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神の去った世界で  作者: ジョニー
第5章 魔の王
199/214

103話 対決



 いつの間にか開いていた扉の向こうには精悍な青年が立っていた。その後ろにはディオニス大将軍も居る。

「で・・・殿下・・・。」

 ルーシーの腕を掴んでいた騎士が呆然と呟く。

「リンデル・・・。」

 ヴィルヘルムの口から苦々しげな声が漏れた。


 王族の正装に身を整えたリンデルが再び口を開く。

「ロイヤル=ガードよ。彼女の腕を掴んでいるその手を離せ。」

 威圧的な命令を受けて一瞬騎士がルーシーの腕を離すと空かさずヴィルヘルムの怒声が鳴り響いた。

「何をしておるか! 余の命令とたかが1皇子の命令とどちらが重いか解らぬか!」

「!」

 皇帝から叱責されて身を震わせた騎士が再びルーシーを掴もうとするが、今度はルーシーが神聖を発動させて騎士の手を弾く。


 空かさずカンナがディオニスに向かって叫んだ。

「大将軍殿、外で何が起きているかは察しておられよう。最悪の魔人が復活した。大至急城内の者達を全員帝都の外に出すよう指示してくれ! 大至急だ!」

「承知した。」

 ディオニスが頷き背後に控える騎士達に命じた。

「今の伝導者殿の言葉を聞いたな? 城内の全ての者達を外に逃がせ。そしてお前達も脱出するのだ。」

「はっ。」

 十数名の騎士達が一斉に駆け出していく。


 ヴィルヘルムの視線がディオニス大将軍に向けられた。

「ディオニスよ、これは一体何事か! リンデルを出したのはお前か!?」

 皇帝の激怒に怯む事なく老将は頭を垂れて答えた。

「如何にもその通りに御座います、陛下。」

「何故に其の様な勝手な真似をしたのだ。事と次第によっては汝でも許さぬぞ!」

 先程までの鷹揚な態度とは打って変わり激しい怒りを露わにして老将軍を叱責する皇帝を、リンデルは冷めた目で見つめる。

「ディオニス大将軍に指示を出していたのは私です、陛下。」

「リンデル・・・」

 実の息子を見る目とはとても思えぬ程の怨嗟に満ちた視線でヴィルヘルムはリンデルを睨め付けた。

「何故お前が外に出ているのだ。蟄居の命を解いた覚えは余には無いぞ。」

「はい、解かれてはおりません。緊急事態故に皇族として判断させて頂きました。」

「戯け、何が皇族か。緊急事態だろうが何だろうが余の命に優先されるものなど無いわ。更に罪を重ねるか。」

「通常なら陛下の仰られる通りでしょう。」

 リンデルの返答を受けてヴィルヘルムの視線に炎が滾った。

「・・・どういう意味だ?」

 その低く重い声にルーシー達はビクリと身を震わせるが、リンデルは皇帝の圧力も軽く受け流した。

「どうもこうも言葉通りに御座います。緊急事態にて・・・」

「其れは理由にならんと言っている!!」

 ヴィルヘルムの怒声がリンデルの言葉を遮った。

「緊急事態だろうが何で在ろうが余が許さぬ限り、貴様が部屋から出る事は罷り成らん! 今すぐ部屋に戻れ!」

「戻りませぬ。」

 リンデルの返答にヴィルヘルムは青筋を立ててロイヤル=ガードを見た。

「ロイヤル=ガードよ。この謀反者を牢へ叩き込め!」

「・・・」

 皇帝の命を受けて騎士達は互いの顔を見合わせて困惑する。至尊たる皇帝の命が絶対なのは間違い無いが、捕らえる対象が同じ皇族ともなれば戸惑うのも無理は無い。

 戸惑いながら騎士達はゆっくりとリンデルに向けて歩を進め出す。

 そんな彼等の動揺を理解しているリンデルがロイヤル=ガードに向かって言った。

「ロイヤル=ガードよ、私は抵抗はせぬ。しかし今暫く時間を貰えないか?」

「は・・・・しかし・・・。」

 尚も困惑するロイヤル=ガードに対してディオニスも口を開く。

