リセット
絶対に殺してやる!!!
ここは貴族の子供たちが十二歳から十八歳までの六年間通う学園である。
今は昼食の時間で、窓からは穏やかな日差しが差し込む。
私とプリシラ様は昨日までは気分が優れないと学園を休んでいたアフロディーテ様を誘って食堂に来ていた。
窓際で他の場所より一段高くなった席は私たち専用の場所だ。
「アフロディーテ様、午後からのお茶会の練習はどなたをお誘いになりましたの?」
「いろいろ疲れてしまって。のんびりするために今日は派閥の方だけをお誘いしましたわ」
「そうですわね、たまにはそんな日も必要よね」
ため息をついた二人の意見に私も賛成だ。
「本当に「アフロディーテ!」・・・」
私が口を開いた瞬間、入り口の方向から凜とした声が響き、三人の王子が一人の女性を守るようにしながらこちらに歩いてきた。
「アフロディーテ!貴様がそこまで腐った女だとは思わなかった。私たちの婚約者候補としてふさわしくない。これは国王陛下の了承を得ている。分かったな。分かったなら即刻この場から立ち去れ。これからお茶をするのに目障りだ」
突然の事態に私たち三人が困惑していると、王子たちの後ろから鈴の音のような声が響いた。
「第一王子殿下、わたくしは大丈夫です。だからアフロディーテ様を学園から追い出すなどと言わないでくださいませ」
「ユリア、君が優しいことは分かっているけど、世の中には善意を悪意で返すような腐った女もいるのだ」
第一王子は今さっきまでの厳しい表情から一転し、王子の後ろにいたユリアを抱き寄せてとても柔らかい笑顔で見つめ合っている。
「兄上、近すぎます。ユリアは兄上を選んだわけではありませんよ」
横にいた第二王子が第一王子とユリアの間に割り込む。
「それについては私も小兄上に同意します。節度は守ってもらいませんと」
第三王子は刺すような視線を第一王子に向けていた。
この状況にどのような態度を取るのが正解なのか全く理解できなかった。
私たち三人は目の前のユリアと同じ、王子たちの婚約者候補である。
アフロディーテ様が最近したことと言えば、そこにいるユリアに現状を説明して求婚の返事を早めに返すように伝えただけだ。
私たちは彼らの婚約者候補だが、誰が誰の候補と言うわけではなく、一括りに王子たちの婚約者候補だ。
そして相手である王子たちは婚約者候補の中で身分が一番低いユリアに求婚し、その返事を待っている状態だ。
半年後には学園の卒業式があるのだが、その際にパートナーのいない女性は行き遅れと呼ばれ、大変不名誉な評価を受けてしまう。
だが現在残っているこの私たち三人とこの場に居ないもう一人は、この状況で婚約者を探す訳にはいかない。
二人はあぶれるのだ。
内々に婚約者の決まっていない男性を探すくらいはしているが時間が無い。
さっさと決めてくれと心の中で思っているくらいだ。
「兄上、弟の言うとおりです。ユリアの気持ちを尊重して待つこと、そして誰が選ばれても彼女を支えていくと決めたばかりではありませんか」
「そうです大兄上」
「クスクス、三人とも本当に仲がよろしいのですね」
場違いとも思える言葉に、王子たちがとろけたような表情をユリアに向ける。
目の前の王子たちは私たち三人の緊張した空気をよそに、今は桃色の雰囲気を醸し出して笑い合っている。
この状況は何、状況がまるで理解できない、いったい彼らは何の話をしている?
「第一王子殿下」
アフロディーテ様の呼びかけに第一王子は不機嫌な顔をして振り向く。
「まだいたのかアフロディーテ、さっさと立ち去れ、そして二度と私たちの前に姿を見せるな」
私はこの言葉に息をのむ。
最初は婚約者候補から外すだけだったはずが、この言葉は学園からの追放、下手したら王都からの追放ともとれる。
まさかユリアの言葉に影響された!?
