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神の去った世界で  作者: ジョニー
第7章 天の回廊
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80話 天央12神



 一行は天の回廊を直上っていく。時折吹く突風にカンナが飛ばされそうになる為、シオンが途中から抱えて歩き始めた。




 回廊と言うよりは螺旋の階段であるが、巨大な塔の外壁に張り付いている為、外気に吹き晒しである。周囲は広大な雲海であり、地上まで何千メートルあるのか見当も付かない。強く吹き抜ける冷たい強風は足腰に力を入れなければカンナで無くとも飛ばされ兼ねない。




「・・・結構、長いな。」


 呑気にぼやくミシェイルにシオンが笑う。


「随分と落ち着いているな、こんな場所に飛ばされたのに。」


 ミシェイルは首を傾げる。


「慌てても仕方無いだろ。このくらいの事態は覚悟してたんだし。・・・まあ、最も俺1人だったらパニックだったろうけどな。」


「そうか。」


「ま、敢えて不安に思う事を言えと言うなら、帰りはどうするかなって事くらいか。」


 ミシェイルが言うと、シオンに小脇に抱えられながらカンナが言った。


「確かにな。其れについては考えて置かないとな。まあ方法が無い訳では無いが其の方法は出来れば余り使いたく無いからな。そうだな・・・シオンは全員を抱えて『飛べる』か?」


