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神の去った世界で  作者: ジョニー
第5章 巫女孤影
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46話 冒険者査定

新年明けましておめでとう御座います。

今年も頑張って書いていきますのでよろしくお願いいたします。



「では、こうしよう。」


 シオンは生徒達を見回しながら言った。


「俺が1人1人の剣技を見よう。今すぐにでも冒険者登録が出来そうな者が居たらギルドに推薦しよう。一応これでもBランクの冒険者だ。Cランク以上の冒険者にはギルドに推薦する権限があるから、俺が口添えしたらギルドは直ぐにでも登録させてくれる。」


「・・・Bランク・・・」


 生徒達は息を呑んだ。


 シオンが現職の冒険者だという事は知っていたが、まさか其れ程の高位冒険者だとは思っていなかったらしい。


 と、同時に興奮が訓練場を包みこんだ。




 シオンが講師を見る。


「先生、申し訳ないが宜しいですか?」


 講師は意外な展開に眼を白黒させていたが、シオンに向かって頷いた。




 急遽、シオンに依る冒険者査定が始まった。




 1人目の男子生徒のリュエナンがシオンの前に立つ。


「何をしたら良いんだ?」


 リュエナンが剣を持ちながら尋ねるとシオンは説明を始める。


「簡単さ。今まで学んだ技の全てと君自身のセンスを持って俺に打ち掛かってきてくれ。どんな手を使っても構わない。俺に1撃を与えられたら合格だ。逆に俺の1撃がお前の急所を打ったら終了だ。因みに俺はお前の攻撃を3回やり過ごしてから攻撃を加える。」


「解った。」


 リュエナンは頷いた。




 シオンよりも背は幾分低いが横幅はシオンを上回る。力業を得意とするタイプだ。


「来い。」


 シオンの言葉にリュエナンが動く。愚直な突進と共に突きを繰り出す。最短の攻撃手段だ。シオンは其れを交わす。


『1』


 シオンは算える。


 リュエナンは即座に突進を止めて身体を切り返すとシオンに横薙ぎを仕掛ける。身体の大きさに負けないクイックネスを発揮し大振りだが勢いのある1撃だった。


『2』


 横薙ぎを身を引いて交わしたシオンの顔目掛けてリュエナンは足下の土を蹴り飛ばした。


「!」


 シオンが咄嗟に土塊を腕で払った隙を突いてリュエナンは剣を振り上げ振り下ろす。隙の少ない良い斬撃だ。


『3』


 シオンは剣を突き出した。


『ギシッ』


 木と木が激しくぶつかる音がする。リュエナンはシオンの突きを下から剣で撥ね上げていた。


 ――なかなかやる。




 それから3回の攻撃をシオンはやり過ごし、2回目の攻撃は先ほどよりも速度を上げて横に薙ぎ払った。


「グッ」


 リュエナンが呻く。


「チクショウ!」


 悔しげな声を上げるがシオンに頭を下げて一礼を施した。


 そしてシオンを見て笑いかける。


「参ったよ。こんなに差が在るとは思って居なかった。もっと頑張るよ。」


「合格だ。」


「え?」


 リュエナンはシオンをポカンと見た。


「合格だ。此所まで食らいつけるとは思わなかった。アカデミーに断ってお前のタイミングでギルドに行くと良い。・・・アイシャ、記録しておいてくれないか?」


「解った。」


 アイシャが頷く。




 シオンが一同を見回した。


「要領は解ったと思う。俺に1撃を加えられたからと言って失格にはしない。其こに至るまでに、どう攻撃し、どう守ったかを俺は見ている。そのつもりで来てくれ。」


 全員の顔にやる気が漲る。


「ミシェイルは査定しないのかよ。」


 シェイドが言うとミシェイルは首を振った。


「俺はDランクに上がったばかりだ。推薦の権限は無いよ。」


「なんだよ。」


 小馬鹿にした様な声にアイシャが眉を撥ね上げるが、ミシェイルは苦笑いしながらアイシャに首を振って見せる。


「もちろんミシェイルにも役割が在る。失格になった者はミシェイルからアドバイスを貰うといい。何しろコイツはギルド創設以来、最短でDランクまで駆け上がった男だ。剣のセンスは俺以上だと思ってくれて構わない。」


