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神の去った世界で  作者: ジョニー
第5章 巫女孤影
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55話 奪還 2



 聖堂の奥は中庭になっており渡りの通路が延びていた。その先には小さな建屋がある。




 その建屋の扉を見たカンナは、何やら青白いの炎の揺らぎの様なモノを視た。


「・・・何やら、あの先から『力』が漏れているな・・・気を付けろよ。」


 翠色の双眸が輝き、カンナは全員に警戒を促す。




 シオン達は建屋の両開き扉の前まで来る。


「・・・宝物殿か?」


 と呟くカンナを横目に、シオンとミシェイルが扉に手を掛けて押し開いた。




 その途端に、激しい風と膨大な魔力が宝物殿から吹き出されてきた。


「!・・・コレは!!」


 セシリーが感じる魔力の巨大さに呻く。




 宝物殿は魔力の奔流で荒れ狂い、嵐と化していた。大きな宝玉が青白く光り輝き、突風を巻き起こしている。そしてその傍らには・・・。


 両膝を着き、両の手を胸の所で組んで祈りを捧げる美しい少女の姿があった。身に纏う薄手のローブが風に煽られてはためきながら、水晶の放つ青白い光に照らされて薄青く輝いて見える。祈りを捧げる横顔はその瞳を静かに閉じており、まるで眠っているかのように穏やか。




 ルーシー=ベルは、今まさに邪神に祈りを捧げていた。




 その髪の色は彼らの知る愛らしい栗色では無く、美しい白銀に輝いている。セシリーはグゼ神殿で見たルーシーを思い出していた。あの神聖術を発動させた時のあの髪の色だった。だったら、今は閉じられているあの瞳の色も・・・。




