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日の光が思い切り少女──春野 冬花の瞳に入り込んできた。
2、3度ベットを転がると目を覚す。
見渡すとそこは見覚えのない部屋がだった。
それに、あちこち怪我をしているのか少々荒いが手当もされている。
少し体を起こしてみると、壁に1人の少年が寄りかかっていた。
よく見ると寝ている。
(もしかして、私......あそこの人に助けられたの?)
冬花が見ていると、少年は瞳を動かしながら目を覚めした。
ゴシゴシと瞳を擦りながら、冬花に目を向ける。
欠伸をしながら、
「眠たい」
何やら寝ぼけているのようだった。
冬花は、起きた少年の前に行き、体を揺すりしっかり意識を覚醒させようとする。
何だか、寒いので毛布を羽織りながら。
「あなたは、私についてどこまで知ったの?」
必死な呼びかけるようにすると、まだおぼつかない口を動かしながら話始めた。
「何も知らねぇーよ。お前が昨日、海で倒れていたから助けただけだ」
これは本当だ。
冬花のことについて何も知らない。
名前すら知らない者同士。
冬花は何ともやり切れない様子だった。
すると、いきなり少年はあっ!と声が漏れてしまう。
冬花は一体何という顔で見てくると少年は言った。
「でも、歴史が何とかって、お前そう言えば言ってたな。それってどういう意味なんだ?」
「言ってない」
「いや、満身創痍で確かに俺に言ったんだって」
「言ってない」
少女は認めるつもりはない。
その意志が伝わってくるが、少年だって負けないのだ。
「いや、言っていたね。お前は確かに言っていた。この耳でちゃーんと聞いたね」
「そろそろ、口を閉じた方がいいよ。じゃないと......」
笑顔で言うが、顔は笑ってない。
恐怖を感じてしまう。
不敵に笑いながら、鮮やかに冬花は喋る。
「消しちゃうぞ」
「それが、命の恩人に対する言葉か!?」
少年は、距離を取り、部屋にあるクッションを掴むと盾の代わりにし、身を守る構えをする。
クッションの横から顔を少し出しながら冬花を見る。
「いや、でも言ってたぞ......」
「言・っ・て・な・い」
少女はそう言うと立ち上がった。
見ると、包帯には少し血が滲んでいるのが分かる。
もう少し、安静する必要があると少年でも分かった。
それでもだ、冬花にはやらなければならないことがある。
「ねぇ、えーと......」
「烏谷 扇だ。で、どうした?」
「今からさっき私が倒れていたっていう海まで案内してくれない」
すると、部屋にある時計を見ながら扇は答える。
「まだ、7時じゃん。もうちょい後でもいいんじゃないか?」
「ならいいわ。私1人で行くから簡単な地図かなんか作ってくれない」
扇は嘆息を漏らした。
気だるげそうに背伸びしながら口を開く。
「分かった、分かった。案内するから少し待ってろ」
部屋のタンスから着替えを取り出し、上着、ズボン、靴下を取り敢えず床に放り投げた。
最後に昨日、妹──杏優から渡されたフードの辺りが羊のモコモコした暖かそうな毛でできているパーカーを冬花に投げつける。
「外は、寒いから風邪引かねぇーように着とけ」
「あ、ありがとう」
素直に感謝の言葉を口にした。
扇は出した着替えを片手に、喋りながら一旦部屋を出る。
「トイレで着替えて来るわ」
普段なら自分の部屋で着替えるのだが、今は部屋に女子がいる。さすがにそんなところで着替えることはできない。
1度は、冬花の方に部屋を出てもらおうと考えたが妹である杏優に見つかる可能がある。見つかると面倒臭いことになるのは間違いない。
頑張って1分で着替え終わり、素早く部屋に戻った。
「それじゃ行くか」
「ええ」
扇は恐る恐るドアを開け、周囲を見渡し誰もいないことを確認すると、冬花に適当に合図を出し部屋を出た。
階段まで来ると、扇は下の様子を簡単に確かめ、障害となる物がないと判断すると急いで玄関まで行き靴に履き替え逃げるように家を出る。この時は、少々小走りになっていた。
「できればなんだけど、できるだけ人目につかないようにしたいんだけど......」
「あいよ。それなら俺に任せろって。昨日の夜歩いた道で行けば人目につかないよ」
「そっか、それならいいんだけど」
どこか安心したような言い方だった。
普通に考えたら、この少女の言動は怪しい。
流石の扇でも少し考えてしまう。
(なんでそこまで人をさけんだ、こいつは)
そんなこと、冬花だって分かっている。
もし仮に逆の立場なら自分だってそう思うだろう。
扇の考えを簡単に見透かしていた。
「海に着いたら、少し話に付き合ってくれる?」
「別にいいけど」
この考えは、扇が不信感を抱き、誰かに相談され人々に自分の存在がバレるのを防ぐためだ。
ただ、普通なら聞かれてはいけない話だ。
だから、話すことに少し心配があるが、今は胸の奥にしまう。
×××
数分後。
海までたどり着いた。
周囲を一度見渡すが、誰もいる気配がない。
扇は冬花と初めて出会った所まで歩いて案内していく。
その時の記憶は、少女は曖昧なのか思い出す様子がない。
冬花は1人で歩いていくとある所で止まる。そこはただの砂浜だ。砂以外何もない。
そこで白い端末を取り出し、起動させると、いきなり球体のような機体が現れた。
機体はズズズと音を立ててドアを開ける。中を見ると、2人乗れば定員オーバーになりそうな広さ。少女は機体を指差しながら、
「中で話そう」
「......」
「別にあなたに害を与えるようなことはしないから」
「本当だな」
扇はやはりどこか疑いの念がある。
でも、話さなければ先には進むことはできない。だから、ここは勇気を振り絞り未知の機体の中へと入っていく。
1歩を機体に入れたが何も起きない。
少女は目を細めた。
「ほら、大丈夫でしょ」
「今はな」
「ほんと疑い深いだね」
冬花は機体に入り、ドアを閉めた。閉めると、機体は景色に消える。目では確認できないようになる。
それは、外の出来事であるから扇は気づかなかった。
中には、色々なボタンやレバーがありついて。触りたくなってしまう。が。
「絶対に中の物を勝手に触らないように」
念を押された。
勝手に触ろうものなら確実に殺されるだろう。そんなことが自然と分かってしまうのだ。
扇は、しっかり拳を握り膝の上に置いた。
冬花は息を1度吐き出す。それからゆっくりと口を開いていく。
「突然なんだけど、私は未来人なの」
扇は思考が停止してしまう。
無意識のうちに目を大きく見開いていた。
少女は瞳は真っ直ぐと少年の方に向いて、真剣そのものだ。
「今から話すことは絶対秘密ね」