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神の去った世界で  作者: ジョニー
第6章 邪神蠢動
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68話 それぞれの戦い 3



 ノーザンゲート砦に冒険者の一団が到着した。その数は50名を超える。


 セルディナの各冒険者ギルドにて集められた上位冒険者達の第一陣が到着したのだ。




 負傷中の兄に代わってセシリーが一団を出迎える。


「皆さん、ようこそ来て下さいました。砦を預かる負傷中の兄に代わりまして妹であるセシリーがお礼申し上げます。」


 伯爵令嬢に頭を下げられて冒険者達も普段の豪胆さ失い慌てて頭を下げる。


「お、お嬢様、頭を上げて下さい。俺達も高い報酬を受け取って此処に来て居るんですから、礼なんて不要です。」


 セシリーが微笑むと男性冒険者の顔がだらしなく緩む。ソレを見咎める女性冒険者達が彼らに肘打ちを喰らわした。彼女達は彼らのパーティーメンバーなのだろう。




 セシリーは彼らの風貌を眺める。大剣や大斧を背負う者、盾を担ぐ者、ローブに身を包む者、様々な格好をした彼らが歴戦の戦士である事はセシリーにも判る。


 セシリーは1つ頷くと冒険者達に言った。


「では皆さんにはウリアーダ第1騎士団副団長からお話が有ると思いますのでソレまでは身体を休めておいて下さい。」


 冒険者達を解散させるとセシリーはバーラントに報告しようと踵を返した。




 その時、セシリーに声が掛かる。


「セシリー。」


 聞き覚えのある溌剌とした少女の声にセシリーは驚いて振り返る。


 其処には綺麗な金髪を後ろに纏めたポニーテールの少女と、明るい金髪を同じく後ろに一纏めに括った少年が立っていた。


「アイシャ!?ミシェイル君まで!」


 意外な顔を見てセシリーは思わず声を上げた。




「な・・・なんで2人とも此処へ?」


「なんでは無いでしょ?」


 アイシャが心外だと言った表情で口を尖らせる。


「友人の実家がピンチなのよ。来るのが普通でしょ?」


「アイシャ・・・」


「其れにシオン達も此処に来ていると知れば当然来るさ。」


「ミシェイル君・・・」


 セシリーは2人の言葉に胸が熱くなる。でも同時に心配にもなる。


「でも・・・危険な戦いになるのよ。その・・・命の保証だって・・・」


「だからだよ。」


 ミシェイルがセシリーの言葉を遮る。そしてアイシャが引き継いだ。


「そんな危険な場所にセシリー1人を置いて、知らん顔なんて出来ないでしょ。新米とは言えあたし達も冒険者なんだから。出来る事が有るなら助けに来るわよ。」


「・・・」


 セシリーは2人に頭を下げた。


「ありがとう・・・。来て。お兄様を紹介するわ。」


 セシリーは微笑むと2人を砦の中に導いた。




「そうか、君達はセルディナの冒険者か。駆けつけてくれた事、礼を言う。」


「い・・・いえ、友人の為ですから。」


 バーラントの言葉に緊張した面持ちのミシェイルが答える。


「友人か・・・。」


 バーラントは感じ入った様に目を瞑ると、セシリーに視線を向けた。


「セシリー、先日のシオン君達といい、良い友人を得られたようだな。」


「はい、お兄様。みんなとても大事な友人です。」


 バーラントは頷くとミシェイルとアイシャを見た。


「感謝するよ。ミシェイル君にアイシャ嬢。セシリーを頼む。」


「はい、お兄さん。任せて下さい。」


 アイシャの元気な返事にバーラントは微笑んだ。






 ――夜。




 見張りを除き、皆が微睡みに深く沈んだ頃、物見の兵が隣の兵士に声を掛けた。


「おい、アレは前線の騎士達じゃないか?」


 見れば数騎の騎馬が砦門に近づいて来ている。


「何かあったのか?」


 兵士が下の門番に合図を送る。


 と、最初に騎影を見つけた兵士が叫んだ。


「待て!違うぞ!セルディナ騎士じゃ無い!!」




 騎影の姿が近づくに連れて騎士の姿がハッキリと見えてくる。その姿は全身に黒い甲冑を纏った姿だった。


「敵だ!数は7騎!中に入れるな!!」


 叫ぶのと中央の騎馬の片手が青白く輝くのはほぼ同時だった。




 青白い槍の様な光弾が、巨大な大正門の横にある通常サイズの門に突き刺さる。爆風と共に木製の扉が吹き飛んだ。戦時で有れば頑丈な鉄塊を裏に敷いて攻城兵器でも破られない様にするのだが、この時は鉄塊は敷かれていなかった。




