娘子の思い出。
〈サワサワサワサワ〉と大楠木の葉擦れの音が大きくなる。
“木霊” 達も身体の色を忙しく明滅させる。
〈コトーンコトーン〉と木琴の音色のような音を奏でていたが、
〈キーンキーン〉と頭に突き刺さるような鋭利な音色に変化している。
それは大楠木から溢れ出る思念の波が押し寄せる。
悲しみ、哀しみ、虚無の泉の湖畔にポツンとしゃがみ込む着物姿の娘子。
〈キーンキーン〉と“木霊” が取り憑かれたように奏でている音色も押し寄せる。
鼓膜が破れる限界かと思った瞬間。
“ゆうや” は、その湖畔のしゃがみ込む娘子の後ろに立っていた。
「ね、ね、“ぬらりひょん爺” さんがお話ししていた女の子だよね」
反応はない。
微動だしない娘子。
「ね、何があったの?」
「僕とね、君は似てる力を持ってるんだって」
「ね、どうして返事しないの」
「ね、どこから来たの」
「ね、君はどうして生きるのを止めたの?」
「ね、どうして悲しんでいるの?」
〈クワーン〜クワンクワンクワ〜ン〉“木霊” が共鳴した。
「“尊きお方” が亡くなった。お優しいお方、それが仇となり罠に嵌り自らを盾として亡くなった」
「人はどうしてどうして触れ合い通じた心音を大事にせずに自分の利益虚栄に執着し裏切るの!どうして」
「“尊きお方” は私たち“御君方” を守る為に戻れるか分からない悠久の深淵に沈んで行かれた」
「“尊きお方” は沈む前に私達をこの地の四方に飛ばされた。“御君方” みんなは散りじりになって一様に命を止めたの」
「“尊きお方”が居られないのに私たちが存在する理由はもう無いの」
「でも最後に人に寄り添う事を喜びにする妖怪さんとご一緒出来て良かった」
「人が好きなんだね」
「人を慈しむのは、“尊きお方”の信念だったから」
「ね、この地に飛ばされたという事は何処から来たの?」
「縄文期の日本列島からよ。私たちの国は玄界灘沖の島にあったの」
「島は“尊きお方” と一緒に沈んじゃった」




