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神の去った世界で  作者: ジョニー
第3章 動乱のイシュタル
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27話 再会



 魔術院に入った3人は、同じように戻って来たばかりのカンナ達と合流した。


「シオン!」


 ルーシーとセシリーが笑顔でシオンを出迎える。


「ルーシー、セシリー。無事で何よりだ。」


「シオンも。」


 美しい少女2人に笑顔を向けられてシオンの顔にも自然と笑みが浮かぶ。


 シオンは小さな伝導者に視線を向けた。




「戻って来てたんだな。」


 シオンが言うとカンナが頷く。


「つい今し方な。3日前にセルディナより『良好に決着が着いた』と連絡があってな。昨日レイアート遺跡を発ってさっき帰って来た。」


 カンナの言葉にシオンは首を傾げる。


「事態が決着に向かい出したのはつい先日の事だぞ? なんでそんなに早くカンナ達に情報が伝わるんだ?」


「魔道具だよ。『虹石』を使ったんだ。」


「虹石?」


 カンナは頷く。


「特定の呪文を唱える事で虹石は光りを放つ。この石に魔術で縁を結ばせてオルトウィン殿とブリヤン殿と私で持っていたのさ。」


「へえ。」


「オルトウィン殿が『事態は良好に決着』と判断したら付き添いの魔術師に青く光らせる様に指示を出す。すると縁を結んだ3つの虹石が青く輝き出すと言う訳さ。で、昨日の夜にこの石が青く輝き出した。だから戻って来たんだ。」


「なるほど・・・でも良いのか? ビアヌティアン殿の護衛は。」


「多分な。」


「多分て・・・。」


 シオンが呆れた表情になる。


 カンナは苦笑いしながら言った。


「元々、ビアヌティアン殿に護衛は必要無い。その気になればカタコウムに置かれて居る鎧の戦士達と自らが張る結界で外敵の殆どを防ぐ事が出来る。況してや今は100人単位のセルディナ騎士や兵士、魔術師達が護衛に付いている。私達が一緒に居たのは敢くまでも形だけの話さ。」




 カンナは其処まで言うとシオンの後ろに立つ2人を見遣った。


「其れよりも面白そうな連中を連れているじゃないか。」




 シオンは2人を皆に紹介する。


「この男性はミスト殿だ。カンナとセシリーは1度会ったことがあるだろう。イシュタル出身の一癖も二癖もある変わった御仁で今回の大干渉の立役者でもある人物だ。」


 シオンの紹介にミストは陰鬱な表情を不快げに歪めて呟いた。


「酷い紹介だ。」




 シオンはクスリと笑うと今度はアリスを紹介する。


「此方の女性はアリス嬢だ。此処で保護されているシーラ嬢の実の姉君だ。」


「「え!?」」


 ルーシーとセシリーが同時に驚きの声を上げる。




 見た目の幼さからシーラの『姉』だとは思わなかったのだろう。何となく顔立ちが似ている、くらいにしか思っていなかったに違いない。


 カンナは得心がいった様に頷く。


「やはりそうか。似ているから或いはもしやと思っていたが・・・。」


 そしてルーシーを見る。


「どうだ、ルーシー。彼女をシーラに会わせても平気かな?」


 ルーシーは頷く。


「勿論です。先程様子を視てきましたが大分気持ちも落ち着いています。今なら逆に是非にも会って貰うべきです。」


「解った。では会って貰うとしようか。」


 カンナは頷いた。




「その前に・・・。」


 ミストがアリスを見た。


「アリス、シーラに何があったかをお前に話して置く。」


「え・・・?」


 アリスがミストを見上げる。その表情は少し不安げだ。




 案内しようとしたカンナが足を止めて2人を見た。




「俺がシーラを救出したのは知っているな。」


 ミストの問いにアリスは無言で頷く。


「その時のシーラの状態は酷いモノだった。碌な食事も与えられずベッドに縛り付けられ、腕に魔石を埋め込まれて魔力中毒症にかかり、死にかけていた。」


「・・・。」


 アリスは真っ青な表情でミストを見上げたまま聞いていた。その小柄な身体を震わせて拳を握り締めている。


「更には・・・恐らくだが何人もの同年代の少年少女達の死を間近に見せ続けられて心もボロボロの状態だった。」


「・・・。」


 アリスはミストを見上げたまま大きな双眸から涙をポロポロと流し始める。




 ミストは少し後悔した様な表情で話を終えた。


「・・・俺が知っているシーラの状態は其処までだ。其処から先は俺も知らない。」


 そう言ってミストはカンナを見る。




 この不遜な男の戸惑う表情を見てカンナは笑いそうになったが、敢えて皆が言い辛い事を話してくれたミストに対してカンナは助け船を出す。




「そうだな。では其処から先のシーラについては、ルーシーに話して貰おうか。」


 カンナの視線を受けてルーシーが頷く。


「此処に来たときのシーラさんの状態は其方のミストさんが仰った通りです。でもセシリーの指示で医療団を結成して手当てをした結果、危機的状況は乗り越える事が出来ました。」