第一王子は最初に国王陛下の了承を得ていると言葉にした。
ならば姿を見せるなとの発言も同様であると解釈も出来る発言だ。
ならば今私たちに出来ることはなく、至急実家と連絡を取り父である侯爵を通じて国王陛下の真意をお伺いしてもらうしかない。
アフロディーテ様が深く頭を下げる。
「国王陛下のご命令、しかと承りました」
その場を立ち去るアフロディーテ様に、私は声をかけることすら出来なかった。
その時、場の空気をわきまえない女がわずらわしい声を上げた。
「アフロディーテ様、私は何も気にしていませんし、王子様たちにはわたくしが取りなしておきますので大丈夫です」
何様のつもりだ!!
王子たちの前なので私は拳をぎゅっと握って耐えた。
隣にいるプリシラ様も同様になにかに耐えている気配を感じた。
アフロディーテ様は一瞬だけ足を止めたが、まるで聞こえなかったかのように何も言わずに立ち去った。
翌日、アフロディーテ様の姿は学園のどこにもなかった。
ユリアを取り合う王子たちもだが、あの礼儀知らずなユリアの態度にもいらだつ。
アフロディーテ様がユリアのことを、たまに不気味でなぜか恐ろしく感じることがある、と言っていた意味が少しだけ分かったような気がする。
「アデレート様、出入りの商人が珍しい茶葉を持ってきましたの。少しあちらでお茶でもしませんこと」
「まあプリシラ様、それは楽しみですわ。そうですわ、レア様もお誘いしたらどうかしら」
レア様は伯爵家のご令嬢で、婚約者候補の中では侯爵家の私たちよりは格下だ。
そしてユリアとは同じ伯爵家だがユリアの家より遙かに歴史は長いため、序列的には各上になる。
今までは領地間の交流が無いので、直接的な接触はしなかったが現状では必要だろう。
プリシラ様は少し右上を見て考え込んだ後に了承を返してきた。
レア様は私たち二人の誘いを断らなかった。
私たち三人は学園の裏手の東屋にやってきた。
そこにはプリシラ様の侍女が事前にお茶の準備を整えて待っていた。
私たちはお茶とお菓子をいただき、当たり障りのない会話を続ける。
東屋の周りは背の低い植物の花壇があるだけで大きな木は無く、照りつける日差しは少し熱いくらいだ。
しばらく会話を楽しんでいると、少し離れていたプリシラ様の侍女が戻ってきた。
「プリシラ様、清め終わりました」
「では本題に入りましょうか。私たちは協力すべきだと思います。ですけれど派閥が違いますし、それにレア様とは今まで交流の機会が無かったので、いきなりでは話しにくいでしょう。なのでまずわたくしからお話しさせてくださいませ」
そう言って話し出した内容にレア様は表情を少し硬くしたが私は驚かなかった。
我が家で得られた情報も同様の物で、昨日のうちに驚きと困惑は終えている。
まさか国王陛下がユリアを気に入っていて、現状を黙認しているなどとは考えもしなかった。
この情報を初めて聞いたであろうレア様が、表情に出さないように取り繕っている事に感心するくらいだ。
プリシラ様の話が終わると、次は私が同様の話をする。
二つの家からもたらされた情報がほぼ同一であった事に、レア様の表情がさらに崩れた。
私が話し終えるとレア様が口を開く。
「ご存じの通りわたくしの家は基本的にどの派閥にも属さない中立派で、今もわたくしが婚約者候補に残っているのは、早々に辞退された他家の皆様のように辞退する為の理由がなかっただけであることはご存じだと思います。そのためこの件については積極的に情報を集めたりはしていませんでしたが、どうやらそう言ってもいられないみたいですわね。持ち帰ってお父様と相談させてください」
その後もいくつかの情報をやりとりしてお茶会は終了した。
翌日、レア様の姿は学園にはなかった。
別に王子たちから何かされたわけではなく、素早くこの事態から逃れるために行動を起こしたらしい。
王子たちはユリアを望んでいること、あと残った二家に比べて伯爵家の自分は家格が劣っていることを理由に婚約者候補を辞退したいと国王陛下に申し出たのだ。