 シオンは首を捻る。


「どうだろうな。やってみないと何とも言えない。」


「・・・ふーん。」


 ミシェイルが感心した様な表情になる。


「見てないから実感が湧かないけど、お前、本当に空を飛べるんだな。」


「ああ。」




「な、空を飛ぶってどんな感じなんだ?」


 ミシェイルが尋ねると


「私も知りたい!」


「あたしも!」


 とセシリーとアイシャが話に食い込んできた。




「どうと言われてもな。・・・地に足が付かなくてフワフワして居るというか、落ち着かない。」


 シオンがボヤっと答えると、ミシェイルは何を言ってるんだと言う表情でツッコんだ。


「そりゃ、実際、飛んでるんだから地に足は付いてないだろう。そうじゃなくて何かこう・・・楽しいとかさ。」


「ああ・・・そうだな、景色が下を流れていくのは見ていて楽しいぞ。」


「へぇ・・・。」


 尋ねる3人が目を輝かす。




「事が片付いたら乗せて貰えばいい。」


 カンナが事も無げに言う。


「良いの!?」


 セシリーとアイシャが食い付いた。


「・・・」


 シオンは返答に困る。


 ミシェイルは別に構わないが、セシリーとアイシャは女性だ。連れて飛ぶからには抱えなければならない。


 シオンがルーシーを見ると彼女は苦笑を浮かべて頷いた。


「・・・まあ、それじゃ終わった後にな。」


 シオンは苦笑いしながら3人に言った。




 喜ぶ3人を見ると、シオンは表情を改めた。


「3人に言っておきたい事が在るんだ。」


「?」


 ミシェイル達は首を傾げた。


「この戦いは厳しいモノになる。ここに居る者達は全員が神話時代の神や英雄の加護を受けて居るとは言え、これから相手取るのは1400年間、神として君臨した者達だ。」


「・・・」


 3人の表情が引き締まる。


「ミシェイル、アイシャ。」


「ああ。」


「はい。」


「互いを欲しいと思うか?」


 シオンの唐突な質問に2人は顔を赤らめる。が、ミシェイルが答えた。


「ああ、欲しい。」


 ミシェイルの頷きにアイシャは更に顔を赤らめるが、やがて頷く。


 シオンは頷き、次にセシリーを見た。


「セシリー。」


「は、はい。」


「君にも結ばれたいと心から願う相手が居る筈だ。」


「!・・・ええ。」


 セシリーの答えにシオンは頷く。


「その思いを決して忘れるな。誰かを愛する気持ちは何より強い。例え死地に立たされそうになったとしても、強い想いがあれば生き残れるモノだ。」


「!」


 シオンの意図を理解して3人は強く頷いた。




 其れは地底城でシオンがルーシーにも促した想いだった。




 カンナは笑い、小さく独り言ちた。


「良いこと言うじゃないか。」






 長い回廊も遂に終わりを迎える。


 回廊の終わりには塔の内部に入る為の両開きの扉が用意されていた。白亜の石で造られた扉は金細工で飾られており細緻な彫り物が施されている。




「入るぞ。」


 シオンの声に全員が頷き、シオンとミシェイルが腕に力を込めて両開きの扉を開ける。




 風がシオン達に先駆けて扉の奥に滑り込んでいく。




 扉の先は大広間だった。広大かつ天井の高いその空間の奥には、玉座とも見紛う様な豪奢な椅子が置かれて居り、其処に座る者が1人。その背後には巨像が2体並んで立っていた。




 大きな声が響き渡った。


「毒蟲に誘われて、羽虫が恥知らずにも神の住まう地へ迷い込んだか。」




 『毒蟲』が何を意味するかを理解してシオンの眉がピクリと動く。


 シオンは抱えていたカンナを下ろすと玉座に座る者に向かって歩き始めた。歩きながらその髪の色は白銀に、双眸は紅に変化して行く。その後に続く5人はその変化を見ながらシオンの怒りを感じ取る。


 シオンは歩きながら言った。


「真に気高く美しい乙女達と毒蟲の見分けも付かぬ愚者が何か言ったか?」




 瞬間、稲妻がシオン目掛けて飛来した。が、シオンは煩わしげに片腕を振りその稲妻を打ち消した。


「!」


 玉座に座った者が身動ぎ尋ねる。


「何者か。」


 シオンは冷笑を浮かべた。


「羽虫だよ。貴様の腐った目にはそう映るのだろう?ならば其れで良いさ。敢えて答えてやる気にもなれんよ。」


「貴様・・・!」


 玉座の者が立ち上がった。




 黄金の華美な甲冑に身を包んだ男が立ち上がる。


 片手に黄金の二叉槍を持ち、その背に大きな白い翼を纏って立つ姿はまさに圧倒的な威容であった。1000と400年もの間、この地から地上を見下ろし続けた天央12神の1人が、憤怒の形相でシオン達の前に立ち二叉槍を向ける。


