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神の去った世界で  作者: ジョニー
第4章 邪教徒
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40話 覚悟



「ミレイさん!」


 アイシャはギルドに飛び込むなり叫んだ。


 ミレイが驚いた顔でアイシャを見ている。アイシャが彼女に近付くとミレイは声を出す。


「アイシャちゃん、ど・・・どうしたの?随分と早いわね・・・ミシェイル君は?」




 アイシャは事情を話す。


ミシェイルが告げてくれと言った内容を話し、自分が見張りの最中に見た事も話す。


「・・・あたしが見張っているときに黒ずくめの男が1人出てきたんです。こちらには気付いてなかったけど、多分犯人だと思います。」


「黒ずくめ・・・?・・・ひょっとしてソレは黒いローブでは無かった?」


「ローブ・・・そうです。ローブです。とても嫌な感じの男でした。」




 ミレイの表情が曇った。


「ちょっと待っててね。」


 ミレイは奥に走って行くと、直ぐにウェストンを連れて戻って来た。


「面倒に巻き込まれたみたいだな。」


 アイシャが頭を下げる。


「依頼を失敗してごめんなさい。でも何とかして下さい。現場に未だミシェイルが待っているんです。彼を助けなきゃ。」


 それを聞いて2人は一瞬呆けた顔をした。


「失敗?・・・馬鹿言うな。上出来の判断だ。」


「え?」


 ウェストンの言葉にアイシャが首を傾げる。ミレイが微笑んでアイシャに説明をした。


「依頼は継続中よ。自分達の手には負えないと判断して直ぐにギルドの判断を仰ぎに戻ってきた。1人前の冒険者に求められる重要な素養の1つよ。貴方たちは見事に其の素養を見せてくれたわ。」


「まだ・・・終わってない・・・」


「ええ、終わってないわ。」


 アイシャは腰が抜けたようにペタンと座り込んだ。


「良かった・・・」


 2人は一瞬微笑むと直ぐに表情を戻した。


「ミレイ、直ぐに適当な冒険者を見繕ってミシェイルの加勢に向かわせろ。」


「分かりました。」


「俺は直ぐに国に報告を上げる。兵士が8人も殺されたんだ。騎士団が動く事になるだろう。」


「はい。では加勢にはシオンを向かわせます。」


「それでいい。」


 2人に急かされてアイシャは立ち上がった。




 暫しの休憩を命令されてソレに従ったあとアイシャがセルディナ大正門前に行くと、シオンが待っていた。


「アイシャ、久し振りだな。」


 変わらぬ笑顔をシオンはアイシャに向けた。


「シオン・・・久し振りだね。」


 アイシャも笑顔を返した。


 様々な感情が滲み出てくる。でも、もう以前の様なときめくような感情は無い。


今、シオンに抱くのは共に冒険に出られる喜びと頼もしさと先を歩く者への憧憬だ。




 シオンは馬を2頭用意していた。


「あれ?あたし、馬は用意しているよ?」


「その馬は疲れて居るだろう?この2頭はギルドが用意した早馬だ。こっちで行こう。」


「分かった。」


 アイシャは頷く。


 シオンはアイシャの乗ってきた馬を大正門警備の兵士に預けて、1頭をアイシャに渡した。




 シオンを先頭に2騎はペールストーンの丘を疾走する。


現地まで2刻程を要するとするなら日が暮れる前には到着出来る筈だ。


 途中、馬を休憩させる時間を取り、その間に2人も体力の回復を図った。


「やっぱりアイシャも冒険者になっていたか。」


 シオンが言うとアイシャは照れ臭そうに頷いた。


「うん。シオンはミシェイルが冒険者をしている事を知っていたんだね。」


「最初は知らなかった。予想はしていたけどね。ミレイさんから話を聴いて知ったのさ。」


「そっか・・・」


 教えて欲しかった、とは思わない。シオンは多分、最初はミシェイル1人の力で冒険をさせたかったんだろう。


 そんなシオンはミシェイルをどう思っているんだろう。


「シオンから見てミシェイルは・・・どう?」


 シオンは水筒を仕舞いながら答える。


「駄目だと思ったら焚き付けたりなんてしないさ。あいつの剣のセンスは俺と同じかそれ以上だ。それに人の意見を聴く素直さもある。Fランクは軽々とクリア出来ると思ったよ。」


