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「そもそも、妹を狙う理由ってなんなんだ」
「そうね......」
冬花は何を知っているのだろう。
口を開きずらそうだ。
だが、言わなければならない。
それが目の前にいる、烏谷 杏優の兄に対する責任だ。
「簡単に言うと、あなたの妹さん、烏谷 杏優がタイムマシンの発明者だから......」
「なんでだ、なんで妹が──杏優がそんなもん作んだ?いや、お前は何を知ってるんだ?」
冬花は答えようとするが思う通り口が動かない。
動かせない。
何故か。
扇は冬花が話すの待っている。
「烏谷 杏優がタイムマシンを作る理由は......」
「......」
「あなたの死を、理不尽な死を変えるため」
「俺が死ぬだって......」
言葉出ない。
自分の死に何を言えばいいのか検討がつかないのだ。
扇は死ぬ時のことを全く想像できない。したくない。
「お前は本当に何をどこまで知ってるんだよ」
「最初に言っておくけど、私も教科書で身につけた知識程度だからね」
そう前置きされた。
けど、冬花の知っていることを知りたい。
だから、無言で頷いた。
「扇くん、あなたは今から3年後に交通事故で死ぬの......。それで、烏谷 杏優はあなたの死を認められずその16年後に未完成のタイムマシンを作るってわけなの。それから、1000年後に烏谷 杏優が作ったタイムマシンが元となって今わたし達、タイムレンジャーが使っているタイムマシンができたの」
「ハァ!?」
何ともぶっ飛んだ話だ。
これが未来なのか。
疑問に思ってしまう。
「妹のタイムマシンが必要なら俺を殺すことなんてないんじゃないのか?」
「あなたの死が、タイムマシン製造のトリガー。タイムマシンはあなたが死んで初めてできるって言っても過言じゃないの」
「なんだよ、それ......」
冷静ではいられない。
たが、直ぐに飲み込み、今やらなければならないことをやるのだ。
扇は、気を取り直すために、自分の頬を叩いた。
「妹がなんで捕まって言えんだ?」
「これを見て......」
そう言うと、男性の持ち物だった物を見せつけてくる。
1枚の写真が写った機器。
その写真は、扇の妹である──烏谷 杏優がロープで拘束され、身動きができないものだった。
扇の中で何かが弾けた。
頭に血が昇ってくる。
奥歯を思い切り噛んだ。
今で見たことないような目付きで写真が写った機器を睨んだ。
すぐに助けなければならない。
だから冬花に問う。
「どうすれば、助けることができる!」
「これが犯罪組織絡みだとしたら、私だけじゃ正直助けることは厳しいと思う」
「......」
「だから、まずは未来の仲間に助けを求めるところから始めた方がいいと考えてるわ」
「そんなの待ってられるか!!『sos信号』を出したとしても、来るのに半日はかかんだろ?その間に、妹にもしものことがないって言いきれるのかよ!」
そう言いきれる根拠が欲しい。
仲間が来るまでの間、扇に何かできることがあるのではないかと思ってしまう。
いや、なくてもできることを探さなければならない。
それが杏優の兄だ。
冷静じゃない扇に、冬花は宥めるように言う。
「敵の狙いは、この時代でタイムマシンの製造。それには、あなたの妹さんをどうにかする前に扇くんを殺して初めてできることだから、あなたが無事な限り烏谷 杏優に危害は加えないと考えていいはず......」
「......」
「それに、今やるべき事には仲間を呼ぶことも十分に含まれるわ」
右足を思い切り地面に叩きつけた。
冷静じゃなければならないのにそうでない自分に怒りを覚える。
冬花の言う通りだ。
今やらなければならないことはできるなら全てやるべきだ。それが、妹──杏優を助けることかできる可能性を少しでも上げるためには。
こんなことも、今の扇には分からなかった。
「わりぃ、今の俺は冷静じゃねぇ」
「逆にあなたに冷静な時なんてあるの?」
扇は黙るしかなかった。
彼女の言うことは最もなことだ。
返す言葉がない。
冬花はゆっくりと話始める。
「私を助けてくれた扇くんの判断は冷静とは言えない。
私の話を疑いなしに信じてくれた扇くんは冷静とは言えない。
私の言う通り動いてくる扇くんが冷静とは言えない。
妹さんのことで怒りを覚えている扇くんは冷静とは言えない」
「なんだよ、俺の否定かよ。まぁ、お前には大事な家族が奪われる辛さは分からねぇーだろうけどよ」
皮肉をたっぷり込めたつもりだった。
だが、冬花は首を横に振る。
「私はあなたのそんな人間味溢れる所をとても気に入っているのよ、だからあなたはそのままでいい。その分、私が冷静でいるから」
この思いに嘘、偽りはない。
だからなのか自然と扇は信じられた。
「その言い方だと俺がバカぽっいぞ」
「違うの?」
悪意なく冬花は首を傾げた。
×××
2人は、海まで戻ってきた。
戻ると早々に、『sos信号』の修理にかかる。
蛇足だが、男性は身動きが取れないように未来の拘束機能を持った手錠でしっかりと拘束してきた。あとは、『TTD』を拝借してきた。
修理には、大体30分ぐらいかかるそうだ。
その間に扇ができることはない。
ただ冬花が直すのを待つだけ。
すると、
「応急処置だけど、直せた」
そう呟いた。
これで未来からの助けが来るのを待つ。
あとは妹を助けるだけ。
こう考えていた時だった。
『上空に多数の機体確認』
そう冬花のタイムマシンのモニターで表示された。
すぐ様、冬花は外に出て確認しようとするが見えない。
これは、透明になっているのだろう。
自然とそう考える。
未来からの助けは半日。
(盲点だった、扇くんを狙いにすぐに来るってなんで考えなかったの)
これは迂闊だった。
普段ならすぐに考えつくことだ。
怪我のせいなのか、判断力が鈍っている。
「何だ、敵なのか?」
「えぇ、敵でしょうね。少なくてもタイムレンジャーじゃない」
「クソ、どうする......」
迷っていると、上空の機体が姿を表していく。
黒い機体。
それは、冬花を襲ったものだった。
更に、東京ドーム一個分ぐらいありそうな四角形の機体も表れる。
その期待から黒の機体が次々と出てくる。
時は待ってくれない。
黒い機体は、一斉に銃を出す。
狙いをしっかり扇に定める。
(また、撤退するしかないの......)
冬花は奥歯を噛んだ。
また、自分の不甲斐ないせいで。
これでは、タイムレンジャー失格だ。
でもやるしかない。
「扇くん、私の機体に乗って!!」
「どうする気だ」
「早く!!」
聞いている暇は無さそうだ。
扇は素早く機体に乗った。
冬花は、怪我をした右手を動かせないせいなのか、左手で器用に周りにあるボタンをいじって行く。
すると、エンジンがかかる。
適当に何かを入力していく。
それがなんなのか分からない。が。
これしかないのだと扇は理解する。
扇が今やることは、
「何か手伝うことはあるか?」
これが精一杯だ。
でも、これが今やるべきことだ。
次の投稿は、明日の午後4時です。
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