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神の去った世界で  作者: ジョニー
第6章 邪神蠢動
67/214

66話 それぞれの戦い 1

ここから暫くは場面転換が多くなります。

宜しくお願いいたします。



「・・・くっ。」


 シオンは大地に打ち付けられた全身の痛みに呻きながら身を起こした。どうやら気絶していた様だ。




 大地に穿たれた大穴に飲み込まれたルーシーを追って自分も大穴に飛び込んだ処までは覚えている。




「・・・」


 シオンは上を見上げた。遙か彼方に小さな光の穴が見える。彼所から落ちて来たのか。


「・・・何故生きている?」


 そう呟く。とても生きていられる高さでは無いのに。ともかく少年は痛みを堪えて立ち上がった。




 袋の中のポーション類を調べる。瓶に詰められた物は悉く割れてしまっていたが、木筒に移し替えていた物は無事の様だ。


 シオンはその中から、いくつかのポーションを選び口に運んだ。痛み止め、身体高揚、精神の鎮静。そして干し肉を囓り終えると、シオンは周囲を見渡す。




「・・・」


 此処は陽の光も届かぬ地の底である筈だった。事実、見上げれば暗天の夜空にも似た漆黒の空間が広がっている。しかし周囲は明るく視界が遮られる事はない。


 そしてその視界の中、眼前に見えるのは巨大な砦壁であり進む者の行く手を遮っていた。その奥には何かの建物と思われる巨大な尖塔が天に向かって幾つも聳えているのが見える。




「ルーシー・・・」


 シオンは少女の名を呟くと砦壁に向かって歩き出す。


 彼女はこの壁の向こうに居る。理由は無い。ただ確信めいたモノが彼には在った。






 正面の大正門は試す迄も無く開けられない。力ずくで開けたいならオーガの5~6体も連れて来る必要が在ろう。仕方無く壁面に沿って歩むと人の手でも開けられそうな大きさの扉を見つけた。機械仕掛けの門や閂の下ろされた門でなければ開けられず筈。


 シオンは両腕に力を込めると門を押し始めた。強靱な足腰で踏ん張り上半身に力を伝えていく。筋肉が隆起し、身に付けたプレートメイルが「ミシミシ」と悲鳴を上げる。


 何度か渾身の力を門に押しつけると『ゴゴゴ・・・』と低い地響き音を立てて扉が重々しく開いた。砂がパラパラと落ちてくる。隙間から砂の乾いた臭いを孕んだ風が吹き抜けた。




