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神の去った世界で  作者: ジョニー
第4章 混沌のイシュタル
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89話 魔法



 今や、今回のイシュタル混乱への対策本部と化した中庭の小屋ではシオン達が今後の対応について会議を行っていた。

 会議の内容は当然とも言えるが、騎士団と兵士達をどのように配置してどう現場対応を行わせるか。また民をどうするか。帝都民全員を帝城に避難させるには無理がある。では何処に分散誘導するか。そして彼等の護りには戦力をどう配分するか。

 真剣な議論がディオニス大将軍を中心に帝都に戻ってきた将軍達の間で交わされる。

 その為シオン達が居る必要は無いし寧ろ居られては不都合の筈だが、ルーシーの魔法援護をどのタイミングで発動させるかが肝となる為ディオニス大将軍の強っての希望で参加することになっていた。


「・・・凡その展開については目処が立ったか。」

 基本的な作戦が決まり集められた将軍達が小屋を出て行くと、眉間を軽く摘まみながらディオニスは溜め息を漏らした。

 恐らく下級悪魔に拠る襲来があるとは思われるが、本当に来るかどうかの確信は持てない。確信の無いモノに対して大掛かりな軍事行動を採らせるのは何とも神経をすり減らすが、やらない訳には行かない。

「では儂は皇帝陛下に報告をしてくるでな、君達には先程の作戦に対して連携した動きを採ってくれる事を期待している。」

 ディオニスはそう言って小屋を後にした。


「彼も大変な事だな。」

 老将軍の背中を見送ったカンナが呟く横でアリスが口を開いた。

「あの将軍さん達は今まで何をしてたのかな。」

 今回の会議で突然姿を現した数名の将軍達にアリスはやや不満げな表情を見せる。

「ディオニス様はお爺ちゃんなのに、今までずっと1人でアレコレさせてさ。あの人達は急に今回出て来て、ああだこうだ言ってたけど最初から来いって言いたいわ。」

 それを聞いてシオンが笑った。

「確かにそう見えても仕方が無いな。でも彼等も遊んでいた訳では無いよ。帝国は今回の帝都を中心に起きていた不気味な連続殺人事件の異常さをイシュタル各地に理解させるために、わざわざ将軍クラスを数週間前から使者にして送っていたんだ。まあこの数日の急変は流石に予測していなかっただろうから、とにかく近場に居た将軍達が慌てて戻って来たんだろうけど、それでも行く行くはこうなるだろう事は予測はしていたんだ。」

