18話 使節団到着
本年、最後の投稿となります。
今年も応援頂きまして有り難う御座いました。来年も宜しくお願い申し上げます。
※次回投稿は明日の9:00頃を予定しております。
使節団が遂に王城の大正門前に到着した。
「お待ち致して居りました。カーネリア王国宰相のデイダックで御座います。」
デイダックが一礼すると、後ろに控えた騎士団も頭を下げる。
使節団の先頭に立った男が頷いた。
年齢は27~28といった処か。まだ30には達していまい。端正な顔に微笑みを浮かべて挨拶を返す。
「イシュタル帝国の帝使にして帝国第3皇子のリンデルです。この度は使節団を受け容れて下さったカーネリア王国に感謝致します。」
「!」
デイダックは身動いだ。
まさか帝使に皇子を派遣するとは。
其れは『確実に現王朝を潰す』と言うイシュタル帝国の断固たる意思の表明に他ならない。そして他の大国は其れを了承していると言う事だ。
「ど・・・どうぞ、此方へ。」
デイダックはゼイブロイの破滅を、ともすれば自分自身の破滅を感じずには居られなかった。
玉座の間にはゼイブロイがたった1人、青ざめた表情で玉座に腰掛けていた。護衛の騎士隊も近衛隊すらも居ない。もはやこの世界から人間は消えてしまったのでは無いかと錯覚してしまう程に、ゼイブロイにとっては長い時間だった。
このまま全てが夢だったとはならないのか。
愚王がそう願った時――。
「此れは此れは、ゼイブロイ王。随分とご壮健でいらっしゃる様で重畳な事ですな。」
玉座の間に親しげな声が響いた。
リンデルが両手を広げてゼイブロイに端正な笑顔を向けている。
礼儀も作法も無い挨拶にゼイブロイは表情を顰めた。
リンデルが礼を知らぬ筈も無い。其れでも敢えてこの様な態度を取るのは、暗に『お前はもう王では無い』と通告しているのだ。
その証拠に、王の御前であるにも関わらず使節団は誰1人として片膝を着かない。
「う・・・うむ。」
ゼイブロイは苦々しい表情で頷いた。
「しかし・・・。」
リンデルは冷笑を浮かべて周囲を見渡す。
「ゼイブロイ王。どうやら貴方は事態を理解して居られないご様子。」
「何・・・?」
リンデルの指摘の意味が理解出来ずにゼイブロイは訊き返した。
「そ・・・其れは一体どういう・・・。」
慌ててデイダックが尋ねようとすると、リンデルは先程とは別人のように厳しい視線をデイダックに投げつける。
「控えよ! 私は今、ゼイブロイ王と話をしているのだ。上位者同士の話に許可も無く割って入るな!」
「!・・・も・・・申し訳御座いません。」
デイダックは震え上がり頭を下げて非礼を詫びる。
代わってゼイブロイが口を開く。
「り・・・理解していないと言うのは、どういう意味かな? リンデル皇子。」
その問いにリンデルは頷いて答える。
「我々は貴方と対等の話し合いをする立場に居る使節団です。玉座の間にて貴方に傅く立場では決して無い。」
「!」
ゼイブロイの表情が怒りに歪む。が、口に出してはリンデルの要求に従った。
「そ、そうか。・・・デイダック、使節団の皆を広間に案内せよ。」
「は・・・はっ。」
デイダックは一礼し、リンデルに視線を向ける。
「で、では、皆様方。どうぞ此方へ。」
「うむ。手間を掛ける。」
リンデルは頷き、デイダックに続く。
リンデルに続く使節団と行動を同じくするシオンがオルトウィンに尋ねる。
「閣下、リンデル殿下の仰った事は其れほど拘る処ですか? 別に玉座の間でも構わなかったのでは?」
「まあ、そうですね。」
オルトウィンは頷く。
「確かに場所は其処まで拘る処では無い。・・・シオン殿は『玉座の間』と呼ばれる場所に入るのは初めてでしたかな?」
「いえ、セルディナで2~3回は入った事が在りますが・・・。」
「うむ。ならば上を見上げると判るのだが・・・玉座の間と言う場所はな、例外なく巨大な梁が幾重にも張り巡らされています。」
