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神の去った世界で  作者: ジョニー
第2章 邂逅
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16話 アカデミーにて


翌朝――



「何だ。アカデミーに行くのか、今日くらい私に付き合ってくれても良さそうな物なのにな。」


 カンナは不満気にシオンを睨んだ。


「お前も来るか?」


「行かんわい。」


 拗ねたようにそっぽを向く。


「私はこの町を見てくるから勝手にアカデミーでも何でも行ってこい。」


 シオンは苦笑して鍵を1本カンナに渡した。


「家の鍵だ。お前に渡しておく。」


 するとカンナはニマァっと笑った。


「おおう、合鍵を渡すなどまるで恋人同士の様だな。」


「馬鹿言うな。」


「つれないのう。」


 シオンに続いてカンナはピョンピョンと跳ねながら家を後にする。



「あ、おはよう、シオン。」


 数日ぶりにアカデミーに足を運ぶとアイシャが挨拶をして来た。


「おはよう。」


 シオンは挨拶を返すと周囲を見渡した。


「ミシェイルは?」


 いつもはアイシャと一緒にいるミシェイルがいない。シオンの問いにアイシャは首を傾げながら言った。


「うーん、それが来てないんだよね、総合演習の翌日からずっと。アカデミーに聞いたら長期休暇願いが出されているらしくてさ。・・・やりたい事があるって言ってたから、それをやってるのかなぁ?」


「そうか。」


 シオンはミシェイルが時折見せていた、思い悩むような表情を思い出す。


「何か思うところが有るんだろう。」


「心配じゃないの?」


「もし、俺が想像している通りの事情なら心配はしていない。むしろ放っておいたほうが良い。」


 その返答にアイシャは不満気な表情をする。


「何か知っているなら教えてよ。」


「そのうちな。或いはアイシャ、お前ならミシェイル本人から聞けるかも知れない。『そのうち』ではあるけどな。」


「私なら・・・?どういう意味?」


 その問いに返そうと口を開き掛けたとき、講師がシオンの名前を呼んだ。


「シオン君、副学園長がお呼びだ。至急、向かってくれ。場所は判るね?」



 本館2Fの奥に副学園長の執務室がある。


「失礼します。」


 シオンが入室するとレーンハイムが立ち上がった。


「いやあシオン君、よく来てくれた。」


「お久しぶりです。レーンハイムさん。」


 レーンハイムはシオンをソファに勧めた。


「早速、大きな依頼をこなしてくれたね。有り難う。昨日ウェストンさんから直接に報告を貰ってね。Cランクの依頼、それもアインズロード伯爵の依頼をこなしてくれたそうじゃ無いか。」


「ええ。」


「しかもBランクに昇級したとか。大したものだ。」


「有り難う御座います。」


 レーンハイムの熱気にシオンは苦笑する。


「・・・それにアカデミーの問題点も教えて貰った。」


「・・・そうですか。」


 レーンハイムは口にしていたカップを置いた。


「あれは、君がギルドに報告を上げてくれたのだろう?私の立場を慮ってくれたが故に。その少年とは思えない配慮に感謝するばかりだ。有り難う。」


 レーンハイムは頭を下げる。


「そんな君が上げてくれた問題点だ。その視点は冷静かつ客観的に視てくれた物だと信じられる。全てを精査し今後に取り入れていく事を約束しよう。」


「そうですね。当面の問題はクリア出来ている訳ですし、アカデミーの実績を安定させる方が重要だと俺も思います。」


 シオンの言葉にレーンハイムも頷いた。


「その通りだ。しかしウェストンさんから聞いたが、回復師という職業がそれほどのメリットを持っているとは知らなかった。・・・恥ずかしながら学園の講師陣には高ランク冒険者の経験者が居なくてね。」


「そうでしたか。」


 シオンはやっぱりかと頷いて提案する。


「なら、ギルドのスタッフに臨時の勉強会を開かせて講師の方々に学んで貰えばいい。俺からウェストンさんに掛け合いましょう。」


「出来るのかい!?そんな事が!」


 シオンは頷く。


「可能だと思います。アカデミーが変わればギルドに登録する冒険者の質は己ずと上昇する。引いては自分達の仕事も楽になる。協力してくれると思いますよ。」


「是非、頼むよ。それと君には色々とアカデミーを視て貰いたいのでね、必修も学科も関係無く自由に動いてくれて構わないよ。どの講義への参加も自由だ。」


 レーンハイムの言葉にシオンは頷いた。



 執務室を出たシオンはそのまま3Fに上がった。3Fは魔術科の教室が並んでいる。或いは講義が覗けるかも知れない、そう思っての事だった。



 数ある教室の内の1つが騒がしい。あそこで講義が開かれているようだった。シオンはそっと覗いてみる。が、シオンは魔法に関しては然程の造詣は無い。従って善し悪しが判らない。