「お・・・おい、シオン。」


 諫めようとするミシェイルにシオンはニヤリと笑った。


「1人前の冒険者になったのに生徒扱いはしないぜ。」


「いいじゃん、やりなよ。ミシェイル。」


 アイシャの嬉しそうな顔にミシェイルは笑って肩を竦めた。


「わかったよ、やらせて貰う。」




 午後の自由訓練の時間まで査定は進んだ。


 『剣術訓練で面白い事をやっている』とアカデミーの昼食時間に噂が広がり、午後はアカデミーの殆どの生徒が見物に訪れてお祭り騒ぎの様になった。


 そんな中で査定は行われていったが、午前中も含めて結局は殆どの者が失格になった。悔しがる者、やっぱりなと言った顔をする者など反応は様々だったが皆、ミシェイルに熱心にアドバイスを貰いに行っている。




「よし、次は俺だ。」


 シェイドがシオンの前に立った。


「どんな手を使っても良いんだったよな。」


「ああ、そうだ。」


 シオンが頷くとシェイドはニヤリと嗤った。


「なら、始める前に言っておく事がある。・・・俺は貴様等如き平民と違って栄えあるオイラル男爵家の令息だ。この意味が分かるな?その気になればお前如き一冒険者など、どうにでも出来るって事だ。それが嫌なら・・・」


「後が詰まっている。早く来い。」


 シオンは興味無いとばかりにシェイドの言葉を打ち切る。


「貴様・・・」


 シェイドの顔が醜く歪んだ。


「大体、俺は貴様が端から気に入らなかった。特待生だか何だか知らないが、貴族たる俺を差し置いてアイシャを誑かしやがって・・・」




 シオンは合同演習の前にミシェイルが言っていた事を思い出した。


『アイシャはさ、あの見た目で性格も気さくだろ。剣術科の生徒からの人気はかなり高いんだ。』


『つまり・・・お前、一部の生徒から妬まれているぞ。』


 ――ああ、コイツの事か。


 シオンは軽く溜息を吐いて言った。


「そうだな。アイシャは可憐だ。今の様な貴族にあるまじき台詞を臆面も無く口にするお前などには勿体ない。どうしても彼女に側に来て貰いたいのなら、先ずはこの査定をクリアした後に自分なりの男らしさをアピールして彼女に振り向いて貰ったらどうだ?」