「忠義溢れる其方達には申し訳無いが、今は殿下の仰られる様にして貰いたい。決して其方達の悪い様にはせぬと約束しよう。」

「・・・」

 その言葉にロイヤル=ガードの足が止まった。

「何をしているか! 余の命が聞こえぬのか!!」

 騎士達に向かってヴィルヘルムの怒号が響く。

 怒号を受けて騎士達の足が再び動き出した時、リンデルが厳しい視線をヴィルヘルムに向けて言った。

「陛下、いや父上。牢に戻る前にお訊ねしたい議が御座います。」

「・・・汝に答える事など無い。」

 皇帝の素っ気ない態度をリンデルは気に留める風も無く尋ねた。

「カーネリア王国のゼイブロイ王が先日、処刑されこの世を去りました。」


「!」

 その言葉にノリアの手が一瞬震えた。

 ミストから聞いてはいたが、やはり一国の皇子からその事実を聞くと実感が湧いてくる。


「其れがどうした。」

 ヴィルヘルムが訝しげにリンデルを見た。

 ――・・・やはり無関心は貫けないか・・・。

 リンデルは内心で溜息を吐きながら続ける。

「陛下の命を受けて私もゼイブロイ王の処刑に立ち会いましたが、断頭される直前に彼は妙なことを口走っておりました。『自分が初代カーネリア帝国皇帝になる筈だ。 謀ったのか』と。『謀った』とはどういう事なのかと気になっておりました。」

「・・・。」

 ヴィルヘルムはリンデルの疑問に答えず、ジロリと皇子を一睨みすると視線を背けた。

 リンデルは片手に抱えていた書類を突き出した。

「これはカーネリア王国の前国王ゼイブロイに宛てられた書簡とメモの数々に御座います。」

「!」

 ヴィルヘルムの表情が変わった。

 リンデルは続ける。

「送り主はイシュタル帝国皇帝ヴィルヘルム陛下、貴男だ。」

「・・・。」

 しかしヴィルヘルムは表情を無に戻すと在らぬ方向に視線を向けた。

「幾度もやり取りされたこの密書の内容は大まかに言えば『協定の示唆』とその条件についてです。条件は『カーネリアによる大陸の掌握』とそれに伴う『飛空部隊の設置』や『中央集権の強化』。『セルディナ公国の属国化』となっています。」

「・・・」

「そして密書には先に挙げた条件を満たす為の大小様々な助言が記されておりました。更にはゼイブロイ王が危地に立った折には皇帝陛下が前面に立ち援護するとも。そして其れが叶うか其処に向けての道が整った時、イシュタル帝国はカーネリアの帝国化に手を貸して供に世界に向けて覇を唱える盟友となるだろう・・・そんな内容でした。」

 リンデルの言葉に流石に場が響めいた。

「其れは本当か、皇子殿。」

 カンナも信じられないと言った表情でリンデルに尋ねた。

「本当だ、伝導者殿。この資料は今は無きイアン兄上が命を賭して調べ上げた物。私も自身で確認出来る所に確認していたが些かも疑う余地は無かった。」

 カンナの視線が厳しくなる。

「其れが本当ならば世界条約に対する重大な裏切り行為だ。他国の内政外交から健全さを奪うのは御法度だぞ。」

 リンデルは頷き父帝を見た。

「・・・残念です、父上。」

 息子の視線を受けた皇帝は無表情のままだった。

「・・・解らないのは何故其処までしてカーネリアの帝国化に力を貸すのか、という点でした。隣国に、況してやあの横柄なゼイブロイ王が支配するカーネリア王国にそこまで力を持たせることはイシュタル帝国にとっても危険極まりないぼではないか?」

「確かにな。イシュタル帝国に利があるとは思えん。」

 リンデルの疑問にカンナも同意する。

「しかし、その疑問の答えはイアン兄者の遺されたこの資料に在りました。・・・父上、貴男はこのゼイブロイ王との密約など最初から守る気は無かった。反故にする事を前提で貴男はゼイブロイ王に内密の企みを持ちかけ焚き付けたのです。」

