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自宅の窓から夜空を見上げている少年がいた。
『烏谷 扇』
高校1年生。
一筋の流れ星が、海の方向へ落ちるのを目視した。
その流れ星は、詳しくは知らないが普通よりも大きく見え、東の海付近に落ちるのを確認する。
扇は、急いで自分の部屋を出ると、玄関まで小走りで行く。すると、呼び止められてしまう。
「こんな時間にどこに行くのよ、兄っち?」
扇の妹だ。
『烏谷 杏優』
という名だ。
ボブショートの茶髪で、右手に着いているブレスレットがトレードマークの少女だ。
扇は急いでいるような様子で答えた。
「ちょっと、流れ星拾ってくる」
「はぁ!?」
杏優はなんとも理解に苦しむような表情をした。が、すぐに行動に出る。
妹は小走りで家の中を移動し、1度扇の前から消えた。
そんなに時間をかけずに、扇の元に戻ってくる。
「これ持って行って」
そう言いながら、渡してきたのはパーカーだった。
フードの辺りがモコモコした羊の毛のようなものが着いている。
なんとも暖かそうだ。
「外は、寒いから風邪引くといけないから、ね?」
渡しといて何故不安な声音で聞いてくるのだろう。
もしかしたら、余計なお世話とでも心配しているのだろうか。
だが、扇はそんなことを微塵たりとも思いはしない。
逆に、
「ありがとう、杏優。流れ星拾ったら分けてやるよ」
感謝していた。
素直にお礼を言われて杏優は、少し頬を赤く染まらしながら下をうつ向いた。
そんな妹のことを気にすることなく、扇はドアを開けた。
「それじゃ、行ってくる」
「いってらっしゃい」
杏優は見送りながら、ドアが閉まるのをしっかり見届けるとポツリと呟いた。
「流れ星って拾えるの......?」
×××
流れ星が落ちた海までジョック程度のスピードで走っていた。
扇の自宅から海まで10分程度だ。
走っていると海が見えてくる。が、変化は見当たらない。
海に着くと、水面には変化はない。
砂浜を見ると、約10メール先に半透明の何かがある。
近づいて見ると、それは丸い球体のようだった。
恐る恐る、半透明の何かを触らろとした時、空気が抜ける音と共に誰かが中から出てくる。
中をのぞき込むと無数の機械があり、複雑そうな機体という認識を持った。なにより、中から出てきたのは、扇とあまり歳が変わらなそうな少女だった。
少女は、フラフラとふら付きながら歩いて出てくる。
何より怪我をしていた。
右の頬から少し出血があり、服のあちこちが破れて血がついている。
顔色も優れていない。
「そんなにぼろぼろになってどうしたんだ?いや、まずは救急車を呼ばないと......」
携帯を出そうとポケットを動かすと、少女はポケットを抑えながら必死に頼み込んだ。
「やめて、誰も呼ばないで......」
「いや、でも出血も凄い出てるしそんな訳にも行かないだろ?」
「そんなことしたら歴史が変わってしまうかもしれない......」
そこまで言いかけると、少女は体に力が入らなくなり倒れてしまう。
扇は急いで駆け寄り、少女に呼びかけた。
が、返事はない。
呼吸を確かめると、幸い呼吸はしている。
となると、意識を失ってるだけだと判断した。
出血も今は、血が固まり、止まっている。
だが、すぐに手当をしないといけない。
救急車を拒んだ少女には何か事情があるのかと思い、救急車を呼ぶことはしないことにした。
「家に連れ帰るか、一応杏優に相談......」
口に出す前に止めた。
これが何らかの事件と関係があるのなら、無闇に妹を関わらせるべきではない。
だから、杏優に話すのはやめた。
扇だけで何とかしようという結論に自分で勝手に行き着く。
少女の服はなんとも寒そうに見えたため、扇は自分の上着を羽織らせるとおんぶをするような格好になり、自宅まで歩いていく。
途中、人目につかないように遠回りをして帰る。
普段はあまり使わない、狭い路地を通って自宅の目の前まで来た。
問題はここからだ。
両親は、今仕事で家にいないからいいが、妹が中にいる。
杏優に見つかったらアウトだ。
いつまでも悩んでいても仕方がない。
扇は慎重に玄関のドアを開けた。
杏優の姿はない。
自分の部屋かリビングだろう、そう予想した。
音を立てないように靴を脱ぎ、扇の部屋がある2階までゆっくりと昇って行く。
妹に、杏優にばれないように......。
何とか部屋までたどり着いた。
少女をベットに寝かせると、リビングにある応急箱を取りに行く。
できれば杏優に見つかりたくはない。
リビングに行くと、これまた幸いなことに誰もいなかった。
この隙に応急箱を探す。手当たり次第、リビングにある引き出しなどを開けるがどこにも見当たらない。
(ないんだけど......、どこにあんの!?)
ガサゴソと物音を立てながら探していると、パジャマ姿をした杏優が現れた。多分、先程まで風呂に入っていたのだろう。
妹の表情は、怪しいと言わんばかりのもの。
しかもリビングが散らかり放題になっている。
怪しいと思われても仕方ない。
「兄っち、こんなに散らかしてどうしたの?」
「ち、ちょっと、怪我しちゃってさ、応急箱を探してたんだよ」
事実ではあるが、正確に何も分からない少女がだが。
扇の話を聞く心配そうに杏優は聞いてくる。
「えっ!?大丈夫なの、どこ怪我したの?」
「え、えっと、少し指を切っただけだよ」
適当に答えた。
これは嘘だ。
杏優に偽りを言った後に胸がチクリ痛む。
今は、少女の手当だ。
早く応急箱を持っていかなければならない。
「ほんと兄っちは仕方がないんだから」
杏優はどこか呆れた声音で、ため息をこぼした。
テレビ台の所に行くと、中から何か取り出そうしている。
取り出すと扇の元に持ってきた。
応急箱だ。
それを渡しながら、
「杏優が手当してあげようか?」
「いや、大丈夫だ。1人でできるよ。気持ちだけもらっておくわ、ありがとう」
実際は、杏優に少女の手当をしてもらった方がいいのだろう。
しかし、今は杏優に知られてはいけない。
謎の少女のお願いでもある。
扇は応急箱を手に急いで自分の部屋に戻った。
部屋では少女が今も寝ている。
早速手当にかかった。
まずは、血で汚れた皮膚を綺麗に拭き、次に傷がある部分を消毒し、包帯で止めたり、ガーゼで止めたりという処置を一応する。
ニュースで今夜は冷えるとお天気お姉さんが確か言っていたので、毛布を2、3枚少女にかけた。
目覚める様子はまだない。
今日はこのまま安静してもらう。
扇は、壁に寄りかかるすると、毛布を1枚かけ、部屋の電気を消し、眠りにつく。
眠っている少女の顔を見ながらそっと言葉をこぼした。
「歴史が変わるってどういう意味なんだ......」
明日には何か分かるのか、今はそれすらも分からない。