 完全に開ききるとシオンはその奥の光景を暫し見つめた。


 門の向こうは城下町とも言えるような風景で在った。門外から見えていた尖塔は王宮と思われる正面の巨大な建造物の一部だった様だ。




 何処の国のものなのか。いや、そんな事はどうでも良い。とにかく先ずは愛しい少女と合流する事が最優先だ。




 人の気配など一切無い町中をシオンは歩いて行く。時折吹き抜ける砂風に煽られて転がっていく小物以外に動く物は無い。




 シオンは大正門の在った方向へ歩みを進める。この町が通常の城下町の造りならば、大正門から伸びる道が王宮に続く最短の道である可能性は高い。




 シオンは足を止めて剣を抜いた。瞬間に四つ足の獣が数匹、飛びかかってくる。


「!」


 襲い掛かる獣の一匹を剣で叩き斬るとシオンは敵の姿を確認した。


 ・・・ソレは干からびた犬か狼の様な生き物だった。・・・いや、生きているのかどうかも怪しい。獣達は次々と襲い掛かりシオンはソレを慌てる事なく躱し叩き斬っていく。


 通常、群れで狩りをする獣の類いは数が減った時点で恐れをなして逃げて行くものだが、この獣達は最後の一匹になるまで獰猛にシオンを襲い続けた。




 大地に転がる獣達を見てシオンは呟いた。


「やはり普通じゃ無い。」


 見た目で既に判っていた事ではあるが、実際に戦ってみて実感する。また、この獣達の体液は真っ黒であった。まともな生物ではない。


 こんな奴らに絡まれては幾らルーシーと言えども持たない。彼女の力は強力だが有限の力だ。連続で戦い続けられる類いのモノでは無い。其れはカンナも指摘していた。


――早く合流しなければ。


 シオンは歩みを早める。




 大正門の在った場所に辿り着くと予想通り、大きな街道が真っ直ぐに巨城に向かって伸びていた。シオンは巨城を目指して緩い登り道を真っ直ぐに歩いて行く。




「・・・」


 シオンは再び足を止めた。




 進む先、道の向こうが揺らめいている。不自然なモヤは結集して形を為していき、やがて次々と蒼い鎧の騎士の姿に変わった。数は4体。


 騎士はシオンを確認すると抜剣して問答無用に襲い掛かっていた。先頭の騎士が横薙ぎに剣を振るった。強烈な斬撃だった。


「!」


 シオンは辛うじて身を躱すと大通りから路地裏に駆け込んだ。あの技量を相手に4体同時は危険に過ぎる。騎士達も後を追ってはくるが狭い路地裏故に、1対1に持ち込める。




 横薙ぎが使えない路地裏でシオンと先頭の騎士が激しい斬撃を応酬する。斬り下ろし、斬り上げ、軌道をズラして斜めに袈裟懸けに斬る。何れも互いに躱し、弾き、決定打に至らない。


 唐突に騎士が突きを繰り出した。


「!」


 シオンはイージスリングを発動させる。指輪が輝き見えない盾が展開される。同時にシオンは魔力の盾を突きに当てて弾いた。


「!?」


 騎士の剣は弾かれて、胴がガラ空きになる。そこにシオンは強烈な突きを繰り出した。


『ズンッ』


 神剣残月が輝き騎士の胴を貫通する。


 シオンは騎士の胴に足を掛けて残月を引き抜くと蹴り倒し、そのまま後続の騎士に斬りかかった。騎士はシオンの動きに対して初動が遅れた。遅れた分はそのまま騎士の命運を分ける。


『ズサッ』


 と異音を放ち、シオンの剣が2体目を袈裟懸けに斬り捨てた。そして前方を見る。3体目が剣を振り上げるその奥に4体目が居なかった。




 3体目が斬りかかってくる。しかし、3体目の動きも1体目と全く同じ動きだった。目が慣れたシオンはほんの数合打ち合っただけで相手の技量を見抜いた。そしてやや強引に騎士を斬り下ろして倒す。騎士の斬り上げた反撃がシオンの胸を掠める。


 そして強烈な殺気を背後から感じ取り、シオンは前へ跳び退いた。4体目の斬撃が空を斬る。裏に回り込まれている事は姿が見えなかった時点で察しが付いていた。


 路地裏から飛び出し、追ってきた騎士の胴を振り返り様に横薙ぎで払う。


「・・・」


 騎士は未だ剣を振るおうとしたがシオンの連撃の前に敢え無く地に伏した。


 短時間だが苛烈な戦闘が終了する。




 その後もシオンは度々、謎の騎士達の襲撃に遭った。手にする武器は剣であったり、槍であったり、斧であったりと様々だったが少年はそれらを撃破していく。


 初戦こそ手こずった相手だったが、シオン特有の能力とも言うべき『見切りの勘』が働き始めており相手の動きが手に取る様に判ってしまう。其れに彼の卓越した身体能力も相俟ってもはや強敵足り得なかった。




 大通りはやがて平坦な道に変わり、その先には巨城の正門が建っている。


 正門は開いており、その奥は広い庭のようになっている様だ。


「・・・」


 シオンは警戒しながら正門に近づいていく。




 ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆




 セルア砦では正に激戦が繰り広げられようとしていた。




 聖堂騎士団が砦から出撃してくる。跨ぐ馬も通常の馬よりも大きい。口から黒煙の様な息を荒く吐き出し騎乗者の命を待っている。


「・・・」


 先頭に立つ聖堂騎士団長のリグオッドが無言で腕を振り上げ前方を指し示した。瞬間、圧倒的な殺気が膨れ上がり爆発した。後ろに従っていた聖堂騎士達が一斉に馬を駆り、セルア正門から飛び出してくる。


「受け止めよ!」


 ゼネテスの号令に第一陣が突進を受け止めた。次々と飛び出す聖堂騎士達をセルディナ騎士団は果敢に受け止めた。




 聖堂騎士が出切ったと見た瞬間にブリヤンが指示を出した。


「敵を囲め!一陣は正面から!二陣は左!四陣は右から鏖殺せよ!」




 敵は凡そ1000騎程度。対して此方はほぼ無傷の騎士団が3000騎。3倍の数で当たれるならコレが最も有効な策だった。これで敵の退路は、今し方出て来たセルア正門しか無い。連中が仮にソコへ逃げ込むのなら其れに乗じて、セルディナ軍も雪崩れ込んでしまえば良い。実質、敵に有効な退路は無い。




