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神の去った世界で  作者: ジョニー
第6章 邪神蠢動
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69話 それぞれの戦い 4



「やるではないか。シュザークを相手に。」


 大柄の騎士が嗤い声を上げる。




 ミシェイルは黒騎士の言葉を聞き流して強烈な斬撃を受け止めた。


 強い。侮ったつもりは無いが眼前の黒騎士の技量も膂力もミシェイルを上回った。明らかに他の黒騎士達とは動きが違う。あの大柄の騎士の力はこの目の前のシュザークと呼ばれる黒騎士をも超えるのだろうか。




 シュザークの横薙ぎがミシェイルの胸を狙う。


「クッ!」


 仰け反って辛うじて躱すものの、身に付けたハードレザーの鎧は至る所が斬り裂かれ、彼自身も多数の切り傷を負っていた。


 しかし彼は見切り始めていた。




 更にシュザークが剣を振り上げる。


「!」


 ミシェイルの眼に力が宿った。狙っていた形になった。振り下ろされる剣を半身でギリギリに回避しデュランダルで斬り上げる。


 シュザークの胴から血が噴き出す。


「!」


 シュザークが怯んだ。好機は此処だ。ミシェイルが連撃を繰り出す。デュランダルがミシェイルの覇気に応じて光り輝く。シュザークも斬り返してくるがミシェイルは既に彼の技と速度を見切っていた。先程とは打って変わって完璧に攻撃を防がれ、シュザークは動揺する。そして其れをミシェイルは見逃さなかった。


 一閃。


 ミシェイルの剣が閃光と化してシュザークの胸を薙ぎ払う。


「!!」


 シュザークは声を上げることも無く、斬り裂かれた胸部から血を撒き散らして斃れた。




「ホウ・・・」


 大柄の騎士、リグオッドが感嘆の声を上げる。


 この僅かな戦闘でミシェイルが大きくレベルアップしたのを彼は見て取っていた。


 面白い。是れほど露骨に強さが増す戦士を見た事が無い。恐らく普通の戦士ではあるまい。『何か』あるのだろう。


 いずれにせよ屠る事に変わりは無いが、その『何か』を見極めてから屠っても良かろう。




 リグオッドは大剣を引き抜くと肩で息をするミシェイルに足を向けた。




「!」


 そして横から叩き込まれた一撃を咄嗟に大剣で受け止めた。


「その少年をやらせはせんよ。貴様の相手は俺だ。」


 力強い声が戦士から放たれる。


「・・・良い一撃だ。」


 バーラントの剛剣を受け止めたリグオッドは仮面の奥で嗤った。体格では互いに引けを取らない。


「楽しめそうだ。」


 そう言うとリグオッドはバーラントの剛剣を弾き大剣を振り下ろす。が、散った激しい火花の向こうで表情1つ変えないバーラントがリグオッドの一撃を受け止めている。




 2人の戦士が激しく剣戟を合わせ始める。斬り上げ、斬り下ろし、横に薙ぎ、突き出す。合間に蹴りが入り、押し合う。


 鍛え上げられた技に互いの圧倒的な膂力が加わり、凄まじい剣圧が周囲を圧倒した。




 ――なんて戦いだ。


 ミシェイルは剣を構えながらも2人の迫力に飲まれていた。しかし、2人の動きを見続け自分の動きにイメージを合わせていく。




 バーラントの剛剣がリグオッドの甲冑に亀裂を入れ、リグオッドの大剣がバーラントのハードレザーの鎧を切り裂く。互角の斬撃の応酬は、しかし次第に流れを変えていく。


 片腕で戦うバーラントは徐々にリグオッドに押されていった。


「チッ。」


 舌打ちをするバーラントにリグオッドが嗤う。


「驚くべき腕前だ。お前の様な戦士がいたとはな。だが、片腕では分が悪かろう。」


 そう言うと、大剣が唸りバーラントの胸を今までよりも深く切り裂いた。


「グッ!」


 バーラントが一旦跳び退るが、そのまま地面に蹲る。リグオッドは大剣を振り翳して、バーラントに近づく。




「お兄様!」


 セシリーが叫んだ。




 お兄様が殺されてしまう。最愛の人が・・・バーラント!




