穢れを祓う。
化け物が姿を現わす。
日常話:お酒を飲むと色んな人柄起因のお話が聞けるけど、思うのはその年齢まで育てたやはり人柄。
心地よい人柄はお酒を飲む甲斐もある。お酒とはそういう昇華するものでありたいと思います。
水飛沫を撒き散らしながら隆起は続く。
その隆起はいつまでも続くと思われるほど長く感じた。
海水のカーテンが途切れた部分から巨大な何かの姿が見え始める。
黒い塊。
小山のような黒い塊は〈ぬボーっ〉と姿を現した。
妖怪的に呼ぶと、海坊主。
それは“ハイドラ”だった。
“ハイドラ” それは “ダゴン” の伴侶の位置付けの古きもの。
丁度、目の辺りにすうーっと横線が入っている。
海面下で〈ぎょろぎょろ〉と見回していた目玉はその横線の内だろう。
徐々に黒い塊の横線が開きつつある。
まるで異質な世界の扉が開くような身震いするほどの悪寒が走る。
瞼の辺りをよく観ると、人間ほどの大きさの何者かが下瞼の縁にビッシリとへばり付いている。
その何者かは瞼の奥からどんどん推し出て来て下瞼の何者かを外向きに押す。
ビッシリとへばり付いた何者かは〈ポロポロ〉と剥がれ落ちて数十メータ下の海面に落下する。
黒い塊の下には落下した何者かで真っ赤な海面は乳白色に染まりどんどん拡散する。
もう目玉はほぼ開眼している。
目玉の眼下では、落下した何者かが海面に顔を出して仰ぎ見ている。
その何者かの顔は魚類を思わせる魚の顔。
あのインスマスと呼ばれる魚人である。
虚ろな眼で黒い塊を見上げ、「ダーゴン、ダーゴン」と呪文の様に魚顔の口を〈パクパク〉と動かす。
その声は瞼から際限なく落下する魚人で乳白色の海面がどんどん埋まりその領域は拡がる。
このまま日向灘の海岸線まで押し寄せる勢いで拡散している。
「きちゃダメ!きちゃダメなんだから!」
「祓いたまえ清め給え、八大龍王、不浄を滅して、来させないで」
男の子は御言を発し黒い塊を指さす。
海域より遠い大御神社の横手の龍の顎と呼ばれる龍宮鵜戸神社の洞窟奥が蒼く輝くと一閃の光の矢が放たれた。
男の子の指す腕より放たれた如く、〈キュイーンどキューン〉と高速の矢が黒い塊を射抜き蒼き光臨となって降り注ぐ。
黒き塊は小山の様な巨体のど真ん中に大きな空洞の穴をあける。
蒼き矢に接した部分は蒼く染まりその蒼は体全体に広がって行く。
上空に光臨となって渦巻く蒼は暫く後に蛍火の様にふわふわと黒き塊の居る海域に降り注ぐ。
海域に浮遊していた魚人は、蛍火に触れると透明化して消滅する。
透明化して消滅する刹那、一瞬人の姿をその消え行く身体に映す。
その人の姿の表情はただただ悲しげであり無音の叫び声を上げる。
海域全ての魚人が消滅した頃、黒き塊も蒼く染まりながら消滅する。
最後の塊が海水に溶け消えた時、〈ズバーっ〉と黒き触手が小さな男の子を絡め取ろうと伸びて行く。
男の子は、指先を向けて「“滅”して!」と一言発する。
その瞬間、遥か上空より一閃のレーザー光が降ってくる。
その照射は正確に触手を串刺しに射抜く。
黒き触手は〈ボロボロ〉と崩れて塵となる。
「汚らわしき汚泥は、神聖なる母なる大地に近寄る事許さないんだから」
黒き触手が塵となった後、上空の雲の合間から巨大な龍の胴体が一瞬垣間見えた。
海域に静寂が訪れる。
神話の化け物を祓ったのは幼稚園児の男の子。




