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神の去った世界で  作者: ジョニー
第4章 邪教徒
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36話 断罪 2



 断罪の幕は未だ下りない。


レオナルドの声が謁見の間に静かに響く。


「・・・この者達の所業に依って何が問題となったか。公国の税収自体は問題無く国庫に納まっている。しかし肝心の流通はどうなっているか。厳しい税収に喘ぎ自分達の食い扶持すら残らぬ状況下で民達が満足な仕事も出来る筈は無く、農産物や鉱物資源、雑貨品や工芸品などの品質及び生産量が10年前と比較して著しく衰えていた。此れをを誤魔化す為に更に過酷な強制労働を強いていた。更にはあろうことか奴隷拳闘のような殺し合いを強要したり、娘を拐かし暴行を加え命を奪う真似等もしていたそうだ。」




 ――それでは廃止されている『奴隷制度』そのものではないか。


貴族達の視線に更に怒気が加わっていく。




「・・・結果、たくさんの民が命を失い、逃亡し、領地間の交易が閉ざされた。商人とて商売にならない土地には出向くまい。当然だな。故にこの愚か者達が治める領地と貴公等が治める領地とに埋め難い経済格差が生じている。」


 レオナルドは1度言葉を切り、忠実な貴族達を見遣った。


「貴公等は、余が1番憂慮している事が何か解るか?・・・それは『気持ちの格差』だ。」


「気持ちの格差でございますか?」


「そうだ。虐げられる事、働いても稼げぬ事、これらに慣れてしまうと人は上を目指せなくなる。働いても見返りが無いなら頑張る気持ちも無くなる。当然だな、これを誰も責められまい。従って前に向かって進むといった活力は皆無となる。・・・一方で貴公等の領民達は真っ当な生活を得られていく事で上昇志向を持って日々に臨む。従って活力が生まれ、今の貴公等の領地の繁栄に繋がっている。」




 レオナルドは再び貴族至上主義者に視線を戻した。


「この気持ちの格差が決定的に埋め難い差になった時、この者共の治める地からは民が居なくなるだろう。そして廃墟の町が生まれる。・・・解るか?それは国土に空白地を作るという事であり、大いに国土を損ねるという意味だ!」


 レオナルドは初めて怒声を上げた。




 近年、そんな感情を露わにする事の無かった公王の怒声に、広間に居た全員が身を震わせる。自分は対象から漏れたと安堵していたアデルでさえもビクリと表情を引き攣らせた。




「国土を損なう事・・・これは国家反逆の大罪であり、余は此れを断ずるに辺り一切の情けも加えるつもりは無いと覚悟致せ。」


 その公王の苛烈な視線に貴族至上主義者の視線はアデルに注がれた。


これ程の怒りを買っては死罪は免れない。ここは自分達の盟主であるセロ公爵家の威光を以て王の温情を勝ち取って頂きたい。




 アデルは当然、その視線を感じ取っていた。・・・しかし彼は黙殺した。失敗した者達等に用は無い。理想を共にする者が消えるのは惜しいが自分に被害が及んでは元も子も無い。公爵たる自分の足を引っ張る者達など不要なのだ。




「!」


 貴族至上主義者達はこの窮地に於いて関係を切られた事に愕然となった。




「セロ公爵。」


「はい。」


 レオナルドの呼び掛けにアデルは返答する。


「筆頭貴族である貴公の考えを聴こうか。」


「はい、事が此処まで明白で在れば断罪は止むなしかと。」


「うむ。貴公もそう思うか。」


「はい。」


「分かった。」


 頷く公王に悲痛な叫びが上がった。


「「「へ・・・陛下!!」」」


「黙らぬか!!」


 貴族至上主義者達が堪らずに上げた声をアデルは遮った。


「陛下のお許しも無く発言しようとは、この痴れ者共めが!罪人は大人しく俯いておれ!」




 元々、弱者を踏みにじる事に愉悦を感じる男である。その本性の前に嘗ての同士など関係無く、その表情には嗜虐的な嗤いが浮かんでいた。


 また切り捨てられた側も、我が儘一杯に育ち、極端に自我を増大させ、著しく自省心を欠いた者達である。悪事も自分達が行う場合は正義の行いであり利益を受けるのは当然だが、自分達が被害を受ける場合は許し難い悪事であり絶対に受け入れられない者達である。