「ルーシー!」


 シオンが叫んで一歩、宝物殿の中に踏み込もうとした時にカンナが叫んだ。


「止まれ!シオン!」


 その声にシオンの脚が止まる。




 と同時に宝物殿の内部を守るかの様に黒い炎の様なモノが吹き出す。


「!」


 シオンはサッと後ろに跳び退く。




 声が響いた。


『・・・惜しい惜しい。もう少しで更に1つ活きの良い贄が手に入ったものを。』


 聴く者の魂までも凍らせる様な氷雪の如く冷たい声が空間に響く。


「!」


 全員が武器を構えて周囲を探る。


 すると声が嗤った。


『此所だ。』




 黒い炎の結界の中、ルーシーの直ぐ近くに黒いローブを纏った初老の男が姿を現す。シオン達は動けない。男の発する圧倒的な悪意が彼らを包み込んでシオン達の心を縛る。


 男は・・・ザルサングは頷いた。


「そうよな。やはりそうなるわな。やはり此の娘が違うと言う事か。」


 ザルサングはルーシーを見る。




「貴様・・・!!」


 シオンが殺気を漲らせて1歩前へ進み出た。ソレを見てザルサングは驚嘆の表情を見せる。


「まさかお前も動けるのか。・・・ほほ、最近の若者は活きの良いのが居るモノよな。」


 その時、水晶が強く輝いた。


「おお・・・流石は竜王の巫女。もう女神の覚醒の記憶に辿り着いたか。」


「・・・ルーシー!」


 シオンは更に愛する少女の名を呼ぶ。




 ザルサングはシオンの様子に宥め賺す様に言う。


「まあ待て。事が済めば娘は返してやろう。」


「何!?」


「もっとも返すのは身体だけになるがな。」


「どういう意味だ!」


 シオンが問い返すとザルサングは嗤った。残忍さを形にしたらこうなるとでも言うような悪意を持って。


「魔力と魂は我らが女神に捧げてしまうでな。返すのは魂の抜けた骸のみと言う事よ。」


「貴様!!」


 シオンが跳んだ。そして結界に剣を叩き付ける。激しい衝撃と共にシオンは弾き飛ばされた。


「グッ」


 シオンは呻いて背中から地に落ちる。




 ルーシーの身体がピクリと身動いだ。




 ソレを見てザルサングは不快げにシオンを見る。


「まったく、待てと言っているのに。・・・このまま巫女を刺激されても敵わんな。」


 ザルサングは歩を進めて結界の外に出る。


「この大主教自らが、少し遊んでやろう。」




 ザルサングが纏っていた瘴気を祓った途端に、拘束が解かれ全員は即座に武器を構える。


「・・・セシリー。」


 カンナが隣のセシリーに囁いた。


「私はこの戦いには参加しない。お前達で僅かの間だけ持ち堪えろ。」


「・・・はい。」


 セシリーが頷いた。近くに居たミシェイルとアイシャにもその会話が通る。




「アシャも斃された様だな。・・・さて、全員で掛かってくる事をお勧めしよう。」


 ザルサングがローブから両腕を出す。その腕は黒く艶光りしていた。




 シオンが真っ先に動いた。ツツッとザルサングとの距離を詰めて残月を振り下ろす。


『ギンッ』


 と鈍い音が響き、シオンに驚愕の表情が広がる。


 ザルサングは無造作に左腕を盾代わりにしてシオンの斬撃を受け止めていた。


「魔剣で儂は斬れんよ。」


 そして右腕が動きシオンの腹部に拳が突き刺さる。


「グッ」


 短い呻きと共にシオンは吹き飛ばされた。




 入れ替わりでミシェイルがデュランダルで斬りかかる。魔剣で斬れないとしても、ならばこの宝剣ならば。しかしその胴を狙った横薙ぎもザルサングは受け止める。


「ほう、今度は宝剣か。厄介なモノを持っているじゃないか。」


 ザルサングは口の端を吊り上げると、ミシェイルの胸に掌底を叩き付けて弾き飛ばす。




『トンッ』


 音が鳴り、ザルサングの肩に光りの矢が打ち込まれた。光が弾けてザルサングのローブが引き裂かれる。


 だが、アイシャのラズーラ=ストラから放たれた矢もザルサングに傷を与えるには至らなかった。


剥き出しになった肩の部分も黒く艶光りして居り、恐らくは首から上を覗く全身がそうなっているのだろう。


『なら、頭を狙う!』


 アイシャが更に宝弓に矢を番えるとザルサングが片腕を振った。するとアイシャの目の周りに黒い霧が漂う。


「ああっ!」


 弓矢を落としてアイシャは激痛に叫んだ。


「アイシャ!」


 ミシェイルは叫び、怒りに任せて再度ザルサングに斬りかかる。デュランダルが光り輝いた。


 それを見て初めてザルサングの目に緊張が走り、腕に瘴気を纏わせた。そしてその腕でミシェイルを斬り裂かんとした時、視界の端にシオンが近づくのを確認した。一瞬、ザルサングの注意が逸れる。




 ザルサングの左肩口から右脇腹に向かって閃光が走った。ミシェイルの切り下げた一撃がザルサングを揺るがせる。


「ウグッ!」


 ザルサングが呻いた。


「2人ともどいて!」


 セシリーが叫ぶ。


 その声に従い、シオンとミシェイルが退いた。


『・・・ソーサリーストーム!』


「!!」


 驚きの表情を浮かべるザルサングを魔力の奔流が包み込んだ。


「・・・」


 魔力の奔流が消え去るのを全員が見守る。




 ザルサングは立っていた。ローブが煤けているがダメージを受けた様子は無い。結局、ミシェイルの一撃以外にダメージらしいモノは入れられて無い事になる。




 シオンは算段を立て直した。ミシェイルは剣の腕だけを見れば充分にCランクを張れる。冒険者としては経験が未だ足りないが、この1戦に限ればデュランダルが通用する時点で、自分のサポート有りきで『決め手』を任せられる。