 ・・・しかし、聖堂騎士団はブリヤン達の想像を遙かに上回る強靱さと強剛さを誇っていた。


 圧倒的多数の敵に囲まれている恐怖を感じないのか。正門を飛び出した時の殺気溢れた姿は形を顰めて冷静にセルディナ軍の攻勢に堪えている。




 ブリヤンは不自然さを感じていた。


 本来なら砦を盾にして中から攻撃を仕掛けるのが通例だ。其れをわざわざ討って出て来た。如何に足場を奪う魔法に我が軍が第3陣の大半を失ったとは言え、戦力はまだまだ此方が圧倒的に優位であるというのに。




 ・・・いや。


 ブリヤンは思考する。


 そもそもがおかしい。敵は1度はノーザンゲート砦を突破したのだ。如何に押し返されたとは言え、何故にセルア砦まで退がる必要が在ったのか?直ぐさま砦外で軍を立て直し、再突撃を仕掛ければ容易に突破出来たのでは無いか?


 其れを2日、3日とセルア砦に籠もっていたが為に、我が方は急編成とはいえ大軍を此処まで持ってくる事が出来た。まるで、そう為るのを待っていたようではないか。




 ブリヤンの背中に冷たい汗が流れる。


「討ち破る自信が在るというのか・・・?」


 もし本当に討ち破る自信が在るのならば、確かに敵を一箇所に纏めておいて潰した方が楽なのは間違いない。しかし、1000騎程度で5000からの大軍に勝つ自信が在るなど。




 ブリヤンの脳裏にシオンの言葉が甦る。


『奴らは1人1人が邪教に心酔した屈強な魔法戦士です。私が当時に見た騎士達の中に奈落の法術らしきモノを使う者は居りませんでしたが、中には扱う者も居るかも知れません。・・・奴らを退けるにはたくさんの魔術士の援護が不可欠です。』




――魔法・・・


 ブリヤンは魔術団に声を掛ける。


「防御魔法を!」


 魔術団が一斉に防御魔法を唱え騎士達に飛ばした。1人1人にでは無く、エリアを指定して複数に掛かる様に調整する。効果は弱いが無いよりは遙かにマシだ。




 その時、戦場にセルディナ騎士達の響めきが響いた。聖堂騎士団の中核辺りから異様な気配が盛り上がり、黒い霧が膨れ上がった。


――・・・ケイオスマジック!


 ソレと判った瞬間、無数の黒蛇が敵軍中央から飛び出して第一陣に襲い掛かった。


「ギャアアァッ・・・・!」


 幾多の悲鳴が上がり、騎士達が落馬していく。魔術師達の防御魔法はケイオスマジックの前に何の盾にもなりはしなかった。




 雄叫びが上がった。敵軍から。


「ウオオオォッ・・・・!」


 其れまでとは打って変わって聖堂騎士団は第一陣に突撃した。


「我らが神の御為に」


 どす黒い狂気をその目に滲ませて。




 聖堂騎士団は猛り狂った狂気の暴風と化して簡単に第一陣を粉砕した。そして囲みを突破するとそのまま左右に詰めていた2陣と4陣のうち、4陣に狙いを定めて突撃する。2陣がその横腹に食らいつく。




 乱戦に近い状態になってしまった。そうなると個々の技量がモノを言い始める。


 聖堂騎士達は槍で突かれようが、剣で身体を裂かれようが動ける限り戦い続けてセルディナ騎士を一人、また一人と屠っていく。そしてゼンマイが切れたかの如く急に動きを止めて事切れていく。




「化け物共め・・・!」


 深刻な憎悪の言葉をゼネテスが吐き捨てる。


「・・・もはや人とも思えん。」


 その横でブリヤンが呟く。




 リグオッドは第一陣を突破した後、数騎を引き連れて戦場を眺めていた。


「勝てそうだな。」


 呟くと控えの騎士の1人に命じる。


「お前は此処に残り、軍を纏めろ。」


 騎士が無言で戦場に戻っていく。




 そしてリグオッドは残りの騎士達を振り返ると言った。


「我らはノーザンゲート砦に向かうぞ。」




 凶悪な視線がノーザンゲート砦の方角に向けられた。







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