仕方無く、少年は知り合いの姿を探す。


『ルーシーとセシリーは居ない様だな。』



 シオンはそっと教室を離れた。



 その他の教室は人の気配も無く妙に寒々しい。


 ふと1つの教室に目を向けるとポツンと人影が見える。あれは・・・


「ルーシー。」


 シオンは教室の窓を開けて少女に声を掛ける。


「!?・・・シオン!?」


 突然に声が掛かり驚いて振り向いたルーシーは眼を真ん丸にしてシオンの名前を叫んだ。


「ど・・・どうして、ここに!?」


「驚かせたね、すまない。中に入っても良いかな?」


 コクコクと頷くルーシーに了解を得て、シオンは教室の中に入った。



 ルーシーの隣に腰を下ろすとシオンはルーシーの教材を覗き見た。


「・・・これは薬草学?」


「う・・・うん、そう。」


 ルーシーが頷くと、シオンは横から教材を読んでいく。が、視線を外してガランとした教室を見渡した。


「いつも1人でやってるの?」


「うん・・・まあ、大体は1人かな。あはは。」


 ルーシーは困った様に笑って見せる。


「講師は?」


「うん。魔術学院から週に1回先生が来てくれてね、教えてくれるの。アカデミーの先生は回復師の深い内容までは教えられないから、2年生からは自習と週1回の『答え合わせと質問時間』みたいな感じかな。」


「そうか。」


 シオンは若干、険しい表情になる。近いうちにレーンハイムはこの状況を改善するように動くだろう。しかし、その間ルーシーをこのままにしておくのか?


「寂しくないかい?」


 シオンが尋ねるとルーシーは微笑んだ。


「寂しくないと言えば嘘になるけど、でも私はこれが学びたくてアカデミーに来ているのだから、そんな事は言ってられないわ。」


 強がりでは無い。確かな強さがある。シオンは彼女の双眸を見てそう思った。しかし、何か憂いも秘められている様な気がする。


「以前から君に1度、聞いてみたい事があった。なぜ、この様な状況でそこまで揺るがずに学び続けられる?」


 少年の真摯な問いに少女は視線を逸らした。


「・・・。私は・・・やらなければ成らない事があるの。」


「それは・・・?」


「・・・。」


 ルーシーは俯いた。


「すまない。無理に話さなくてもいい。」


「いつか・・・」


 シオンの言葉に被る様にルーシーは言葉を紡いだ。


「いつか、話します。」


 少年は頷いた。


「わかった。待っている。」


 ルーシーはホッとしたように表情を緩ませる。


「ありがとう。」


 そして彼女は思い出したように言葉を繋いだ。


「それにね、私にもしたい事はあるの。怪我や病に苦しむ人を私の力で癒やしたいの。無事にやるべき事を成し終えたら、今度はそれに向かって突き進むつもりなんだ。」


 頬を薄紅色に染めて照れくさそうに笑うルーシーに、シオンも思わず微笑んだ。


「そうか、頑張れ。応援するよルーシー。」


「うん。」



 シオンは思いついたように口を開いた。


「そうだルーシー、1人紹介したい人が居るんだが。」


「え?」


 ルーシーはキョトンとシオンを見た。


「俺の知り合いでね。ギルドの近くで薬屋を開いている人が居るんだ。この人は昔、冒険者をしていてCランクの回復師だった人だ。色々と教えて貰えると思う。」


「ほ、ホントに?」


 ルーシーの眼が輝く。


「ああ。もし今日、時間が有るなら一緒に行・・・」


「行きます!」


「あ・・・ああ、分かった。じゃあ、時間は・・・。」


「午前の必修が終わったらで良いです!」


 ルーシーの珍しく勢いの有る姿に、シオンは圧倒されながらも頷いた。



「わかった。じゃあ、正門前で待ち合わせよう。」



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