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神の去った世界で  作者: ジョニー
第1章 報仇雪恨
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4話 調査



 俯きながらもミストの腕の裾を掴んで離さないアリスにミストは言った。


「俺は此れからセルディナに行って調べ物をしなくちゃならない。悪いが、お前の妹捜しを手伝う暇は無い。」


「・・・お願い・・・。」


 尚も言い募るアリスにミストは渋面を作る。




 そしてヴァレイに尋ねた。


「おい、あんた。この娘の依頼に応えてやれそうな冒険者なり知り合いなりは居ないのか?」


 ヴァレイは首を振る。


「こんな場末の酒場に常時溜まってる様な連中じゃ、嬢ちゃんの依頼を熟せる様な奴は居ないよ。お客さんの話を聴いて尚更そう思ったよ。」


「チッ。」


 余計な事を言うんじゃ無かった。


 咄嗟に口を出してしまった事とはいえ、ミストは心底後悔する。




 そんなミストにヴァレイが申し訳無さそうに言ってくる。


「こんな事言っちゃあ何だけど、何とか出来るのはお客さんしか居ないと思うよ。」


 余計な事を言わなくて良い・・・そう言おうと思った時、ミストの裾を掴むアリスの手に力が籠もった事に気が付く。




 ――・・・仕方が無い。


 ミストは嘆息する。ノリアから聴いた話からは金の臭いがしたから、出来れば直ぐに調査に移りたかったが、先に此方を片付けるか。




 ミストは席に戻るとアリスを見た。


「お前、幾ら払えるんだ?」


「・・・。」


 アリスは黙って貨幣袋を引っ繰り返す。




 カウンターに落ちたのは金貨が4枚と銀貨が7枚。


「・・・コレが全部。」


 アリスがミストに縋るような視線を向ける。




「・・・。」


 こんな報酬では割りに合わない事甚だしい。・・・もういい。昨日稼いだばかりだ。




 ミストは黙って金貨を1枚手に取ると懐に入れた。


「え・・・あの全部持っていっても良いよ。」


「阿呆。全部貰っても全然足りん。本当に俺の相場に合わせて支払うってんならコレの10倍は持ってこい。」


「・・・。」


 アリスの顔が引き攣る。


「出来るか?出来ないだろう?だったら余計な事は言うな。大体コレを全部俺が持っていったら、お前は此の寒空の下、何処で寝泊まりするつもりなんだ?コレでお前に凍死でもされたらまるで俺がお前を殺したみたいで気分が悪い。・・・報酬はこの手間賃の金貨1枚でいい。」