「敵襲!!」


 砦全体に緊急事態を知らせる鐘が鳴り響く。




「若!」


 バーラントの寝室に老騎士が入ってくる。


「敵か?」


 バーラントは既に起き上がり装備を調えていた。


 負傷中のためプレートメイルは身に付けられないが代わりにハードレザーの鎧を身に纏っている。愛用の大剣を背負い赤毛の偉丈夫が老騎士に尋ねた。




「はい、突入してきたのは黒い甲冑を纏った騎士が7騎。ですがその後、大正門の開閉装置を制圧され大正門を開けられてしまいました。そこから大型の魔物も侵入してきております。」


「前回と同じ方法を採られてしまったか。」


「面目次第も御座いません。」


「気にするな。恥ずべきは対策を練らなかった俺にある。」


 実際、セルディナ軍が逆撃を仕掛けた事に僅かな安堵と油断が在ったのは否めない。この隙に強化を図ろうとしていた矢先だったのだが行動が遅かった。とにかく敵を止めねばならない。




 バーラントが寝室を出ようとすると老騎士が慌てて声を掛けた。


「若!まさか出られるお積もりで!?」


「当然だ。俺はこの砦の司令官だ。父上が最前線で指揮を執られているのに俺だけのうのうと寝てはいられない。」


「しかし若はお怪我をされております。」


「問題無い。」


「若!」


 歩みを止めないバーラントの後を老騎士は慌てて追い掛ける。




「な・・・何なのよ。」


 大正門に続く中庭に飛び出したセシリーが呻いた。


 至る所に騎士や兵士達が倒れている。


 砦壁の彼方此方から火の手が上がり、その中を魔物達が暴れていた。応戦する騎兵達からも魔物達からも悲鳴が上がっている。破壊音が鳴り響き正に阿鼻叫喚の地獄絵図と化している。




