見知らぬ部屋に男二人
いつの間にか俺は見知らぬところに立っていた。
何故?と言われてもわからないし、理由なんてない。
腕時計もしてないから時間も不明だ。
お酒の飲みすぎでわからなくなったならもっと気分が悪いと思われるのだが、今の所痛みも眠気もだるさも無い、健康そのものである。
今が朝なのか夜なのかすらもわからない。
会社に行かなきゃいけないはずなのになんてザマだ···と思ったが、今の状況から察するに会社のことを考えるだけ無駄に近いだろう。
状況を整理する。
ここは何かの建物の部屋だ、六畳くらいあって壁にくっついてる燭台を除いて、窓もドアもなく一見するとゲームの地下通路みたいな感じだ。
奥には幅二メートルほどの廊下というのか道が続いている。
明かりは壁に備え付けられた燭台が光源となっており、太陽の光漏れなどは無い。
あと足元が水深2,3センチの水で覆われており、裸足の今とても気持ち悪い···って裸足!?
驚いて自分の格好を見る。
「なんだこれは!?」
思わず声が出る。
俺はまるでローマ人みたいな服を着ていた。麻みたいな素材で作られている服で、それ以外には何も身につけていない。
下着もないせいか妙に股間がスースーする···別に変な気分にはならないけど気持ちは良くない。
「あのー」
俺は肩を叩かれていた。
驚いて振り向く。
「は、はい?」
そこには白髪交じりの頭髪の寂しい男性がいて、俺を「大丈夫かい?」という感じで見ていた。
ちなみに彼も俺と格好が一緒だ。
男性は俺に聞く。
「今ってどういう状況なんですか?」
困惑気味に俺が答える。
「さ、さあ···」
「誰か説明してくれるといいんですけどね」
そう言って男性は静かに笑う。
俺はとても笑う気分にはなれなかった。
もし今我々が愉快犯的な目的を持った連中に誘拐されていたとしたら···と考えると恐ろしい。今ここで黒ずくめの連中が現れて残虐な方法で殺されたりなど、とにかく何かしらの暴力をふるわれたりするということだからだ。
しかし俺は最後の記憶的には外に出ていたわけでは無い、ベットに入る部分の記憶があるだけだ。
まさか家の中に入ってまで俺を誘拐するだろうか、いやしないだろう。
「このように我々を誘拐し、どこかしらに監禁している犯人がいるんでしょうか?」
俺は白髪の男性に聞いた。
「まあ···多分そうなんでしょうけど」
男性は天然な返事をするくらいだった。
男性はわからないというような顔をしていた。
「あの···名前聞いてもいいですか?」
俺が男性に言った。
「ええ、私は芳賀と言います。下は貴一でして···昔からよく葉書市場と呼ばれてます」
つまり葉書市場ってことでいいのかな?
「えーと私めは月雪と言います。露という漢字に植物の木ではなくて、衛星の月に雪と書きます」
「綺麗な名字ですね」
そう言って葉書市場さんは笑った。
「よく言われます」
褒められた照れから俺も自然に笑ってしまった。
「お若いですね」
葉書市場さんは俺を一瞥しそう言った。
「二十五歳なんです」
「ちょうど私の半分ですね、私今年で五十なんですよ」
半世紀も生きているというわけだ。
不意に気になって質問する。
「結婚とかされてます?」
「いいえ」
「この状況下では良かったですね、家庭があったら気が気じゃないでしょう」
「確かにそうですね、もし私が一家の大黒柱とかだったら“自分がもし今死んだら···”と考えると辛すぎます」
死ぬという言葉が現実を煽る。
「五十歳だったらちょうどお子さんもお金の必要な時期かもしれませんね」
「ああ、私の職場でも同僚の子供が今度受験生とかいう話で···」
彼はいきなり話を止めた。
「え、何です」
俺は小声で言った。
彼は言った。
「向こうから誰か来ますよ」
誰か来るだって?
この誘拐の首謀者がついに姿を見せに来たということか。