60話 銀色の月明かりの中で
満ちた月が放つ銀色の光が闇夜を裂いて、部屋に降り注がれる。
聞こえる音は秋の虫が奏でる音色のみ。
そんな中、シオンは布団を持ち上げてルーシーの横たわるベッドに身を沈めた。横を見れば緊張に身を固くしたルーシーが居る。その頬は紅色に染まり、心無しかその唇もいつもより紅に染まっている気がする。
もともと狭いベッドである。手を動かせば直ぐにルーシーに触れてしまう距離だ。湯浴みを済ませた後の良い香りがシオンにも届く。
「ルーシー・・・」
愛しい少女の名前を囁くと彼女は少し身を震わせて少年を見た。
「・・・。」
「・・・怖い?」
シオンが尋ねるとルーシーは首を振った。
「怖くない。ただ・・・恥ずかしいだけ。」
そう答える少女にシオンは微笑んだ。
「俺もだよ。・・・ホラ。」
シオンは布団の中のルーシーの手に自分の手を当てた。一瞬ピクリと身体を震わせた少女はその紅の瞳をシオンに向ける。
「・・・震えてる。」
「ああ。」
シオンはゴロリと仰向けに寝そべった。
「俺もどうしていいか判らない。・・・人を好きになったのは初めてだから。・・・君の手に触れるだけでも心臓が跳ねる思いがするよ。」
「・・・」
少年の意外なほどにウブな感情を告白されてルーシーは少し気が緩んだ。そして素直に話してくれた少年を可愛く思い、微笑んでしまう。
「・・・笑わなくてもいいじゃないか。」
シオンが少し口を尖らせると、ルーシーは堪えきれずに笑い声を漏らす。
「違うの、シオンがそんなに私の事を想ってくれてるのが凄く嬉しくて。それと、可愛くて・・・。」
ルーシーは布団の中で手をゴソゴソと動かした。目指す少年の手は直ぐに探し当てた。端正な顔立ちに較べると大きくてゴツゴツとした手を少女はすっと握った。
「・・・」
シオンは頬を赤らめるルーシーを見ると、そのまま繋いできた少女の細く繊やかな手を握り返す。ルーシーは嬉しそうに笑った。
「・・・助けに来てくれてありがとう。」
ルーシーは天井を見ながら呟いた。
「ああ。」
シオンは頷く。礼など要らない。ソレよりも、本当に・・・
「生きていてくれて有り難う。」
少年はそう言った。
「ルーシー。」
「はい。」
「こんな時だけど、色気も何もない話をしても良いだろうか?」
シオンの瞳に切なげな光を見てルーシーは頷いた。
「話して下さい。」
シオンは軽く頭を下げる。
「・・・俺は元々は貴族として生まれた。民の為に生きてノブレスオブリッジを全うするのが俺の生き様だと信じていた。だが結局は前にも話した通り、何1つ守れなかった。・・・俺を慕ってくれていた婚約者1人すら守れなかった。」
ルーシーはシオンの手を強く握った。
「婚約者が居たの?」
「ああ。9才の時に2才年上の令嬢と婚約した。彼女は・・・エレノアは政略結婚とは言え、俺自身を慕ってくれていたよ。懸命に努力を重ねる俺を好きだと何度も伝えてくれた。そして俺もそんな彼女の思いに応えたいと。・・・だが邪教徒襲撃の際、家に遊びに来ていた彼女は・・・その帰りの馬車の中で殺された。」
「・・・好きだったの?」
ルーシーの問いにシオンは少し考える風だったが首を振る。
「恋愛的な好意では無かったよ。でも、家族のように大切に思っていたのは確かだ。だからそんな彼女を失い悲しみに暮れた後の俺は・・・心の何処かで何も出来ない口だけの自分をずっと嫌っていた。」
「シオン・・・」
ルーシーは首を振った。そんな風に思わないで欲しい。そんな想いを込めて。
