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神の去った世界で  作者: ジョニー
第4章 邪教徒
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34話 魔女



 既に会議室には公王を初めとして居残りのメンバーが入っていた。


「父上、お待たせして申し訳在りません。」


 アスタルトが遅刻を詫びるとレオナルドは鷹揚に頷いた。


「構わぬ。其方達こそ帰還早々で疲れても居ようが、結果の報告を頼む。」


 全員が一礼して着席した。


 アスタルトが口を開く。


「父上、先ずは前回のメンバーに加えて新メンバーをご紹介させて頂きます。冒険者ギルドマスターのウェストン殿と元魔術院の魔術師にて現ギルド受付嬢のミレイ殿です。」


「おお、其方達がギルドのメンバーか。私がレオナルドだ。」


 公王の言葉にウェストンとミレイは慌てて立ち上がり頭を下げた。


「ギルドマスターを務めております。ウェストン=ルナークです。」


「受付嬢のミレイ=クロリスです。」


「うむ。ウェストン殿は嘗ては一流の冒険者であったと聞く。マリー殿とパーティを組んだ事も在るとか。今回の件では其方達の働きにも期待している。」


「は。全力で事に当たらせて頂きます。」




 カンナがジッとシオンを見る。


「どうした、カンナ?」


「・・・ルーシーは起きないか?」


「・・・ああ。マリーさんのお陰で体調は戻っているみたいだが、目は覚ましていない。」


「そうか・・・。出来れば直接に此所で話をして貰いたかったんだがな。まあ良い。」


 カンナの呟きを耳にしてブリヤンが騎士を呼び寄せ耳打ちする。




「では、報告を聞こう。」


 レオナルドの言葉に全員が頭を下げ、アスタルトを主導役にシオンとセシリーが話を始めた。




「では、邪教徒共は神殿には居なかったのだな?」


「はい。神殿地下で現れた化け物以外は居りませんでした。」


 レオナルドの確認にシオンが答える。


 そしてセシリーが後を継ぐ。


「陛下。ただ、一緒に同行したルーシーが、神殿に入る前に何かに『呑まれる』と警戒しておりました。」


「呑まれる?何にだ?」


「本人にもはっきりとは判らない様でした。ですが恐らくは神殿地下の像に起因する何かではないかとシオンと私は推察しています。」


「ふむ。」


 レオナルドはカンナを見遣った。


「カンナ嬢、像の様子についてはどう見る?」


 カンナはレオナルドに一礼を返すとシオンを見て口を開いた。


「女性像の至る所に顔が浮かんでいた、と言っていたな。」


「ああ。まあ、浮かび上がったように見えただけで実際は最初から彫り上げられたモノだろうが。」


 シオンの答えにカンナは首を振った。


「いや、それは間違い無く『浮かび上がった』モノだろう。」


「何故そう言い切れる?」


 返された問い掛けにカンナは全員を見た。




「前にも言った通り、私は伝導者の記憶を辿って過去を覗いた。今回シオン達に神殿へ行けと言ったのは、察しも着くだろうが伝導者の記憶にグゼ神殿が出てきたからだ。時期で言えば400年程前になるかな。」


「建国間もない頃だな。」


 ブリヤンが呟く。


「その伝導者は神殿に怪し気な一団・・・まあ邪教徒だが、ソレを見かけてな。興味本位で潜入した訳さ。」


「よく、そんな危険な事を・・・」


 セシリーが言うとカンナは肩を竦めた。


「何、大した事じゃ無いさ。伝導者には力が授けられていてな。姿も気配も完全に隠せる技が在るから万が一にも邪教徒如きに気付かれる事は無い。ほら、塔でセシリー達に出会った時もお前達は最初は私の存在に気付かなかったろ?アレだよ。」


 あ、そう言えば・・・とセシリーは思い出す。




「それで、その伝導者が地下の大聖堂で見た像の姿は普通の女性像だったんだ。そして其所で伝導者は邪教徒の話を聞く事になる。


『この像に呪いが溜まり終焉の姿に変わる時、我等の女神が奈落から這い出し恵みの平原をもたらす』


と、そんな事を言っていた。」


カンナの話にミレイが口を開いた。


「終焉の姿と言うのは魔術院の禁忌の物語に出てくる言葉ですね。」


「ほう。」


 カンナは興味深そうにミレイを見る。


「混沌期、地上に溢れる災厄を滅ぼしていった天央12神の戦記に凶悪な魔女達の存在が描かれています。彼女達は12神との激しい戦いの中で幾度も姿を変えて行き、最期には全ての魔女達が1つの身体に集まり戦ったそうです。災厄の時代の最後まで戦い抜いた彼女達は、やがて敗れます。その最期の姿をして混沌期の終焉を12神は宣言したと言われています。」


「その魔女達の姿が終焉の姿か。なるほどな。」


 カンナは思案する。




「良くないな。」


彼女は呟いた。


「シオン達が見た像の姿は、今の話を聞く限りでは終焉の姿にかなり近付いていると言えそうだ。しかし、対処しようにも這い出ると言うその奈落の場所が判らん。更に言えば恵みの平原が何を意味するかも判らん。」