 アリスの表情が少し和らぐ。


「ただ、魔力中毒の症状が出ているため迂闊に回復魔法を掛ける事は出来ず、食事と薬草による自然回復に任せているのが現状です。」


 アリスが尋ねた。


「あの・・・魔力中毒と言うのは・・・?」


 セシリーが答える。


「魔力中毒と言うのは強い魔力物質に触れ続けた結果起きる症状で、魔力暴走に拠って身体に強いショックが引き起こされてしまいます。放って置くと命に関わるため、シーラさんは暫くは魔術院で様子を視させて貰ってます。」


「そうですか・・・。」


 アリスは力無げに頷いた。




 ルーシーが後ろからアリスの両肩に手を置いた。


「大丈夫です。今はかなり落ち着いています。精神的にも『お姉さんが無事だ』と知って見違える程に元気になりました。」


「私が・・・。」


 アリスが呟く。


「はい、『貴女が』です。」


 ルーシーが頷くとアリスは俯いてポツリと言った。


「・・・会いたい。」


「はい、会ってあげて下さい。」


 ルーシーは優しく微笑んだ。






「此処がシーラさんの休んでいる部屋です。」


 セシリーがアリスを見て言った。


 アリスが緊張した面持ちで頷くとセシリーはノックをして扉を開けた。




「シーラさん、具合はどうですか?」


 セシリーの声にシーラは読みかけの本から視線を上げてセシリーを見た。


「セシリーさん、はい調子は良いです。」


 セシリーは頷くと言葉を続ける。


「今日は貴女に会わせたい人が居ます。」


「会わせたい人・・・?」


 シーラが首を傾げるとセシリーは立ち位置をずらした。そして彼女の後ろに立っていたアリスを見てシーラの表情が驚愕に変わる。


 読みかけの本がシーラの手から零れ落ち、床に落ちた。




「お姉ちゃん・・・。」


「シーラ・・・。」


 2人の姉妹のスミレ色の双眸から涙が溢れてくる。




 シーラがベッドの上からアリスに向かって手を伸ばし、アリスも其れに応えるように両手を伸ばしながら歩み寄る。


 アリスの震える手がシーラの両頬を包みそのままシーラの頭を抱き締めた。シーラもアリスの背中に腕を回しギュッと抱き締める。


「生きていて良かった。」


「お姉ちゃん・・・会いたかったよ。」


 泣き出す姉妹を見届けるとシオン達は微笑みながらゆっくりと扉を閉めた。




 一行はそのまま1つの空き部屋に入ると腰を落ち着けた。




「良かったわ。」


 貰い泣きをしてまだ目が赤いルーシーとセシリーが呟く。


「セシリー、アリス嬢はどうするんだ?」


 シオンが尋ねるとセシリーは答えた。


「アリスさんにも暫くは魔術院に留まって頂こうと思ってるわ。シーラさんの為にもその方が良いでしょ? ルーシー。」


 ルーシーが頷く。


「そうね。近くに安心出来る人が居ると言うのは弱った人にとって大きな効果をもたらすわ。きっとシーラさんの回復も早まる筈。」


「解った。宜しく頼む。」


 シオンは少し安心したようにそう言った。




「ところでシオン。」


 カンナがシオンを見た。


「カーネリアはどうなるんだ?」


「・・・。」


 今回の肝である。気にならない筈が無く、ミスト以外の全員がシオンを見た。 


 シオンは答えた。


「恐らくカーネリアの現王朝は閉じられる事になるだろうな。現王は品性が欠落しすぎていて信用が全く置けない男だった。暫くは各国の識者達とカーネリア現宰相との合議制で国を運営し、その間に新しい王朝が開かれる事になると思う。」


「そうか。まあ、予想通りだな。其れとイシュタル大神殿の勅使についてだが。」


 寧ろカンナはこの質問にこそ気遣わしげな視線を向ける。


「大神殿の勅使には俺も直接話し掛けられたよ。イシュタル大神殿に竜王の御子を招きたい、と。」


「・・・ほう。」


 カンナの眉間に皺が寄る。


「無論、断った。胡散臭かったのでね。」


「そうか、なら良い。」


「だが気になる事は言われた。『いずれにせよ俺はイシュタル大神殿に来ることになるだろう』と。そして『運命と言う物は抗い難い存在だ』と。」


 シオンの言葉にカンナの眼が鋭く細まった。


「・・・其れを言ったのは何という奴だ?」


「確か、ヘンリークと言う名の大主教だ。」


「ヘンリーク・・・。」


 ミストが呟いた。




 カンナはミストに視線を投げる。


「知っているのかな? ミスト殿。」


 ミストはチラリとカンナを見ると直ぐに視線を逸らした。


「確か・・・ヘンリークって奴はかなり開明的思考の持ち主だと聞いたことがあるな。天央正教至上主義者の主教達とも日夜話を重ねて意識の改革を行おうとしているとか何とか。」