「・・・ふーん。」

 まだ納得はし難いが取り敢えずは呑み込んどくか、といった感じでアリスは頷く。


 ノリアが様子を伺うようにカンナに話し掛けた。

「あのカンナさん。」

「何だ?」

「魔術棟で話していた『真なる魔力』って何ですか?」

「ああ、そうだった。よし、話し序でに皆に教えておくか。」

 ノームの娘はそう言うと問うてきたノリアを見る。

「そうだな・・・では、ノリア。魔力とは何だ?」

 カンナに問われて嘗ての貴族令嬢は記憶を辿る。

「以前にミストが言ってました。生命力が元になると。厳密に言えばもっと根源的な、『魂』から溢れた『神魔に通ずる力』が魔力と呼ばれるモノだとも言ってました。」

「大体合っている。神魔に通ずる力を目指して、生物が持つ力の中で最も強力と言える『生命力』を万物の素となる力に変換させたのが『魔力』だ。」

「はい。」

「そしてこの世に魔法を扱う者が少ないのは、この『変換』を出来る者が少ないからだ。此れが出来るには頭での理解では無く、感覚・・・つまりセンスが必要だ。」

 カンナは目の前に置かれた紅茶入りのカップに口を付けて口を湿らせると再び口を開く。

「だが実は神話などで語られる魔力は、現在の我々が語る魔力とは別物なんだ。いや、正確に言えば現在我々が魔力と呼んでいるモノは実は本来の意味での魔力では無い。」

「魔力では無い・・・? ではアレは何ですか?」

「我々が魔力と呼んでいるモノは単純に生命力を変質させたモノに過ぎない。その証拠に魔術を使い過ぎると酷く疲弊して暫く動けなくなる筈だ。」

「確かに疲れてしまうと魔法は使えなくなりますが・・・でも、其れが証拠になると言うのはどういう意味ですか?」

 信じていた事実が否定されてセシリーも堪らず口を挟んでくる。

「ヒントはノリアが言った言葉にある。『神魔に通ずる力』が魔力だと。その認識が実は少しズレているんだ。」

「ズレている?」

「そう。神話時代では『神魔に通ずる力』では無く『神魔の力そのもの』、つまり神の力を魔力と呼んでいたんだよ。そして現代の魔術師達の一部が其の神の力を畏敬と憧憬の念を込めて『真なる魔力』と呼んでいるんだ。何にせよ神話時代の人々は其の力を以て神話魔法を使い熟していた。」

「人が神の力を使っていたって事?」

「そうだ。そして神話魔法とは神の力を顕現させたモノだ。真なる神々は永い刻を掛けて、生きとし生ける者達に自分達の力と技を生命そのものに埋め込む形で分け与え、来たるラグナロクで全滅してしまわない様に備えさせたんだ。」

 何とも壮大な話になり、皆は黙ってカンナの話しに耳を傾ける。

「そしてラグナロクが終了し真なる魔力が人々にとって不要のモノとなった時、神々は星の空から姿を消すと同時にこの星の命達に与えていた真なる魔力も自分達に返還させていった。代を重ねる度に真なる魔力が減るように仕向けてな。」

「じゃあ、今の私達には本当の魔力は存在しないと言う事ですか?」

「そうなる。だが例外的にその力の残滓を引き継いだ者達が居る。その者達はいわゆる『真なる魔力』を持ち合わせているんだが、その力を現在では『魔力』と区別する為に『神性』と呼んでいるんだ。」

「え、神性ってそう言う意味が在ったんですか?」

 ルーシーが驚いて声を上げる。

「そうだよ。因みに神性は神が人に後から植え付けた物だから体力とは無関係の所に在る。故に例え疲労していても・・・其れこそ死にかけている状態でも詠唱さえ結んでしまえば神話魔法を望む威力で発動させる事が出来るし、逆に元気な状態でも神性が切れれば魔法は使えない。」

「・・・確かに神性が切れると何も出来なくなるな。」

 ここ最近では一番神性を多用しているシオンが、此れまでの事を思い出すように上を見上げながら同意した。

「違いを纏めてみようか。先ず『神性』は疲れていようが死にかけていようが、体内に神性が残っていれば神話魔法を扱う事が出来たし、逆に元気な状態でも体内に神性が残っていなかったら神話魔法を使うことは出来なかった。要は神性と生命力に相関性は無いという事だ。」

 一旦、言葉を止めてカンナは全員を見渡す。

「・・・対して現在の『魔力』は術者に元気が無ければ発動も覚束無ず、また発動しても極めて弱いモノになってしまう。しかし生きている限りは使用する事が出来る。死のリスクは常に付き纏うがな。つまり魔力と生命力には密接な関係が在ると言う事だ。」

「・・・」

 シオンが首を傾げた。

「どうした、シオン?」

 カンナに船を出されてシオンは其れに乗る。

「神性と魔力の違いは解ったんだが・・・1つ腑に落ちない点が在る。」

「言ってみろ。」

「以前にカンナはセシリーがとんでもない魔力量を持っている、とか言ってたよな。今の話しからするとセシリーはとんでもない生命力の持ち主と言う事になるが・・・」

「そうは見えないか。」

「・・・」

 カンナの返しに「うん」とは言えずシオンは黙る。

「まあ、其の疑問は尤もだ。私だって最初は驚いたよ。見かけによらず凄い生命力を持っているのだな、と。だがよくよく観察してみればセシリーの場合は少し違った。」

「違うんですか?」

 セシリーが興味津々で尋ねる。

「ああ違った。セシリーの場合は、お前の中に眠っていた『神性』をお前自身が無意識に取り出して魔力に変換させていた。此れはお前の中に、大英雄の血による神性が在ると解ってから気が付いた事だがな。アレは私にも出来ない。いや、何とも器用な事をする。」

