生きる為の手段
衛兵最強はダメですか?
始まりは突然だった、俺は、見知らぬ場所に立っていた
第1話「生きる為の手段」
本来こういう場合慌てるのが普通なのだろう、だが不思議と僕は冷静だった。
周りを見渡すと、見慣れたコンクリート建造物はなく、通りすがる人達は、腰から剣をぶら下げていたり杖を持っている人もいる。
そこから導き出した答えは
『異世界転送』
だが、この少年ゼロは、飛び抜けた才能がある訳でもない。日本育ちの没個性なただの中学3年生だった。
それに、
「俺をこの世界に転送したやつがいる訳でもないし、特殊な力に目覚める訳でもなければ、伝説の剣を持っている訳でもないのかよ...
んな事より、これからの事を考えないと」
そう言ってゼロは、これからの事を考え始めた。
「何もしないと飢え死にする」
「怪しい事をすると職務質問をされ、不法入国で捕まるかもしれない...」
正直分からないことだらけであったが、これからの事を考えていくと、これだけは分かった、
『生きなければならない』
そして、ある程度頭の整理が出来た僕は歩き始めた。
「従業員募集してませんか?」
「ここで働かせてください!」
そう言って10店舗を回った。日本語が伝わることは良かったが、どの店も
「子供で1文無しのうえに文字が分からないようなやつは働かせられない」
と言われる。
11店舗目に選んだ店は武器屋にした、理由は「この店はボロいから従業員がいないだろう」という浅はかな考えだった。だが、そういう考えに頼る他なかった。
店に入ると屈強な白髪で青い瞳が印象的なおじさんが声をかけてきた、
「いらっしゃい!この店は初めてだな!ゆっくり選んでくれ!」
「すまないが今回は武器を買いに来たんじゃないんだ」
そう言って、今回も同じように話した、
「ここで働かせてくれ!」
「ほぉ、おもしれぇやつが来たわ!
自己紹介しな!」
「俺の名前はゼロだ、文字は読めない、さらに所持金もゼロだ!」
いつもと同じように話すはずが、慣れてきて調子に乗ってしまった。
しばらく沈黙が続いた。
「グハハハハ〜!奇遇だな!俺は流石に文字は読めるが勉学は出来ねぇ!それにこのボロい店を見てもらえれば分るとうり、金もほとんどゼロだ!ゼロ、これから宜しくな!俺の名前はガルだ!」
そう言ってガルの店で住み込みで働く事になった。
ガルの店には欠点が沢山あった、まず商品が並んでない、仕入れ値より売値の方が安い時がある、お金の計算が出来ない、そういった欠点を直した。そうすると月に大銀貨2枚(2000円程度)店で貯金出来るようになった、その金で本を買い、ひたすら勉強した。勉強と同時進行で剣の練習も始めた、剣があれば強盗や魔物が来た時に役にたつかもしれないという考えだった。何故だか知らないが、剣の練習をしていると、ガルが剣を教えてくれるようになった。
ガルの稽古はとても厳しかった、木刀でボコボコにされるだけであった。
「今の攻撃で骨折れたろぉ!まだ動くか!やっぱりおめーは面白いなぁ!」
そう言ってガルはボコボコにしてくる、冗談抜きで強い、防御を止めたら多分死ぬ!
「ガル爺!マジで俺が死ぬ!」
「そう言っても、結構動けるじゃないか!どんどん行くぞ!」
そう言ってガルは攻撃を弱めた、否、そんな訳ではない、攻撃のパターンを変えたんだ。道に落ちてる石を拾って投げる、怯んだ所を蹴り飛ばす。
「ガル爺!剣を教えるとは何だったんだよ!」
「断言しよう!そんな考えでは誰にも勝てない!今の目標に向かって進み続けろ、それ以外は考えるな!」
その言葉と同時に飛んできた石が頭に直撃した、気絶する前に聞こえた言葉は。
『世界を守れ、何も奪わせるな』
〜そしていくらかの時が過ぎた〜
「いらっしゃーい...お!シドじゃないか!」
「お久しぶりです師匠!」
そう言って店に入ってきたのは赤髪で青い瞳の少年だった、
「師匠なんて呼ぶなよ、お前にはそんなに剣を教えてないだろ!」
「いえいえ、それがあってこその今があるのです。
師匠、見かけない人がいますね、あのお方は誰なのですか?」
「こいつは新しい従業員のゼロだ!