 不機嫌さを隠そうともしないミストに、アリスは掴みかねる様な表情をして見せたが


「・・・有り難う。」


 と頭を下げた。




「但し。」


 とミストは言葉を続ける。


「良いか。俺はそんなに暇じゃ無い。さっさと終わらせるし、お前を甘やかす気も無い。コキ使うつもりでいるからそのつもりで居ろ。」


「はい。」


 素直に頷くアリスを見ながら、どうやって片付けるか算段を立て始める。




「お前、何処に泊まってるんだ?」


 冬の雑踏を歩きながらミストがそう尋ねるとアリスはハッとした顔になる。


「・・・そう言えば、今日の宿はまだ取ってない。」


 アリスの答えにミストは呆れる。


「・・・付いて来い。」




 正午、三の鐘が鳴る頃にミスト達は高級宿に着いた。




 宿を前にアリスは絶句する。


「・・・貴男、こんな高そうな宿に泊まってるの?」


「ああ、そうだ。一泊するのに最低銀貨5枚は必要になる高級宿だ。」


 ミストはそう言うと中に入る。




「メレス様、お帰りなさいませ。」


「ああ。」


 頭を下げて出迎える男に片手で応える。そしてミストはアリスを見ながら男に言った。


「済まないが姪と合流したんだ。部屋は私と同じで構わないから夕食の用意は頼めるかな?」


「!?」


 アリスが驚愕の表情でミストを見上げる。




「畏まりました。それと失礼ですが姪御様はお幾つでいらっしゃいますでしょうか?」


「13歳だ。」


「!?」


 アリスが再び驚愕の表情でミストを見上げる。




「・・・。」


 男はアリスを見てニッコリと微笑んだ。


「承りました。1泊銀貨2枚を頂きますが。」


「!?」


「ああ。」


 アリスの三度目の驚愕の表情をミストは無視して男に『子供料金』を支払う。




 この手の高級宿では15歳未満を子供とみなし料金を半額に抑える傾向にある。ミストはその仕組みを利用したのだが。




「納得行かない。」


 アリスは不機嫌顔で呟く。


「何がだ。」


 部屋で寛ぐミストがアリスに尋ねた。


「部屋が同じなのは・・・まあ良いけど・・・。でも13歳と紹介された事も、其れが通ってしまった事も納得行かない。」




 ミストは頭を掻く。


「そうは言ってもな。見た感じから一番違和感の無い年齢を言ったんだがな。」


「な・・・!?」


「その証拠に受付の男も疑う事無く承知しただろう?」


 アリスはショックを受けた顔で尋ねてくる。


「・・・そんなに子供に見える?」


「まあ、少なくとも17歳には見えないな。」


「・・・。」




 静かになったアリスを見て、ミストは1つ頷くと話を始める。


「それじゃあ、お前も大人しくなった事だし算段を立てるか。」


「・・・。」


 複雑そうな表情のアリスは放っておいてミストは顎に指を当てて思案する。


「そうだな・・・先ず学園に行って話を聴いて感じを掴む。」


「え!?いきなり行くの!?」


「ああ。相手の状態を見なくては段取りの組みようも無い。そして其処での話に拠ってはセルディナに行く可能性もある。」


「・・・解ったわ。」


「早速、明日行くぞ。」


「・・・私はどうしたら良い?学園の人達には顔がバレてるんだけど。」


「構わん。付いて来い。」


「・・・。」


 アリスは不安げな表情を見せたがミストを信用したのか、やがてコクリと頷いた。




「それと・・・。」


 アリスはスミレ色の双眸を揺らめかせながら覚悟を決めた様な表情で言う。


「?」


「私は今晩はどうしたら良いの?」


「どうって・・・此処に泊まれば良いだろう?」


「其れはそうだけど・・・一緒の部屋にしたって事はさ・・・。」




 その言葉でミストは彼女が何を言いたいのか察した。


 と、同時に激しい目眩に襲われる。


 ――・・・何が悲しくてこんなチンチクリンと・・・。




「お前な・・・俺はそう言った冗談は好きじゃ無い。」


 ミストが呆れた様に言うとアリスはムキになって言い返す。


「じょ・・・冗談なんかじゃない!」


「そうか。冗談じゃないか。じゃあ、俺が今お前に手を出したら受け容れるのか?」


 そう言ってミストがアリスに躙り寄ると


「!」


 彼女は怯えた表情を浮かべて後ろに退いた。




 眼前に迫ったミストを見て顔を引き攣らせるアリスにミストは手を伸ばし・・・。


『バチンッ』


 とその額を叩いた。


「痛ったっ・・・!」


 けっこう強めに叩かれてアリスが両手で額を押さえる。




 ミストは真面目な表情で


「二度と言うな。」


 そう言うと背を向けてベッドに寝転がった。そしてそのまま片手を上げると


「お前はソッチの部屋のベッドを使え。」


 そう言って隣室の扉を指差す。




「・・・。」


 アリスは額を摩りながら憮然とした表情で荷物を持って隣の部屋に移動していった。




 部屋に配膳された夕食の肉切れを口に運びながらミストはアリスに尋ねる。


「お前、何であんな事言ったんだ。」


 ブスッたれた表情のアリスが答える。


「だって、貴男に依頼するお金は全然足りてないし、こんな高級宿に泊めさせて貰ってるし、部屋は一緒で良いとか言うし、てっきりそういう事かと思うじゃない。」




 ――・・・女として見られて無いとは考えないのか。


 ミストは感心した様にアリスを見る。




「金は用意させるだけ無駄だと思ったのが理由だ。宿に泊めたのは行動は共にして話を合わせるべきだと考えた訳だ。そして部屋を一緒にしたのはお前の見てくれが子供料金で充分に通用すると思ったから金を節約した迄だ。納得行ったか?」