 セシリーの全身から魔力が吹き出した。途端に無数の光の粒が漂い始める。


「セ・・・セシリー・・・?」


 アイシャが戸惑いの声を投げる。セシリーは指をリグオッドに向けた。


「風よ・・・舞って!」


 少女の指先に導かれて、風の精霊がリグオッドに纏わり付いた。見る間に黒騎士の周囲に風が舞い始める。


「!」


 リグオッドは歩みを止めセシリーを見た。


「精霊魔法だと・・・?」


 風は激しさを増しリグオッドの動きを制限してくる。しかしリグオッドは嗤う。


「無駄だよ。風では我が鎧にダメージを与える事は叶わん。」


 嵐と化した風の中で、リグオッドは揺らぐ事無く再びバーラントに歩みを進める。とにかく眼前のこの危険な戦士さえ屠れば脅威は去る。


 その時、ピリリと何かがリグオッドの視界に入った。




 まだだ、もっと。もっと激しく。


 セシリーは願い続けた。


――私の全ての魔力を喰らってもいい。精霊達よ、お兄様を助けて。




 激しく・・・激しく・・・もっと・・・もっと!!




 リグオッドが青白い何かを確認した時、自分に纏わり付く小規模ながらも凄まじい威力の嵐の中で


『ピシリッ』


と何かが爆ぜる音を聞いた。


 其れと同時に轟音が鳴り響き、想像を絶する衝撃が自身を貫くのを感じて吠えた。




「ウオオオオォォッ」


 嵐の中から発生した稲妻がリグオッドを貫いた。




 全員が呆然と其の光景を見遣る。




 やがてセシリーが力尽きる様に座り込むと、リグオッドの周囲で荒れ狂っていた嵐が消え失せていった。


 そしてリグオッドの両膝が崩れた。


『斃した』


 誰もがそう思ったが、聖堂騎士団長は倒れなかった。そのまま剣を杖代わりにして再び立ち上がる。


「・・・まさか精霊魔法を昇華させるとはな。」




 リグオッドは仮面の奥の赤目を異様に光らせてセシリーを見た。




 リグオッドが最初に危険視したのはアイシャだった。自分達の居た場所までかなりの距離が在ったにも関わらずあの娘は正確に黒騎士の急所をしかも矢継ぎ早に射貫いて斃してのけた。そしてその正確さに加えてあの破壊力は危険なモノだ。


 そして次にミシェイルの異常な成長速度を危険視した。


 更にバーラントの純粋に自分に匹敵する技量と膂力は脅威となる。


 最後にセシリーの見た事も無い程の強烈な魔法能力だ。




 今此処でこの4人は屠ろう。




 リグオッドは大剣を構える。と、その前にミシェイルが立った。


「誰も殺させない。」




 ミシェイルの言葉にバーラントが叫ぶ。


「下がれ、ミシェイル君!」


「貴様が最初の贄となるか。」


 リグオッドが無造作に剣を振り下ろす。ミシェイルは辛うじて剣を受けるものの、その剣圧に吹き飛ばされる。




 アイシャはラズーラ=ストラを構えるが矢を放てない。下手に放てば矢はミシェイルに当たってしまう。しかもリグオッドは巧みに立ち位置を調整し、アイシャと自分の間にミシェイルを挟むように動いていた。




