43話 昇格
読者様の感想に各キャラのステや魔法の設定の説明が欲しいと言う意見を頂いたので、各話の後書きにご要望頂いたモノを書き足して行きます。ご興味があれば1話の後書きから見返してみて下さい。
よろしくお願いいたします。
扉の先は小さな小部屋だった。
部屋の奥には小さな玉座が置かれており、小柄なミイラが1体置かれている。
「部屋全体に随分と強力な光の呪法結界は張られているな。」
カンナは呟いた。
「結界?俺達は入れているぞ。」
シオンが尋ねる。
「闇に侵された存在に対して作用するモノだよ。・・・私らには関係無い。」
カンナはキョロキョロと辺りを見回しながら答える。
「しかし、此所は何なんだ?ミイラが1体置いてあるだけで何も無いけど。」
ミシェイルが誰はとも無しに独りごちた時。
「誰かな?」
突然ミイラの口が動き、誰何の声が上がる。
「な!?」
全員が武器を構えた。
「・・・」
暫くの対峙が続き、やがてカンナは杖を下ろした。
「・・・安息の時間を邪魔して申し訳ない。私は伝道者のカンナだ。貴方の名を教えてくれるか?」
ミイラは少し身じろぎした。
「おお・・・伝道者・・・。この目に見ようとは思わなんだ。・・・儂はビアヌティアン。天央12神よりこの『罪の墓場』を見張るように命じられた者よ。」
「罪の墓場?」
カンナが聞き返す。
「そう、罪の墓場だ。・・・かつてこの地に騒乱をもたらした邪教徒共の墓場だ。騒乱は英雄の力を以て被害が広がる前に収束された。が、その大量の汚れ過ぎた魂は祓う必要があってな。大地に300年埋葬して汚れを祓う事にした。その場所がこの罪の墓場だ。」
「なぜ、貴方が見張りなどを?」
「儂が嘗てこの地の守護をして居たからだろう。・・・死しても尚、見張りを強要するなど神とやらも随分と傲慢な事よ。」
気のせいか干からびたビアヌティアンの表情が不満に歪んだように見える。
「ま、仕方あるまいよ。アレとて本当の神では無いからな。ただ役目を受けて動いているに過ぎん。もはや本当の神などこの星の海の何処を探しても居ないのだからな・・・。」
カンナの言葉にビアヌティアンの顔が動きカンナを見る。
「・・・流石は伝道者殿。色々とご存知の様だ。」
「そうだな。気が向いたら貴方にも色々と教えてやろう。それよりもだ・・・」
少女の瞳が僅かに光を帯びた。
「邪教徒とは・・・それはオディス教の事かな?」
「そうだ。」
ビアヌティアンが肯定する。
「うむ・・・今も外でその邪教徒達が何かをして居たのは知っているか?」
「ああ・・・何やら騒いでいたな。このフロアを守護させて居た人形達もまた破壊されたのか。」
「彼奴等が何をしに来ていたか判らないか?」
カンナの問いに興味無さ気な声でビアヌティアンは答えた。
「この墓場に揺蕩う瘴気に汚された魂を奴らの邪神に捧げるつもりだったんだろうな・・・いつもの事だ。」
「ほう、初めてでは無いのか。」
「何度も来ている。だが其れを成すにはこの部屋の結界を破り、此所の魂を縛っている儂を殺さねばならん。いつも失敗して返っていくがな。」
「・・・そうか。・・・ビアヌティアン殿。貴方の役目はあと何年ほどか?」
「あと100年も経てば此所の魂の汚れも輪廻に戻せるくらいには祓えるだろうな。」
「わかった。」
カンナは頷いた。
「伝道者殿。」
ビアヌティアンが話しかける。
「何かな?」
「もし良ければだが、時折は此所に来て話し相手になってくれんか?死してのち1300年も此所に座し続けるのは些か退屈でな。」
