香久耶《かぐや》という家柄
大御神社から町中を横断する様に20分ほど歩いただろうか。
町外れの旧びた平家に着いた。
電柱の街灯に照らされた表札には “香久耶” と書いてある。
「“じいちゃん”、帰ったよ〜 “ばあちゃん” も一緒とよ」
と、玄関を〈ガラガラ〉と開けて中に飛び込む。
「怪我は無かか、大事はないか」とじいちゃんが心配顔。
“ばあちゃん”が「“鈴之助”は、よーう頑張った、不浄ば見事に祓った」
「そら、良かこつ!“鈴之助” は、じいちゃんの誇りぞ」
「ほら!“じいちゃん”、タバコたい」と少年は園児服のポケットから吸い殻のタバコを渡す。
これは大御神社前のタクシー乗り場にある灰皿から持って来た吸い殻。
じいちゃんがタバコ好きなので男の子は幼稚園の帰りに灰皿覗きをするのが日課。
年寄り夫婦と幼稚園児の住まい、両親は居ない。
平屋の間取りは1DK。
年金暮らしの人の良いだけが取り柄の年寄り夫婦の貧乏所帯。
物価の安い宮崎だからなんとか生活出来ている。
平屋の裏手には大きな武家屋敷の様な門構えの屋敷がある。
この門扉の表札にも “香久耶” と書いてある。
昔、お人好しが災いして本来の家であった武家屋敷を保証人の方として銀行に差し押さえられた“じいちゃん”であった。
“香久耶” の姓はこの地域では知らない人が居ない程の名家。
高千穂峡から大御神社へと連なる龍脈レイラインを神話の時代より防人する由緒正しい一族の系譜である。
ただ今現在は貧乏の極地である。※じいちゃんがお人好し過ぎた。
“ばあちゃん” が台所で夕ご飯の用意をする。
居間には小さなコタツが置いてあり、少年は “じいちゃん” の膝の上に抱っこして貰う。
「“じいちゃん”、今日幼稚園でね、プリンば食べたよ、美味しかったよ〜」
「“鈴” が大人になったらね、買ってきてやるからね」
暫くすると、腰の曲がった “ばあちゃん” が夕飯を車輪付きの手押しワゴンに乗せて運んでくる。
〈ピョン〉と男の子は跳ね出てワゴンを押す“ばあちゃん” の手伝いに駆け付ける。
ワゴンの上の夕飯を見て「わあい、玉子焼きたい、おご馳走ごお馳走!」と無邪気に大喜び。
男の子は玉子焼きが余程嬉しかったのか、“じいちゃん”、“ばあちゃん” に挟まれて川の字で寝ながら幼稚園の出来事を沢山沢山話して幸せ一杯で眠りについた。
かぐや姫の境遇に似た感じもしますね。
もしやリアル版香久耶⁈




