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神の去った世界で  作者: ジョニー
第1章 アカデミー
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5話 アカデミー 2


 午後の自由修練の時間に、規定の講義は無い。

各自が好きな場所に行って、好きな修練に参加する事が出来る。


 昼食を終えると2人はテラスを出た。

「シオンは何処か行ってみたい場所はある?」

「うーん。」 

 アイシャの問い掛けにシオンは考える。

「そうだな・・・。回復師コースってところに行ってみたいな。」

「え・・・」

 

 アイシャが意外そうな表情でシオンを見た。

「ん?・・・何かマズいの?」

アイシャの表情にシオンが尋ねると、彼女は慌てて首を横に振った。

「い・・・いやそうじゃ無いけど、予想外すぎて。てっきり武術科のどこかを言ってくると思ったから。シオンは魔法も使えるの?」

「いや、さっぱりだ。魔法センスはゼロらしい。」

シオンの返答にアイシャは少しホッとしたような表情をする。

「そっか。シオンが魔法まで使えたら、ちょっと狡すぎるなって思っちゃったよ。」

少女の素直な感想にシオンは微笑む。

「まあ、魔石を使ってなら簡単な魔法を使用した事はあるんだけど、それ無しだと何も出来ない。」

「・・・」

アイシャは溜息をつく。

「アイシャ?」

「・・・同じ年齢なのに、経験値の差が有りすぎるよ・・・」


「で、なんで回復師コースなの?魔術師コースじゃ無いの?」

気を取り直したアイシャがシオンに尋ねる。

「知り合いが居ると思うんだよ。」

アイシャは目線を上に向け思い出すような仕草をする。

「え・・・と・・・ルーシーだったかな?」

シオンは驚いたようにアイシャを見た。

「よく知っているな。知り合いなのか?」

「そりゃ名前くらいは知っているわよ。回復師コースって1人しか居ないんだから。」

「1人!?」


 今度こそシオンは本当に驚いた。

「何で1人しか居ないんだ!?」

「いや、あたしも良く知らないんだけど、回復魔法って習得が凄く難しいんだって。しかも薬草学も学ばなきゃならないらしいし。・・・で、その割には地味じゃ無い?だから人気が全然無いのよ。」


 シオンは絶句した。

『・・・なるほど。ランクが上がらない訳だ』

 アカデミーの卒業者達の不振の理由の一端を見たような気がする。

 

 

 冒険者ランクを上げるというのは容易な事では無い。低ランク帯の冒険者達でパーティを組めば、それこそコツコツとFランククエストボードの依頼を相手に悪戦苦闘の毎日となりがちだ。成功と失敗を繰り返しながら冒険の細かいノウハウを学んでいき、やっと半人前に辿り着く。故に軽い気持ちで冒険者を目指した者は、その前に挫折して冒険者を辞めるかFランクで甘んじる者が大半だ。

 

 だがその中で唯一、高ランク冒険者の依頼に連れて行って貰える職種がある。それが回復師だ。

 例え駆け出しの回復師であっても高ランク冒険者達は「問題無い。必ず守ってやるから。」と説得して連れて行こうとする。そしてその回復師の成長を願って、自分達の持つノウハウを必ず伝授してくる。

 様々な依頼をこなしてきた彼らにとって、回復師の扱う力と知識はそれ程に魅力的なのだ。

 またアイシャの言うとおり回復魔法の習得は難易度が高いために絶対数が少ないと言うのも、低ランクだろうと関係なく回復師が連れ回される理由の1つである。


 そうして、回復師達は高ランク冒険者から伝授して貰ったノウハウを、同じ低ランク帯の冒険者達と共有してスムーズにランクアップを図っていくのだ。

 つまり、低ランク帯の冒険者達が問題無くランクアップを図る為のキーとなるのが回復師であると言っても過言では無い。



 しかし、アカデミーでは回復師を目指す者が極端に少ないこの現状を放置しているように見える。

冒険者養成機関を謳う施設である事を考えると理解しがたい。


 シオンが難しい表情で黙り込むとアイシャは様子を伺う様に覗き込む。

「・・・シオン?どうしたの?」

「いや、すまない。何でも無いんだ。」

 不安気な少女に気が付きシオンは微笑んで見せる。アイシャもホッとした様に笑うと取り繕う様に言葉を紡ぐ。

「ま・・・まあ、あたしも勿体ないなって思うよ。短時間で怪我が治せるなんて凄い事だよね。それだけ足止めも食らわないし、長時間の冒険が出来るって事じゃない。あたしがパーティメンバーを選べるとしたら絶対に1人は入れたいもん。」