カンナは「ふ」と相好を崩した。
「分かったよ。死んでも尚、現世の理の為に身を尽くす貴方の頼みは断れん。時々は相手をしよう。」
そう言いながらカンナはシオン達を振り返った。
「その代わりと言っては何だがビアヌティアン殿。この3人の若き冒険者達に何かくれてやれる物は無いか?ひょっとすると、其の邪教徒共と1戦やらかすかも知れん馬鹿共だ。手を貸して貰えれば助かる。」
「ほう・・・」
ビアヌティアンの虚ろな瞳がシオン達を捉える。
「そう言う事なら容易い事だ。」
そう言うとビアヌティアンは持っていた杖でトンと石畳を突いた。
埃が舞い上がりビアヌティアンの座る玉座の後ろの壁面が動き、其処には幾つかの武具が飾られた棚が姿を見せた。
「どれでも持って行くが良い。いずれも宝具の類いだ。」
「・・・」
シオン達が固まっているとカンナが促した。
「ほら何をしている、お前達。滅多に無い機会だぞ。しっかり選べ。」
「あ・・・ああ。」
シオンは戸惑いながらも頷くとミシェイル、アイシャと顔を見合わせ怖ず怖ずと棚に近寄った。光輝く剣に弓、指輪に杖。様々な物が置いてある。
ミシェイルは一振りの剣を選んだ。
「それは『デュランダル』だ。切れ味も良いが魔を斬る武器としては一級品だ。」
ビアヌティアンの言葉にミシェイルは魅入った様に剣を軽く振ってみる。
アイシャは一張りの弓を選んだ。
「それは『ラズーラ=ストラ』だ。撃てば只の矢が衝撃の光を纏って相手の魔法障壁も破砕する。」
「ラズーラ=ストラ・・・」
シオンは指輪を選ぶ。と、言うよりはカンナに渡された。
「?」
「これにしろ。」
「ああ・・・」
受け取ったシオンにビアヌティアンが口を開く。
「それは『エイギスリング』だ。術者の意思に応じて結界を張ってくれる。弓や剣も弾くが、奈落の法術にも耐えられる優れものだ。」
シオンがカンナを見ると少女はニヤリと笑った。
「さて、お前達はギルドなり王宮なりに戻れ。報告もあるだろう?私は此所でもう少しビアヌティアン殿と話しをしていく。」
「ホホ。其れは嬉しいな。」
ビアヌティアンの変わらぬ表情が少し笑った様に見える。
用は済んだ、という事だ。
「わかった。カンナ、余り遅くなるなよ。」
シオンが頷きながら声を掛けるとカンナは分かっているとでも言いたげに手を振った。
遺跡を出ると既に日も傾き始めていた。ゼネテスがシオン達に近づいてくる。
「遅かったなシオン殿。邪教徒共のアジト探索の件は王宮に使いを出している。・・・カンナ殿は如何した?」
シオン達は中で起こった出来事をゼネテスに報告する。
「邪神への贄か・・・。そしてそのビアヌティアンと言う者がこの奥でそれを防いで居てくれてると言う訳だな。」
「ええ、そうなりますね。カンナは彼に興味を持ったらしく、話をすると言っていたので暫くは出て来ないでしょう。新たな情報を引っ張り出すつもりの様でしたし。」
「分かった。君達はどうするんだ?」
「俺達はギルドに戻ります。」
「分かった。・・・ミシェイル君、アイシャ君。君達の英断と活躍が事態の進展に大きな役割を果たしてくれた。騎士団を代表して礼を言わせて貰う。有り難う。」
「い・・・いや、とんでも無いです。」
「こちらこそ助けて頂いて有り難う御座います。」
慌てて頭を下げる2人にゼネテスは微笑む。
3人がギルドに到着したのは日も完全に沈み、夜の帳が完全に降りた頃だった。
ギルドの中に入るとウェストンとミレイが待ち受けていた。
「お、戻ったか。」
ウェストンが満面の笑みで寄って来る
