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神の去った世界で  作者: ジョニー
第4章 混沌のイシュタル
175/215

79話 大正門前



 突然立ち上がったヴィルヘルムにリカルドは驚きの視線を向けている。そんな大主教の視線など無視して、ヴィルヘルムは近衛兵に入室を許可し報告を受けた。

「どういう事だ?」

「は。先程来、帝都の住人達が城を取り囲む様に集まってきており『イシュタル大神殿の話が聞きたい』と申している様です。」

 イシュタル大神殿で起きた事件をまだ知らない近衛兵は若干戸惑い気味に報告をする。

 ヴィルヘルムは心中で苦虫を噛み潰した。

 大神殿に来ていた帝国民達が此の騒動の元である事は疑い様も無い。帝都に戻った彼等が周囲に言い触らしたのだろう。

 やはり逃げ出した先で民衆を捕らえ戒厳令を敷くべきだった。普段ならそうしていた筈の事を行わなかったのは、あの時のヴィルヘルムが若干とは言え余裕を失っていたと言う事を示しており否定は出来ない。

 とにかく此の巨城を囲うほどの人数となると1000や2000の数では無い。下手をすれば10000人単位で押し寄せている事になる。

 「此れが天央正教の力か」とヴィルヘルムは改めて舌を巻く思いだった。

 イシュタル大神殿の話と言うからにはゴーレムが暴れ回った件に違いあるまい。或いは法皇が巻き込まれた事まで確認しに来た可能性もある。


 先程の嫌な予感が再び首をもたげてくる。


「で、誰が対応しているのだ?」

「は、現在ディオニス大将軍がご対応されていらっしゃいます。」

「左様か。」

 ヴィルヘルムは頷く。

 確かに状況を知っている者達の中で即座に対応し上手く取り成す事が出来そうなのはディオニスくらいだろう。それに忠義に厚いあの男の事だ。下手なことは言うまい。

 取り敢えずは奴に任せておくか。

 其れにしても、とヴィルヘルムは思う。

 この事態の起こりが気になる。噂が広まるのは仕方が無いとしてもこんな夜半に民衆が大勢押し寄せて来る事態は異常に感じる。何が異常と言って行動が早すぎるのだ。

 彼等が大神殿の話を聞いたのは間違い無く夕刻以降の筈だ。そんな彼等がもしこの時間にやって来るとしたら、話を聞いて直ぐさまに帝城を目指しでもしなければ時間的に来られる筈が無い。帝城を囲むほどの数が其の様な即断をして動くだろうか。

 更に言えば彼等は昨日の雲の騒動で傷付き疲弊し切っているのだ。普通なら動くにしても明朝だろう。


 もしかしたら誰か民衆を扇動した者が居るのでは無いか?


 ――邪教徒。

 ヴィルヘルムの脳裏に浮かぶ。未だ真の目的を明らかにして居らず底を見せないあの連中は疑って掛かるべきだ。いや最有力候補と言っても良い。

 皇帝は厳しい表情で唸った。


 ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆


 大正門前に押し寄せる民衆を前にディオニスは悪戦苦闘を強いられていた。


 何しろ彼等は賊でも敵でも無く、善良な帝国民なのだ。剣を抜いて蹴散らすわけには行かない。かと言って彼等自身は興奮しているのか声を上げながら丸腰で城内に押し入ろうとしている。無論、突破されれば剣を抜かない訳には行かないが其れだけは回避したかった。

 必死になって民衆を押し留める兵士達の後ろでディオニスは声を上げる。

「皆、不安な気持ちは解る。が、城内には未だ昨日の騒ぎの傷が癒えていない者達も大勢居るのだ。何とか落ち着いて欲しい!」

 そう叫ぶが民衆の動揺は収まらない。

「話に聞けば、法皇様を殺したのは大神殿の大主教と皇帝陛下だって聞きました!」

「皇帝が沢山の騎士団を連れていったのは其の為だって話ですよ!」

「本当なのか教えてくれ!」


 「何を馬鹿な」と言いたい処では在ったが、その辺りについてはディオニスも疑念を抱いていた。が口に出しては否定した。

「その様な事実は無い! 皇帝陛下が城外に出られるに当たり騎士団を連れて行くのは当然の事だろう? 法皇猊下の件にしても我らは巻き込まれた側だ! 間違っても法皇猊下を弑する等と言う事は無い!」