「・・・。」

「そしてその目的は明らかだ。ゼイブロイを暴走させてカーネリア王国を混乱させ、セルディナ公国含めた大陸全体の弱体化を狙っていたのだ。・・・後日、イシュタルが干渉し易い様に。」

 リンデルが其処まで言った時、漸く皇帝は視線をリンデルに向け、口を開いた。

「余には覚えが無いな。その書簡には余の署名でも入っていたのか?」

「いえ。」

「ならば、其の書簡に信憑性は無いだろう。つまり余に覚えが無いと言うことは其の書簡は偽りの物であり、其の偽りから推察した今の指摘の全てはお前とイアンの妄想に過ぎんと言う事だ。」

 そう言ってリンデルを見据えたヴィルヘルムは更に言葉を繋げる。

「・・・況してや、仮に其れが事実で在ったとしても汝が余の命に逆らう理由にはならん。余が帝国の発展を願って行った行為で在れば・・・確かに他国からの非難は受けようが、その程度の事はどの国でも大なり小なりやっている事で明確に余が批判される事は無い。」

 治世の闇を口にしながら皇帝は傲然と嘯く。

 そう言われて開き直られれば追求する相手が皇帝と言う事も在って攻め手に欠ける――カンナは皇帝の図太さに顔を顰めた。彼女が人間の権力者を嫌う部分が腐臭となって皇帝から漂ってきたが故に。

 しかし帝国で最も高貴な親子の対決は其処で終わらなかった。

 リンデルは更に追求を続ける。

「なるほど・・・ではもう一つ。こちらは今のお言葉すら否定する行為だ。」

「・・・何?」

 ヴィルヘルムの視線に若干の動揺が見て取れた。

 リンデルは懐を弄ると一つのアミュレットとブレスレットを取り出した。

「!!?」

 今度こそヴィルヘルムの表情が驚愕に満たされた。

「貴様・・・!」

 其処まで言って絶句する皇帝にリンデルは静かに言った。

「もう一度言う。貴男は邪教徒と繋がっている。」

「貴様!!」

 ヴィルヘルムが吠えた。

「諄いぞ。況してや蟄居の身で在りながら余に無断で皇帝の私室に踏み込んだのか!」

 世界で最も安全な隠し場所が皇帝たる自分の私室の筈だった。だからこそ彼は簡単な小箱にアミュレットを仕舞っていたのだが・・・まさか其れを奪われるとは。

 リンデルは飄々とした表情で答える。

「ええ、踏み入りました。以前にも申し上げた通り、貴男が邪教徒と繋がっている事はイアン兄上が遺した資料を見て確信していたので。」

 リンデルはそう言いながらブレスレットをカンナに手渡した。

「!」

 カンナはブレスレットに刻まれたオディス教の紋章を見て表情を厳しくしたが口に出しては

「ほう・・・」

 と呟くだけに留めた。


 以前に父帝に見せた資料自体は恐らく自分が蟄居を命じられた時点で父帝の手に拠って破棄される筈だ。そうなる未来も予測していたリンデルはイアンが遺した資料の大半とイアンが資料の栞に挟んで隠していたブレスレットを自室に保管していたのだった。

 そして彼は自分の命運がどうなるか判らないまま蟄居を続けていた折り、ディオニス大将軍から連絡を貰い細かなやり取りを行っていたのだ。

 そしてディオニスから『皇帝のアミュレット』の情報を得た後はずっと機を待っていた。皇帝に退位を突きつける好機を。

 そしてリンデルは現在の混乱に乗じて、隠して置いたイアンの調査資料とブレスレットを携え、救いに来たディオニスも伴って皇帝の私室に向かったのだった。そして護衛騎士達に圧を掛けて強引に押し入ると小箱に仕舞われていたアミュレットをあっさりと発見して此処を訪れたのである。