「そっか。」


 アイシャは嬉しくなって微笑んだ。


 そんな彼女を見てシオンも微笑む。


「さあ、ミシェイルを助けに行こう。」


「うん。」


 2人は再び馬上の人となって遺跡を目指し始める。






『あれは・・・アイシャが言っていた黒ずくめの男か・・・』


詰め所の入り口から外を見張るミシェイルは戻って来た複数の男達の様子を伺った。


『アイシャの話では1人しか見ていないと言っていた。・・・連れてきたのか。』


 男達が何者で何が目的なのかは見当が付かない。が、どう見ても友好的な相手では無い。


 このまま連中が遺跡に入るなり立ち去るなりを待つしか無い。




『ん?』


 ミシェイルは男達の様子が変わった事に気付き緊張を強めた。


 何やら騒いでいるようだ。


『何か起こったのか?』


 少し大きく覗き込む。




 トンッ!


「!?」


 ミシェイルの直ぐ横の木壁にナイフが突き刺さる。


 男達が騒ぎながらこちらを指差している。


『バレた!・・・何故だ!?』


 ミシェイルは何故見つかったのか理由が解らなかったが、とにかく応戦しなくては此所に雪崩れ込まれてしまう。


 ミシェイルは投擲用のナイフを構える。




 男達は詰め所に攻め入ろうと入り口に繋がる階段を目指して走り寄ってくる。


その先頭の男を目掛けてミシェイルはナイフを投げた。


投擲用のナイフは持ち手の柄の部分よりも刃の方が大きく重く作られており投擲に適した造りになっている。


 ナイフはクルクルと回りながら先頭の男の首下に吸い込まれた。


「グッ」


 男はくぐもった声を上げて仰け反り、血をまき散らしながら斃れる。




 残りの男達はソレを見て散開した。


全員がミシェイルのいる入り口から死角になる場所に身を潜める。取り敢えずはこれで良い。敵にこちらにも応戦手段が在ると分からせれば迂闊に近付いては来ない。


 時間さえ稼げれば、アイシャが何人かは増援を連れてきてくれる筈だ。




 問題は敵が遮二無二に突っ込んで来た場合だ。


敵にしたら相手が何人居るか分からないのだから無謀な手段の筈。だから其れはして来ないだろうが、実はミシェイルにはそうされる事が一番恐い。




 投擲ナイフは残り3本。敵は確認した限りでは残り6人。全員を斃せる数は無い。1本たりとも外せない。外せば、それだけ最後に起こるであろう乱戦で不利になっていく。可能な限りこのナイフで数を減らしたかった。




