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神の去った世界で  作者: ジョニー
第4章 邪教徒
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41話 カタコウム



 ミシェイルは抱きつくアイシャを優しく離して言う。


「アイシャ、助かったよ。有り難う。」


 アイシャの濡れた瞳がミシェイルを見上げる。が、その顔を見て表情を引き攣らせた。


「ミシェイル!・・・血が!」


 優しく自分を見つめるミシェイルの頭には血がこびり付いていた。


「ああ・・・もう血は止まっているし平気だ。」


「駄目だよ、座って!」


 アイシャはミシェイルを座らせると自分の背負い袋を下ろした。




 ミシェイルは黒髪の少年を見上げる。


「・・・シオン。」


「ミシェイル。」


 シオンは穏やかにミシェイルに笑いかけた。


「良く持たせたな。見事だった。・・・それに強くなった。」


 ミシェイルは様々な感情が綯い交ぜになった様な表情を浮かべたが、やがて嬉しそうに笑った。


「そうか・・・俺は強くなったか。」


「ああ、強くなった。」


 初めてシオンに認められた事がミシェイルには嬉しかった。




「俺が冒険者になった事、知ってたんだな。」


「ああ。」


 ミシェイルの言葉にシオンは頷いた。


「時々、ミレイさんからお前の様子を訊いていた。」


「そうか・・・。俺はお前が知っているなんて知らなかったよ。」


「俺が口止めしていたからな。」


 シオンの言葉にミシェイルは笑った。


「それと、今回の判断は見事だった。お前もこれでDランク冒険者・・・1人前だ。」


 シオンの言葉にミシェイルは訝し気な表情を見せる。


「え?・・・俺は依頼を失敗して・・・」


「まだ失敗してないよ、あたし達。」


 手当てを続けながらアイシャはミシェイルに言った。


「ウェストンさんもミレイさんも依頼は継続中だって言ってた。あたし達の依頼受注は未だ失敗していないんだよ。」


「ホントか?」


 ミシェイルはシオンを見上げる。


 そんなミシェイルにシオンは力強く頷いた。


「当然だ。今回のお前の判断を失敗扱いする様ならギルドの認定能力を疑う。」


「・・・そう・・・なのか。」


 ミシェイルはアイシャに視線を向けた。


 その視線を受けてアイシャは気恥ずかしそうに微笑んで言った。


「良かったね、ミシェイル。」


「!」


 堪らずミシェイルはアイシャを抱き締めた。


「ちょ・・・ミシェイル・・・!」


 アイシャは後ろのシオンをチラチラ見ながら真っ赤な顔で困った素振りを見せる。


 シオンは視線を逸らしながら


「アイシャ、俺は賊達と詰め所の中を見てくる。手当てが終わったら2人で来てくれ。」


と告げて歩き始める。


「う・・・うん、分かった。」




 魔術師達の死体に向かう途中でシオンは一瞬だけ視線を2人に向ける。その先ではアイシャが愛おしげな表情でミシェイルの背に手を回していた。


 シオンは微笑むと今度こそ調査対象へ足を向けた。


「・・・間に合って良かった。」


 少年は安堵した様に呟く。


 2人の前では冷静な振りをして見せていたが、心中では嵐が吹き荒れていたのだ。もしミシェイルが殺されでもしていたら彼は怒りに我を忘れ鬼神となって戦っていただろう。結果、致命的なミスを犯しそのミスにアイシャも巻き込んでしまったかも知れない。


 だがミシェイルが生きていてくれたお陰でシオンは冷静さを失わずに居られた。




 シオンはミシェイルが斬り斃した死体を丹念に調べた。アレが在る筈だ。そして彼は見つけた。


逆三角形を基調とした邪悪な紋章。御丁寧にペンダントにして彼等は身に付けていた。


『やはり邪教徒だったか』


 例の瘴気を操る魔法を使っている素振りが無かったのでシオンが対峙した王宮の邪教徒やバゼルよりは格が低い連中なのかも知れない。




 次に詰め所に足を踏み入れる。


 中は酷い有様だった。窓ガラスは割られ、何かが爆発したかの様に小物類が粉々に散乱している。壁や床、天井にまで細かな穴が無数に空いている。兵士の遺体も損傷しており、ギルドから聞いていた状況は確認出来ない。


