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神の去った世界で  作者: ジョニー
第5章 巫女孤影
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57話 帰路



 閉ざされた空間の中に漂う、幸せな時間。2人は重ねていた唇を離すと見つめ合い、照れ臭そうに笑った。


 宝物殿の扉が閉まっているために辺りは薄暗い。その為お互いにお互いの姿を細かくは確認出来ないが、だからこそより強く感じられる互いの肌の温もりが愛おしく感じられる。




 しかし、長くこうしている訳にも行かない。外ではカンナ達が待っている。




 シオンは立ち上がると、身体のフラつくルーシーの細い腰に手を回して支える。宝物殿の扉を片腕でグッと押し広げるとカンナ達が此方を見ていた。


「済まない、遅くなった。」


 シオンが言うと、カンナが悪戯っぽい笑みを返した。


「ふふふ、良いわい。ルーシーよ、大丈夫か?」


 カンナがルーシーに温かな視線を向けると彼女は頷いた。


「はい、大丈夫です。・・・あの、皆さん・・・本当に・・・ありがとう・・・」


 声を詰まらせるルーシーにセシリーが飛びついた。




「セシリー・・・」


「馬鹿ルーシー!・・・なんで1人で行ってしまったの!」


 ルーシーに抱きつきながら怒るセシリーにルーシーも抱きついた。


「ゴメンね、ごめんなさい。・・・迷惑を掛けたく無かったから・・・私は普通じゃ無いから・・・」


「普通じゃ無いから何よ!貴女はルーシー=ベル、セシリー=アインズロードの親友よ!親友の困り事なら一緒に解決してあげるわよ!・・・だから、もう2度とこんな事はするな!」


「・・・うん。ありがとう、セシリー。」


 シオンは泣き合う2人の少女に微笑むと、宝物殿の水晶球に厳しい視線を送った。


「カンナ、あの水晶球はどうするんだ?」


「ああ、ソレはもう何の力も持って居ない。只の球だ。放っておくさ。」


「そうか。」


 シオンは宝物殿の扉を閉めた。




「ルーシー!」


 アイシャが悲鳴を上げる。


「!」


 シオンが剣を抜いて振り返った。


 アイシャはルーシーを見て指を差す。


「服!服!」


「え?」


 皆の視線がルーシーに集中する。極薄のシルクのローブは所々が切り裂かれて白い肌が露わになっており、胸などの際どい部分も見えそうになっていた。


「!」


 ルーシーが顔を真っ赤にしてしゃがみ込む。


「お・・・おお・・・」


 ミシェイルの感動の声にアイシャが眉を撥ね上げて反応する。


「ミシェイルは見るなぁ!」


「うぉっ!」


 アイシャがミシェイルに押っ被さって彼の目を自分の手で塞ぐ。


 セシリーがシオンに叫ぶ。


「シオン!上着貸して!」


「あ・・・ああ。」


 シオンが慌てて鎧を覆うコートを脱いでルーシーに掛ける。




 突然始まったドタバタにカンナは苦笑する。


「何とも騒がしいな。」


 だが・・・とにもかくにも元気が戻って何よりだとノームの少女は思った。






 ルーシーの疲労は極限に近い状態だった。また、大魔法を使ったカンナも疲労が激しかった。


「こんな胸くそ悪い神殿で一晩過ごすのはぞっとしないが・・・。」


 カンナは空を見上げた。


 満月が煌々と夜空を照らしている。


「・・・こんな夜にこの森を抜けるのは自殺行為だからな。」


 そう言って神殿で一晩を明かす事を提案する。




 一行は神殿の入り口まで戻ると野宿の準備を始める。ミシェイルが薪を集め、シオンが火を起こした。


「全員、コレを飲んでおいてくれ。」


 シオンはそう言ってポーションを全員に配る。


「ウゲッ・・・何だこの味は。」


 カンナが舌を出す。


「マリーさん特性の疲労回復剤だ。元気が出る。」


 一行が顔を顰めてソレを飲み干すのを見届けたあと、シオンは口を開いた。


「さて、それでは誰が見張り番をするかだが。1人は俺が番をする。あともう1人くらい欲しいんだが、先ずルーシーとカンナは確りと休んでくれ。・・・ミシェイル、いけるか?」