そして何か少なくない代償を差し出すことで国王陛下の承認を得たようだ。
してやられた。
彼女が相談もなく、私たち侯爵家ににらまれることを覚悟でこのような行動に出るとは思っていなかった。
だが王家からにらまれる可能性を考えれば思い切りが良く、中立派としてはもしかしたら最善の選択かもしれない。
これで王子たちは三人、婚約者候補も三人になった。
まあ卒業式までにはユリアも相手を選ぶだろうし、そうなれば婚約者として正式には決まらなくとも、残ったどちらかの王子に卒業式のパートナーをしていただけるだろう。
婚約前から愛がないことが丸わかりではあるが、政略結婚なのだからこんなものでしょうね。
未だ学園に居ないアフロディーテ様には悪いが、少しだけ安堵してしまった。
その数日後
弟のカイルが王子たちの側近として取り立てられた。
これは半ば王子たちに強要された結果であり、まだ社交の経験が少ない弟では返事を引き延ばすことが出来なかった。
普通なら実力が認められたと喜ぶべき事なのでしょうけれど・・・
「姉上、僕には理解できません。あの女、なれなれしく僕に触ってきて、慎みというものがないんですか。そもそも王子たちに呼び出されて側近になるように言われましたけど、どの王子に望まれたのか、明確に回答が得られないし、呼び出されるだけで特に仕事も無い。こんな事あり得ません」
僅か数日で温厚なカイルをここまでいらだたせるとは、王子たちはいったい何のつもりだ。
私も王子たちの言動を理解できていないし、ユリアは一般の貴族令嬢とは思考が異なっている。
お父様が動いてくれているけど、私は助言してあげることも出来ない。
私が隣に座っているカイルの頭をそっとなでると、ささくれだった表情が少しだけ和らいだ。
それから日々が流れたが、現状は一向に変化せず、ついに卒業式の日がやってきた。
結局ユリアが王子たちに答えを返さなかったために、今日の私のエスコートはお父様が王都にいないのでカイルがつとめることになった。
だがこれはプリシラ様に比べればましな方だ。
王子たちの婚約者候補であるいじょう、親兄弟以外にエスコートをお願いすることは出来ない。
プリシラ様には弟がいるが、まだ三歳だ。
彼女のお爺様はすでに彼方に旅立たれており、私のお父様もだが彼女のお父様も勅命で王都を離れている。
数日前に彼女と会ったときは、単身で入場する予定だと言っていた。
選ばないユリア、色恋に熱を上げて周りが見えていない王子たち、それを黙認している国王陛下に怒りがわいてくる。
だが私に出来ることはほとんど無い。
お父様が王都を離れる前日に話し合ったが、諸外国の情勢を考慮すると事を荒立てるわけには行かないという結論に達した。
いろいろな対策を検討して準備は行っているが、それらを行うにしても工作や根回しなどに時間がかかるため、今すぐに行動を起こすことが出来ないのだ。
私は数日前に弟のカイルから届いた異国のかんざしと呼ばれる髪飾りをそっとなでて気持ちを切り替え、卒業式の会場へ向かうために単身馬車へと乗り込んだ。
弟は王子たちの尻拭いに忙しいらしく、ここ数日会っていない。
そのため会場の入り口で待ち合わせする事になっている。
王家は私たち三侯爵家との間に亀裂を入れて何がしたいのでしょう。
もしやユリアがどこかの国と通じている?
馬車に揺られながらいろいろ考えてみたがこれだという答えは見つからなかった。
そうこうしているうちに会場に到着した馬車の扉が開かれる。
カイルがまだ来ていないので御者の手を取って降り、単独で会場玄関ホールへと向かう。
周囲の視線が痛い。
私はまっすぐ前を見据えて歩き、ホールの脇に用意されていた椅子に座った。
エスコート役のカイルが来ていない事に対して王子たちへの不満が募る。
どうせ色ぼけた王子たちがカイルに仕事を押しつけているのでしょう。
卒業式の開始時間まで待ってみたがカイルは来なかった。
私は仕方なく単身で会場へと向かう。
そういえばプリシラ様の姿を見ていない。
単身で入場するのを目立たせない為に早めに会場入りしたのでしょうか?
