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神の去った世界で  作者: ジョニー
第3章 宮廷
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21話 カンナの推測


 シオンが再び目を覚ますと、室内にはルーシーの他にカンナとセシリーがいた。


どのくらい眠っていたのか。随分と体力は戻って来た気がする。



「お、目覚めたようだな。」


 カンナが声を掛ける。


「シオン、大丈夫なの?」


 セシリーがシオンを覗き込んだ。その後ろでルーシーが穏やかに笑っている。


「ああ、ルーシー達のお陰で何とか助かった。」


 シオンは微笑んでベッドから身体を起こした。


「アインズロード伯爵から話は聞いたが、中々に手強い相手だったようだな。・・・ところで。」


カンナはジロリとシオンを見た。



「お前、ペンダントを使ったな?」


「ああ。」


 カンナは溜息を吐いた。


「町を彷徨いていたら突然に私の意識が破裂するかのような衝撃が来たからな。これはお前さんに何かあったなとペンダントの気配を追ってみれば城の中じゃないか。どうなってんじゃと思うたわ。」


「勝手に使ってしまって悪かったな。」


 シオンが言うとカンナは照れ臭そうに視線を外した。


「まあ、ええわい。元々、お守り代わりに渡していた物だからな。強力な魔法に対処出来ないお前さんの切り札になったのなら本望だよ。」


「そうか、有り難う。」


「しかし、また作らねばならんな。・・・邪教徒か、厄介だな。」


 カンナは考え込む。


「シオン・・・お父様の依頼でこの様な事になってしまってごめんなさい。」


 申し訳無さそうに言葉を紡ぐセシリーにシオンは首を振った。


「いや、構わない。こういう事は冒険者には付き物さ。それに死にかけた事など算えきれない位に経験している。」


「でも・・・。」


 セシリーとしては納得仕切れない。友人が自分の身内の依頼で死にかけたのだ。


「私、お父様に抗議して来る。」


 立ち上がり掛けたセシリーをシオンは手振りで押さえた。


「セシリー、落ち着いて。伯爵は私心で俺をここに呼んだわけでは無い。俺もそれは理解しているし納得している。問題は別にある。」


「別に・・・?」


 セシリーは首を傾げる。



 シオンは頷いた。


「そうだ。公王陛下をお守りするロイヤルガードに賊が紛れていた事。ロイヤルガードの選出は公国に於ける騎士団の中でも最も厳格な審査が行われると聞いている。当然、1人1人が一騎当千の強者揃いの筈だ。それが、いつどのように入れ替わったのか?これが1つ。」


 一息吐くとシオンは言葉を続ける。


「そして、それに伴って公王陛下が実際に暗殺の危機に立たされた。これが重大だ。」


 公王暗殺・・・言葉として聞いた途端にルーシーとセシリーは息を呑んだ。


「陛下を暗殺・・・。」


 言われてみればその通りだ。シオンの安否ばかりに気を取られていたが公国を激震させるような事件が起こっていたのだ。



「公王暗殺か・・・。まあ、アインズロード伯爵はこの深刻な事態を受けて公王を交えて緊急会議をするそうだよ。マリーとやらも連れて行かれとったな。しかし当てずっぽうがまさか本当に起こるとはな。」


 カンナは溜息を吐く。


「カンナは何か解ったのか?俺が寝ている間に何か調べてくれたのだろう?」


 シオンが尋ねるとカンナはニヤリと笑った。


「良く判ったな。さすが、私の生涯の番いよ。」


「え!?」


 ルーシーとセシリーが思わず声を上げるとシオンは渋い表情でカンナを窘めた。


「馬鹿なことを言ってないで話せ。」


 カンナはつまらなさそうに口を尖らせる。


「そんなあっさりと受け流されるといくら私でも傷つくぞ。・・・ま、ええわい。お前に使われた魔法はケイオスマジックの1つだな。その中でも最も性質の悪い『奈落の法術』と呼ばれる奴だ。」


「奈落の法術・・・どんな魔法なんだ?」


「うーん・・・簡単に言えば呪いを扱う法術だな。1つの大きな特徴としては術者本人の魔力は必要としない。周囲に揺蕩う怨念の残滓を利用して力を具現化する術さ。」


「良く解らないな。」


「つまり、術者本人に魔力が無くても沢山の怨念があれば其れを使って色々と忌まわしい技が使える魔法という事さ。」


 カンナの説明にルーシーは首を傾げる。


「でも、ここは王宮ですよ?そんな怨念なんて・・・。」


「何を言う。王宮ほど血生臭い場所も中々無いぞ。権謀術数が渦巻きそれに破れた敗者は歴史上に何千人いる事か。投獄された罪人や無実の罪で処刑された人間は何万人いる事か。実際、奈落の法術を使うに辺りこれ程に適した場所もそうは在るまいよ。」


「・・・そうですね。」


 ルーシーが頷くとカンナは再びシオンを見た。


「それと・・・な、シオン。アインズロード伯爵から戦いの状況は少し聞いたのだが、一応、お前からも聞いて置きたい。」



「何だ?」


「敵はどの様に現れてどんな姿をしていた?」


 カンナの問いにシオンは虚空を見つめる。


「どんな・・・と言われてもな。展開が急だったからな。・・・ロイヤルガードの1人が突然震えたかと思ったら肉体が黒い靄に包まれて形が崩れるようにグシャッと潰れたように見えたな。その後は真っ黒な泥濘になって部屋中の壁や床や天井が黒い霧に包まれて暗闇の空間になった。」


