悪鬼 “ゴブリン”
“ゴブリン” の残忍な破壊力は止まらない。
このままだと、“鈴之助” まで巻き込まれる。
“ゴブリン” が町に入ってきた。
大きな爆発音で浜辺近くの家々から人々が表に出て右往左往している。
駆けつけた消防団員が浜辺の方から密集してこちらに近付いている集団の影に気づく。
懐中電灯を集団の影に向ける。
そこに映し出されたのは人間ではない緑の鬼が赤い眼をチロチロと光らせながら牙をむき出して向かって来ている姿だった。
「ヒエーーー」と腰を抜かしながら町民に知らせる。
「逃げろ!!!!!!」
「逃げるんだ〜」
と転がりながら逃げ去る。
数人の若者が、「何なに〜」とスマフオ片手に “ゴブリン” の方向に歩いて行く。
近くまで行くと、スマフォを動画配信にしながら自撮り交えて “ゴブリン” にカメラレンズを向ける。
スマフォのライトに照らされたその姿。
「ロケなの? こんな夜更けにウケル〜」とまだ危険だという認識が芽生えない。
“ゴブリン” をバックに自撮り構図を決めようと一生懸命な若者の脳天に棍棒が振り下ろされる。
若者は自分の最期の記念動画を配信して事切れる。愚か。
小学生が年寄りを起こして逃げようと家の中に戻る。
「早く!逃げないと危ないと」と懸命に訴えても年寄りは相手にせずに寝ようとする。愚か。
〈ボゴーン〉と襖が蹴破られる。
“ゴブリン” が棍棒を横薙ぎに払う。
小学生と年寄りは肉片になる。
危機意識に乏しい人々は助けようとする人までも巻き込んでどんどん肉片となる。
あちらこちらの民家から火の手が上がり始める。
もうここは地獄だ。
“ゴブリン” は道を選ばない建物を打ち壊しながら町の中心にどんどん突き進む。
町の中心では逃げて来た消防団員の話を聞いて消防団の一人が火の見櫓に駆け登り警鐘を打ち鳴らす。
〈カンカンカーン〉
〈カンカンカーン〉
当にこの警鐘で “鈴之助” 目が覚めた。
警鐘で町の人らが家の外に出て来る。
ネグリジェ姿で髪にカールを巻いた八百屋のおばさんが、消防団員の話を聞いて公民館の放送室へと走る。
事務室のドアを蹴破り、町内放送の機械のスイッチを入れる。
〈キーン〉マイクのスイッチを入れる。
アナウンスを始める。
「緊急放送です、緊急放送です! 浜辺の方から鬼が襲って来ています! 家族親戚みんな叩き起こして逃げるのよ! これは訓練ではありません、繰り返しますこれは訓練ではありません」
「緊急放送です!早く逃げるのよ!早く逃げろ〜」
アナウンス途中、八百屋のおばさんがぼーっと立ち尽くす。
「分かったわ、“ピタゴラス”」と呟く。
暫く間を置いてアナウンスを再開する。
「“ピタゴラス” より命令! 全“香久耶” 一族は使命を果たせ! ミューラ坊っちゃまを守るのです!」
「武器使用許可、武器使用許可」
〈キーン、カランカラン〉
とマイクを投げ捨て八百屋のおばさんが駆け去る。
向かうは、“鈴之助” の自宅方向。
町中を走り抜けるそのスピードはおばさんの速さではない。
町中に出て来ている床屋のおじさん、女子高生の横を目もくれずに走り去る。
その頃、“鈴之助” は八百屋のおばさんが辿る道筋よりも先を歩いていた。
大御神社まで行けば、いつもの様に “ばあちゃん” が待っていると一心に思って…。
“鈴之助” の背丈は幼稚園児の中でも小さい方であることが幸いして 目前まで迫る“ゴブリン” の眼前を横切る形で “ゴブリン” の襲撃を免れてひたすら大御神社まで歩いていた。
ネグリジェ姿で走り回る 八百屋のおばさんのパワーは凄い。
どうも “香久耶” 一族の様です。