「・・・」

 ディオニスの声量に気を削がれた民衆は一瞬だけ静まる。

 しかし民衆の1人が再び声を上げる。

「でも、俺達の街があんなに酷い目に遭って、今も沢山の人が苦しんでいて死体も沢山放置されているのに皇帝陛下が祭礼の儀に行くなんて・・・しかもあんなに沢山の騎士を連れて行くなんて、あんまり酷いじゃないか!」

「其れは・・・!」

 ディオニスは痛い所を突かれて言葉に窮した。


 全く以て其の通りだ。

 何しろ今の民衆が放った言葉は、今朝、彼自身が皇帝にした諫言に他ならない。

 本当に何故に陛下はこの様な状況下で祭礼の儀に向かったのか。しかもあれ程の数の騎士団を連れて。ディオニスの胸中にはずっと疑念が渦巻いている。


 強引に皇帝は騎士団を連れていった。

 すると大神殿において巨大なゴーレムが現れた。

 そして皇帝は動揺することもなく騎士団に向かって「戦え」と言い放った。

 ディオニスが「騎士を無駄死にさせるから」と撤退を促しても皇帝は「問題無い」と頑として譲らなかった。


 問題無いと言い切った根拠は一体何処に在ったのか。

 確かに結果を見れば、法皇や一部の大主教達が巻き込まれはしたものの、騎士団に大きな被害が及ぶ事無くゴーレムは勝手に動きを止めた。

『初めから何が起きるのかを知っていたのか?』

 そう疑っても仕方の無い言動が多かった。


 ディオニスは説得を止めた。

「・・・その通りだ。今の状況で行くべきでは無かった。」

「やっぱりそうじゃないか!」

「だが、理解して欲しい。困難に見舞われたとしても、国としては其れを最小限に見せねばならない時も在るのだ。」

「そんな勝手な理屈があるかよ!」

「無論、君達の生活を放って置くような事は断じて無い。イシュタル大神殿で起きた事も必ず後日正式に国から公表すると約束しよう。だから今は退いて欲しい。この通りだ。」

 ディオニスは彼等に向かって頭を下げる。

「・・・!」

 まさか一国の大将軍が自分達民衆に向かって頭を下げる等とは思いもしていなかった民衆は驚いて声を失う。が、やがて。

「だ、大将軍様が其処まで言うなら・・・。」

 と理解を示す。


「欺されるな!」

 声が上がったのはその時だった。

 再び民衆の奥から声が上がる。

「そんな事を言ってコイツらは今までみたいに、また俺達を虚仮にして知らぬ存ぜぬを押し通す積もりだぞ! 皇帝を出せ! 俺達で引き摺り出せ! 正義を示せ!」

 その言葉が民衆の双眸に異様な光を灯らせた。

「そうだ!」

「皇帝を出せ!」

「俺達で引き摺り出せ!」

「正義を示せ!」

 まるで操られたかのように再び民衆は突撃してきた。

 しかも先程とは比較にもならない程の強い圧力を以て。


 流石に多勢に無勢で兵士達の壁が崩れた。

 ・・・最早此れまでか・・・!

