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アワユキエリカ

 私は、淡雪江梨花あわゆきえりか

 その名の通り、何故か影が薄く、風邪をひきやすく、それでいて休んでもクラスメイトに気づかれていない私。

 ちなみに誕生日は12月5日。

 誕生花は……アワユキエリカ。

 これは絶対、植物学者のお父さんがつけたんだと思う。

 だって4歳上のお兄ちゃんはあい

 9月12日生まれだからだ。


 私はエリカでいいけれど、男のお兄ちゃんに藍……。

 同じ漢字でらんとかにしてあげればよかったのにと、不憫である。

 アイは花言葉は「美しい装い」「あなた次第」。


 アワユキエリカは「協力」。

 微妙ね。




 私は今日も軽い風邪を引き、ベッドで横になっている。

 全身の節々が痛み、筋肉が悲鳴を上げる高熱も辛いけれど、微熱と言うか37度を超える体温が続くのも辛い。

 頭痛と食欲不振が起こるから。

 それに、私は喉が弱く、咳をしたらすぐ熱を出す。

 悪化すると気管支炎。

 悪化しなくても、次は鼻水が出てくる。


 肺炎にもなった。

 タンがよく出る場合は、肺にウイルスが来ているのだ。

 鼻水とタンは似ていると言うけれど、出る場所が違うから注意なの。


 あぁ……一応、今回は肺炎じゃないし、気管支炎でもないし、熱も出てない。

 ただ頭痛と食欲不振、少し鼻水でも、家族は大騒ぎする。

 年子の妹の花梨カリンも、普段は素っ気無いのに慌ててる。

 学校から帰ってすぐに部屋に来て、温かい柚子茶を淹れてくると出て行った。


 花梨は11月1日生まれで、誕生花はカリン。

 花言葉は「可能性がある」「豊麗」「優雅」「唯一の恋」。

 何か素敵ね。


 でも、何で私だけこんなに身体が弱いのかしら。

 それに……お母さんは……。


 いつもは隠している髪を一房出す。

 キラキラと輝くのは花梨が手入れをしてくれるから……じゃないと、切っていた髪。

 黒髪と茶色の瞳の家族の中で、私だけが何故か白髪に淡い青瞳。




 私は七歳の時、1週間神隠しにあった。

 戻ってきた私は、記憶を失い髪の色と瞳の色が変わっていた。

 その日以来、お父さんは仕事に没頭し、お母さんは私をいないものとして……死んでしまったと言っている。


 多分、そう思わないと心を保てなかったのだと思う。

 お父さんもお母さんも。

 だから、この家を出て行った。

 でも……。


 じわっと涙が溢れそうになり、慌ててタオルでぬぐう。

 泣いてない……笑わなきゃ……。




 コンコンコン!


 扉がノックされ、開けられる。

 現れたのは花梨とお兄ちゃん。


「もう! 私が持っていくって言ってるのに!」

「ふらふら持っていくのを見るのが怖いんだよ」


 お兄ちゃんは学校帰りらしく制服で、片手で持ったお盆には三つのカップとお菓子。

 お兄ちゃんはこの地域一の進学校に通い、生徒会長だ。

 中高一貫校で、私も花梨も同じ学校に通うが、私は多分出席日数が足りなくて留年になるだろう。

 頑張って入学したのに、来年は花梨と同じ学年か、退学の恐れだってある。


 お盆をテーブルに置いたお兄ちゃんは、頭を撫でる。


「どうしたんだ? 留年の心配か?」

「……うん……出席日数足りるかなって……。成績は何とか頑張ってるけど……」

「と言うか、お姉ちゃん、出席してないって言っても、学年一位キープしてるでしょ? それに、身体が弱いのは学校だって承知の上だよ。それに全国模試だって……」


 花梨はカップを持ってくる。


「ありがとう。でも、お兄ちゃんや花梨は体育や行事の参加は出来るけれど、私は無理だから……」


 肌が弱い私は日差しの強い時間帯、薄着で外に出るとすぐに水ぶくれができる。

 風邪を引きやすいのでマスクに、青くなった瞳は刺激に弱くサングラス必須。

 一年中長袖にタイツをはいている。

 同じ歳の幼馴染のエルム以外に、近づいてくる人はいない。


 エルムは満作まんさくエルム。

 苗字が満作……いい苗字だと思うのだけれど、嫌がっている。

 しかも、エルムと言うからハーフかと思われがちだけど、お父さん同士が同じ植物学者で、お父さんが、9月5日に生まれた息子に誕生花の一つのエルムとつけたらしい。

 エルムに収まったのは、本当は鶏頭ケイトウ女郎花オミナエシ秋桜コスモス、満作とつけようとしたおじさんを、おばさんが止めたみたい。

 これは全部、誕生花。


「お兄ちゃん。花梨。いつもありがとう。お兄ちゃんと花梨とエルムがいなかったら、頑張れなかった」

「何言ってるんだ。ありがとうなんて、兄妹なんだ遠慮するなよ」

「そうよ! 私にもっと頼っていいからね! エルムより頼りになるんだから!」

「なーにが、俺よりだ」


 ガラガラと開いたのは、窓。

 レースカーテンの向こうから入ってくるのは、エルム。


「ただいま〜! 江梨花」

「おいこら! エルム! 人んち入るのに、窓からはないだろ!」

「だってここが一番近い!」


 お隣さんで、しかも身軽なエルムは、窓からよく出入りする。

 ちなみに、自分で靴を置くパットや足拭きを持ってきておいて、その上に靴は置いているところがエルムらしい。


「江梨花。そう言えば、これ。答案返ってきたぞ」

「あ、ありがとう」


 受け取る。

 答えを確認すると……。


「また全部マル。お前、絶対天才だよな」


 お兄ちゃんのカップを取り飲みながら、エルムはにっと笑う。


「エルムは?」

「ん? これだ!」


 広げられたのは、何故か全部95点の答案ばかり。


「父さん母さんに言わせると、詰めが甘いんだと。でもいいと思わねぇ? 欠点よりさ。あ、父さんと母さんが、後で来るって」


 仕舞いながら言う言葉に、お兄ちゃんは、


「おじさんやおばさんに……本当に迷惑かけてるなぁ。親父達、帰ってこないし、お金あるのに、おじさん受け取ってくれないし……」

「良いんじゃね? あ、じゃぁ、俺が成人したら、江梨花はうちの嫁!」

「アホ! 妹を売る気はない!」

「だから、俺たちは、恩を売ってるんじゃないんだってば。兄ちゃんや江梨花や花梨といたいだけ」


エルムの言葉にホッとして、言い合いをする3人を笑って見ている江梨花だった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 花言葉という着眼点がいいですね! 内容も面白かったです! [気になる点] 会話の際は人物ごとに行を空けると見やすくなると思います
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