最近はこいつに剣も教えてるんだぜぇ」
それを聞くとシドは声を荒らげて言った
「あの元騎士団長の師匠が剣を教えているんですか?!!ガル様はもう剣から離れたいと言って騎士を辞めたのでは無いのですか!」
「いやぁ....こいつを見ていると、なんだか教えてやりたくなってな」
信じられない、この馬鹿ジジイが元騎士団長だなんて、そんな事を思っている間も話が進んでいった。
「師匠が誰にも継がなかった『守』の称号、それを継承する者が現れるとは....
君、目を見せてくれ」
そう言ってシドは僕の目を覗き込んだ。
「青瞳では無い、これでは称号を継承することは出来ない。だが何かの弾みで発現するかもしれない....」
少しの間考えてシドは言った、
「僕と春から学校に行かないかい?僕も春から入学する予定なんだ。勿論学費は払わなくて大丈夫です」
その決意に負け、春から国最高の学校の騎士団学校に通う事になった。
「ゼロが騎士団学校に行く事になるとは考え無かったな!やっぱ面白いな!」
「面白がってる場合じゃねぇだろガル爺、というかシドで誰だよ!」
「シドか!シドは国じゃ有名な騎士の家系でな、剣の腕は申し分ない。シドは昔、シドの親父と俺が訓練してると、たまにくっついにくるやつだった。俺が騎士を辞めてからもちょくちょく、この店に来るんだ!」
「へー、そのシドがガルに教わったから強いと見込んで、俺を騎士学校に行かせる事にしたのか....俺そんなに強くないだろ?!!」
「まぁ、強くはないな!でも結構頑張ってたじゃないか!俺が見てない所でも頑張ってたんだろ」
気づかれていたとは思いもしなかった、
俺の目標は『生きる』こと、強くならなければガル爺の稽古で死ぬと思い、ひそかに筋トレや素振り、ランニングなどをしていた。
「自信持てよ!俺はいつでもお前の味方だ!」
「ありがとなガル爺....あ!そういえば聞きたいことがあるんだった!
シドが急に青瞳がどうこう言ってたけど、青瞳の人ってなんかあるのか?」
「青瞳のやつはまぁ言うと恥ずかしいが、選ばれし者らしい。まぁ青瞳の奴なんて結構いるからあてにならないけどな!」
「その青眼ってやつじゃないと称号が継承出来ないとかシドが言ってたけど、称号の継承ってなんなんだ?」
そう言うとガルはあからさまに目を逸らした。
「あー...その質問はまた今度でいいや。そんなことより、元騎士団長なんだから必殺技みたいなのはないのか?せっかくだし教えてくれよ」
だいぶ傲慢な事を言っているが、シドにだいぶ期待されているので、手っ取り早く強くなっておきたかった。
「スマンが必殺技とかはないんだ!俺は加護が結構強くてよ、それで団長になれたんだ!」
ガルが加護を持っているとは思わなかった、加護のことは本で読んだ、加護は世界に愛されているものが受ける力のことで、人は全員違う加護で加護を受けない者もいると書かれていた。
「ガル爺の加護は何なんだよ?めっちゃ強いんだろ?」
「お前も同じ加護何じゃないかと思うような加護だ!俺の加護は『不動』だ!
死ぬまで動きが鈍らないんだ!」
「なんか....微妙だったわ....」
「ゼロは相変わらず口が減らないなー!よし!暗くなってきたし店を閉じるぞ!今日も剣の稽古だ!」
そう言っていつも通りの稽古が始まった。