「本当に残念でなりませんよ、父上。」

 皇子の言葉に皇帝は飄々と嘯いた。

「・・・この国の発展の為だ。」

「御為ごかしを申されるな。何が国の為か。」

 厳しく言い捨てるリンデルにヴィルヘルムは烈火の怒りを込めて睨め付けた。

「余に対してその口の利きよう・・・増長するな!」

 吠える皇帝にリンデルは言い放った。

「この国の発展の為、と申されたか? 関わる者の全てを破滅に導く悪しき邪教徒と関わって何がこの国の発展の為か! 邪教徒などと関わっても滅びこそ有りもすれ発展など在る筈も無い! この国に嘗ての北の超大国サリマ=テルマと同じ運命を辿らせるお積もりか!」

「・・・貴様・・・!」

 ヴィルヘルムの噛み締めた奥歯がギリリッと激しく鳴った。

 リンデルは少しだけ息を整えると声の調子を戻して再び話し出した。

「思い返せば不可思議な点が在った。最初に邪教徒が貴男の寝室に侵入して痕跡をこれ見よがしに置き去りにして行った時、貴男は明らかに激怒されていた。そして何度も私に『調査して報告せよ』と厳命されていた。・・・しかし、ある時を境に貴男はその事を一切口にしなくなった。」

 皇子の視線は皇帝から外れなかった。

「思えばその時に貴男は邪教徒と手を結んだのではないか?」

「何を馬鹿な事を・・・」

 皇帝の回答はこの際リンデルは無視した。

「陛下、貴男が邪教徒と手を結んだ目的は予想が着きます。貴男は常に歴史に名を遺す名君の誉れを欲しがられていた。恐らくはその辺りを突かれて唆されたのでしょう。」

「黙らぬか! 幾ら皇子と言えども余に対しての暴言の数々は許せぬ!」

「イアン兄上を弑した騎士も黒い体液を吐きながら死んだ! あれも邪教徒の魔術に拠るものなのだろうと今なら想像できる!」

 そう言ってリンデルはカンナを見た。

 以前に自らが皇帝に問い質した事を、敢えてまたこの場で口にしたのは正しくカンナに聴かせるためだった。

「伝導者殿にお訊きしたい。イアン兄者を弑した騎士の死体を魔術師達が懸命に調べたが何故狂ったのかは解らなかった。・・・邪教徒にそういった秘術は無いだろうか?」

 問われてカンナは答える。

「残念だが私にも奈落の法術についての知識はほぼ無い。奈落の法術は秘中の秘とも言える術でな。実際に奈落に墜ちた者達のみが使用出来る『欲望の実体化』の技で、その種類の多さは無限とも言われる程に多彩で体系化されていない分野なんだ。」

「そうか・・・」

 若干の失望が伴う皇子の声とは対照的に皇帝の口の端が僅かに上がる。

 しかしカンナは更に言葉を繋げた。

「だが今回の皇子殿の問いに対しては明確に『在る』と言える。・・・いや、既に其れに類する技を我々は帝国民を含めて全員が見ている筈だ。」

「え・・・?」

「先日、帝都の空を覆い尽くした不気味な雲こそ皇子が言った術を極大化したモノではないか?」

「!」

 カンナの指摘に全員がハッとなる。

「それと、もし其の騎士が奈落の法術に因って発狂したのなら、その死に方も頷ける。強い瘴気を善良な者が大量に摂取してしまうと狂化してそのまま死んでしまう。騎士が吐いた黒い液体も瘴気に冒された血液だろうな。」

 その事は以前にディオニスから聴いて知ってはいたが、カンナは敢えてリンデルに話して聴かせた。意図を察したリンデルも軽く息を吐きながら伝導者の認定に感謝する。

 そして父帝を見た。

「父上、貴男が邪教徒に命じてイアン兄上を弑させたのかどうかは今となっては解らない。しかし邪教徒と手を組んだことが間接的に兄上の命を奪ったことに変わりは無い。」

 そう発するリンデルの声は低く悲しみと怒りに溢れていた。

「・・・証拠は無いぞ。」

 ヴィルヘルムは最後の頼みの綱に寄った。

「このアミュレットとブレスレットが貴男と邪教徒を繋ぐ証拠になる。」

 ヴィルヘルムは鼻で嗤った。

「そんなアミュレットやブレスレットなど何処にでも在る代物よ。其れが確実に邪教徒の物だと、どうやって証明するのだ?」

「出来なくも無い。」

 カンナが口を出した。

「要はそのアミュレットが悪しき術を以て闇の力を封じられた物と判れば良い訳だろう? 其処に邪教徒の存在が在ろうと無かろうと、皇帝たる者がその様な物を所持していた事が大問題の筈だ。」