 ミシェイルが頷く。


「任せろ。一晩寝ないくらいどうって事ない。」


 それを聞いてセシリーとアイシャが声を上げる。


「私も平気よ。」


「あたしも大丈夫だよ。」


 しかしシオンは首を振った。


「いや、ミシェイルがいけるなら男2人でやるさ。話したい事も有るしな。2人ともゆっくり休んでくれ。」




 寝息が立ち始めたのを確認するとミシェイルは口を開いた。


「シオン。」


「何だ?」


「これからルーシーさんをどうするんだ?村に置いていく訳じゃ無いよな。」


「当たり前だ。セルディナに連れて戻るさ。」


 シオンが口調を強めて言った。


「なら良いさ。あの村長共は腹いせにルーシーさんの御両親の墓を割る様な連中だ。とても彼女を村に置いては行けない。」


「!・・・本当か?」


「ああ。」


「・・・そうか。」


 シオンに再び怒りが込み上げる。が、ルーシーがオディス教徒に連れて行かれたと知った時に感じた様な、あの焦燥感を交えた殺意までは湧いてこない。


「連中には必ず罰を受けて貰うさ。」


 シオンはそれだけ言う。ルーシーの記憶を覗いたときに知った、ルーシーの両親を襲った死の真実をシオンは許せない。


「でも、あの村は自治組織だろ?他国がどうこう言えるのか?」


「大丈夫だ。」


 シオンは言い切る。


「進め方次第さ。もちろんセルディナの法は通用しない。だが公王陛下の威光は通用する。」


「そうなのか?」


「ああ。セシリーやブリヤン閣下にも話す必要はあるけどな。」




「それにしても・・・」


 シオンはミシェイルを見る。


「・・・ミシェイルは強くなったな。剣の腕だけならCランクに推薦しても良いレベルだ。」


「そうか、それは嬉しいな。」


 ミシェイルは照れ臭そうに笑う。


「あとは依頼をこなせ。せめて後10個くらいは依頼を受けるといい。そして冒険者としての知見を溜めろ。ソコから色々と考えも深まるだろうさ。」


「分かった。」




 朝が訪れた。女性陣が目覚めたところでシオン達は出発の準備を始める。日が東の空に完全に姿を見せ始めた頃に一行は出発した。出掛けにシオンはルーシーに話し掛けた。ルーシーは逡巡している様子だったがやがて頷いた。




 ルーシーを取り戻した事で穏やかな気持ちになってはいるが、ここはグゼ大森林。魔物犇めく森だ。日中は姿を姿を見せないと言ってもイレギュラーで遭遇する魔物は居る。実際に幾つか魔物との遭遇戦が起こり一行の道中は決して穏やかなものでは無かった。




 休憩を挟みながらテオッサを目指す帰路の最中にセシリーがルーシーに話し掛けた。


「ねえ、ルーシー。もし良ければなんだけど、御両親のお墓を移さない?」


「え?」


 セシリーは言い辛そうな表情になるが意を決した様にルーシーを見る。


「あのね、貴女がその目で見てショックを受けない様に予め言って置くわね。・・・貴女の御両親のお墓は守られて居なかったの。」


「・・・そう・・・。」


 ルーシーも薄々はそう思っていたのかも知れない。


「・・・でも、何処に移せば・・・」


「アインズロード領に良い場所が在るの。ウチの領地は魔物との戦いや被害で命を落とす人の数が多いから、特別な集合墓地が在るのよ。毎年、亡くなられた人達の魂を悼み鎮魂する祭儀が行われる場所。アインズロード領で最も人々が大切にしている場所の1つよ。ソコなら御両親も安らかに眠れるしルーシーも安心出来るわ。」