 ミシェイルは何とかリグオッドの大剣を捌くが体力を著しく失い、直撃を喰らうのは時間の問題だった。


 リグオッドの大剣が振り下ろされる。


「ミシェイル!!」


 アイシャの悲鳴が響いたとき、何かがリグオッドに向かって飛来した。


「!」


 反射的にリグオッドは其れを手で払い落とす。




「よお。薄汚い邪教徒如きがウチの期待のルーキーに何してくれてんだ?」


 緊迫した場面に似つかわしく無い呑気な声が、全員を振り向かせた。




「ウェストンさん・・・?」


 アイシャが瞳に涙を浮かべたまま現れた大男の名前を呼ぶ。




「よお、アイシャ。頑張ったな。」


 ウェストンは大剣を担いだままニヤリと笑って見せた。


「な・・・なんで此処に?」


「何でって、冒険者部隊第二陣の到着さ。」


 ウェストンは来た方向をチラリと見た。10を超える数の馬車から闘志を漲らせた戦士達が飛び降りて大正門前の魔物の群れに突撃して行く。


 ウェストンが戦士達に声を掛ける。


「お前ら!手柄を上げて報酬を増やせよ!!」


「任せろ!!」


 冒険者達が目を輝かせて応じていく。


「命知らずの馬鹿共だが、こんな時には頼もしいだろ?」


 ウェストンはアイシャとセシリーを見て片目を瞑って見せる。少女2人が力なく微笑むとウェストンはリグオッドを見た。


「おい、化け物。俺が相手をしてやろう。怖くなけりゃ掛かってこい。」


「痴れ者が。」


 リグオッドは大剣を担いでウェストンに向かって行く。応じてウェストンもリグオッドに歩みを進める。


「アイシャ、セシリー嬢、手は出すなよ。」


「は・・・はい。」


 先程までの飄々とした雰囲気とは、打って変わったウェストンの戦士としての迫力に2人は思わず頷く。




「2人とも大丈夫?」


 優しげな声に少女達が振り向くと見知った顔が其処にあった。


「マリーさん。」


 熟練の癒やし手の顔を見て2人の顔に安堵の表情が訪れる。


「マリーさん、ウェストンさんが・・・」


 アイシャがマリーに訴えるとマリーはチラリとウェストンを見た。


「ああ・・・やらせとけば良いのよ。」


「でも、ウェストンさんは現場を離れて長いのに。」


「大丈夫よ。仮にも元Aランクの冒険者よ。そう簡単に負けやしないって。」


 そう言って美貌の貌を微笑ませて見せる。




 2人の巨漢の戦士達は同時に大剣を振り下ろし激闘を開始した。


 斬る、払う、薙ぐ、突く。先程のバーラントとの激戦が再現されたかの如き激しい死闘が繰り広げられた。


 ただ先程と違うのはバーラントが片腕で応じていたのに対し、ウェストンは万全の体勢である事だった。そしてリグオッドはセシリーの魔法昇華による稲妻のダメージを拭い切れていなかった。身体に蓄積された瘴気が身体を完全に癒やすまでには至っていない。




 差は僅かに現れ始めた。互いの大剣が互いの身体を薄く傷付ける中で、次第にウェストンの手数が増していく。


「クッ・・・おのれ・・・」


 リグオッドが呟く。




 40代も半ばを迎えたこのロートルの戦士の底知れぬ体力に初めてリグオッドは揺らいだ。


「喝ッ!!」


 リグオッドの口から裂帛の気合いが漏れ、大剣が唸りを上げる。


「!!」


 ウェストンの表情に緊張が走る。




 振り下ろされた大剣がウェストンの胸を斬り裂く。


「!」


 アイシャが声にならない悲鳴を上げた。




 そして宙を舞う大剣を持った腕が全員の視界に捕らえられた。ウェストンの斬り上げた大剣がリグオッドのガントレットごと腕を斬り飛ばしたのだ。




「ウオッ!」


 後退るリグオッドにウェストンは大剣を薙ぎ払った。


「相手が悪かったな。」




 リグオッドの首が跳ね飛ばされ、その巨体が大地に倒れ伏した。




「やった・・・」


 ミシェイルが呟く。


「・・・勝ったの?」


 セシリーが呟く。


「すごーいっ!ウェストンさんが勝ったぁ!!」


 アイシャが元気よくウェストンに飛びついた。




 ウェストンは笑いながらアイシャを抱き留めると地面に降ろし


「ほら、相棒の処に行ってやれ。」


 という。


 アイシャがパタパタとミシェイルの処に走っていくのを見てからウェストンはマリーを見た。


「まだまだイケるだろ?」


「ま、あんたはソレくらいしか取り柄が無いじゃない。」


「・・・酷い言われようだな。」




 マリーは苦笑すると、傷ついた戦士達の傷を癒やすべく回り始める。既に残っていた魔物達は森に退散していた。




「お兄様・・・。ご無事で何よりでした。」


 セシリーが双眸の涙を拭ってバーラントに微笑んだ。


「ああ・・・。お前のお陰で命拾いをしたよ。大した魔法の使い手になったな。」


 頬を染めるセシリーをバーラントは愛しげに微笑み頭を撫でた。






 ノーザンゲート砦陥落の危機は回避された。









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