「お帰りなさい、3人とも。」
ミレイも頬を上気させて後に続いてくる。
「戻りました。」
ミシェイルとアイシャは照れ臭そうに答える。
「本当に良くやってくれた。お前達のお陰で最速の対応を取る事が出来た。・・・2人ともDランク昇格だ。これからは1人前の冒険者としてガンガン仕事を振って行くからな。覚悟しとけよ。」
ウェストンが歯を剥き出して笑う。上機嫌の証だ。
「・・・」
「・・・」
対して2人の反応は戸惑う表情だった。
「どうした?嬉しくないのか?」
首を傾げるウェストンにミシェイルが尋ねた。
「本当に依頼達成なんでしょうか?シオンや沢山の人に手伝って貰っておきながら、胸を張って良いのか・・・」
ミレイが微笑む。
「ホントに君とシオン君は良く似ているわね。シオン君も最初の頃は良くそれを口にしたわね。」
「ミレイさん、俺のことはいいから・・・!」
シオンが慌ててミレイを窘めると、ミレイは「分かった分かった」とシオンを手で制する。
「あのねミシェイル君、アイシャちゃん。今までにも何回か話したけどね。ギルドが最も重要視するのは、依頼を任された冒険者がその依頼を達成させる為にどれだけ確実に最速の手段を取れるか、って所なの。その点を鑑みた時、今回の2人の行動は最上の出来と言っても良いものなのよ。」
「そう言う事だ。今回の見極めの判断は自信を持って良い。今後は如何に自分の力量を高めていけるかって所にも意識を持ってくれ。それは戦う力だけで無く、情報や人脈、そう言ったモノも含まれてくるって事だ。」
「・・・はい。」
「分かりました。」
漸く2人に笑顔が浮かぶ。
「あ・・・そうそうそれとね、Dランクになったからって依頼の相談は必ずしてね。勝手に飛び出してっちゃあダメよ。」
「?・・・はい、もちろんです。」
ミレイの言葉にミシェイルとアイシャが頷くと彼女は「よし」と頷いた。
「シオン君はDランクになった頃、勝手に依頼を受けて飛び出してった事があったから。」
「ああ・・・。」
彼女の言葉にシオンは思い出した様な表情になる。
「・・・あの時はメチャクチャ怒られたなぁ。」
「・・・ああ」
ウェストンも思い出した様だった。
「・・・ミレイは怒ると本当にオッカナイからなぁ。」
「ちょ・・・!?2人とも何を言ってるの!?・・・だ・・・大丈夫よ。ミシェイル君、アイシャちゃん。私、別に怖くないからね。ちょっと注意しただけ何だから。」
必死に2人に言い募るミレイの後ろでシオンとウェストンが首を振っている。
「だ・・・大丈夫だよ、ミレイさん。あたしミレイさんが優しい人だって知ってるよ。」
アイシャが慌ててフォローをいれる。
「ああ、アイシャちゃん!セシリーさんと言い、やっぱり素直な女の子って可愛いわ!」
「ムグッ」
抱き締められて呻くアイシャに構わずミレイはニコニコ顔でそう言った。
「さてと。」
ウェストンが2つのメダルを取り出す。
「Eランクまでは口頭で告げて記録に残すだけだったが、Dランクからはギルドマスターの手から冒険者の証が手渡される事になっている。」
細かな紋様の真ん中に「D」と刻まれたメダルが2人に手渡される。
「ミシェイル=ウラヌス、アイシャ=ロゼーヌ。君達2人を我がギルドのDランク冒険者に任命する。より一層の活躍を期待する。」
「「有り難う御座います。」」
ギルドに居た全員が2人に拍手を送る。
「おめでとう。ミシェイル、アイシャ。」
シオンの祝福の言葉に2人は微笑んだ。
「ああ。」
「ありがとう。」
ギルドの夜が賑やかに過ぎていく。