 暫くの膠着状態。




『ガチャンッ』


「!」


 ミシェイルは咄嗟に割られた窓ガラスの方を振り返った。


『・・・石?』


 窓ガラスを突き破って投げ込まれたのは小さな石だった。ただ、普通の石と違うのは青白い光を点滅させている事だ。


「!」


 ミシェイルは咄嗟に兵士の遺体の側に転がっていた革製の盾を拾い構えた。革製とは言っても中には分厚い木板が入っておりそれなりの防御力を持つ。


「ボンッ」


 石が炸裂した。石つぶてが高速で襲いかかる。


「・・・」


 衝撃が収まるとミシェイルはボロボロの盾を見た。表面の鞣革は破れ、中の木板が見えている。


「クソッ、結構な威力が在りやがる。魔法か何かか?」




『ガチャンッ』


 さらに同じ石が複数個投げ込まれてきた。


『あんな数・・・!』


 ミシェイルは近くの机と椅子の影に跳んだ。同時に爆発が起こる。


四方八方に石つぶての散弾が吹き荒れる。


「・・・」


 ミシェイルは状況を確認しようと爆発の収まった室内を見渡した。しかし。


「痛ッ」


 頭を襲った激痛に顔を顰めた。


 ミシェイルの黄金の髪を伝って血が流れ落ちている。礫の1つが頭を掠めた様だ。目の前が一瞬クラリと揺れる。気が付けば腕と脚にも傷を負っている。




 更には外から男達の声が聞こえてくる。


「今だ!」


「乗り込め!」


「殺せ!」




『マズいな』


 今や絶体絶命だ。この状態で6人に雪崩れ込まれたら死ぬ可能性は高い。




『・・・アイシャ』


 ミシェイルは愛しい少女の笑顔を思い浮かべる。


『こんな所で死ねるか。』


 ミシェイルは入り口に駆け寄ると投げナイフを構え外を伺った。




 男達は全員姿を見せて居た。2人が魔法の詠唱をしており、残り4人が階段へ駆け寄ろうとしている。


 あいつらやっぱり魔術師か!


「チッ」


 ミシェイルは再度ナイフを投げる。が、先頭の男に届く寸前


『バチンッ』


と障壁の様な物に弾かれてナイフは地に落ちる。


「!!」


 先頭の男の障壁は砕かれた様だが、他の魔術師達が手にした長剣を持って近付いて来ている。動きを見るだけで手練れの剣士だと分かる。


 ミシェイルは残りの2本を魔法の詠唱をしている男達に投げ付けるが、全員が障壁を展開していたらしく2本とも障壁に弾かれた。




「参ったな・・・」


 ミシェイルは薄く笑った。


 この状態で流石に6人を相手にするのは厳しい。


「アイシャが居なくて良かった・・・」


 ミシェイルは呟くと剣を引き抜いた。




 冒険者として、戦士として。戦って死ぬ事を覚悟する。




「アイシャ、幸せになってくれ。」


 ミシェイルは剣を握り締めた。






 その時2騎の騎影が草むらから飛び出した。


 金色のポニーテールを靡かせた少女は手綱を離して弓を構えると矢を放った。矢は寸分違わず魔法を唱えている男の1人の後頭部を正確に撃ち抜いた。


 続けて隣の騎馬に乗った黒髪の少年がもう1人を射斃す。更に少年はミシェイルに迫っていた男の首をも撃ち抜いた。恐るべき技量だ。




『シオン!』


 ミシェイルは驚いた。そして希望が噴き出す。


 ミシェイルは入り口から飛び出した。思わぬ弓の伏兵に驚愕していた男達の1人を斬り倒す。


「カーッ」


 人とは思えないような威嚇音を口から放つと残った2人の男達は何かに取り憑かれたかの様な凄まじい形相でミシェイルに斬り掛かった。


 ミシェイルは振り下ろされる剣を巧みに避けると、左手で隠し持っていたダガーを投げる。


「!」


 1人目が咄嗟に避けるが2人目は投擲されたダガーに気付かず、まともに腕にダガーの1撃を受けて動きが止まった。


 その間にも1人目の男はミシェイルと斬り合うが強引な突きがミスとなった。ミシェイルは突きを躱すとガラ空きになった首に必殺の1撃を叩き込む。残った男も狂った様にミシェイルに斬り掛かり返り討ちに合う。




「ハァ・・・ハァ・・・」


 ミシェイルは剣を握ったまま立ち尽くしていた。




「ミシェイル!!」


 馬から飛び降りたアイシャが叫んでミシェイルに飛びついた。




 ミシェイルは愛しい少女のその細い身体を抱き留めた。







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もし「此所が分からない」「こうして欲しい」などがあれば感想欄にご意見下さい。


これからも楽しんで頂ければ嬉しいです。

よろしくお願いいたします。

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