「・・・」

 自分の無意識下の行動を誉められてもピンと来なかったのか、セシリーは微妙な表情を作る。


「物は序でだ。もう1つ魔法について教えてやろう。」

 カンナは紅茶を啜ると言葉を継いだ。

「魔法と一言で言っても幾つかの種類が在るよな? 例えば一番有名なのは『魔術』だ。各国の魔術院で研究されている分野は殆どがコレだな。比較的扱い易く効果を派生させ易いのが理由だ。それ以外にも天央正教特有の『光魔法』や、ここ100年程で漸く体系化された『回復術』なども在る。他には何が在る?」

 カンナの視線を受けてルーシーは答える。

「ケイオスマジックですね。『精霊魔法』『神聖魔法』『奈落の法術』の3つです。」

 カンナは頷く。

「そうだ。後は特殊な魔法として竜王の御子だけが使える『ドラゴンマジック』も在る。・・・さて、ではお前達、これらの魔法の強弱について考えた事はあるか?」

「強弱・・・?」

「いや・・・特には・・・」

 カンナの問いに一同は首を振る。

「まあ普段ならどうでも良い事だからな。だが殊に戦いとなればそうも行かなくなる。『弱い』魔法を使っても意味が無いから可能な限り『強い』魔法を使いたい筈だ。」

「其れは確かに・・・」

「では魔法の『強い』『弱い』は何処で決めていると思う?」

「・・・」

 全員が首を捻る。

「・・・威力・・・かしら?」

「いや違う。」

「・・・規模・・・とか?」

「違うな。」

「うーん・・・効果の大きさ、とか。」

「其れは言い変えれば威力の事だな。」

「・・・何だろう?」

 懸命に答えを当てようとする一同をカンナは楽しそうに眺める。


 また悪い癖が出た。

 シオンは内心で軽く溜息を吐くと言った。

「焦らさずに教えてくれ。」

「何だよ、もう降参か?」

「ああ降参だ。」

 シオンの言葉にカンナは少しだけ不満そうな表情を見せたが直ぐに答えを口にした。

「答えはな『決定力』だよ。」

「・・・」

 全員ピンと来る者が無く黙ってままだった。

「解らんか?」

「解らんよ。」

 カンナの問いにシオンが返すとノームの娘は不本意そうな表情を作った。

「シオンには以前に話した事が在った筈だけどな。さては忘れおったな?」

「・・・? そうだっけか?」

 特に悪びれる風も無くシオンが首を傾げるとカンナは呆れた様な顔になった。

「まあ良いわい。じゃあ改めて説明するからな、もう忘れるんじゃ無いぞ。以前と違って今のお前は竜王の御子だ。魔法も操る立場となったなら覚えておいて損は無い。」

「解った。」

 シオンが頷くとカンナは全員を見渡す。

「魔法の強弱は決定力で判断する。此れは魔術に携わる者達の間にも意外と浸透していない考え方だが、間違いの無い真実の1つだ。」

「決定力とはどういうモノなんですか?」

「決定力とはその魔法の強固さを現す言葉だ。もう少し言うと、発現させた魔法がどれくらい外からの妨害に左右されないかを量る言葉だ。」

「・・・なんか、聞いた事あるな。ソレ。」

「そうだろう?」

 シオンが呟くとカンナはしたり顔でシオンを見た。

「あの・・・すみません。良く解らないです。」

 セシリーが申し訳無さそうに言うとカンナは頷いた。

「そうか。そうだな、では解りやすく攻撃魔法で例えるか。例えば攻撃魔法を発動させるプロセスとしては『魔力を燃焼させる』『呪文の詠唱等で力の方向性を策定させる』『発動させる』の3つだ。此れ等を行って魔法は効果を発揮する。しかし・・・そうだな、じゃあセシリー。魔術を防がれた事は無いかい?」