 ふう、と息を吐いてカンナは背もたれに身を預けた。


「・・・もう1度、記憶を辿るしか無いか。」


 疲れた表情でカンナが呟いた時、扉がノックされた。




 騎士が扉を開けると、女官が立っており頭を下げた。


「ルーシー様がお目覚めになりました。」


 全員がレオナルドを見る。


「ルーシー嬢は動けそうか?」


 公王の問いに女官は頷く。


「はい。会議に出られるか尋ねましたところ、参加したいとの申し出を頂きました。」


「うむ。では連れて参れ。」


「畏まりました。」


 女官が頭を下げ、扉は閉じられた。




「目を覚ましたか。」


カンナは目を瞑る。


記憶を辿る旅の中でカンナは気に掛かる女性を何人か観ていた。彼女達にルーシーは似ている。


『まあ、今は1つ1つ片付けよう』




 やがてルーシーは会議の間に姿を見せた。


シオンの隣に座っていたウェストンが椅子をずらしてスペースを作りルーシーはそこに収まった。


「皆さん、ご迷惑をお掛けしました。」


 ルーシーが頭を下げるとアスタルトが頷く。


「いや、詫びなどは不要だ。君の活躍はかなりのモノだと聞いている。無事に目を覚ましてくれて良かった。」


「有り難う御座います、殿下。」


 アスタルトの隣から心配気な視線を向けるシャルロットはルーシーと視線が合うとホッとした様に微笑んだ。ルーシーも笑みを返して一礼する。




 アスタルトはカンナに視線を投げる。


「・・・さて、ルーシー。」


 カンナは口を開いた。


「お前さん、神殿の入り口で『呑まれる』と言ったそうだな。それは何に何が呑まれると思ったんだい?」


「・・・『何に』と言うのはあの時点では判りませんでした。地下の像を見てコレだと判りましたが。」


 ルーシーは栗色の瞳を隣のシオンに向ける。


「・・・それと『何が』と言うのはシオンです。」


「え!?」


「俺?」


 セシリーとシオンが驚きの声を上げる。


「神殿に近付いた途端にシオンの足下から禍々しい瘴気のようなモノが湧き出て絡み付くのが見えました。」


「・・・それで、どうした?」


 カンナは見透かしたかの様にルーシーを見つめる。


「・・・私が引き受けました。シオンの足下の瘴気を呼び寄せて私に纏わせました。」


 全員が響めいた。


「本当なのか、ルーシー!」


 シオンが珍しく狼狽えてルーシーの肩を掴んだ。


「黙ってて御免なさい。・・・あと、肩が痛い・・・」


「す、済まない。」


 その気になれば鍛えた男の手首すらへし折るシオンの膂力で遠慮無く捕まれたら、それは痛いだろう。シオンは慌てて手を離した。




 カンナは溜息を吐いた。


「まったく・・・無茶をするものだな。・・・確かに奈落の力にはシオンも抵抗出来んだろう。『像』にあっという間に引き込まれて居ただろうな。どうしても誰かが引き受けねばならんのならお前さんが1番適任かも知れんが。引き返すという手もあっただろう。」


「・・・でも私が引き受ければ目的は達成できる、そう思えば引き返そうとは言えなくて。それに直ぐに制御できたから問題無いと思ったんです。」


「・・・まあ、そのお陰で予定通りの期間で像の確認が出来たのだしな。礼を言っておこう。」


「いえ、そんな・・・」


 カンナは表情を整理すると改めてルーシーに尋ねた。


「ルーシー、お前はあの『像』を何だと思う?眠っている間、あの『像』に触れていた筈だ。」


ルーシーは表情を僅かに強張らせる。


「・・・あれは怨念そのものでした。暗闇の中で何人もの女性が苦痛と悲しみと怒りの呪詛を吐き続けて居ました。狂ってしまいそうになるくらい・・・凄まじい怨念でした。」


 思い出したのか、ルーシーは身震いする。


 と、シオンがそのルーシーの手をテーブルの下で握った。


「!」


 ルーシーは一瞬驚いた表情になるが、微笑んで握り返す。




「・・・魔女・・・」


 セシリーが青冷めた表情で呟く。


「魔女?」


 首を傾げるルーシーにミレイが再び魔女の話をする。


「では、私が見た女性達はそれなのかも知れないわね。」


 ルーシーは得心がいった表情で頷いた。




「さてと、訊きたい事は聴いたな。私も伝導者達の記憶を全て覗けたからその話をしよう。」


 カンナは改めて全員を見渡す。


「今から話すのは1人目の伝導者が見た記憶だ。混沌期の真っ只中だな。そこは翼を生やし空を舞う人間の様な生き物とゴーレムのような巨人・・・天央12神の事だが・・・が様々な禍々しきモノ達と戦っている世界だった。」


 カンナは目を閉じる。


「・・・其所に、僅かな数の人間が天央12神の降臨に紛れて地上に降りていた。何故それが出来たのかは判らんが、とにかく彼らも共に地上に降りた。・・・だが瘴気溢れ禍々しき者溢れる世界で、真なる神の加護を受けた伝導者以外の者が正気を保てる筈も無く、彼らは理性を失い欲望のままに動き始めた。」


「そして、その降りた人間の中で何人かのモノが強大な力を手にした・・・のだろう。禍々しき獣達と互角に張り合い、天央12神とも戦っている風景が記憶には在った。・・・その強大な力を手にした者の1人・・・いや集団がその魔女達だ。」


「魔女が人間だった・・・?魔術院では魔女の正体は悪魔だと言われていたわ。」


 ミレイの言葉にカンナは目を開いた。


「そうだな。だが、歴史なんてそんなモノさ。・・・その魔女達は膨れ上がった魔力を使って、この時代に入って初めての魔法・・・原初の魔法とも言えるケイオスマジックを生み出した。その魔法を使って天央12神と戦う姿を伝導者は遠くから見ている。そしてそんな彼女達は『グースールの魔女』と呼ばれて居たようだ。」




「グースールの魔女・・・が復活する・・・」


 ルーシーの表情が強張った。









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