14話 伝導者
「伝道者・・・?」
ブリヤンが訝し気に尋ねた。
「ええ。私も大まかな事しか理解していないので当人に聞くのが一番でしょう。」
「・・・。」
全員、戸惑いながらも元の席に戻る。
「カンナ、こっちに来て自己紹介しろ。どんな場かは理解して居るんだろうから、しっかりと話せ。」
シオンの言葉にカンナは悪戯っぽく笑いながらシオンの下に歩み寄ると、困惑と警戒心を綯い交ぜにした表情のメンバーに一礼をする。
「初めまして。私の名はカンナと言う。先ほど我が相棒のシオンが言うた通り、伝道者として各地をブラブラしている。判るとは思うが見た目通りの年齢では無い。」
「その『伝道者』と言うのは何かね?吟遊詩人の類いか何かかね?」
やや落ち着きを取り戻したブリヤンが尋ねると、少女はニヤリと笑った。
「そうだな。似たようなものかな。もう少し言えば『神話時代の出来事を語り伝える事を使命とする者』・・・かな。」
「神話時代?混沌期よりも遙か昔の時代を舞台にした物語の事か?史実か物語かははっきりしていないと認識しているが・・・。」
「無論、史実だよ。私はその時代の精霊・・・いや妖精ゆえな。」
シオン以外はもはや言葉も無かった。
「わかった。兎に角もこれ以上司祭殿を足止めするのも申し訳ない。もしカンナ殿に予定が無いなら、帰りの馬車の中ででも話を聞かせて貰えないか?」
「うむ・・・。」
ブリヤンの提案にカンナは「どうしたものか」とシオンを見る。が、少年が頷くとカンナは意を得たようにブリヤンを見た。
「良かろ。」
エバンズ司祭は自分も加わりたいと主張したが、供の2人に予定を急かされて渋々引き下がった。
物見の塔での会合はこうして終了し、予定通りの物を入手した上に、思わぬ人物を加えての帰還となった。
帰りの馬車にて――。
シオンは馬に乗らずカンナと一緒に馬車に乗るように指示された。シオンの乗っていた馬は騎士達が引いて帰る形となる。
同乗しているブリヤンとセシリーは好奇心を剥き出しにして金髪翠眼の少女を見つめている。そんな2人を見遣りカンナは笑った。
「お前さん達、本当に親子だな。私を見る様が良く似ておる。」
「!・・・いや、失礼。女性を不躾に見るものでは無かった。」
「失礼しました。」
ブリヤンは咳払いをして視線を外し、セシリーは紅くなって俯いた。
「フフフ。別に気にしなくていいぞ。私も殊更に興味を引くような物言いをしているしの。」
楽し気に笑うカンナにシオンは顔を顰めながら口を開く。
「それでカンナ。何故、あそこに居た?この件は内密の行動のはずだが。」
「何故とは心外な物言いだな、私はあそこで1晩を明かしていただけだ。いきなりバタバタと人が這入ってきたかと思えば何やら面妖な話を始めよる。しかもシオンまで居るじゃないか。何事かと聞き耳を立てるのは仕方あるまいよ。」
シオンの問い掛けに、カンナはジロリとシオンを見遣り若干の抗議も含めて答える。
「なるほど。レディの睡眠を邪魔してしまったのならこちらに非が有るな。申し訳分けない。・・・ところでシオン君とは知り合いの様だが?」
ブリヤンが尋ねるとカンナは頷いた。
「うむ。シオンとは数年前に出会ってから気に入ってな。度々行動を共にしている。まあ、私がこんな性分故にいつも一緒という訳では無いがな。」
「そうか。・・・それで、君自身についてだが。先ほど自分の事を妖精と言っていたようだが?」
カンナはまるでこれから悪戯を仕掛けるような、そんな笑みを浮かべる。この笑い方は少女の癖の様だ。
「そうだよ。・・・そうだな。少し長くなるが、軽く神話時代の話をしようか。」
少女は黄金の髪を掻き上げながら座り直した。
「ず~っと大昔の話だよ。まだ何も無かった無の刻に2柱の神様が居た。正の最高神『創造神』と負の最高神『破壊神』だな。2柱の神様はここに世界を造ろうと決め、創造神は己が力の全てを込めて「世界の素」を『創造』したんだ。それを破壊神が己が力の全てを込めて『破壊』した。破壊された「世界の素」は粉々になって限りない無の空間へ四散した。これが星の海の原型だよ。」
