャが戸惑った声を上げる。


「あの広間に入った時は強い神性に溢れていた。・・・だが、話をする中で其の神性が形を顰めていった。」


「そうだったの?」


 セシリーがルーシーを見ると、巫女は頷いた。


 カンナが後を繋ぐ。


「恐らくはシオンの怒りの程を見て、迷いが生じたのだろうな。だから彼は途中から会話で私達の意を汲む方向に切り換えた。」


 ミシェイルが雲海を見下ろしながら言った。


「神って言っても一枚岩じゃ無いんだな。」


「真なる神々ならいざ知らず・・・元が只の知有種ならば感覚の根っこは変わらん。故に長く生きていれば、主張も強固になって行くモノだ。だから諍いが起こらぬように秩序と序列を作るのさ。」


「其れが上手く運ぶかどうかと言うのも上に立つ者次第と言う事ね。」


 セシリーは自分に言い聞かせる様に呟いた。






 階段の終わりには予想通り、塔内に通じる両扉が据えられていた。




 扉が開くその隙間から先陣切って入っていく外気の向こうも、やはり是れまで通りの大広間だった。最奥にはやはり巨像が2体建っており、挟まれるように玉座が据えられている。




 玉座に座っていた者が立ち上がった。翼を揺らめかせ此方に無言で歩いてくる。




『・・・そして何らかの不都合に因り人数が減った場合は、残りの候補者から補充する・・・』


 クリソストの話を訊いて、補充された3人目が居るだろうとは予想していた。




 だからシオン達も慌てる事無くそのまま歩みを進め、12神との距離を縮めた。




 距離が縮まるに連れて、12神の姿がハッキリと見えてくる。




 腰に穿いているのは剣のようだ。漆黒の長い髪が束ねられ後頭部で揺れている。


 長い耳、細身の身体、精巧な黄金の鎧、その下には白い短めのスカートを穿いている。胸を揺らす2つの膨らみ。


「女か。」


 カンナが意外そうな声を上げた。




 3人目の12神はエルフの女性だった。強い神性を放ち敵意を剥き出しにするその姿は美しく、まさしく女神の様な神々しさに溢れている。実年齢はともかく見た目も若くミレイと同じくらいに見える。




 12神が足を止めた。シオン達も足を止める。




「クリソスト様は何故、お前達を通したのか。」


 澄んだ声が広間に響く。


「12神か。」


 シオンが問うと女性は頷いた。


「私の名はルネ。12神に名を連ねる事を許された戦士だ。」




 ルネは名を告げるとシオンを見つめる。


「・・・成る程。神性は本物か。クリソスト様はお前を認めたと言う事か。」


「・・・此処を通す気は在るか?」


「無い。」


 ルネは即座に言い切った。




「クリソスト殿は主神に会えと言ってくれたのだがな。」


 カンナは言うがルネの表情は揺るがない。


「その様だな。だが、私が其れに迎合する理由は無い。」




「天央12神がグースールの聖女達に行った非道を見てもそう言い張るつもりか。」


 シオンが尋ねる。


 ルネの表情が一瞬歪んだ。しかし直ぐに表情を戻して言う。


「・・・遙か太古の時代に其の事実が在った事は知っている。しかし先程顕現したばかりの私に出来る事は主神ゼニティウス様の判断に従う事のみ。」


「先程・・・?」


 シオンは眉間に皺を寄せ訊き返した。


「お前は先程、此処に来たばかりだと言うのか?」


 カンナが言葉を繋ぐ。


「12神が死んだのは混沌期だぞ。その補充要員であるお前が『今』召喚されたのか?」


「そうだ。」


「何故だ?」


「知らない。」


「・・・」


 双方は睨み合いながら真実を探ろうとするが、答えなど出よう筈も無い。




「そうか。」


 シオンは神剣残月を引き抜いた。


「いずれにせよ、退く気が無いのならば排するまで。」


「!」


 ルネもシオンの殺気を感じ取り合わせて剣を引き抜く。




 シオンにとっては、天央12神の思惑などに大した価値を見出してはいない。ただ只管に現在の天央12神の存在は地上に生きる者達にとって不要どころか害悪で有ると考えている。




 ならば立ち塞がる者は全て斬り捨てるのみ。




 シオンの身体から強烈な神性が溢れ出し、その背中から光の翼が生え聳える。


 ルネの左手が青白く輝き、エーベルハストよりも強力な稲妻が放たれる。




 戦いが始まった。





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