「その通りだ。天央正教の拠点であるイシュタル大神殿を擁するイシュタル帝国の皇帝が邪悪に誑かされていた事が問題だ。」

「ならば簡単だ。光の側の神聖をぶつければ良い。丁度此処には適任者が居るしな。」

 そう言ってカンナはルーシーを見た。

「光の高等神たる竜王神の加護を戴きこの世に真なる神の力を顕現出来る巫女が触れれば、そんなアミュレット如きは簡単に崩れ去るだろうよ。」

「判るものか。」

 ヴィルヘルムは吐き捨てた。

「余達には其の娘の力が神の力と判断出来ぬのだ。単純な破壊の力を使って壊されても判断が付かぬ。従って認めるわけにはいかんな。」

 皇帝の否を受けて空かさずカンナは言った。

「ならば宮廷魔術師なりを連れて来たら良い。魔術に造詣深い者ならば彼女の力の異質さを感じ取れるだろう。そうだな・・・魔術師棟のエンデフィル殿辺りなら理解出来るが・・・まだ残っているかな?」

「魔術師棟なら目と鼻の先だし、私が見てきます。」

 セシリーがそういうと走り出した。

「いや、御令嬢。其れには及ばぬ。」

 リンデルはそう言ってセシリーを止めると、再び皇帝を見た。

「父上。往生良くなさいませ。此処で竜王の巫女殿の力を借りてアミュレットの正体を明かされてしまえば、もはや皇家として世界に対し隠すわけには行かなくなる。彼女は其れほどの存在だ。」

「・・・。」

 ヴィルヘルムは血走った眼を息子皇子に投げつける。

「・・・今ならば病に倒れた皇帝として、潔く皇太子にして息子であるヴェルノ兄上に譲位した皇帝と世間からは受け取って頂けるでしょう。」

 リンデルの提言も、しかしヴィルヘルムには受け容れ難かった。

 何としても歴史に名を遺したいヴィルヘルムは声を絞り出す。

「・・・ならば竜王の巫女も御子も伝導者とやらも全てをイシュタルで囲えば良い。セルディナ公王に連絡をして・・・」

 愚かな事を口走り始めた父帝に情けなさを感じながらリンデルは「ダンッ」と足で床を踏み鳴らした。

「情けない事を仰るな。私欲を捨てられよ。・・・そして彼等を見よ!」

 リンデルは強く言い放ち、神性の翼をはためかせ空中から地上の悪魔達に攻撃を仕掛けているシオンを指差した。

「あの若き勇者達に貴男のような私欲は無い。あの罪も無い若者達は、我ら情けない大人達がしでかした不始末の尻拭いをしてくれているのだ! 彼等には関係無い事で在るのに・・・命を賭して! 我らの代わりに戦ってくれている彼等を見てもまだそう言い張るか!」

 リンデルはその双眸から涙を流して父帝に叫ぶ。


「・・・!・・・!」

 ヴィルヘルムは其れでも両の拳を握り締めて全身を震わせていたが、流石に息子皇子の涙を見てガックリと項垂れた。


「・・・」

 行方を見守っていたロイヤル=ガードにリンデルは力無く言った。

「ロイヤル=ガードよ。次期皇帝陛下となられるヴェルノ皇太子殿下の名代としてリンデル第3皇子が命じる。『前』皇帝陛下をお連れしろ。帝都の外へ。」

「・・・は。」

 神妙に頭を下げたロイヤル=ガード達が静かにヴィルヘルムを囲む。

 ロイヤル=ガードに案内されて部屋を出て行く皇帝の背中を見てリンデルは思った。

――・・・随分と小さくなられた・・・。

 と。


 そして皇帝を囲んだロイヤル=ガード達が部屋を出て行き「バタン」と扉は閉じられた。



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