「ミシェイル、お前が主功だ。俺が攪乱する。」


「分かった。」


「セシリー!アイシャを連れて下がれ!」


 シオンが叫ぶとセシリーは目を押さえて蹲るアイシャを支えて距離を取り始める。




 シオンが前に飛び出す。ザルサングはシオンを見た。


 激しく斬りかかってはザルサングの攻撃を受ける前に抜群の体術で身を退く。


 ミシェイルが隙を見つけては斬りかかる。躱される事もあるが僅かながらに刃先が大主教の身を削る攻撃もある。




 少しずつ2人の連携が咬み合い始めた時。


 ザルサングが唐突に嗤った。シオン達の動きが止まる。


「フフフ、儂を相手に良くやる。・・・だが、忘れてはいないか?」


「何?」


 シオンが尋ね返したとき、ザルサングが両腕を振った。途端に瘴気がザルサングの周囲に発生し、その身に纏わり付く。


「!」


 シオン達を強烈な金縛りが襲った。


「儂にはコレがある事を。・・・お前達が中々に厄介なのでな、遊びは止めにするよ。」


「・・・クソッ!」




 シオンから漏れた声にザルサングは満足げな表情をする。


「お前達は実に素晴らしい。其処の娘3人は魔女に捧げるとして、お前達2人は儂自身が喰らう事にするよ。・・・では、終わらせよう。」


 ザルサングが奈落の法術を唱え始めようとした時。




「大主教よ、その前に聴かせて貰いたいモノだな。」


 今まで沈黙していたカンナが口を開く。


 ザルサングの動きが止まった。


「・・・何だ、ノームの娘よ。」


「お前達、オディス教徒には女性がいないのは何故だ?」


 そう言えばその通りだ。


 しかし、ザルサングは「そんな事か」とつまらなそうに言った。


「女が居ない訳では無い。」


「・・・。」


 カンナの瞳に怒りが宿る。


「女の信徒には女神の贄になって貰ったのさ。」


「な!?」


 全員が絶句する中、カンナが感情を押し殺した様な声を出す。


「やはりそうか。・・・捧げた場所はこの神殿だな?」


「その通り。察しが良いではないか。」


 ザルサングは嗤った。


「何故に女だけを捧げるのかと問いたいのだろう?・・・いいさ、話してやるわ。」


「・・・」




 カンナの強い視線を邪教の大主教は飄々と受け流して話し出す。


「そもそも『グースールの魔女』の正体は人間の女達だ。彼女達は大きな力を手に入れた後に、と或る出来事で酷い恨みと怒りを残してこの世を去った。」


 大主教は愉しげに話し続ける。


「その後、我が教団の前身とも言える者達に見出され神格化したのだが・・・如何せん1400モノ歳月を重ねれば、怒りも憎悪も風化していく。彼女らの感情が持つ力を失うのは余りにも勿体なくてな。憎悪の鮮度を保つために同じ性を持つ『女』を贄に捧げたのよ。女の怒りは女が1番理解出来る故にな。」




 悍ましい。セシリーは前身に鳥肌が立つほどの震えを感じた。目の前に立つこの男の、余りにも黒い喜びに吐き気を催す程の嫌悪感を感じる。


 こんな・・・こんな悪魔達の贄に今度はルーシーがなろうとしている。


 セシリーは宝物殿に向かって叫んだ。


「ルーシー!眼を醒まして、ルーシー!!」




 何かが起きた訳では無い。だが、何かが明らかに動いた。ソレは感情の波。心の波動。闇に向かう魂を足止めさせる何か。




「・・・」


 ザルサングも不穏なモノを感じたのか、セシリーに一瞬、気を奪われる。




「だが、やはり話すべきでは無かったな・・・お陰で時間が稼げた。」


 カンナの声に大主教は視線をカンナに戻した。




 カンナの全身が黄金に光り輝く。


「その魔力の燃焼量・・・貴様・・・」


 ザルサングが初めてたじろぐのを見てカンナは口の端を吊り上げた。


「・・・初めからお前の金縛りなど私には効いていない。あの瘴気で作られた結界を吹き飛ばす為の魔法を使う為に、ずっと魔力を燃焼させ続けていた。」


 そして詠唱を始める。


『揺らぎと定めの狭間に座する旧き神々よ、混沌の暴虐を祓い我が前に安寧を示せ。我が名は伝道者なり・・・』


「・・・伝道者だと・・・」


 大主教のの顔に驚愕の色が広がる。


『・・・セイクリッド=ディファレンス!』


 カンナから巨大な光の壁が現れ、四方に押し進んで行く。壁は傷めたアイシャの眼を癒やし、ザルサングを呑み込み、宝物殿を包み込む。


 忽ち完成した強大な光の結界に邪悪な神殿の一角が支配された。




 恐らくはザルサングが施したであろう、宝物殿に張られた瘴気の結界も吹き飛んでいる。




 ザルサングはそんな自分と正反対の属性結界の中で、煙を上げながら悠然と立っていた。今度はカンナが驚きの表情を見せる。


 ――この男・・・何たる精神力か。


 光に侵食を許さないほどの是れほどに圧倒的な邪悪などカンナは見た事が無かった。




 大主教は自らの身体を眺め、瘴気の結界が吹き飛んだ宝物殿を見遣り呟く。


「此所までか・・・。・・・まあ良い。最低限の目的は果たした。」


 そしてカンナを見て言う。


「伝道者までが敵だったとはな。此所は退かせて貰うとするか。」


 最後にシオンを見る。この魔法の才も無い、何の変哲も無い少年が自らの意志のみで金縛りに掛かった儘に動いて見せた。ザルサングの記憶の中にこの様な者は居なかった。が、口には何も出さずに彼は歩いて結界の外に出る。


「ではな。」


 そう言うと大主教は姿を消した。




「・・・」


 唐突に消え去った脅威に全員が呆然とする中、シオンは宝物殿に駆け込んだ。




「ルーシー!」


 宝物殿の中では、未だルーシーが祈りを捧げ続けていた。


シオンの行動に我を取り戻したカンナ達がシオンの後を追う。




「これは・・・もう・・・」


 翠眼を光らせてルーシーを視たカンナの声に悲壮感が混じる。




「・・・ルーシーは・・・恐らく取り込まれている・・・」







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