「貴様!!」


 激高したシェイドがシオンに打ち掛かった。


 シオンが其れを軽く躱すとシェイドはまた単調な1撃を放つ。シオンは無言で躱す。シェイドの表情に明らかな焦りが浮かんだ。


「貴様!さっき俺が言った事を理解していないのか!?後で後悔しても・・・」


「その口撃は3回目の攻撃とみなして良いのか?」


「!」


 まったく気にしないシオンの態度にシェイドは顔を引き攣らせた。今までの対戦試験で通用していた脅しがシオンには全く通用しない。


「クソッ」


 シェイドの3回目の攻撃もシオンは剣を合わせる事も無く躱す。


「では、こちらの攻撃だ。」


 シオンが言うとシェイドは慌てて剣を構え直した。その表情には始める前の余裕など微塵も感じられず恐れの感情に支配されて居る。


 シオンはそのまま隙だらけの頭に苦も無く打ち込んだ。


「グアッ」


 呻くシェイドの耳元にシオンは厳しい口調で囁いた。


「貴族を名乗るならノブレスオブリッジについてもう一度考えるんだな。貴様は冒険者云々を語る以前の問題だ。」


 蹲るシェイドを見下ろしながらシオンは


「失格。」


 とアイシャに告げた。




 その後も査定は続き、日が傾き始める頃に漸く剣術クラス100余名全員の査定が終了した。


 結局、シオンの査定を通過したのは6名。正直、シオンは驚いていた。6名も即戦力になりそうな生徒が居るとは思わなかったのだ。


 シオンは終了した査定の総括を皆に話すと、冒険者査定を終了した。


「合格した6人は明日以降のどのタイミングでも構わないからギルドに行くと良い。話は今日中にギルドマスターに通しておくから。」


「はい。」


 6人が頷く。




「お疲れ様、シオン、ミシェイル。」


 アイシャの労いに2人は笑った。


「本当に疲れたよ。2日に分けるべきだったな。」


「まったくだ。全員を今日中に査定する気かと溜息を吐きそうになったよ。」


「うふふ。でも2人とも結構楽しそうだったよ。」


「・・・そうかもな。最近は殺伐としていたからな。」


 3人が会話を弾ませていると、後ろから声が掛かった。


「あの・・・」


 3人が振り返ると複数の女子生徒達が立っていた。


「ルシア。」


 アイシャがその中の1人、声を掛けて来た少女の名を呼んだ。


「シオンは知っているでしょ。弓術コースのルシア。」


 アイシャの紹介にシオンは頷き、ミシェイルは軽く会釈をした。


「ルシア、どうしたの?」


「あ、うん、えっと・・・」


 ルシアはアイシャに促されて真っ赤な顔でシオンを見た。


「シオン君、明日は弓術コースの査定をしてくれないかな?あたし達も見て欲しいの。」




 ――やっぱりか。


 シオンは思った。午後から見に来ていた他コースの生徒達の視線が、途中から単なる好奇心では済まないモノに変化している事に危惧を覚えていたのだ。




 槍術コースは基本的に全員が騎士を目指す為、このような依頼は来ないだろう。体術コースもメインの戦術には成り得ない為、先ず来ない。だが、弓術と或いは魔術コースは来るかも知れない、とは思っていた。




 シオンは期待に揺れる少女達の顔を見た。こんな表情を見せられたら断れない。


「解った。明日は弓術コースを見よう。・・・2人とも手伝いを頼む。」


「お・・・おう、わかった。」


「うん、わかったよ。」


 今日は早く寝よう、シオンはそう思った。




「何、6人も居たのか?」


 ウェストンはシオンの報告に顔を綻ばせた。


「いや敢くまでスタートラインに立てているってだけで、ミシェイルやアイシャみたいな金の卵では無いですからね。」


「解ってるって。それでも辛口のお前が薦めてくるんだ、銀の卵くらいは期待はするさ。そうだな、今回はミレイじゃ無くて他のギルド嬢達に割り振ろう。」


「まあ、その辺は任せます。」


「・・・。」


「どうしました?」


 考え込んだウェストンにシオンは尋ねる。


「・・・こりゃ、本格的にアカデミーへの指導も考えておいた方が良さそうだな。」


「ああ、それは本当に勿体ないですよ。」


「レーンハイム学長と打ち合わせをしておこう。」


 つい先日、昇格したアカデミーの新学長の名前を口にする。


 レーンハイム当人は自分の覚悟とは真逆の成り行きとなって本当に仰天したらしく、ブリヤンの前で久しぶりに取り乱し一喝されたそうだが。


 まあ、人の本質はそう簡単には変わらないという事である。




「明日は弓術コースとやらの子達を見て来るんだろ?シューターは少ないんだ。少々の技量不足は多めに見るから期待しているぜ。」


 ウェストンのお気楽な発言にシオンはジト目になる。


「・・・当人の生命に関わる事ですから査定の基準を緩める気は在りませんよ。」


「ああ解ってるって。そう言うお前だからこんな軽口も叩けるんだ。まあ、そう言ったギルドの事情も在るって事だけ覚えていてくれりゃあ良い。」


「分かりました。」




 シオンはギルドを出ると夜道を自宅に向かって歩き始めた。









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