『こうなってしまったら下手に触らない方が良いな。』


 シオンはそう考えると外に出た。




 丁度ミシェイルが手当てを終えて立ち上がったところだった。


「傷はどうだ?」


 シオンがアイシャに尋ねる。


「頭の傷はもう血が止まり始めてる。手足の傷は大丈夫そう。」


「そうか・・・。どうする?戻るか?このまま戻っても依頼の達成は間違い無いぞ。」


「いや。」


 ミシェイルは即座に頭を振った。


「遺跡を調査しよう。奴らの目的が何だったのか知りたい。」


「ミシェイル・・・うん、そうだね。」


 ミシェイルを心配気に見上げたアイシャだが直ぐに同意した。


「分かった。では、調査は騎士団が着いてからにしよう。其れまでミシェイルは身体を休めておけ。動かなければ血の止まりも早くなる。アイシャ、側で見ていてくれ。」


「分かった。」


「はい。」


 2人は頷く。




 騎士団は日も沈んだ頃に到着した。騎士20名、兵士30名、魔術院の魔術師が8名という予想以上の大きな部隊だった。指揮しているのは騎士団長のゼネテスだ。


「シオン殿、お待たせした。」


「ゼネテスさん、随分と大がかりな部隊ですね。それに団長殿が部隊指揮を執られるとは。」


「ギルドからの緊急通告で『邪教徒が関わっている可能性あり』と報告が在った上に兵士8名が殺害と在ってはね、大がかりにもなる。それと今回はカンナ殿にも同行して貰った。」


 ゼネテスはそう言うと馬の背に乗せていたカンナをヒョイと抱え下ろした。


「カンナ。」


 カンナはその双方の翠眸に不満気な色合いを乗せてシオンを見上げた。物の様に扱われた事に不満を感じているのか。


「まったく・・・人が寝ていたら突然、兵士が乱入してきて訳分からん事を言いながら同行を希望されて訳も分からん内に此処まで連れて来られた。シオン、説明しろ。どうなっている。」


