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神の去った世界で  作者: ジョニー
第2章 邂逅
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12話 アインズロード家にて



 セルディナ公国の北方に関する険しい連峰は『アイン連峰』と呼ばれ、その中でも特に峻厳な『高地アイン』と比較的緩やかな山々で形成される『低地アイン』で形成されている。

 

 その高地アインと低地アインの隙間を縫うように人の足でも先へ進める谷間が存在し、そこを辿り更に北へ進むとセルディナ公国をスッポリと飲み込んでしまえる程の『グゼ大森林』と、その中央に不自然に存在する『シバ砂漠』がある。


 この2つのエリアは、強い瘴気に溢れており魔物も闊歩する忌まわしきの未開の地となっていた。そのためこの地には古くから城砦が構えられており、その地にて長きに渡り防衛を指揮する貴族がいた。『アインの貴き者』の意味を持つアインズロード伯爵家である。

 

 城砦を最北端として南に広がる伯爵領は豊富な鉱山資源と農産業により豊かな領地として名を馳せている。

 但し、度々起こる最北からの魔物の襲来により人的被害も受けやすく、決して平穏な土地とも言えなかった。特に魔物の中に希に存在する正体不明の魔術『ケイオスマジック』を使用する者達には苦しめられたいた為、これの解明は一族の悲願とも言えた。


 そのアインズロード伯爵が公都にて執務を執り行う際に使用する邸にシオンが到着したのは二の鐘が鳴る頃であった。礼服としても使用出来る優雅さを前面に押し出した旅服を来て歩く姿は、宛も吟遊詩人の様に見える。

 シオンが門兵に取り次ぎを願うと、すぐに公邸に招き入れられ伯爵の執務室に通された。

 

 ブリヤン=フォン=アインズロード伯爵は、セシリーと同じトルマリンの髪色をした40代そこそこの壮年の男性であった。引き締まった体躯をグレーのスーツでスマートに身を包み、その鋭い視線は大貴族としての隙の無さを伺わせる。

「お初にお目に掛かります、アインズロード卿。ギルドより参りましたシオン=リオネイルと申します。」

 ブリヤンはジッとシオンを見ていたが

「随分と若いな。」

と呟いた。

「・・・よく来てくれた。掛けたまえ。」

 

 勧められたソファにシオンが腰掛けるとブリヤンはシオンの向かいに座り話を切り出す。

「話は聞いていると思うが依頼の内容は私の護衛だ。公都と我が領地であるアインズロード領の境にある物見の塔まで隠密の行動になる。それでも通常は護衛など必要の無い場所だが、今回は念を入れての行動となる。」

「伺っております。」

「護衛には数名の騎士も同行する。出発は明日の一の鐘の刻になるが、早いが大丈夫かね?」

「問題御座いません。閣下。」

 

 ブリヤンはシオンを見定めるかの様に見遣るが、やがてフッと表情を崩した。

「年齢は幾つかね?」

「16です。」

「ふむ、若いな。いや、ギルドが推薦してきたんだ、実力は全く疑っていない。が、見た目の割には場慣れしていると思ってな。」

「恐れいります。」

 

 ブリヤンはシオンが気に入った様子で、依頼のあらましを語った。

「今回の依頼は、高位冒険者を1人で良いから護衛に頼めないかと、4日ほど前にギルドに相談していてな。数日以内に連絡が取れる高ランク冒険者が1人いると聞いて依頼をしたら君が来たという訳だ。」