「神を怖れぬ痴れ者が。天央12神が1人エーベルハストが、貴様のその軽口に対し死罰を以て報わせてやろう。」




「みんなは手を出すな。」


 シオンは言い残して、エーベルハストに向かって行く。


 その縋らシオンはエーベルハストに尋ねた。


「嘗て、天央12神は混沌期の終わりに人間を滅ぼした。・・・違いは無いか?」


「其れがどうした。」


「彼らは・・・彼女達は、ただ安寧の日々が訪れる事を願っていただけなのに滅ぼしたのか?」


「細事だ。」


「では、貴様等の言う大事とは何だ。」


 エーベルハストは嗤った。


「知れたこと。主神ゼニティウス様と我ら天央12神の名の下に秩序が築かれる事。其れを乱そうとした愚者の願いなど取るに足らん。」


「・・・そうか。」


 シオンはエーベルハストを睨み据えて言い放った。


「シオン=リオネイルが、貴様達・・・偽りの神々に滅びの唄を歌ってやろう。」


 シオンが神剣を引き抜いた。




 エーベルハストから巨大な怒気が膨れ上がり爆発した。


「我らを偽りと言うか!!」


 神が翼を舞わせて突進しシオンに鋭く二叉槍を突き出した。


 シオンは身を逸らし、残月を二叉槍の間に滑り込ませねじ伏せる。そのまま足を振り上げエーベルハストを蹴り出した。




 蹴り出されたエーベルハストは翼をはためかせて空中で体勢を整えると着地した。その顔には驚愕の表情がありありと浮かんでいる。しかし神はニヤリと笑い宙に舞い上がった。


「腕はなかなか・・・。だが神の怒りを受け止められるか?」


 エーベルハストは片手を上に突き翳すとその手に力を込めた。手の周囲が青白く輝き、バチバチと異様な音を立てる。


「・・・失せるが良い。」


 エーベルハストの顔に残忍な笑みが浮かび、手を振り下ろした。




 轟音と共に閃光が走り、閃光はシオンの居る大地を打ち砕いた。


「!」


 ミシェイル達が声にならない悲鳴を上げる。




 床の灼ける匂いと濛々と立ち籠める煙が充満する中で、光の塊が動いた。そして煙が晴れた時、其処には背中に光の翼を纏いエーベルハストを悠然と見据えるシオンの姿が在った。




「・・・光の・・・翼・・・?」


 アイシャが呆然と呟く。


「・・・凄い魔力・・・」


 セシリーが絶句する。




 エーベルハストは愕然とした表情で唸った。


「馬鹿な・・・。神の雷を何故防げる。神性が無ければ防げない筈だ・・・。」


「なら、神性が在るんだろ、俺にも。簡単な話だ。」


 神の顔が再び怒りに支配される。


「貴様・・・神罰を下されたい様だな。」


「神罰って言うのはさっきの雷の事か?なら、残念だな。俺には届かないようだ。」




 エーベルハストの全身が震え始める。同時に、神の身体から黄金のモヤが溢れ出し始め広間の天井全体を覆う程の雲へと変貌する。


「貴様は堪えられても、仲間はどうであろうな?」


「・・・」


 シオンは雲を見渡す。所々、雷雲の様に稲光が見える。




 御子は光の翼を羽ばたかせるとフワリと舞い上がった。エーベルハストに緊張が走る。


「何をしようと無数に降り注ぐ雷光は防げるモノでは無いぞ!」


 神が叫んだ瞬間、シオンは恐るべき速度で雷雲の中を縦横無尽に飛び始める。その度に雷雲は光の翼に切り裂かれていき、エーベルハストが呆然と見つめる中、シオンに依って雷雲は瞬く間に取り払われてしまった。




「何だ・・・貴様は・・・」


「羽虫なんだろう?俺は。」


 敢くまでも虚仮にし続けるシオンにエーベルハストの表情が歪む。


「何処までも愚弄するか。」


「たかが羽虫1匹すら駆除できないとは、天央12神は思ったよりも無能なのだな。」


「!」




 怒りの表情を露わにエーベルハストがシオンに突きかかる。シオンは其れを落下する事で躱し、直ぐに翼をはためかせて上昇し斬り上げる。エーベルハストは其れを槍の柄で受け止め、逆に砂突で突き返す。


 両者は互いに翼を舞わせて縦横無尽に飛び回りながら壮絶な斬り合いを始めた。




「凄い・・・」


 セシリーが呟く。


 その言葉以外に出て来ない。最早、人が行える戦いの範疇を超えている。




「変だな。」


 ミシェイルが呟く。


「何が変なんだ?」


 カンナが尋ねるとミシェイルはシオンの戦い振りを見ながら答える。


「シオンが攻撃のチャンスを見逃している様に見える。」


「?・・・どう言う意味だ?」


 カンナが首を傾げる。


「さっきから、あのエーベルハストって奴は隙を結構見せているんだ。いつものシオンなら見逃す様な隙じゃ無い。・・・空中戦に慣れていないからなのか?」


「・・・」


 カンナは感心する。


 ――・・・この男、もうシオンのレベルに追いつき始めているのか。・・・私はサッパリ気が付かなかった。




 激しい金属音が鳴り、シオンとエーベルハストは離れた。


 エーベルハストの身体には至る所にシオンに依って薄く刻まれた傷が張り付いている。一方のシオンはほぼ無傷に近い。何度、稲妻を放ってもシオンの身体には届かない。己の神性が全く通用しない事にエーベルハストは愕然となっていた。