 そんな二者が燃え上がらせた憎悪の炎は醜悪の極みであった。




「・・・見るが良い。斯くも浅ましい者達の姿を。」


 レオナルドは言葉無く事態を見守る貴族達に言った。


「彼の者達は貴族至上主義の名の下に、己を省みる事をせず、戒める事も無く、欲望の儘に生きてきた者達だ。そして今、あっさりと盟主に切り捨てられた。」


「へ・・・陛下・・・?」


 レオナルドの言葉に不安を感じたアデルが何か尋ねようとするのを公王は手で遮り、侍従経由でアデルに書類の束を渡した。




「こ・・・これは・・・!?」


 アデルは愕然となった。


 裏帳簿は公爵自慢の魔封金庫に隠していた筈だった。開くには解錠の魔法と執事が保管する専用の鍵が必要な筈なのに何故。


「貴公も全く同じ事をしている様だな。」


「これは一体・・・!?」


「申し開きはあるか?」


 アデルの疑問など意に介さず、レオナルドは反論の意の有無を確認する。


「これは筆頭貴族たる私を貶めんとする何者かの策略に御座います。私には身に覚えが無いこと故、全くの無関係に御座・・・」


「陛下!申し上げます!」


 切り捨てられたグライオ伯爵が声を張り上げる。


「そこに書かれている事が我々と同じ内容で在れば事実に御座います!」


「グライオ、貴様!!」


「我々はセロ公爵の悪事の様々に協力を強要されました。その証拠も我が屋敷に残されております!むしろ、我々はセロ公爵に脅されてこの様な悪事に手を染めざるを得なかったので御座います!」


「さ・・・左様に御座います!グライオ伯爵の仰るとおりに御座います!」


 グライオの進言に貴族至上主義者達は九死に一生の想いで乗っかった。


「き・・・貴様等・・・ヌケヌケと・・・」


 アデルは歯ぎしりをして嘗ての同士を睨め付けたが、『ヌケヌケと』はお互い様である。


切り捨てた筈の者達に切り捨てられ、アデルは憤死寸前であった。




 レオナルドは頷いた。


「ふむ。証言も多いようだが・・・公爵?」


「全く身に憶え無きこと。その者達の言こそ真実を惑わす虚言に御座いますれば、陛下に於かれましては、この不届き者共に正義の鉄槌を下されん事を切に願うばかりに御座います。」