「だから大切な人を作る事に一歩退いていた。冒険者をしていれば様々な女性と出会う。色んな人から好意を寄せて貰った。他にも付き合いで娼館に行き女性を抱いたことも在る。でも・・・もう、俺には誰かに恋をする感情は持てなかった。恐らく俺は1度も女性を愛する事無く生きていくんだろうと思っていた。」
シオンはルーシーを見た。
「でも、君に出会った。」
ルーシーの胸が高鳴る。
「・・・いつから君を好きになったのかと言われると判らない。最初はアカデミーでの君の待遇を知って、其れでも学び続ける君の姿に興味を持った。そしてそれから君と触れあう内に、君と言葉を交わすのが楽しみになった。」
ルーシーの胸は高鳴りっ放しだった。シオンが自分の事を話してくれている。嬉しくもあり不安でもあり。
「・・・多分、切っ掛けは王宮で邪教徒と戦った後の君の姿だった。君の微笑みと、そして俺を奈落から引き戻してくれた君の手がとても温かかった。」
「・・・うん。」
「グゼ神殿で君が倒れた時に俺は・・・君を失うかも知れないと・・・本当に動揺した。そして君がグゼ神殿で俺に掛かっていた呪いを密かに引き受けてくれたと王宮で聞いたときに、その献身に・・・君の想いの深さに・・・俺は初めてルーシーが好きだと自覚した。」
「・・・」
シオンはルーシーの手を強く握り少女を見つめた。
「・・・俺は君が思うほど綺麗な人間じゃ無い。それでも君は俺を受け入れてくれるか?」
「・・・」
ルーシーはシオンの夜空の様な漆黒の瞳を見つめて、なぜ彼がこんな話を始めたのかを理解した。
多分・・・いやきっと、シオンは私との男女の行為を望んでいる。だから、その前に自分の在りの儘を明かしてくれたのだ。その誠実さにルーシーはシオンの自分に対する情愛を感じて嬉しさが込み上げてきた。
・・・なら、自分も明かすべきだ。
「・・・私・・・村で、何度か男の人に乱暴された事が在るの・・・」
「え!?」
シオンが上半身を起こしてルーシーに驚愕の視線を向ける。
「だ・・・大丈夫・・・だったのか?」
心配げなシオンの視線にルーシーは笑って見せる。
「うん、全部未遂だから。私こんな見た目でしょ?しかも1人で暮らしてる事が知られていたから・・・。男の人からそう言う興味だけは引いていたみたいなの。でも、私が赤眼を光らせるとみんな怖がって逃げて行ったわ。化け物だって。酷いよね、自分達で勝手に襲ってきておいて化け物扱いなんて・・・」
少女は寂しげに笑った。
「・・・」
「でもね・・・そんな化け物だって・・・路地裏に引き込まれて服を破かれて・・・男の人に身体を見られて・・・触られたら・・・本当に怖いんだよ・・・」
「ルーシー・・・。」
「私の方こそ・・・シオンが思うような綺麗な女の子じゃ無い・・・。それでも良いですか?」
シオンはルーシーを抱き締めた。
「君は化け物なんかじゃない。君は・・・ルーシー=ベルは、俺が愛するただ1人の女性だ。その美しい銀色の髪も、紅玉の様に綺麗な紅の瞳も。・・・そして俺が焦がれる程に愛しく思う君の優しさも、俺にとっては掛け替えの無いものだ。」
シオンはルーシーを見つめた。
「貴女を愛している、ルーシー。・・・どうかずっと俺の隣に居て欲しい。」
――・・・私は幸せを・・・手に入れる事が出来た・・・。
その喜びがルーシーの瞳に涙を呼んだ。
「・・・はい、シオン。私も貴男が好きです。ずっと貴男の隣に居たい。」
少年の顔が少女に寄せられた。少女の薄紅色の小さな唇にそっと口づけられる。
「・・・」
一度離された唇は、次の瞬間には猛然と少女の柔らかな唇を貪った。これまでの想いの全てを注ぎ込むかの様に激しく。