「何故、あのゴーレムを動かさない?アレも12神に算えられる物だろう?」


 シオンは玉座の後ろの巨像を指差す。


「・・・そんな必要は無い。」


 エーベルハストの唸るような返答にシオンは軽く息を吐いて独り言ちる。


「もう良いか・・・」


「何がだ!」


 エーベルハストは吠えて威嚇するが、シオンはたじろぐ事なく冷たい笑みを浮かべた。


「空中戦にも慣れた。もうお前に要は無い。」


「なんだと!?」


 エーベルハストは全身を震わせて呟く。


「・・・神を・・・神を・・・」


 シオンは神剣を改めて構える。


「舐めるなぁぁぁっ!!」


 形相も凄まじく吠えて突進する黄金の神にシオンが初めて吠えた。


「無念の内に命散らした聖女達の怒りをその身に受けろ!!」




 シオンの紅の瞳が強烈に輝き、莫大な魔力と神性が少年の全身から噴き出す。神剣が振り翳され振り下ろされる。




『ザクッ』


 不気味な音が鳴り響き、エーベルハストの身体は文字通り2つに裂かれて地に落ちた。顔には驚愕の表情を張り付かせたまま。






 シオンは地に降りると、光の翼を収めた。


「・・・」


 ルーシーとカンナは地底城でシオン凄まじい戦いを繰り広げたのを見ていた事もあり、其処までの衝撃を受けなかったが、他の3人は竜王の御子の戦い振りに暫く声も出せなかった。


 しかし、やがてミシェイルが気を取り直した様に頭を緩く振ると、シオンの肩に腕を回した。


「やったな。」


 シオンはミシェイルの顔を見ると表情を緩めた。


「ああ。」


 ミシェイルは頷く。


「あ、あの、ホントに凄かった。」


 アイシャが怖っかな吃驚と言った様子で声を掛ける。


「・・・ホントに神様みたいになったのね。」


 セシリーが少し呆れた様に言う。


 シオンは2人の少女に苦笑して見せる。




「・・・それにしても結構隙が在ったのに何で直ぐに終わらせなかったんだ?」


 ミシェイルの問いにシオンは少し驚いた表情を見せる。


「お前、あの戦いで隙が見えていたのか?」


「?・・・ああ、見えてたぜ。だいぶ見送っていただろう?」


「・・・」


 シオンはマジマジとミシェイルを見ていたが、やがて楽しそうに笑い出す。


「ああ、見逃していた。空中戦に慣れて置きたかったんだ。」


「ああ、そういう事か。」


 ミシェイルは納得した様に頷いたが、そんな様子を見ながらシオンは彼のレベルが格段に跳ね上がっている事を知り、嬉しく思った。






 一行は玉座の後ろの巨像を見上げた。カンナは翠眼を光らせて巨像を眺めた後に尋ねた。


「ルーシーよ。お前がその地底城の『絵』の中で見たゴーレム達はこの像だったんだよな?」


「はい。」


 ルーシーが頷く。


 カンナは溜息を吐いた。


「・・・この像は只の土塊だ。神性を注ぎ込まれた跡は在るが・・・今は只の像に過ぎん。維持を仕切れなかったのかもな。」


「つまり・・・動かさないのでは無くて動かせなかったのですね?」


 ルーシーが確認するとカンナは首肯した。


「そういう事だ。」


 カンナは再び像を見上げる。


「ひょっとすると、天央12神の内の8体のゴーレムは全部こうなって居るのかも知れんな。」




 嘗ては4体の天の使いに命じられるがままに、奈落の者達と戦い、人々を虐殺した恐るべきゴーレムは、静かに役目を終えて佇んでいる。




「・・・もし過ぎ去った隆盛に縋り付いているのだとしたら・・・。既に動かぬゴーレムを未だ飾るこの玉座は、遂に神に成り切れなかった者達の哀れな姿の証なのかもな。」


 カンナの声には僅かながらに哀れみの情が籠もっている様に聞こえた。









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