 膨れっ面が幼児そのもので笑いを誘われたが、シオンは状況を説明した。




「なるほどな。大体は分かった。」


 ミシェイルとアイシャにカンナを紹介し、2人からも状況説明を受けてカンナは頷いた。


「まあ、待っていて正解だな。相手が魔術師なら魔法対策無しに事を構えるのは自殺行為だ。」


 カンナは少し思案し始める。




 周囲ではゼネテスを中心に騎士団の一行が邪教徒達の死体や詰め所を中心に調査を開始している。


「今後どうするかは調査結果次第だな。」


 カンナは欠伸をしながら話を締め括った。




 調査は深夜に達した。


 調査の結果、詰め所内から、魔術の魔力痕の他にケイオスマジックに使用される呪力痕も見つかったらしい。


 殺害された兵士達は外からケイオスマジックの1つと言われる『眠り』の魔法を使われた後に殺害されたようだ。


また魔術師の正体は邪教徒である事も確認される。更に魔術師の身体には魔紋が刻まれており是れが邪教徒達の連絡手段などに使われているのでは無いかと報告された。


だが、残念ながら邪教徒のアジトの場所に繋がる証拠は見つけられなかった。




「残るは遺跡内部の調査だな。」


 ゼネテスが遺跡入り口を見遣りながら呟く。


「シオン殿、何か案はあるか?」


 ゼネテスはシオンに意見を求める。


「遺跡内部の状態がどうなっているか判断出来ない以上、大勢で入るのはリスクが大きい。メンバーを定め、夜明けと共に突入するべきでしょう。」


「分かった。メンバーは?」


「ミシェイルとアイシャ。其れに俺とカンナも行きます。騎士団のメンバーは選出をお願いします。」


「分かった。」


 ゼネテスは頷く。




 そして選出されたメンバー全員で、遺跡内部の既にクリアリングされている場所を内部地図にて確認しながら編成を確認していく。


「俺とミシェイルが先頭を務めます。後ろに魔術支援のカンナとシューターのアイシャ。騎士団の皆さんはカンナとアイシャの左右と殿に就いて下さい。」


 選出された4人の騎士が頷く。


「では、全員に是れを配っておこうかな。」


 カンナは小さなポシェットをゴソゴソと漁ると中から人数分の小さい水晶を取りだした。


「是れを身に付けておいてくれ。魔法による浸食や攻撃を多少だが和らげてくれる。」


 そう言いながら1人1人に配って回る。


「シオンはペンダントが在るから無しだ。」


「ああ。」


 魔法付与の道具など受け取る機会の少ないミシェイル達は興味深そうに火に透かして見たりしている。




 夜明け。


突入メンバーは短い睡眠から目覚めると出発の準備を整えて遺跡内部に侵入した。




 1階内部から探索して行く。探索目的が邪教徒の目的の確認である以上、新エリア開拓は二の次である為、全てを探索して行く必要がある。


 1階に異常は見受けられず、一行は地下1階に潜り込んでいく。


地下1階からは湿った土の臭いと共に、所々、壁面から骨のような物が覗くようになった。


「・・・この遺跡は元々はカタコウムだった様だな。」


「カタコウム?」


 アイシャが尋ねるとカンナは頷いた。


「地下墓地の事さ。昔、この辺りは死者を地下に埋葬していた様だな。」


「道理で入り組んでいる筈だ。」


 ミシェイルが口を挟む。


「そうだな。そして邪教徒が何かを企むなら確かに都合の良い場所かも知れん。カタコウムなら様々な死者の思念が渦巻いていてもおかしくは無いからな。」




 地下2階。


此処からは未知の領域だ。




 そして一歩を踏み出した途端にカンナが足を止める。


「どうした、カンナ?」


「・・・だいぶ激しい戦闘が在った様だな。」


「何・・・?」


「かなりの魔力痕が残っている。・・・なる程、探索が上の階で止まっていたのは、ここに巣喰っていた魔物か何かのせいだった様だな。」


 カンナは納得した様に通路の先を見る。


「つまり、今、それが居ないと言うことは・・・」


「邪教徒共が其奴らを払ってくれたんだろうな。ご苦労な事さ。」


 アイシャが考えながら口を開く。


「じゃあ、あたしが見張っていた時に入り口から1人出て行って、ミシェイルが7人の邪教徒に見つかったって言うのは・・・」


「戦力補充したんだろうよ。召喚したのか元々待機して居たのかは分からんがな。」


「或いはアジトが意外と近くに在るか・・・」


 ミシェイルが呟く。


 アイシャが邪教徒を確認してから戻って来るまでに2刻と掛かっていない。


「その可能性も在るな。」


 カンナが頷くと、シオンが騎士を見て言った。


「何方か1人戻って団長殿に今の話を伝えて貰えませんか?・・・もしかすると邪教徒のアジトが近くに在るかも知れないと。」


 其れを受けて騎士の1人が来た道を引き返していく。




 地下2階を悉に調べて回った。


が、何も発見出来なかった。魔物すらも居ない。


「・・・何も無いな。」


 ミシェイルが呟く。


「少し待ってろ。」


 カンナはポシェットに入っていた水晶をゴロゴロと地面に転がすとそれらを10個選び円状に並べた。


そして、そこに屈むと魔力を燃焼させ始める。


『旧き海燕の御霊を以て微睡みし灰老よ目覚め給え。その息吹を彼の地へ届けよ・・・」


 カンナの詠唱と共に10個の水晶が光りの線で結ばれ、円の中に星を2つ重ねた様な魔方陣できあがる。


『・・・アンリミテッド』


 魔法が唱え終わると魔方陣を中心に光りが溢れ、地下2階全体を覆って行く。




 光が収まると、カンナは立ち上がって言った。


「さて、もう1回調べて回ろうか。魔法で隠された物が在れば剥き出しになっている筈だ。」




 はたして、一行は先ほどは発見出来なかった簡素な木製の扉を発見した。


「この先に何か在るな。臭いがプンプンする。」


 カンナの言葉に全員が武器を構え直す。




 シオンが扉を開けた――。







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