「・・・。」


 シオンは思案するように無言で上を見上げた。 


「・・・まあ、噂だし実際の処は知らんがな。」


 ミストはそう締める。




「シオンはそのヘンリークという大主教からどんなイメージを持った?」


 カンナが継いでシオンに尋ねる。




 何かを考えていたシオンがカンナを見た。


「・・・俺にはルーシーの様に嘘の見極めは出来ない。が、どんな印象かと問われれば一癖有りそうな御仁ではあったな。それと・・・竜王の御子に、いや、神の力に途轍もない執着心を感じた。」


「ふーん・・・。」


 シオンの答えにカンナははっきりしない声を上げる。




「あの、シオン。」


 セシリーが話し掛ける。


「なんだ? セシリー。」


「あのね、カンナさんとルーシーには話したんだけど、実は今ミシェイル君とアイシャがギルドを通したお父様の要望でイシュタル帝国に赴いているの。」


「ほう・・・。」


「依頼内容は天央正教に関する噂集めなんだけど、勿論単純な噂を拾ってくるだけではなくて法皇猊下周辺の大主教達に流れる黒い噂の真偽を調べて欲しいということなの。」


 シオンの眉間に少しだけ皺が寄る。


「それは・・・少し危険かもな。潜入捜査はまだあの2人には早い気がする。」


「やっぱりそうかな。お父様に言って引き上げさせた方が良い?」


 セシリーの表情に少し不安げな感情が広がる。




 シオンは考えながら言葉を口にする。


「いや・・・一概にそうした方が良いとも言えない。その話はウェストンさんも知っていて了承したのだろうからミシェイルとアイシャでも熟せると判断出来る内容だったんだろう。其れにアイシャが側に居る以上、ミシェイルが危険な真似をするとは思えない。・・・そうだな、後で俺がウェストンさんに直接話を聴いてくるよ。」


「うん、お願い。」


 セシリーの言葉にシオンは頷いた。




「ああ・・・其れでなんだが・・・。」


 黙って話を聴いていたミストが口を開いた。


 全員の視線がミストに注がれる。シオンの紹介でこの男がイシュタル帝国出身なのは既に皆が知っている。次はどんな情報が出て来るのか。


 ミストはそんな期待の視線に晒されながらも陰鬱な表情を変えずに言った。


「シオンが言っていた大干渉の件での俺への正当な報酬とやらはどうなるんだ?」


「・・・。」


 期待外れの視線に晒されながらもミストは陰鬱な表情のまま答えを待った。


「・・・そうだな。ではセシリー、お父君に言ってくれるか?」


 カンナが暫く経って漸くセシリーに言った。


「は、はい。」


 セシリーが頷く。




 そのまま何となく話し合いは解散の流れとなった。




 セシリーはブリヤンに会いに王宮へ、ルーシーはアリスとシーラの様子を見に、シオンはウェストンに会いに、カンナはミストと供に書庫室に向かった。




「で、実際の処、お前さんはどう思っているんだ?」


 カンナは後ろを歩くミストに尋ねた。


「どうって何がだ。」


「そのヘンリークって奴の事だよ。」


「さっき言ったままだが?」


 ミストの返答にカンナが振り返る。


「嘘だな。」


「何?」


 カンナは少しだけニヤリと笑う。


「私も長く生きてきて色んな奴に会ったから解るんだがな。お前さんみたいな奴が自分から持っている情報を報酬も無しに喋る事はしない。何か目的が在ってあの情報を喋ったんだろう?」


「・・・。」


 ミストは不快げに眉間に皺を寄せた。


「疑い深い奴は好きでは無いな。」


「其れはお互い様だろう。ひねくれ者同士だから理解出来る事もある。」


 暫くカンナを眺めていたミストは溜息を吐いた。


「・・・ヘンリークって奴についての噂は話した話した通りの事しか知らん。ただ・・・。」


「ただ?」


「天央正教には『影の法皇』と呼ばれる非公認の存在が居るというのを聞いたことがある。以前に金の臭いがしてその辺りを調べた時にヘンリークって奴の名前も出て来た。結局、それ以上の進展は得られなかったんで無駄足だったとその時は其処で手を退いたんだがな。」




「影の法皇ね・・・。」


 カンナはミシェイル達の事を思い、何だか不吉な予感に捕らわれた。











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