どうやらカンナの話は世界創造の時代から始まっているようだった。
「そして2柱の最高神は戦いを始め、そのエネルギーを以て飛び散った『素』を遙か彼方まで押し広げ、同時に様々な星に命を宿らせた。永きに渡り争い続けた最高神は、やがて自らが争う事をやめ、それぞれが4体の『高等神』を産み出し自分達の代わりに争わせ始めたのさ。そして高等神は一級神を、一級神は二級神を産み出して、各陣営に分かれて大戦争を繰り広げた。その中で正の神々は竜を、負の神々は巨人を産み出して争いに参加させたりしておったそうだよ。」
一息吐くとカンナは再び口を開く。
「・・・やがて星の海の充分な成長を識った神々は、この戦争を終える時が来たことを悟る。そして神々は終焉の剣を振り下ろす役目を『人間』の手に与えることに定めたのさ。」
「神々の争いの最後の舞台となる世界をこの世界に定め、ここの生物達――つまり我々のご先祖達が争いに巻き込まれても死滅せん様にレベルを極限まで引き上げた。そして3回に分けて負の高等神と最高神が攻め込み、人間の手に因り敗退する形を以て正と負のバランスを崩し、争いは幕を下ろした。」
カンナは「ふう」と息を吐く。
「ついて来れたかの?」
ブリヤンとセシリーは黙って聞いていた。知っていた知識に新たな物が加わり整理している様だった。やがてブリヤンが口を開く。
「その話しぶりだと、攻めて来た負の神々は最初から敗北する事を目的としていた様に聞こえるが・・・」
「勿論そうさ。敗北しなければ争いを止められぬからな。そもそも人の突発的な力でどうこう出来るような存在では無い。正真正銘、紛う事なき神様達だぞ。」
「うむ・・・。」
ブリヤンは唸った。
カンナは話を続ける。
「そしてその後、神々は争いに関わった全ての物を持ち去り、星の海から姿を消した。」
「全ての物・・・?」
「そう、全て。2級神以上の全ての神々、竜、巨人、魔法、武具、生物を極限まで引き上げた力そのもの・・・兎に角も力となり得る全てを持ち去った。そして神話時代は終焉を迎える。・・・私はその様な事を今の時代の生物達に伝え歩いてるのさ。だから伝導者だ。」
「何の為に伝えているの?」
セシリーが問う。
「当時の神様にお願いされたからさ。」
カンナはそう言って笑った。
「まあ、一気に話しても理解出来まいよ。今の流れだけでも端折った話が山ほどある。興味が尽きないなら追々な。」
ブリヤンは頷くと、物は試しとばかりにカンナに質問してみる。
「ところでカンナ殿。我々は今、ケイオスマジックとオディス教について調べている。何か知っている事は無いだろうか。」
カンナは暫く考えていたが首を振った。
「済まんな。知らん。私が知っているのは神話時代の出来事だ。それらは、その後に出来たものでは無いか?だとしたら、せいぜいが神話時代にあった物から類推するくらいの事しか出来んわ。」
「そうか。いや、参考になった。また相談させて貰うかも知れない。」
「構わんよ。もっとも・・・何時までこの町にいるか判らんがな。」
カンナはひらひらと手を振り、話を終わらせた。
「シオン~」
カンナは嬉しそうにシオンに飛びついた。
「ああもう、しがみつくな。」
鬱陶しそうにシオンが引き剥がすがカンナは笑顔のまま張り付いて離れない。
「何だ、つれないなぁ。暫くはお前のところに泊まるぞ。」
「好きにしろ。」
端から見れば仲の良い兄妹に見えなくも無い。いや髪の色も目の色も違うので、やはりそうは見えない。
セシリーは何だか落ち着かなかった。
『なんか、これ・・・。何か良く解らないけどルーシー達に教えなくちゃ』
何だか黙っていられる気がしないセシリーだった。
<参考>
カンナ
職種:回復士、魔術士、その他 伝道者
Lv.20
筋力:2 技量:11 早さ:31 体力:6 魔力:30
HP:12 MP:60 素攻撃力:6 素防御力:21
特殊
回復魔法、魔術、その他(後に判明)
伝道者能力(後に判明)
ブリヤン
職種:剣士 アインズロード家当主
Lv.12
筋力:15 技量:20 早さ:14 体力:13 魔力:0
HP:26 MP:0 素攻撃力:17 素防御力:17