やがて少年の唇は少女の唇から白い首筋へと口づけられていく。ルーシーは思わず吐息を漏らしてシオンの服を握り絞める。
ルーシーの寝衣のボタンにシオンの左手が掛かった。そしてゆっくりと1つ1つ外されていく。
「・・・」
ルーシーは其れを受け入れる。
やがて全てのボタンが外され、彼女は下着1枚しか身に付けていない白磁の様な素肌を少年に晒した。
起き上がって、少女の姿を見つめたシオンは
「ルーシー・・・」
と呟き、ゆっくりと彼女に覆い被さった。
シオンの手がルーシーの膨らみに触れる。
「あ・・・」
少女は思わず仰け反った。少年の手が動く度に少女は身もだえる。少年の高まりをその身で感じて少女は悦びを感じる。
「シオン・・・」
思わず言葉が漏れる。
「ルーシー・・・」
シオンが応え、少女の膨らみにも口づけを落としていく。
「う・・・あ・・・」
ルーシーの身体が震える。
「シオン・・・」
ルーシーはまた彼の名を呼び、身を起こした。
「ルーシー?」
首を傾げる少年を少女はそのまま押し倒した。
「わっ」
意外な程の強い力に少年は驚きの声を上げながら、成されるが儘に少女に押し倒される。
ルーシーはシオンに攻められて理性が飛びかかっていた。彼女の脳裏にはセシリーの言葉が浮かんでいる。
『有るでしょ?貴女だって女なんだから男にしてみたい事の1つや2つ。』
――有るわ。
少女は白銀の髪と紅の瞳を月明かりに輝かせて少年を見下ろした。その美しさにシオンは圧倒される。
ルーシーはゆっくりと身体を倒すとシオンに覆い被さる。そしてシオンの唇に口づけを落とした。柔らかいルーシーの唇がシオンの口に、頬に、首筋に落とされていく。
そしてルーシーの手がシオンの上着の裾に掛かった。彼女の希望に合わせてシオンはされるが儘に上着を脱いだ。普段からは想像も付かないほどのルーシーの貪欲な攻めにシオンも応えるので精一杯。
――彼女にこんなにも熱い感情が在ったなんて。
驚きと共に、そこまで自分を求めてくれる事に喜びを感じる。
ルーシーはシオンの素肌に身をすり寄せ、その逞しい胸にも口づけを落としていった。
「!」
少女の口づけに少年もまた身を震わせる。
「・・・シオン。」
ルーシーはシオンに再び唇を重ねた。そして少年の全身を確かめる様にその柔らかな手で触れていく。
ときおり震える少年の身体に、少女は少年の生の反応を感じて得も言われぬ喜びを覚える。
「ルーシー・・・」
少女の身体が起き上がると、シオンは下から手を伸ばして2つの膨らみを優しく包んだ。そのままルーシーの身体を撫で下ろして下着に手を掛ける。
「・・・」
其れが何を望んでいるかはルーシーにも判る。自分自身が今、彼の上に跨がっているのだから。彼の疼きにさっきからずっと気づいていた。
正直に言えば怖くない筈が無い。でも、この人に望まれるのなら拒否などあり得ない。
だから・・・。少女は其の望みに応えようと身を動かした。
『ドクン』
心臓が異様に高鳴り、変化が起きたのはその時だった。
とてつもない悪意と悲しみがルーシーに押し寄せる。・・・コレは・・・この感じは・・・。
「う・・・ああ・・・」
ルーシーの変化にシオンは直ぐに気が付いた。
「ルーシー?どうした!?・・・ルーシー!!」
自分の上で蹲るルーシーにシオンは必死になって呼び掛けた。
少女は顔を上げて紅の美しい瞳をシオンに向けた。その薄紅の唇が動き、掠れるような声が絞り出される。
「グースールの魔女が・・・復活した・・・。」