「・・・。」


 増々、不機嫌そうな顔をしながら肉切れを頬張るアリスを見てミストは


 ――さっさと解決しよう。


 と決意する。




 面倒な事、この上無い。






 清涼感溢れる冬晴れの朝、2人はアリスの妹シーラが通う学園の前に立って居た。


「本当に私が居て大丈夫なの?」


 アリスが尋ねるとミストは頷いた。


「ああ平気だ。お前は俺の侍女という事にするから一言も喋らずにフードを被って後ろに控えていろ。いいな?」


「わ・・・解ったわ。」


 アリスは頷いてフードを目深に被る。




 学園入り口でミストが対応する受付に話をする。


「失礼、私はアルバン=ベルザ=メレスと申す者。この学園に通う姪の事で少々話を伺いたく、寄らせて貰ったのだが。」


「はあ・・・。」


 受付の女性はミストの貴族然とした風貌に気圧され、間の抜けた返事をした後


『少々お待ち下さい。』


 と言い残して奥に消えた。




 やがて通された応接間で待っていると扉が開き、初老の男性が入ってくる。


「お待たせ致しました。当学園の副学園長を務めているジョセフ=カルニーと申します。」


 男が挨拶をするとミストも礼を返し、ジョセフに握手を求める。


 ジョセフの手を握るとミストの双眸が妙な光を揺蕩わせ、その目を見たジョセフはビクリと身体を震わせた。


「突然の訪問にも対応して頂き痛み入る。私はアルバン=ベルザ=メレス。後ろの者は私の侍女だ。」


「ああ、そうですか。」


 ジョセフは頷く。


「君もフードを取りなさい。」


 ミストの言葉にアリスは戸惑った。以前にアリスが追い払われた時にこの男もその場に居て彼女の顔を見ているのだ。覚えられていたら面倒なことになるのではないか。


 だが結局アリスはフードを取った。




 ジョセフがアリスを見る。・・・が、一瞥して直ぐにミストにソファを勧めた。バレなかった事にアリスは心中でホッと吐息を漏らす。




「それで姪御さんについてお聞きになりたいとのお話でしたが。」


「ああ。まあ、少々複雑な話なんだが。」


 ミストは視線に力を込めて声を顰める。


「・・・。」


 釣られてジョセフも少し表情を改めた。


「・・・私はイシュタル帝国の貴族でね。」


「イシュタル・・・!」


 ジョセフが思わず声を上げる。




 イシュタル帝国はカーネリアなど比較にならない程の国力と歴史を兼ね備えた超大国だ。其処の貴族ともなれば身分が違う。


「私には妹がいた。がアイツは15~6年程前にこの国の男と駆け落ちをしてしまってね。以来、縁を切っていた。」


「はぁ・・・。」


「で、妹が娘を2人産んで亡くなったと言うのは風の噂で聞いていた。姉の方がアリスで妹の方はシーラと言う名前だ。」


「!」


 シーラの名前を聞いてジョセフの表情が僅かに警戒の色を浮かべる。が、直ぐに笑顔を浮かべてミストに言った。


「アリスさんにシーラさんですか・・・何しろ生徒の数が多くて今すぐの把握は致しかねます。」


 ミストは頷いて淡々と話し続けた。


「勿論だとも。私としても、もう縁を切った者の娘など関係の無い存在だ。正直、興味も無かった。」


「はあ、左様で御座いますか。」


 ジョセフは少し安堵の表情を見せる。


「だが数日前にね、その姉のアリスが私を尋ねて来たんだよ。」


「!」


 再びジョセフの表情に緊張が走る。


「驚いたよ。知っている筈も無い私の存在を、何処でどうやって知ったのかとね。」


「ど・・・どうやって知ったのでしょうね、ハハハ・・・。」


 ジョセフが愛想笑いをしながら探るようにミストを見る。


 ミストは首を振って見せた。


「今となっては判らんよ。あの子は余程ムリをして来たんだろう。私の屋敷に着いた時は息も絶え絶えだった。そして『妹のシーラが居なくなった、捜して欲しい。』と訴えて息を引き取った。」


「そ・・・そうでしたか。いやあ可哀想に。」


 ジョセフはアリスの嘘の顛末を聴いて心底ホッとした様に同情して見せた。


「いや、まったく。」


 ミストも頷く。




 若者達が集う、爽やかさの象徴とも言えるような学園で、大人達のドロドロとした化かし合い、欺し合いが密かに展開されている。




 そんな大人2人をアリスは絶句しながら後ろから見つめていた。





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