「「「アデレート!!貴様を王妃暗殺未遂の容疑で拘束する!」」」
会場に入った途端にツカツカとユリアを連れてこちらにやってきた王子たちが私を指さした。
意味が分からない。
王妃様は九年前に彼方に旅立たれており国葬も終わっている。
現在王妃の席は空白であり、いない人間を暗殺するなどどうやったら可能なのでしょうか?
それとも王妃様が彼方に旅立たれる前に私が暗殺を企んだとでも。
しかし当時子供だった私にそんなことを計画できるような能力はないし、する理由もない。
「申し訳ございません。王妃様はすでに彼方に旅立たれて久しく、いった王妃様とはどなたのことでしょうか?」
「当然ユリアのことに決まっているだろう。思慮が足らない女だとは思っていたが、ここまでとは思わなかった。下手な言い訳をするな」
どうやら色恋に狂った王子たちは貴族どころか人間としての思考も失ったようだ。
「ユリア様が王妃というのはよく分かりませんが、とにかくわたくしはどなたも殺そうとしたことはございません」
相手に理解する知能が無い可能性があるといっても、沈黙すればそれを認めたことにされかねない。
「ユリアが弟たちを選べば自分が王妃になれるとでも思ったか。残念だったな、ユリアが選んだ相手が王位を継ぎ、ユリアを王妃にすることはすでに決まっているのだ。そもそも犯罪者の姉で自身もユリアを害そうとしておいてそんなことはあり得ない」
話が通じない。
どうせ侯爵家の娘である私をこの場で拘束など出来ないのだから、とりあえず今日は屋敷に帰りお父様が帰られたら弟を交えてこの件を話し合おう。
私はきびすを返して立ち去ろうと思ったが、先ほどの言葉に引っかかりを思えた。
犯罪者の姉、とはどういう意味だ。
「弟に何をした」
私の声に王子が驚きの表情で半歩下がった。
王子たちが沈黙する中で第一王子の横にいるユリアから場違いな声が響く。
「あの子ちょっとだけかわいいなと思って王子たちの側近に推薦してあげたのに、何を勘違いしたのか言い寄ってくるんだもの。怖かったわ」
その言葉で理解した。
この女がありもしないことを王子に吹き込んだに違いない。
「ふん、ユリアの言った通りだ。貴様の弟は王妃に手を出した罪ですでに処刑した」
王子のその言葉に頭が真っ白になり、気付いたときには私は衛兵に拘束されており、目の前には血に染まったかんざしと血を流しながら這うように私から逃げていくユリアが見えた。
~~~~~~~~~
”アフロディーテ様”と、アデレート様の声が聞こえたような気がした。
にじんだ視界にアデレート様の優しい笑顔や弟自慢をするときのなんともいえない表情が浮かんだ。
ユリアとその下僕と成り下がった王子たちを王都から排除したゴタゴタから程度落ち着き、やっとここに来ることが出来た。
「アデレート様、これで全部終わったわ」
私はアデレートが好きだった花を墓前に供える。
卒業式があった日の数日後、アデレート様が王子たちにより私刑に処され、その首が弟さんと共に城門の前に晒され、プリシラ様が王宮に捉えられたと言う情報が、プリシラ様の弟と共に王都を脱出してきた者たちによって三侯爵の元へともたらされた。
この日は偶然、今後の方針を話し合うために三侯爵とその協力者たちが一堂に会していた。
すでに王家には見切りをつけており、準備も進めてきたが、この状況は予想外だった。
それでも可能な限り迅速に行動できたはずだ。
内部の者の手引きもあって、一ヶ月で王都を攻略した。
王と王子たちは拘束した後に処刑したが、すべての元凶ともいえるユリアは捉える寸前に、リセなんとか、と意味不明な言葉を叫んでその場に倒れたらしい。
おそらく毒でも飲んだのだろう。
死体はユリアが逃げ込んだ学園が焼失した為に残っていない。
捉えられていたプリシラ様は牢で発見されたが、とても無事とはいえない状態だった。
今は人気のない森の中にある屋敷で侍女を引退した老婆とその孫の小さな女の子にお世話を任せている。
力のない老婆か非力な子供でなければ私でさえ近づけばおびえるのだから仕方が無い。
この国の動乱は終わったわけではない。
依然として旧国王派は各地に残っている。
継承権を持つ王族は総て処刑したので旗頭がいない旧国王派はそれほど脅威ではないが、諸外国の状況を鑑みれば速やかに国内を平定しなければならない。
しかし娘を守れなかった二人の侯爵が、その怒りを吐き出すように戦いに明け暮れているので早急に片づくだろう。
今後のこの国はプリシラ様の弟を国王にして、摂政として三侯爵が後見する事が決まっている。
そして私の妹が国王と結婚して王妃になる予定である
ちなみに私の妹はお父様とお母様が仕事の合間に作っている最中であるが、だめなら私の娘になる予定だ。
そのため早急に適当な男を捕まえて結婚しなければならない。
少々頭の痛い話である。
「体調でも悪いの?」
私の目の前にアデレート様がいた。
なぜ、アデレート様は死んだはず。
訳も分からず周囲を見れば、私は焼失したはずの学園の中庭にいて、周囲には薔薇が咲き乱れている。
そして目の前にはアデレート様だけでなく隣にはプリシラ様がいた。
「顔色が良くないわよ、今日のお茶会はお開きにしましょうか」
二人が気遣うような視線で私を見るがそれどころではない。
夢でも見ているのか?