「・・・。私の両親もソコに入って大丈夫なのかしら・・・。」


「もちろんよ!」


 セシリーがルーシーに力強く頷く。


 ルーシーの瞳に涙が溢れる。ルーシーはセシリーの手を握って頭を下げた。


「ありがとう、セシリー・・・。ありがとうございます。宜しくお願いします・・・。」


「ええ、任せて頂戴。・・・もう、貴女、・・・昨日から泣きすぎよ。」


「ふふふ。」


 セシリーのツッコミにルーシーは泣き笑いの顔になる。




 その様子を笑みを浮かべて見ていたシオンだが表情を改めた。


「・・・ルーシーの御両親の墓の話が出たので、俺からも話をさせて貰う。・・・残念ながら此方は胸糞悪い話だが。」


 シオンはルーシーを見た。ルーシーも未だ迷っている様だったが、やがて頷いて見せる。


「ルーシーが幼い頃に両親に連れられてセルディナに引っ越そうとしていた話は知っていると思う。」


「知ってるよ。ソコで野盗に遭ったって・・・。」


 アイシャはソコまで言って口をつぐむ。シオンは頷いた。


「そうだ、ソコでルーシーの御両親は野盗の手に掛かった。」


「・・・。」


「その、野盗の正体は村長が手を回した村人達だ。」


 全員の目が驚愕に見開かれる。


「何だと!?」


「本当なの、シオン!」


 怒りの声が上がるなか、カンナがシオンを見た。


「それは本当か?」


「証拠が在る訳じゃ無い。・・・だが俺はルーシーの記憶を辿った。その中で彼女が邪教徒にそう告白されている場面を見た。」


 シオンの言葉にカンナは思案する。そしてルーシーを見た。


「ルーシーはどう思った?」


 少女は紅の瞳を伏せながら口を開く。


「・・・真実だと思います。私の紅の瞳は力を発動させれば、真実を見分け、嘘を聞き分けます。あの時の邪教徒の言葉に嘘は感じられませんでした。」


「・・・遠慮は不要だな、セシリー。」


 カンナが呟くとセシリーが頷いた。




 テオッサに戻ったのは日も暮れた頃だった。




 村長の館の周辺には松明が焚かれている。


「何があったんだ?」


 一行が館に近づくと、警備していた騎士が1人近づいて来た。


「セシリーお嬢様、お帰りをお待ち致して居りました。」


 傅く騎士にセシリーは応えながら尋ねた。


「え・・・ええ。・・・何があったの?」


「は、昨日、セシリー様よりご指示を頂きました件を閣下にお伝えしました所、書状と公都の騎士団を預かって参りました。」


「公都の騎士団!?」


 公都の騎士団・・・つまり、宗主を公王とする正当なセルディナ騎士団と言う事になる。話がデカくなり過ぎている様な気がする。


 が、カンナは好都合とほくそ笑む。




 とにかくセシリーはブリヤンからの書状に目を通した。そして書状を閉じると一行にそれを渡した。読んで構わないと言う意味だ。




 皆が目を通している間に、セシリーは周辺の騎士を呼び集めると指示を出した。


「セルディナ公国とアインズロードの名を出して構わないので、周辺の自衛団の人達と協力して『この村の今後について話がある』と伝えて、この辺りの住民の皆さんを集めて下さい。子供や夜に歩くのは困難な方は結構です。」


「はっ。直ちに。」


 騎士団が散らばる。




 セシリーはルーシーを見た。


「ルーシー、私は今からセルディナ貴族の1人として村人達に話をします。その際に、私は貴女を衆目に晒す様なマネをするかも知れない。その時はご免なさい。」


「謝らないで、セシリー。全てを貴女にお任せします。私こそ頼ってばかりでご免なさい。」


 辛そうに語るセシリーにルーシーは微笑んだ。




 カンナがニヤリと笑う。


「では、セシリー=フォン=アインズロードのお手並みを拝見させて貰おう。なあに、もし何か在れば私が代わってやるから安心して話せ。」


 セシリーはホッとした様に微笑む。


「はい、カンナさん。その時はお願いします。」







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