表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/9

2

 自宅の窓から夜空を見上げている少年がいた。


烏谷(からすや) (おうぎ)


 高校1年生。

 一筋の流れ星が、海の方向へ落ちるのを目視した。

 その流れ星は、詳しくは知らないが普通よりも大きく見え、東の海付近に落ちるのを確認する。

 扇は、急いで自分の部屋を出ると、玄関まで小走りで行く。すると、呼び止められてしまう。


「こんな時間にどこに行くのよ、兄っち?」


 扇の妹だ。


烏谷(からすや) 杏優(あゆ)


 という名だ。

 ボブショートの茶髪で、右手に着いているブレスレットがトレードマークの少女だ。

 扇は急いでいるような様子で答えた。


「ちょっと、流れ星拾ってくる」


「はぁ!?」


 杏優はなんとも理解に苦しむような表情をした。が、すぐに行動に出る。

 妹は小走りで家の中を移動し、1度扇の前から消えた。

 そんなに時間をかけずに、扇の元に戻ってくる。


「これ持って行って」


 そう言いながら、渡してきたのはパーカーだった。

 フードの辺りがモコモコした羊の毛のようなものが着いている。

 なんとも暖かそうだ。


「外は、寒いから風邪引くといけないから、ね?」


 渡しといて何故不安な声音で聞いてくるのだろう。

 もしかしたら、余計なお世話とでも心配しているのだろうか。

 だが、扇はそんなことを微塵たりとも思いはしない。

 逆に、


「ありがとう、杏優。流れ星拾ったら分けてやるよ」


 感謝していた。

 素直にお礼を言われて杏優は、少し頬を赤く染まらしながら下をうつ向いた。

 そんな妹のことを気にすることなく、扇はドアを開けた。


「それじゃ、行ってくる」


「いってらっしゃい」


 杏優は見送りながら、ドアが閉まるのをしっかり見届けるとポツリと呟いた。


「流れ星って拾えるの......?」


 ×××


 流れ星が落ちた海までジョック程度のスピードで走っていた。

 扇の自宅から海まで10分程度だ。

 走っていると海が見えてくる。が、変化は見当たらない。

 海に着くと、水面には変化はない。

 砂浜を見ると、約10メール先に半透明の何かがある。

 近づいて見ると、それは丸い球体のようだった。

 恐る恐る、半透明の何かを触らろとした時、空気が抜ける音と共に誰かが中から出てくる。

 中をのぞき込むと無数の機械があり、複雑そうな機体という認識を持った。なにより、中から出てきたのは、扇とあまり歳が変わらなそうな少女だった。

 少女は、フラフラとふら付きながら歩いて出てくる。

 何より怪我をしていた。

 右の頬から少し出血があり、服のあちこちが破れて血がついている。

 顔色も優れていない。


「そんなにぼろぼろになってどうしたんだ?いや、まずは救急車を呼ばないと......」


 携帯を出そうとポケットを動かすと、少女はポケットを抑えながら必死に頼み込んだ。


「やめて、誰も呼ばないで......」


「いや、でも出血も凄い出てるしそんな訳にも行かないだろ?」


「そんなことしたら歴史が変わってしまうかもしれない......」


 そこまで言いかけると、少女は体に力が入らなくなり倒れてしまう。

 扇は急いで駆け寄り、少女に呼びかけた。

 が、返事はない。

 呼吸を確かめると、幸い呼吸はしている。

 となると、意識を失ってるだけだと判断した。

 出血も今は、血が固まり、止まっている。

 だが、すぐに手当をしないといけない。

 救急車を拒んだ少女には何か事情があるのかと思い、救急車を呼ぶことはしないことにした。


「家に連れ帰るか、一応杏優に相談......」


 口に出す前に止めた。

 これが何らかの事件と関係があるのなら、無闇に妹を関わらせるべきではない。

 だから、杏優に話すのはやめた。

 扇だけで何とかしようという結論に自分で勝手に行き着く。


 少女の服はなんとも寒そうに見えたため、扇は自分の上着を羽織らせるとおんぶをするような格好になり、自宅まで歩いていく。

 途中、人目につかないように遠回りをして帰る。

 普段はあまり使わない、狭い路地を通って自宅の目の前まで来た。

 問題はここからだ。

 両親は、今仕事で家にいないからいいが、妹が中にいる。

 杏優に見つかったらアウトだ。


 いつまでも悩んでいても仕方がない。

 扇は慎重に玄関のドアを開けた。

 杏優の姿はない。

 自分の部屋かリビングだろう、そう予想した。

 音を立てないように靴を脱ぎ、扇の部屋がある2階までゆっくりと昇って行く。

 妹に、杏優にばれないように......。


 何とか部屋までたどり着いた。

 少女をベットに寝かせると、リビングにある応急箱を取りに行く。

 できれば杏優に見つかりたくはない。

 リビングに行くと、これまた幸いなことに誰もいなかった。

 この隙に応急箱を探す。手当たり次第、リビングにある引き出しなどを開けるがどこにも見当たらない。


(ないんだけど......、どこにあんの!?)


 ガサゴソと物音を立てながら探していると、パジャマ姿をした杏優が現れた。多分、先程まで風呂に入っていたのだろう。

 妹の表情は、怪しいと言わんばかりのもの。

 しかもリビングが散らかり放題になっている。

 怪しいと思われても仕方ない。


「兄っち、こんなに散らかしてどうしたの?」


「ち、ちょっと、怪我しちゃってさ、応急箱を探してたんだよ」


 事実ではあるが、正確に何も分からない少女がだが。

 扇の話を聞く心配そうに杏優は聞いてくる。


「えっ!?大丈夫なの、どこ怪我したの?」


「え、えっと、少し指を切っただけだよ」


 適当に答えた。

 これは嘘だ。

 杏優に偽りを言った後に胸がチクリ痛む。

 今は、少女の手当だ。

 早く応急箱を持っていかなければならない。


「ほんと兄っちは仕方がないんだから」


 杏優はどこか呆れた声音で、ため息をこぼした。

 テレビ台の所に行くと、中から何か取り出そうしている。

 取り出すと扇の元に持ってきた。

 応急箱だ。

 それを渡しながら、


「杏優が手当してあげようか?」


「いや、大丈夫だ。1人でできるよ。気持ちだけもらっておくわ、ありがとう」


 実際は、杏優に少女の手当をしてもらった方がいいのだろう。

 しかし、今は杏優に知られてはいけない。

 謎の少女のお願いでもある。

 扇は応急箱を手に急いで自分の部屋に戻った。


 部屋では少女が今も寝ている。

 早速手当にかかった。

 まずは、血で汚れた皮膚を綺麗に拭き、次に傷がある部分を消毒し、包帯で止めたり、ガーゼで止めたりという処置を一応する。


 ニュースで今夜は冷えるとお天気お姉さんが確か言っていたので、毛布を2、3枚少女にかけた。

 目覚める様子はまだない。

 今日はこのまま安静してもらう。

 扇は、壁に寄りかかるすると、毛布を1枚かけ、部屋の電気を消し、眠りにつく。

 眠っている少女の顔を見ながらそっと言葉をこぼした。


「歴史が変わるってどういう意味なんだ......」


 明日には何か分かるのか、今はそれすらも分からない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