 ディオニスは目を瞑り無念を噛み締めた。そして苦悶の表情で抜剣し後ろに控える騎士達に鎮圧を命じようと剣を夜空に向けて翳したとき。


 突如、太陽の如き強烈な光が頭上に輝いた。


「!?」

 全員が驚いて空を見上げる。


 光は弾けて大量の細かな粒子となり人々の上に降り注ぐ。

「・・・」

 黙して見上げる帝国民達の双眸から狂乱の光が消え失せていく様にディオニスには見えた。


「閣下。」

 戸惑うような騎士の問い掛けにディオニスは首を振り剣を鞘に納める。

「様子を見よう。」

 その声に従い騎士達も抜き掛けた剣から手を離す。彼等とて民衆を斬りたくなど無いのだ。


「ギャァァァァァッ!」

 凄まじい悲鳴が彼方此方から沸き起こった。

 ディオニス達が其方に目を向けると幾人かが大地にのたうち回っている。


「皆さん、落ち着いて下さい。」

 涼やかな声が周囲に通った。

 人垣が割れて其処からルーシー達が姿を現す。セイクリッドローブを揺蕩わせながら光のオーラに身を包んだルーシーは、皆の前に出ると民衆に向かって静かに微笑んだ。

「天央12神の主神レシス様は常に皆さんを見守っていらっしゃいます。大丈夫ですよ。どうぞ安心して下さい。」

「あ、あんた誰だ?」

 民衆の当然の問いにシオンが答える。

「彼女は竜王・・・いや、聖女にして天央12神と言の葉を交わした方です。」

 おお・・・と民衆は響めく。

 言葉だけでは信じられないが、先程の奇跡を目の当たりにした彼等はシオンの言葉を信じた。

「主神の名前はレシス様って言うんですか? なんか前に聞いた名前とは違うが・・・。」

 民衆の疑問にルーシーは頷いて見せた。

「はい、その辺も何れは皆さんに語られなくてはならない事ですね。ですが今はその時では在りません。今は無事に生き延びていつもの皆さんの生活を取り戻す事が何よりも大事です。天央12神のお話や法皇猊下のお話はその後にゆっくり聴いても遅くは無いですよ。」

「そ、そうだ。その通りだ。」

 賛同の声が上がる。


 皆がルーシーと話している間にカンナは大将軍と言葉を交わした。

「ディオニス殿、間一髪だったな。」

「カンナ殿。いや、本当に助かりました。危うく凄惨な事態を迎える処でした。それにしてもあの光はカンナ殿が・・・?」

「いや、アレはルーシーが竜王の巫女の力を発動させたんだよ。だいぶ神性を使わせてしまったが、騎士と民衆が殺し合うなど在ってはならん事だからな。」

「なんと・・・あのような少女が・・・大したモノだ。」

 銀髪の少女を見る大将軍の老いた双眸が感動に揺れた。

 カンナも嬉しそうにその様子を眺めるが直ぐに表情を戻すと再び老将軍に言った。

「其れよりもディオニス殿。彼所でのたうち回っている連中を引っ張ってきてくれ。アイツらが先程民衆を扇動した連中で正真正銘の邪教徒だ。」

「何!?」

 ディオニスの視線がこれ以上無い程に険しくなった。

 そしてその視線のまま後ろに控える騎士達に合図を送る。其れを受けて騎士達は即座に動き出した。怒りに燃える騎士達の手に掛かればルーシーの光に焼かれて傷付いた邪教徒達など一瞬の内に捕縛された。


