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神の去った世界で  作者: ジョニー
第3章 宮廷
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18話 宮廷にて


 公都セルディナ――



 別名『青銅都市』と称され、初期のカーネリア大陸発展に絶大な貢献を果たした都市でもある。


鉱物を中心とした豊かな経済市場は、多数の異人を呼び寄せ様々な人材を育成する土壌を作り上げており、アカデミーもまたその育成の場の一環であった。


しかし古い考えや体制も根強く残っており、アカデミー創立時の様に悪影響を及ぼす事も多々あった。



 そんな新旧の思いが渦巻く公国を治めているのが、現公王レオナルド=パウエル=ロンドバーグである。


 先代までの旧態依然とした制度を次々と変えていき、貴族寄りの国風から民衆が利益を受けやすい国風に造り変えて行った改革王として民衆からの支持は極めて厚い。


 だが、だからといって貴族を蔑ろにする訳では無く、成すべき事を怠らずに務める貴族には、目立つ功績の有無に関わらず褒め称え報償を確りと取らせる等、隅々に目を配り常にバランスを取るセンスを持ち合わせた王であった。



 それでも先代までの貴族特権に浸り続けてきた大貴族とそのお零れに与っていた貴族達の反発は強く、王の新しい試み等では常に邪魔をしてくる厄介な存在である。アインズロード伯爵の言葉を借りるならばまさに『百害あって一利なし』の存在で在り、いつかは排除したいと公王も考えていた。




 そんな宮廷を歩くブリヤンの前方から初老の男が近付いてくる。派手に飾られた豪奢な絹服を身に纏い傲然と歩く男の名はアデル=フォン=セロ公爵。公王の叔母に当たるジョセフィーヌの夫でありセロ家の現当主でる。


「おや、これは勇名高きアインズロード卿では無いか。今日も公国の北方の地は安泰だとか。全ては卿とご子息の手腕の賜ですな。」


と、冷笑を浮かべながら話し掛けてくる。


 ブリヤン本人の前では口にしないが、常日頃からアインズロード領で魔物との争いが頻発している事態を揶揄して『北の蛮族』と嘲笑っている事をブリヤンは知っていた。しかしこの男が内心では、陛下の信厚く様々な点で重用されているブリヤンに対して歯ぎしりしている事も知っている。


 ブリヤンは優雅な笑顔を浮かべて一礼する。


「閣下もご壮健でいらっしゃるようで何よりに御座います。陛下が御心を砕かれて取り組んでおられる新しい試みの『アカデミー』、その学園長ともなれば試行錯誤の繰り返しに御座いましょう。ご苦労はお察ししてなお余りあるものと存じます。」



 皮肉である。


 公王の名の下に拓かれたが故に名誉を欲して『アカデミー』の学園長に名乗りを上げたに過ぎない。実際には何をする訳でも無く『些細な報告など必要なし』と告げて運営の全てをレーンハイムに丸投げしている名ばかりの学園長である。


「う・・・うむ。」


 アデルは苦々しげに頷く。


「では、私はこれにて。」


 伯爵は早々に話を切り上げる。


古きを温めるのみで新しきを知ろうともしない者などにブリヤンは時間を費やす気は無かった。



 ブリヤンは待ち合わせている人間の待つ部屋の扉を開けた。


「やあ、待たせて済まないね。シオン君。」


 そこには黒髪の少年が待っていた。


「閣下。」 


 一礼するものの、所在無さ気に少し戸惑いがちな少年を見て伯爵は微笑んだ。


「君もそんな素振りをするんだな。」


「あの・・・閣下、なぜ私がここに・・・?」




 レーンハイムが帰った後、ブリヤンはギルドに赴きウェストンと面会した。


「専属護衛にシオンを・・・?」


 ウェストンはブリヤンの急な依頼に首を傾げた。


「閣下、意図を掴みかねますが、それはどういう・・・?」


「うむ。この話はまだ内密に願いたいのだが、私は近々、陛下と供に宮廷の古くなった部分を刷新したいと考えている。」


 ブリヤンの言葉にウェストンは息を呑んだ。ブリヤン=フォン=アインズロードが殊更この言い回しをすると言う事は、それはつまり宮廷貴族達への粛正、或いはそれに類する何かを行う事を示唆している。


「まあ知っての通り私は宮廷内に敵が多い。まさか宮廷内で刃傷沙汰を仕掛けてくる馬鹿はいないと思うだろうが、実はそんな馬鹿をやらかしそうな馬鹿は案外多くてね。特に一部の貴族は甘やかされたせいか極端に我慢が効かない。」


 何度も馬鹿という言葉を繰り返す辺り、ブリヤンにも思うところはあるのだろう。


「それでシオンを護衛に付けたいと?」


「そうだ。」


 ウェストンは考え込んだ。


「無論、閣下直々の護衛依頼とあればギルドは喜んでお引き受け致したいと考えております。・・・ただ、専属というのは・・・」


 最近のシオンは、アカデミーの件やその他の依頼、友人の事などで殊更に忙しく動き回っている。この上、この国の重鎮とも言えるアインズロード伯爵の専属護衛等という激務はこなし切れまい。