 アデルは敢くまでもシラを切る。




「フフフ。足掻くものよ。」


 レオナルドは不敵に笑った。そして一枚の紙片を手にしてアデルに見せる。


「では、是れを何と申し開く?」


 それは逆三角形を基調とした紋章だった。


「・・・!!」


 アデルは今度こそ驚愕した。


 何故、あの忌まわしき邪教の紋章をレオナルドが持っているのか。顔面を蒼白にし声を失うアデルにレオナルドは侮蔑の視線を投げつける。


「これは余が最初に話した邪教・オディス教の紋章だな。これが何故、貴公の邸宅に届くのだ?」


 貴族達が響めいた。


「邪教だと!?」


「セロ公爵が邪教と繋がっていたとは。」


 そのざわめきにアデルは立ち上がって叫んだ。


「し・・・知らん!儂は何も・・・」


「まだ、シラを切るか!!!」


 レオナルドが吠えた。


 温厚な公王の大地を割らんばかりの咆吼にアデルは仰け反った。


「連れて参れ!!」


 レオナルドの声に袖幕からアスタルトとブリヤンが1人の男を引き摺って出て来た。


「おお・・・殿下。」


「御無事で!」


 安堵の響めきが広がる。


 その貴族達の声にアスタルトは力強い笑顔で応える。そして引き摺ってきた男を公王の前に突き出した。




 レオナルドは改めて全員を見渡した。


「この男の名はバゼル。ワイセラ子爵の息子にして邪教の信徒だ。そして、我が娘シャルロットを害そうとした痴れ者よ。」


「姫殿下を!?」


「邪教徒だと!?」


 次々と明かされる忌まわしい事実に貴族達の怒りは爆発寸前であった。


「そして、この男が公爵と邪教の間を取り持っていた事を全て白状した。」


 バゼルは怯え項垂れアデルの顔を見ようともしない。


「馬鹿な・・・こんな馬鹿な事が・・・」


 アデルは虚ろな双眸で立ち上がるとレオナルドにヨロヨロと歩み寄る。




「!」


 アスタルトとブリヤンがレオナルドを守る様に立ち塞がり更にその前をロイヤルガードが固める。


「儂は・・・儂は・・・この国の王になるのだ・・・神に選ばれし高貴なる・・・」


 もはや正気とは言えそうに無い。


公爵の視線が公王を捕らえる。途端にアデルは吠えた。


「レオナルドーッ!!」


「・・・」


 公王は無言でアスタルト達を押し分けるとアデルの前に立った。




 拳が高々と振り上げられる。


『グシャ』


 嫌な音が響き渡り公王の剛拳がアデルを吹き飛ばした。




 泡を吹いて動かないアデルに一瞥を投げると、レオナルドは玉座に戻った。


「この者達を連れていけ。」


 周囲に立っていた騎士達が罪人達を連れていく。




「さて、一先ずの型は着いた。貴公等には無駄な心配を掛けたな。・・・これも全て余の不徳の成した事。許せ。」


 急激な展開に呆然としていた貴族達は、態度を整えると一礼を返す。


「彼の者達の処遇についてだが全員に死罰を課す。一族の者は死罰、或いは公国を追放する。その上で領地は没収し家は取り潰し、領地は王家預りの直轄地とする。」


 レオナルドは誠実な貴族達を見た。


「貴公等に協力を頼む事もあろう。その時には宜しく頼む。」


「畏まりました。」




 こうして断罪の幕は下ろされた。




 ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆




「一旦の決着を迎えられました事、真に重畳に御座います。」


 ブリヤンは頭を下げて敬意を示す。


 レオナルドは頷いた。


「全てはお前の集めてくれた資料のお陰だ。長年に渡る情報収集と裏に徹しての指揮に感謝する。褒美は存分に取らす。それとバゼル捕獲に尽力したセシリー嬢と冒険者のシオンにも褒美を取らせよう。」


「ご厚情、有り難く頂戴致します。」


 ブリヤンは一礼した。




「さて、これからの事だがブリヤン殿。」


 アスタルトの声にブリヤンは公太子を見た。


「宮廷内の大掃除も取り敢えずは終わった。本格的に邪教徒共への対策を講じねばならん。」


「はい。其れにつきましては後日にカンナ殿を中心に先日のメンバーも交えて具体策を講じたいと考えて居ります。」


「そうだな。その時は陛下か私も呼んで欲しい。」


「畏まりました。」


 ブリヤンの返答にアスタルトは頷く。




「それと、陛下及び殿下にお許し戴きたい事が在るのですが。」


「何なりと申せ。」


 レオナルドの許可を得てブリヤンは以前から思案していた件を口にする。


「これからの邪教徒対策もそうですが、今後、この様な王宮騎士のみでは解決が困難な事態も起こりうると想定できます。その様な時、シオンやマリー殿、現在はマスターですが嘗てのAランク冒険者であるウェストンのような手練れの冒険者の手助けは必ず必要になって来るでしょう。そして彼等を育てたのは間違い無く、過去、或いは現在の冒険者ギルドです。」


「そうだな。」


「現在、アカデミーのカリキュラムに冒険者ギルドを介入させる事は禁じられて居りますが、これの撤廃をお願いしたいのです。」


「良かろう。」


 レオナルドはあっさりと頷いた。


「・・・宜しいのですか?」


「無論、全面的にとは行かぬ。素行不良の冒険者を数多く抱えるギルドも多いと聞く。故にお前が各所のギルドマスターと直接の面談を行い良しとしたギルドのみの介入を許す。調整は任せる。」


「有り難う御座います。・・・それに関連しましてもう1つ。」


「なんだ?」


「現アカデミーの副学園長であるレーンハイム卿についてですが、彼を学園長に任命致したくお願い申し上げます。」




 アスタルトが微妙な顔つきになる。


「しかし、彼は性格的に向かないのでは無いか?」


 ブリヤンはアスタルトの懸念に首肯する。


「はい。確かに以前の彼ならば殿下の仰られる通りに御座います。しかし現在は問題御座いません。」


「変わったと?」


「はい。シオン=リオネイルに看過されたのでしょう。今、彼はクビに為る事を覚悟でギルドの特別講義をアカデミーの特別カリキュラムに取り込もうとして居ります。他にも武術科と魔術科の意見交換の時間を作ろうと動いています。」


「随分と思い切った事をしているな。」


「はい。私も彼にそう告げたら『こんな事をしてしまったら、自分が副学園長で居られるのも持って1年でしょうな。それでも若者に何かを残してやりたい。』と笑って居りました。」


「・・・」


「正直、其処までの覚悟を持った者を燻らせて去らせるのは余りにも惜しい。故に彼を上に押し上げたい。何、彼がまた悪い虫に突かれる様でしたら私が渇を入れ直します故に。」


 アスタルトは意外そうな表情だった。


「彼がそんな覚悟をしているとは・・・」


「人は変われるものです。殿下。」


 ブリヤンの言葉にレオナルドが頷いた。


「良かろう。レオナルドⅣ世の名に於いて許す。」


「感謝致します。」




 ブリヤンは静かに頭を下げた。









いつも読んで頂き有り難う御座います。

もし気に入って頂ける様でしたら☆の評価にチェックを入れて頂けたら嬉しく思います。

今後とも宜しくお願い致します。


2/1


誤字の指摘を頂きました。


早速、適用させて頂きました。


誤字についてはお恥ずかしい限りですが、逆にしっかりと読んで下さっている事に嬉しさを感じてしまいます。

精進致しますので長くお付き合い頂ければと思います。

有り難う御座います。

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