「そうか。」


 カンナは珍しく深刻な表情をしている。


「カンナ?」


 シオンの問い掛けにカンナはシオンをチラリと見る。


「余り良く無いな。」


「どう言う意味だ?」


「基本的に呪いを扱う術と言うのは『呪い』の影響をその身や精神に受ける。例えば発想が狂気染みていったり、余りにも多用しすぎると身体に瘴気が纏わり付き始め次第に身体が壊疽を起こして死に至ったりな。禁呪とされる所以だ。」


 カンナが何を言いたいのか解らずシオンは怪訝な表情を浮かべる。


「それがどうかしたのか?」


「だがな、術者の姿が変わると言う事は無い。ロイヤルガードの変化を解いた瞬間に泥濘になったのだろう?普通は術者本人の姿に戻る筈だ。」


「・・・。」


 3人は言いようも無い不安が募っていく。


「それはつまりどう言う事になるのかしら?」


 セシリーが耐えきれない様に先を促した。


「其奴、恐らく人間では無いぞ。」


「人間で無ければ何だと・・・」



 カンナはセシリーに黙る様に手で合図を送った。


そして無言で懐中から小さな黄金の粒を4つ取り出すと部屋の4隅に1粒ずつ置いて何言かを呟いた。するとカンナを中心に黄金の光が溢れ出して室内を明るく照らし出す。やがて、『パチン』と何かが弾けるような炸裂音が鳴り、光は収まった。


「何かがこの部屋を見ていたな。」


 その言葉に3人は身構える。


「大丈夫だ。今、結界を張ったからな・・・去って行った様だぞ。」


「・・・魔物か?」


 シオンの問いにカンナは首を振った。


「魔物・・・で在ればまだ良いかもな。私が想像するのは別の者だ。」


「それは?」


「悪魔だよ。そしてロイヤルガードに取り憑いていたのも同じ存在だと思う。」



「魔物と何が違うの?」


 セシリーが問う。


「何もかもが違うと言っても良い。魔物って言うのは俗に魔界と呼んでいる負の属性を持つ異界の住人達の総称なんだよ。実際には少し凶暴且つ魔力の恩恵が強いだけで私達と然程の違いは無い。そこに住む者達は言葉も通じるし情も有る。」


 カンナは一旦、言葉を切り3人を見渡す。


「しかし悪魔は違う。神話時代の負の神々の残滓から発生した正真正銘の破滅の化身さ。悪意の塊とも言える精神体で生命体の全ての敵と言っても過言じゃ無い。」


「そんな物が王宮にいたなんて信じられない・・・。」


 ルーシーが呟くとカンナは肩を竦めた。


「まあ勿論、悪魔自体はその術者に召喚されたんだろうさ。悪魔なんて物がそんなフラフラと彷徨ってしまう様な事態になってはその世界は終わりさ。」


 シオンは首を傾げる。


「じゃあ、結界を壊したら人の姿になったのは・・・」


「だからその悪魔が力を失って召喚した術者本人の姿が引っ張り出されたんだろう?それまでは悪魔の加護の中に居たのだろうから術者自身は悪魔の中に隠されていたんじゃないか?」


 自分の予測を淡々と話すカンナを見ながらシオンは、そんな常識から外れた存在を無力化させるようなアイテムを自前の魔力で作り出してしまうこのノームの少女は一体何者なのかと考えてしまう。



「そして私が問題視する本題はこれからだが、もし仮に彼の邪教徒達が全て悪魔召喚を行えるのだとしたら大問題さ。もはや絶望的と言える。通常の対策では手に負える事態じゃ無い。」


 ノームの少女の翠眼が室内の明かりに反射して美しく輝く。


「何故ならな、悪魔ってのはそれこそ生半可な破邪の術など受け付けやしないからさ。あのマリーとか言う娘くらいの腕前ならまだしも・・・。」


 カンナはルーシーを見る。


「いくら呪いの残り香と言う様な瘴気だけとは言え悪魔の放った呪いの瘴気を、よくもお前さんが祓えたものよな。」


 感心すると言うよりは訝しむ様な口調である。


「・・・。」


 ルーシーはカンナから視線を外した。


シオンとセシリーは2人の妙な雰囲気を感じ取ってはいたが、シオンは敢えて違う事を口にする。


「マリーさんは『娘』って年齢じゃ無いぞ。」


 カンナはルーシーから視線を外すと泰然と言い放つ。


「私から見れば充分に娘と呼べる年齢だよ。」


「お前、本当に一体幾つなんだよ。」


「前にも言った事はあるが、女性に年齢を聞くものでは無いと言うのは人間の世界の常識では無いのか?」


「相手にも依る。」


 シオンは溜息を吐いた。




「さて、私は帰るかな。シオン、帰ろう。」


 カンナが立ち上がるとシオンも頷きベッドから降りた。その様子を見てルーシーとセシリーは複雑そうな表情を見せる。


「2人はどうするんだ?もう夜中だが。」


 シオンが声を掛けるとセシリーが引きつった笑顔で答えた。


「あ・・・ああ、私達は後で馬車で帰るわ。ルーシーは私の家に泊める。」


「そうか。じゃあ今日は2人とも有り難う。本当に助かったよ。」


 シオンが微笑むと少女2人は微妙な笑顔で応じた。



 夜の帳が完全に降りた公都をシオンとカンナはテクテクと歩いていく。


「カンナも今日は世話になったな。」


「いや、良いさ。」


 カンナはひらひらと手を振る。が、


「なあ、シオン。」


やや真剣な表情で少女はシオンを見上げた。



「あのルーシーと言う娘・・・気をつけて置けよ。・・・あの娘、何か秘め事があるぞ。」







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