 ブリヤンはウェストンの心中は察しているようだった。


「ああ、彼が忙しいのは知っているよ。専属というのは可能であればと言う事だ。実際は本当に護衛が必要になる程の危険に見舞われるかどうかは定かでは無いのだからね。」


「では何故シオンを?」


「何というか、私は彼が気に入ったんだよ。娘と変わらない年齢でありながら、あの洞察力と物事への対応力は将来が非常に楽しみだとね。だから、宮廷という物を彼にも見せてやりたいと考えたんだ。」


「左様で御座いましたか・・・。」


 ウェストンは思案する。ギルドとしては歓迎するべき話だ。しかし、そのままシオンが伯爵や宮廷に獲られてしまう可能性もある。それだけは何としても避けたい・・・が。


「承りました、閣下。シオンには私から話をしましょう。」


「有り難い。宜しく頼むよ。」




「・・・ウェストンさんからここに来るようにと言われましたが、護衛の依頼はまだ出されていないのでは?」


「ああ、今日は君に会わせたい方がいるから来て貰ったんだ。附いてきてくれ。」


 ブリヤンの思惑が掴みきれずにシオンは訝しがりながらも、伯爵の後に附いていく。



 一室に通されたブリヤンとシオンは席についている。と、部屋の扉が開き1人の初老の男が入ってきた。藍色の髪には白髪が混じり同じ藍色の瞳は見る者を圧倒する力に満ち溢れている。豪奢な絹服の胸元には王家の紋章に象られた刺繍が縫い付けられている。現公王レオナルド=パウエル=ロンドバーグⅦ世本人であった。


 ブリヤンは席を立ち一礼を施した。シオンも慌てて後に続く。


「お久しぶりに御座います。陛下。」


『何の冗談だ』


 挨拶するブリヤンの横で、余りの事態にシオンは冷や汗を流す。



 レオナルドは頷き2人に着席を促すと自らも着席する。その後ろには王室専属護衛騎士・ロイヤルガードが4名控えて立つ。


「本当に久しいな、ブリヤン。お前は呼ばぬと本当に1月以上も顔を見せぬ。」


 落ち着いた重厚な声が楽し気にブリヤンに掛かる。


「それは心外なお言葉に御座います。陛下。私は日々、陛下の御心に添えるよう行動しているつもりですよ。」


 公式の場で無いせいかブリヤンの言葉は堅苦しくない。


レオナルドもそれを咎める様子も無く笑った。


「冗談だ、許せ。久しぶりだったのでな、つい嫌味を言った。」



それから暫く2人は歓談していたが、やがて王はシオンを見た。


「そして、その少年がお前のお気に入りの冒険者か。」


「はい冒険者ギルドの有望株です。ギルドマスターや娘のセシリーの話を聞く限り面白そうな少年で、先日も私の護衛依頼に就いて貰いました。」


「ほう、名は何と申すか?」


「シオン=リオネイルと申します、陛下。」


 シオンが名乗る。


「シオン=リオネイル・・・ふむ。」


 レオナルドは一瞬の思案の後、ブリヤンを見た。


「ブリヤン、この少年は例の教団の件は・・・。」


「存じております。恐らく彼は其れについても良く動いてくれるかと。」


 レオナルドは頷いた。


「分かった。宮廷許可証を出そう。詳細はブリヤンから聞くと良い。」


「はい。」


 宮廷許可証が何かは解らなかったがシオンは頭を下げて了承した。



「シオン。ここからは内密の話にして貰いたい。本来ならば君のような年齢の人間に話すべき内容では無い。だが君の能力を鑑みて敢えて私は仲間に引き入れたいと思った。」


 ブリヤンは真剣な眼差しでシオンを見る。だが、シオンは確認しておきたい事があった。


「お待ち下さい、閣下。私は閣下に自分の力をご覧に入れる機会がありませんでした。何故、私の事をそこまで買っていただけるのでしょうか?」


 ブリヤンはニヤリと笑った。


「1つには君のそういうところだ。我らがこのような出方をしたら大概の人間は舞い上がって我らの言葉に了承してしまうが、君は私の言葉を遮ってまで『何故』を口にする。これは出来る様で中々に出来ることじでは無い。2つ目にはギルドの評価。3つ目にこれまでの君のCランク依頼達成の内容を確認させて貰った。いずれも正確に短期間で仕上げている。素晴らしい結果だよ。4つ目にセシリーとレーンハイムを通して聴いたアカデミーでの君の活躍だ。総合的に考慮すると君は冷静沈着にして大胆な行動も取れる人物だと評価できる。」



 シオンは2人から視線を外し思案した。


恐らくこれは国家の大事に関わる話となるだろう。しかも危険な話である事は疑いようも無い。聞けば後戻りは出来まい。しかし・・・。


 シオンはブリヤンを見てレオナルドを見た。



「そこまでの評価を頂けたこと、嬉しく思います。畏まりました。お話を伺います。」






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