「其れと・・・。」

 カンナはミシェイルを見る。金髪の少年は手に持つ綱を騎士の1人に渡した。綱の先には大神殿で捕らえた魔術師達が大人しく繋がれている。

「こ奴らがあのゴーレム騒動の仕掛け人達だ。」

「・・・。」

 ディオニスは呆気に取られた様にカンナ達を見渡した。

「一応、全員が魔術師だが安心して良い。コイツらには魔封じの呪術紋を刻んでいる。1週間ほど魔術は使えない。」

 カンナの補足を聴きながらディオニスは魔術師達を眺める。どうしたものか、と整理を付けているのだろう。


 大将軍が整理を付けるのを待つために一行が黙っているとカンナを呼ぶ声が後ろからかかった。

「カンナ様。」

 カンナが振り返ると、ルネとクリオリングが立っていた。

「おお、ルネ。体調はもう良いのか?」

「はい、もう大丈夫です。」

 エルフの女神は頷いた。

 アシャに風の衣を纏わせ続けた為に神性を使い過ぎて体調を崩したルネだったが、城でクリオリングが付き添う形で休養を摂っていた。

「イシュタル大神殿の方はどうでしたか?」

 ルネの問いにディオニスもカンナを見る。


 丁度良い。

 ノームの娘は今話してしまうことにする。

「ああ、そうだな。クリオリング殿も含めて3人には今解っている事を簡単に話してしまおう。」

 カンナはそう前置いてルネとクリオリングにイシュタル大神殿で起きた混乱を、そしてディオニスには魔術師から聞いた話を聞かせた。

 2人は口にしては何も言わなかったが、表情は極めて厳しかった。

「大主教が・・・ゴーレムの・・・」

 ディオニスもブツブツと呟いていたが「フゥ」と大きな溜息を漏らすとカンナ達に頭を下げた。

「何から何まで、世話を掛けっぱなしだな。本当に有り難う。まったく自分が情けないよ。」

「恥じることは無いさ。こんな異常事態に私達が慣れているだけだ。人には得手不得手が或る物だろう?」

 カンナの下手なフォローに老将軍は苦笑いを浮かべた。


 魔術師達を引き渡す際にシオンはディオニスに囁いた。

「閣下、彼等が重罪人なのは重々承知しているのですが、一応彼等に白状させる取引として口を利くと言ってあります。」

「なるほど。」

「しかし敢くまでも取引は私と彼等の間で勝手に行った事で、イシュタル帝国は絡んでいない。何よりイシュタル帝国の秩序こそ何よりも重要なのは私も承知している処です。ですので今の話は頭の片隅にでも留めておいて頂ければ幸いと考えて居ります。」

「了解した。覚えておこう。」

 ディオニスは了承するとカンナを見た。

「カンナ殿。この者達は本当に魔術が使えないのか?」

「其れは心配要らない。先程も言った様に此処に来るまでに全員の身体に一時的な封印の呪術紋を刻んでおいた。此の紋は時間と供に効果が薄まっていくが効果が薄まるまでに1週間は掛かる。その間、もし仮に魔術を使おうとすると全身に激痛が走るからとても使えたモノじゃない。」