「遅くなりまして申し訳御座いません。」

「構わんさ。」

『コンコン』

 その時、執務室の扉がノックされた。


「入れ。」

 伯爵の声に応じて扉がゆっくりと開いた。

「失礼します。お父様。」

 そう言ってセシリーが入室してきた。トルマリンの長い髪がシオンの視界を彩る。

「セシリーか。」

「はい、お父様。昨晩にお話しした件について・・・。」

 そこまで言ったセシリーは、ソファに座る黒髪の少年を見て驚きに双眸を見開いた。

「え、あ、・・・え!?シオン!?どうしてここに・・・。」


「セシリー?」

 伯爵の怪訝そうな表情にセシリーはハッと我を取り戻し一礼した。

「し・・・失礼致しました。お父様。」

「うむ。で、要件は何かな?」」

 セシリーは状況が理解出来ずチラチラとシオンを見ながら、それでも話し始めた。

「はい、明日のお父様のお出掛けに連れて行って欲しいのです。」

 ブリヤンは困った様に眉間に皺を寄せた。

「それは危険だから駄目だと言ったはずだよ、セシリー。」

 父に否定されて、セシリーもようやく気持ちが入ったのか表情を真剣なものに変えて言い募った。

「はい、伺いました。けれど、私もアインズロードの娘として今回の受け渡しには同行させて頂きたいのです。今後の為にも!」

 やや興奮気味の愛娘を見てブリヤンは軽く溜息をついた。

「解った。では、後でもう1度話そう。」

 父の言葉を聞きセシリーは嬉しそうに破顔する。


「お前も、そこに座りなさい。」

 ブリヤンはシオンの隣に娘を座らせると2人を見比べた。

「君達は知り合いだったのか。」

「はい、閣下。セシリー様とはアカデミーの学友として交流させて頂いております。」

「・・・。」

 シオンの口調に唖然となったセシリーはポカンと口を開けてその横顔を眺めた。

「セシリー様って・・・。」

「セシリー、何て顔をしてるんだ?」

 娘の珍しい、いや初めて見せる表情にブリヤンは半笑いで尋ねる。

「い・・・いえ。」

 セシリーは赤面して俯いた。

「しかし、シオン君。何故アカデミーに行っているんだ?君は高ランク冒険者なのだろう?」

 ブリヤンは解せない表情で尋ねる。

 シオンは頷いた。

「はい。私がアカデミーに在籍しているのは、アカデミーからの依頼になります。」

 伯爵はしばらくの間、自分の持つ幾つかの情報を突き合せていたが合点がいったように頷いた。

「成程・・・レーンハイムめ、苦肉の策に出たな。まあ、アカデミーには頑張って貰いたい所ではあるしな。良かろう。」

 色々と知っているのだろう。ブリヤンはそれ以上は特に追求せず別の質問に移った。


「ところでシオン君。一流の冒険者である君の目から見てセシリーの腕前はどうかな?」

 シオンは少し思案しながら口を開いた。

「はい。アカデミーでは一昨日に合同演習という野外訓練が行われましたが、そこで私はセシリー様と同じパーティを組ませて頂きました。・・・そこでの評価しか話せませんが、宜しいでしょうか?」

「勿論、構わんよ。」

 横から熱い視線を感じる。恐らくセシリーも気になるのだろう。

「セシリー様には後衛について頂き、魔術によるサポートをお願い致しました。その一連を見た上での感想ですが、扱える魔法の数、使える回数、魔法が発動するまでに要する時間、どれを採ってもアカデミーの訓練生とは思えない高いレベルで纏まっていました。Fランク、もし彼女が『クエスト』という魔法を習得しているならEランク相当の魔術師であると言えるでしょう。」

「ほう・・・。」

 ブリヤンは唸った。

 セシリーは眼を輝かせ頬を染めてシオンを見つめた。想像以上の高評価に感動した様だった。

「勿論、この娘が冒険者になる事は無いが・・・。それにしても思いの外、高い評価だな。」

「恐らくは日々努力をなさっていらっしゃるのでしょう。」

「・・・ルーシーのお陰よ。あの子の姿を見ていると負けてられないって思うのよ・・・」

 シオンはセシリーの言葉に穏やかに微笑んで見せた。


「ふむ、では改善点、或いは今後、この娘が目指すべき目標は?」

「基本魔法の無詠唱発動が出来れば一人前では無いでしょうか?」

「無詠唱・・・。」

 セシリーの呟きにシオンは頷いた。

「そう。魔言による力の策定・・・すなわち詠唱を外して、単唱、つまり魔法名のみで基本魔法を発動させられたら一人前と冒険者の中では認識されています。」

 セシリーはシオンの口調に不満気な表情を見せたが頷いた。

 淀みない返答を受け、ブリヤンは興味深そうにシオンを見た。

「・・・ギルドからは剣と弓の達人だと紹介を受けていたのだが・・・君は魔法も嗜むのかね?」

「いえ、パーティを組んだことがある魔術師の受け売りです。彼女が単唱による魔法発動がパーティに誘われる大事な要素だと言っていましたので。」

「そうか・・・。」

 ブリヤンは暫く思案に耽ったが、やがてシオンを見て言った。

「いや、良く解った。思わぬ楽しい時間が持てたよ。明日は宜しく頼む。」

「はい。こちらこそ宜しくお願い致します。」

 打ち合わせは終了した。


「シオン。」

 公邸の玄関を出たところでシオンはセシリーに呼び止められた。

「セシリー。」

「その服、素敵ね。まるで宮廷お抱えの吟遊詩人みたいよ。」

「ありがとう。」

 セシリーはシオンの口調が元に戻った事にホッとなると頬を染めて言った。

「嬉しかったわ。あんな風に評価してくれてたのね。」

「そうだな。実際、君の実力には驚かされた。」

「フフフ。」

 嬉しそうにセシリーは笑った。

「それと、貴方の口調には驚いたわ。あなた誰よ!って突っ込みたかったもん。」

 シオンは苦笑した。

「変だったか?」

「変では無いわ。むしろ馴染みすぎて・・・ねえ、貴方、実は貴族の令息って事は無い?」

「いや。」

「そう・・・。」

 少し残念そうに呟くセシリーにシオンは思い出した様に尋ねる。

「そう言えば、明日は君も来るのか?お父君は渋っておられるようだけど?」

「うん。行くわ。絶対!!」

 セシリーはご令嬢に似つかわしくない、鼻息荒い表情で言い切った。



「ただいま。」

 シオンはギルドに戻るとミレイに声を掛けた。

「あら、シオンくん、お帰りなさい。打ち合わせは無事に済んだ?」

「うん。明日の一の鐘に公邸前だよ。」

「そう、じゃあ、すぐに準備しないとね。何しろBランクが掛かってるんだから。」

 嬉しそうなミレイの表情にシオンの顔は引きつった。

「・・・こんな適当に昇級させていいの?普通はギルド指定の依頼を5連続成功させて昇級だろ?それを今回の依頼を成功させたら昇級なんて・・・。」

「まだ言ってるの?君、Cランククエストを一体幾つこなしてると思ってるの?前回のも入れて27回よ。ホントは今回の条件だって不要なくらいなんだから。」

 ミレイの眉間に薄く皺が寄り、シオンは退散する事にした。


 そして、本人にとっては不本意ながらも昇級が掛かった依頼当日の朝がやって来た。



時を知らせる鐘について

一の鐘・・・朝6時 二の鐘・・・朝9時 三の鐘・・・正午

四の鐘・・・昼3時 五の鐘・・・夜6時 六の鐘・・・夜9時

それ以降・・・鐘は無し

と設定しています。


1/16

誤字報告を頂きました。

早速適用させて頂きました。

大変助かります。有り難う御座いました。

これからも応援の程、宜しくお願い致します。

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