「在ります。防がれた・・・と言う訳ではありませんが、魔術測定用の的に向けてソーサリーボルトを放った時は的に当たる前に消えてしまいました。」

「うん、そうだろう。実は魔術は防ぐ手立てが豊富に在る。その中の1つが効果を中和して打ち消してしまう方法だ。」

「中和・・・ですか。」

 ノリアは首を傾げる。

「そう、中和だ。方法は難しくない。相対する術者の放った魔術よりも強い魔力を放って力を打ち消してしまえば良い。先程の魔術棟や、今セシリーが言ったセルディナのアカデミーに在る魔術測定用の的なんかもその仕組みを応用して出来ている。あの的の中には希少な大型の魔石が何個も埋め込まれていて起動させると途轍もなく強い魔力を放ち始める。だから個人レベルで放てる程度の魔術は中和されてあの的には届かないんだ。」

「へぇ・・・そういう事なんだ・・・」

 アリスが感心しながら頷く。

「つまり、セシリーが例えに出してくれたソーサリーボルトは『的から放たれた強大な魔力』という『外からの妨害』に負けて打ち消され消えてしまった。ソーサリーボルトの決定力はそのレベルと言う事になる。」

「其れがソーサリーボルトの決定力・・・。」

「勘違いするなよ。ソーサリーボルトだけでは無い。同じ魔力を使う以上、例えそれがソーサリーストームの様な威力の高い魔術でも決定力は変わらない。つまり魔術全般の決定力が魔術測定用の的を突破することは出来ないレベルだ、と言う事だ。」

「え・・・其れは何かちょっとショックだわ。」

 アリスが呟く。

 カンナは微笑んだ。

「まあそう言うな。その変わり魔術には多彩に派生させる汎用性がある。研究しがいのある分野の魔法である事は間違いないんだぞ。」

 そう言うと、ノームの伝導者はルーシーを見た。

「さっき魔術棟で『的を壊してしまっても平気か?』と尋ねたのはこの決定力が理由だったんだ。神聖魔法は神性を、つまり真なる神々の力を使う魔法だから的の中和力ではとても相殺出来ない。的を破壊してしまう事は確実だったんだ。そのくらい決定力が桁違いなんだよ。」

「そうだったんですか・・・」

 呆けたようにルーシーは答える。

「これで解っただろう? 魔法の強弱は決定力に支配される。例え凄い威力の魔術を放っても簡単に打ち消されては意味が無い。逆に握り拳大の小さな炎の塊で威力は大した事無くても絶対に打ち消せず、発動してしまえば相手を必ず焼くまで消えない魔法があったらソッチの方が脅威だろう?」

「其れは間違い無いな。」

 シオンは頷く。

「因みに精霊魔法も高い決定力を持つ。アレも実は神性を使用しているからな。ルーシーもセシリーも気が付かなかっただろうが、精霊達が喰っているのはお前達の魔力を通して出て来る神性なんだよ。だから熟練した魔術師がいくら精霊達と契約を結ぼうとしても神性を持ってなければ1000年経っても精霊達に相手にしては貰えない。」

 カンナの話にセシリーがハッとなって言った。

「そうか・・・。カンナさんが私とルーシーに精霊魔法を授けてくれたときに『資格が無ければ1000年修行しても習得は不可能。だが資格が有れば即座に使える様になる。』って言ってたのは神性の有無の事を言っていたのね?」

「その通り。」

 伝導者はニッコリと笑う。

「この理屈を知っていれば魔法が防がれるかどうかの判断基準になる。」

 セシリーは溜息を吐いた。

「何でカンナさんが魔法の強弱についてまで話し出したか解ったわ。つまり下級悪魔相手に魔術を使っても無意味だと言いたいのね? カンナさんは。」

「流石は優秀だ、セシリーは。戦うときは精霊魔法を使えよ。」

「解りました。」

 少しだけ拗ねた様にそう言ってセシリーは笑った。


 その時小屋の外が少し騒がしくなった。





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