「はい。」
「其処には何十人もの弓箭兵を忍ばせる事が出来るんですよ。」
「・・・まさか・・・。」
シオンは信じられないと言った表情になる。
「この後に及んで其れをカーネリア王が仕組むと? 其処まで愚かだとは思えないのですが・・・。」
「・・・信用を失うと言うのはそういう事です。利己的な言動と傲慢な言い訳を繰り返し、周囲との折り合いを疎かにし続ければこうもなると言う良い例です。どれ程に非常識な事でも『常人ならそんな事はしない筈だ』と考えて貰えず『コイツなら或いはやり兼ねん。』と思われてしまう。」
「・・・。」
絶句するシオンにオルトウィンは苦笑する。
「・・・其れだけ、各国の指導者達はカーネリア王に対して苦々しい思いをさせられて来たと言う事です。正直、私もあの王の事は全く信用していない。隣国の王族であるリンデル殿下に於かれては尚更でしょう。」
シオンは軽く溜息を吐くと呟いた。
「私はカーネリアが後継者争いで治安が悪くなっている、と言う事くらいしか知りませんでした。其れほどに厄介な御仁だったとは。」
オルトウィンは首を傾げる。
「後継者争い・・・? ・・・ああ、其れは10年程前の話ですな。ゼイブロイ王が王位に就く迄の争いでは確かにこの国は荒れていましたよ。」
「そうだったのですか。私はてっきり今の王位を誰かが狙っているのだとばかり・・・。」
「噂とはそんなモノです。では、カーネリアの民もそう思っていると言う事ですな。」
「そうでしょうね。少なくとも私はカーネリアの民からその噂を聞きましたから。」
「そうでしたか。・・・いずれにせよ彼のこれまでの言動と性質は国内外に於いても、そういった良くないモノなんですよ。」
シオンは天井を見上げた。
「・・・そんな国の王家がシャルロット殿下を王妃に寄越せと言っていたのですか・・・。」
シオンは身を震わせる。
オルトウィンの顔が苦虫を噛み潰した様な表情に変わった。
「其れこそとんでもない話です。陛下やアスタルト殿下は勿論だが、我ら臣達も断固拒否していた。当時まだ姫殿下の侍女を為されていたエリス様に至っては、もし姫殿下が嫁ぐことになったら自分も付いて行くとまで仰られていた。」
「其れは・・・何としても阻止しなくては。姫殿下とエリス様のあのお優しい笑顔が曇ると考えるとゾッとします。」
シオンの言葉にオルトウィンは頷いた。
「そう。だから、今回の件でセルディナは何としても現王朝を・・・少なくともゼイブロイ王を廃する方向に持っていきたいのです。そして他国には他国なりの事情を以て同じように廃したい思いが在る筈です。」
「理解しました。」
シオンは漸くこの強引とも思える大干渉行動の割には各国の足並みがやけに揃っている事に納得がいった。
「それにしても・・・。」
シオンは思う。
「ん?」
「急に降って湧いたかのように今回の話が出て来たと感じるんですけど、セルディナでは以前から大干渉を行う計画でも在ったんですか?」
「いや。」
オルトウィンは首を振った。
「本当にここ2週間程の話ですよ。糾弾する材料集めは其れこそ各国で何年にも渡って行われて来ていたが・・・大干渉自体はごく最近の決定です。」
「では、やはりセシリーとカンナが会ったミストと言う男が寄越したシャテル子爵と彼が持っていた資料類が決め手になったと言う事ですか。」
「そうです。シオン殿にも調査して貰ったが、あのシャテルの話と資料が無ければ大干渉は起きなかった。」
「では差し詰めそのミストと言う男は世界の救世主と言った処ですか。」
シオンの呟きにオルトウィンは笑った。
「ハハハ、確かに。当人の人柄はともかく、彼がやった事には世界中の国の主導者達が感謝しているでしょう。」
その時、通路正面の大扉が開いた。
どうやら『広間』に着いた様だった。