 シオンは感心したようにアイシャを見つめた。

 アイシャの言葉こそが、まさに高ランク冒険者達が回復師を連れていく理由なのだ。

「な・・・何?」

 自分を見つめる少年に、アイシャは紅くなる。

「いや。アイシャは良く判っているなと思って。まさにその通りだよ。」

「そ・・・そう。」

 アイシャはそっぽを向いた。何だか無性に悔しくなったのだ。さっきから自分だけが動揺させられている事に。


「それで、何でルーシーさんと知り合いなの?同郷か何かなの?」

 本日何度目かの精神安定を図ったアイシャは、シオンにそう尋ねた。

「いや違う。俺は先日、とある依頼を終わらせて帰ってきたんだが、その時の帰りのキャラバンで同乗したんだ。それで知り合った。彼女はここの2年生だと言っていたが服装から回復師かも知れないと思っていたんだ。まさかアイシャが名前を言ってくれるとは思っていなかったが、これで確認できたな。」

「そう・・・。」

 アイシャはなんかモヤモヤした。


「ここが魔術科のフロアだよ。」

アカデミー本館の3階でアイシャはそう言った。

2人で各部屋を覗いて見るが、ルーシーらしき少女を見つける事は出来なかった。

教室に居た生徒達にも所在を尋ねてみるが判らず仕舞いであった。


「なんか嫌な感じだったね。」

 アイシャが憤然と歩きながら吐き捨てる。

シオンは無言でその後ろを歩きながら先ほどの会話を思い出す。


『ルーシー?ああ、あの変わり者の?』

『変わり者?』

 アイシャが鸚鵡返しに聞き返すと女子生徒達は次々に口を開いた。

『そうよ。だってそうじゃない。回復魔法なんてあんな面白くも何ともない魔法に固執してんのよ。』

『他のみんなはとっくに魔術コースに切り替えているのに、1人だけ意地になって馬鹿みたい。』

『あの子が1人意地張ってるからアカデミーも回復コースを無くせないんでしょ?』

『みんな迷惑してるのにね。』

『とにかく、居場所は知らないわ。』

 

 それ以上の情報は聞けないと判断し、シオンは女子生徒達に礼を述べると、固まるアイシャを引きづる様にその場を離れたのだった。


「ここに居ないとなると、魔術棟かな。あそこは魔術科の生徒しか入れないんだよね。」

アイシャが呟く。

「なら仕方が無い。他のコースを見に行こう。」

シオンは踵を返すと3階を後にした。


 少なからずシオンはショックを受けていた。

 生徒達に回復師の有用性が全く伝わっていない。これはアカデミーが伝えていないのか、それとも生徒達が単純に受け入れていないだけなのか。また、『回復師コースが無くなる』という発言も気になる。本当だとしたらあり得る話では無い。

 そして何よりも、卒業したらシオンとパーティを組みたいと笑顔で伝えて来たルーシーの扱いが魔術科の生徒の中で色よい物で無かった事に一番シコリが残っていた。

 彼女はこの扱いの中でも、あんな笑顔を見せられるのか。


 シオンは、なぜ彼女が回復師を目指しているのかを聞いてみたくなった。


「あたし思ったんだけどさ。」

 アイシャがおもむろに口を開く。

「今度の合同演習でさ、ルーシーさんを指名しようよ。」

「指名?」

 アイシャの言っている意味が解らずシオンは聞き返す。

「そう、指名。合同演習では2日前にパーティを組みたいメンバーを最大6人まで指名出来るのよ。指名された側がOKを出せば優先的にパーティを組んで貰えるの。」

「そんな仕組みがあるのか。」

「そうよ。あ、勿論あたしはルーシーさんの他にシオンも指名するからね。シオンもあたしを指名してよ。」

「わかった。指名するよ。」

 シオンが頷くとアイシャは嬉しそうに微笑んだ。



 翌日からもシオンはアカデミーに顔を出した。

 

 剣術コースではミシェイルとアイシャ相手に幾つかの技を披露して見せたり、他の何人かの生徒とも言葉を交わす様になった。ただ人数が多いだけに逆に他の生徒と触れ合う機会は少なく感じる。

 弓術コースではアイシャを切っ掛けにして他の生徒達も交流を求めてくれるので雑談や情報のやり取りなどもスムーズに出来ているように思う。


 シオンは思いの外、この生活を楽しんでいた。

 

 そして何だかんだと日は過ぎていき、合同演習の2日前がやってくる。



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