「アフロディーテ様、本当に大丈夫?送っていくわ、立てるかしら?」
いつの間にか隣に来ていた二人が私をのぞき込む。
「大丈夫、立てるわ」
立ち上がった私の両の手を二人が握り、その手に引かれるままに歩き出す。
そして馬車止めへと続く道の先に
「ユリア・・・」
冷たい目でこちらを見ながら歩いてくるのは間違いなくあの女だ。
そしてすれ違った瞬間に私の頭に激痛が走った。
「そうか・・・」
私は二人の手を強引に振り払い、護身用のナイフを取り出した。
息をのんで立ち尽くした二人をよそに、私は静かに走り出す。
グサッ!
そして背後からあの女の背中を突き刺した。
「貴様のせいだ!処刑台で殺されたのも、みんなが精神を病んでしまったのも、階段から落ちて全身麻痺になったのも、反逆者の汚名を着せられて処刑されたのも、一本ずつ指を切り取られたのも、全部貴様のせいだ!!」
何度も何度もナイフと突き立てた。
うつろな表情のユリアの口がかすかに動いた。
いけない!
危険を直感で感じ取り、口を塞いで喉をかっ切り、その中にナイフを突っ込んでぐちゃぐちゃになるまでかき回した。
そして花壇のレンガを持ってきて頭をたたき割った。
数十回と殺され、なぶられ、家族や友が死んでいく姿が頭の中を駆け巡る。
「かたきは取ったわ」
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「そう言って彼女は血のついた顔でにこりと笑いました。おしまい」
私は物語を語り終えて娘に向かって微笑む。
「えーっ、怖いし意味がわかんないよ?」
比較的有名な昔話なのだが娘には不評だったようだ。
覚えているお話が尽きてしまったから、仕方なくこの話を選択したけど間違えたかもしれない。
「女の嫉妬は怖いって意味なのかしら?きっとそう、かな・・・」
「え~、それ絶対変・・・」
私もこの話の意味を理解していないのでしつこく聞かれても答えようがない。
だんだんうっとうしくなってきた。
「もうこの話は終わり。もう寝なさい」
だけど娘は夢にでそうだからまだ寝たくないとか、お父様が来るまで起きてるとか私の言うことを聞かない。
パシン!
私は娘を叩いていた。
「い、痛い!うわーん!!」
娘が大声を上げて泣き出した。
「何があった!」
続き部屋でまだ仕事をしていた夫がこちらに顔を出し、娘の真っ赤になった頬を見て怒りをあらわにしている。
「何をしている!」
夫が娘を抱きかかえて私をにらみつけた。
「え、違うの、これは・・・・・・・”リセット”」
私は小さく呟いた。
「そう言って彼女は血のついた顔でにこりと笑いました。おしまい」
私は物語を語り終えて娘に向かって微笑む。
「えーっ、怖いし意味がわかんないよ?」
「そうね、私にも分からないわ。お父様に聞いてご覧なさい」
「うん、わかった」