「あいつらがリーダーかな。」


 周囲を見ていたアイシャが黒騎士の一団を指差して尋ねる。


「その様だ。」


 ミシェイルが頷いて宝剣デュランダルを抜く。




 大型の魔物やオーガらしき群れが大正門の当たりにいるが、冒険者達が騎士団と協力してこれ以上砦に侵入させない様に足止めしている。




 しかし黒騎士の一団の周りには立っている者は無く、皆地面に倒れていた。


「アイシャ、セシリーさん、援護を頼む。」


 ミシェイルが2人に声を掛けて走り出す。


「待って、ミシェイル君!1人では危険だわ!」


「だからあたし達が援護するのよ、セシリー!」


 アイシャがそう言いながら宝弓ラズーラ=ストラを構える。


「・・・そうね、その通りだわ。」


 セシリーは隣の少女が既に一人前の冒険者である事に頼もしさを感じて頷いた。




 黒騎士達が迫るミシェイルに気付き身体を彼に向けた。瞬間、アイシャがラズーラ=ストラから矢を放った。矢が光弾となって黒騎士の1人の頭に突き刺さり弾けた。


「!」


 声にならない悲鳴を上げて黒騎士の身体が揺らぐ。


『ソーサリーボルト』


 其処にセシリーが追い打ちの魔法を放つ。3発の青白い光弾が立て続けに黒騎士の身体に突き刺さった。


 更にアイシャが矢を放ち、光弾が黒騎士の胸の辺りに突き刺さると黒騎士の身体がゆっくりと地面に倒れ伏した。


 2人の恐るべき少女に黒騎士達の注意が一瞬逸らされた。その隙を突いてミシェイルが手近な黒騎士の1人の足下目掛けてデュランダルを横薙ぎに一閃見舞う。


 脚を吹き飛ばされて黒騎士が地面に倒れ伏すと、その背中にミシェイルは剣を突き立てた。まともにやり合えば恐るべき手練れ達である事はミシェイルにも判っている。


 狙うは1人。中央に立つ、一際大柄な黒騎士だ。アレが指揮官なのは一目瞭然だ。




 黒騎士の1人がミシェイルに向かって来た。


「!」


 振り下ろされた剣をミシェイルは受け止める。




 その間に指揮官らしき黒騎士が顎をアイシャ達に向かって突きだした。2人の騎士達が無言で走り出す。狙うは確認するまでも無く2人の少女達だ。


「逃げるよ、セシリー!」


「でもミシェイル君が!」


「あたし達が止まっては返って足手纏いになるわ。」


 そう言うとアイシャはセシリーの手を取って走り出そうとする。


『ガクン』


 と何かに脚を引っ張られたのはその時だった。


「!?」


 2人が自分の脚を見ると青白い物体が2人の脚に絡みついている。


「クッ!・・・何コレ!?」


 アイシャが叫ぶ。


 セシリーはその青白い物体から強い魔力を感じ取った。


「捕縛の魔法だわ!」


 迫る足音にハッとなって前を見ると2体の黒騎士達が眼前に迫っていた。


 黒騎士の剣が手前のセシリーに向かって振り上げられる。




 其れを彼女は呆然と見上げた。アレが振り下ろされれば自分は死ぬ。死んでしまう。


「!」


『ギィイインッ!』


 思わず眼を瞑りそうになった時、黒騎士の振り下ろされる剣を横から伸びてきた剣が受け止めて強烈な金属音が鳴り響いた。




 そしてセシリーと黒騎士の間に大きな人影が割って入る。


「無事か、2人とも!」


「お兄様!?」


 片腕を深く傷付け戦場には出て来られる筈の無いバーラントだった。




 バーラントはその太い腕の筋肉に力を込めると剛剣を唸らせて片腕で黒騎士の剣を弾く。そして脚を前に突き出すと黒騎士を豪快に蹴り飛ばした。更に黒騎士にも勝るその頑強な肉体を屈ませると敵に体当たりを喰らわせ仰け反る黒騎士の首を跳ね飛ばした。




 恐るべき戦士の登場に、残る1体の黒騎士が無言で鋭い突きを放った。が、バーラントは其れを難なく躱すと剛剣を横薙ぎに払う。


 黒騎士は其れを盾で受け止めた。・・・が、


『ギシッ』


 と不気味な音を立てて盾が破壊される。


 バーラントの剣はそのまま勢いを失う事無く黒騎士の甲冑ごと、その胴体を上下に斬り分けた。




 バーラントは剣を収めるとセシリーの前に屈み込み、彼女の脚を掴んだ。


 セシリーの顔が赤らむが、今は妹の恥じらいを気にしている場合では無い。捕縛の魔法から彼女の脚を引き抜こうと力を込める。


「うっ・・・痛いです、お兄様。」


 セシリーの呻きにバーラントは慌てて手を離した。


「す・・・すまん。コレは何だ?セシリー。」


「捕縛の魔法です。術者をどうにかしない限り解けません。」


 セシリーの答えにバーラントはアイシャを見る。


「アイシャ嬢もか?」


「はい。」


「怪我は無いか?」


「大丈夫です。でも動けません。」


 アイシャの返事に頷くとバーラントはセシリーを見た。


「術者は判るか?セシリー。」


 セシリーは黒騎士を指差した。


「恐らくはあの大きな黒騎士だと思います。」




 バーラントはセシリーの視線に導かれて一際大きな黒騎士を確認した。


「判った。」


 そう言うとバーラントは立ち上がる。




 黒騎士はミシェイルともう1人の黒騎士の戦いを見物している様だった。




「お兄様・・・!」


 セシリーの不安げな表情にバーラントは微笑んで見せる。


「今、自由にしてやるからな。」


「でも、お兄様は腕に怪我を・・・」


「大丈夫だ。」


 バーラントの胸中には激しい怒りが渦巻いていた。血の繋がらぬ最愛の妹は、自分に苦しい恋心を打ち明けてきた。其れに対する答えは未だ彼には無い。




 だが今、その答えに通ずるかも知れない気持ちが、怒りと言う形で以て彼を黒騎士の下へ向かわせていた。







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