「そうか、ならば安心だな。」

 ディオニス得心した様に頷く。

「では我らは一度席を外すが貴殿等はどうする?」

「そうだな・・・。」

 カンナは首を傾げた。

「もし良ければ其処の邪教徒の話を訊いてみたいな。奴らの親玉や崇める対象の情報が引き出せるかも知れんしな。」

「おお、なるほど。」

 カンナの答えにディオニスは頷くと思案する。

「其れならば儂も一緒に聞こう。」

 老将軍は騎士達に視線を向けた。

「お前達はその者達を牢に連れて行け。其れからリカルド大主教を捕らえよ。」

「は。」

 騎士達は一礼すると魔術師達を引き連れて行った。


「さて。」

 カンナは騎士達に見張られている邪教徒達に近づいた。


 連中は全身がまるで火傷したかのように焼けておりかなり傷付いていた。

「奴らは何故あの様に傷付いているのだ?」

「先程のルーシーの魔法にやられたんだよ。」

 ディオニスは首を傾げて更に問うた。

「あの光が振ってきた様に見えた魔法の事か?・・・しかし、他の民達も魔法を受けていたはずだが、何故邪教徒だけが影響を受けているのだ?」

「ルーシーの操る魔法は奈落の瘴気に冒された者達にとっては業火に等しくてな。喰らえばあんな風になって仕舞うんだ。逆に見付けやすくて助かるよ。」

「ほぉ・・・。本当に大したモノだな。」

 老将軍の視線を受けてルーシーは恥ずかしそうに頬を赤らめる。


「さて、では何処まで素直に話すかは疑問だが取り敢えずは訊いてみるか。」

 カンナはそう言うと蹲る邪教徒達の前にしゃがみ込んだ。

「お前達、オディス教徒だな。見たところ下っ端の教徒の様だが大主教は来て居らんのか。」

「・・・。」

 オディス教徒達は無言で焼けた顔面から鋭い憎悪の視線をカンナにぶつける。

 カンナはその態度に冷笑を浮かべた。

「まぁ来るわけも無いか。悪の総帥など大抵は根城に籠もっているのが相場だからな。臆病と言っても良い。」

 殊更に見下したカンナの物言いに邪教徒達は怨嗟の歯軋りを漏らした。

「・・・偉大なる大主教猊下がこんな些末な事に其のお姿を見せられる筈もなかろう。天央正教の薄っぺらい大主教供如きと同列に考えるなよ。」

 それもそうだ。

 珍しく自分と意見が一致した事にカンナは今度は苦笑いを浮かべる。

「貴様等は我らを邪教徒と決めつけているが貴様等が信仰する天央正教はどうなのだ。宗教団体のトップクラスが信者も組織も捨てて身の安全を第一に考える為体は、天央正教という団体が欺瞞に満ちた組織で在る事を雄弁に物語っているではないか。其れに比べれば目的を偽らぬ我らの方が余程に真摯よ。」

 或いは自分の心情を吐露したかも知れない邪教徒の憤懣の言葉が終わるとカンナは溜息を吐いた。

「確かにな。自身の安否ばかりを優先してイシュタル城に保護を求めて逃げ込んだ連中についてはお前達の言う通りだ。だが・・・」


 カンナは街の人々の評判を思い出す。

 人々が批判していたのは一部の大主教や主教達だ。日々、民達と触れ合い彼等の苦悩を取り除いてきた末端の聖職者達の働きには、民達は心から感謝していた。


「だが、そんな連中だけを見て天央正教全体を貶めるのは違うな。大多数の聖職者達は民と共に生きてきた敬愛すべき者達だ。今とて法皇猊下を救いだそうと身の危険も反り見ずに大神殿で救出作業に勤しんでいる者達もいるし、私達が此処に来るまでにも沢山の聖職者達が街に出て傷付いた人々に声を掛けて回る姿を見てきた。」

 カンナの視線が厳しくなる。

「逆に何を不満に思うのかは知らんが、この世が気に入らないからと邪教などに入信して破壊活動に勤しんでいるお前達等如きが偉そうに他者を批判するなど、其れこそ笑止千万だ。其の総大将たる者など、私に言わせれば存在その物が害悪だと断定してやるよ。」

 カンナの言葉が邪教徒達の双眸に憎悪の炎を灯らせた。

「貴様・・・!」

 カンナに掴み掛かろうとする邪教徒の前にシオンが割り込み鉄拳をねじ込んだ。

「グッ・・・!」

 呻いて転がる邪教徒を見据えながらシオンは無言で神剣残月を引き抜く。その双眸には邪教徒にも劣らぬ程の激しい怒りの炎が宿っていた。

「・・・大量殺人者である貴様等の言い分などに最早耳を貸す気なぞ無い。どうせ先の瘴気の雲の件も貴様等が起こした事だと言うのは解っている。天央正教の大主教を唆してゴーレムを使わせた事もな。俺達が訊きたいのは1つだ。」

「・・・。」

 死をも恐れない筈の邪教徒達もシオンの放つ強烈な殺気に当てられて不安げな表情を見せる。

「最奥のアートスは何処に居る?」

「!!?」

 邪教徒の全員が驚愕の表情を見せた。

 シオン達がその名を知っている事が余程に驚いたのだろう。その剥き出しになった感情をカンナは捕らえた。

『虎狼の息吹に潜みし暗がりの隠者よ。蕃神の財に触れて我が前に差し出せ・・・ヤーカウト』

 詠唱が終了すると同時に邪教徒達の顔から表情が抜け落ちた。

『もう一度訊く。最奥のアートスは何処に居る?』

 カンナが不可思議な声で再度尋ねると邪教徒達は答えようと口を開いた。

「さ・・・最奥の・・・アートス様は・・・地下神殿・・・」

 其処まで言った時、凄まじい量の瘴気が大地から染み出て邪教徒達を包み込んだ。

「カンナ!」

 シオンがカンナを抱き上げて飛び退くと、瘴気は獲物を探すかのように揺蕩っていたが、やがて現れた時と同様に大地に還って行った。


 残されたのは大地に転がる邪教徒達の骸のみだった。




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