これぞ魔性の女。
あれから教室に戻る時に、色々な声が聞こえた。
「あ、瑛斗さんだけ戻ってきた」
「ねぇ、さっきの彼女かな?」
「ただ告白されてただけじゃない?」
「まじショックぅ・・・」
「マミみたいな子が好きなのかなぁ」
ガラッ
「お、瑛斗無事かー?」
レオが近づいてきた。
ニヤニヤしやがって。
「あぁ、無事。進化もさせたよ」
「?」という顔をされた。まぁいい。
その時チャイムが鳴った。
授業中は安心するなんて俺おかしいな。
――――――――
放課後、雨が降ってた。
いつも一緒に帰ってるレオは用事。
1人で帰ることにした。
玄関まで来ると、結構降ってるみたいだ。
「傘ない・・・」
まぁいいか、走れば大丈夫だろ。
「瑛斗くん?」
ん?
「あぁ、山本さん」
隣のクラスの人だ。
初めて話すかも。
「・・・傘もってないの?」
「え、あー、まぁ」
彼女の口の端が上がった気がした。
「途中まで一緒に帰る?近いよね?家」
「え、知らないけど・・・」
強引に腕を引っ張られた。
「ぅあっ」
「夢みたい・・・」
「何が?」
俺の質問はシカトされた。
傘があるため、顔が隠される。
周りは俺と彼女が一緒なのを気づかない。
ザー・・・
雨が強くなった。
「ねぇ」
「はい」
「今日の子、彼女?」
「え?」
「ほら、ピンクの・・・」
マミのことか?
「いや、違う」
「ふぅん・・・」
山本さん大人っぽいな。
こんな人だっけ?
雨で視界が悪くなる。
「ねぇ」
「はい」
「私のことどう思う?」
んー・・・
「普通かな」
「私は好きだよ」
「そーなん・・・え?」
すると腕を絡ませてきた。
ヒー!
いくらひと気がない所だからって・・・
これは付き合ってるみたいで嫌だ。
冷や汗がどっと出た。
「照れちゃって・・・可愛いね」
「いや、あの・・・」
突き飛ばして逃げたい。
しかし傘に入れられたからには・・・
あ、ちょっと待て。
方向は確実に俺の家だ。
「あー、えっと山本さん?」
「何?」
「俺の家知ってたんだ?」
「ふふ・・・」
「ふふ」って!
聞きました?!
赤鬼やマミとは違う雰囲気に戸惑う俺。
「・・・あ」
「どうしたの?」
「も、もうすぐ家・・・」
「うん」
「ここでいいよ。傘、ありがとう」
すると腕に力が入れられた。
「瑛斗くん・・・私のこと嫌いじゃないんでしょ?」
うん、嫌いでははない。
「山本さん、腕、痛い」
好きでもない。
「私の家、近いんだよ」
「・・・?そーなんだ」
「鈍感ね、来るでしょ?」
は?!
「いやいや、用もないのに」
とりあえず腕はなせ。
「・・・私、瑛斗とならいいよ」
・・・
・・・・・・?
・・・・・・・!!
クスクス笑う女は悪魔以上に恐ろしい。
――――――――
「はぁ・・・はぁ」
ぜぇぜぇと荒い息を整える。
あれから俺は強引に腕をほどき、
「大体、俺の家こっち方向じゃないよ」
という何とも苦しい言い訳をして走り去った。
家とは反対側に来てしまった・・・
今は雨宿り中。
花屋の前。良い香りが鼻をくすぐった。
そういや来週、母さんの誕生日だな。
「・・・なんか見てみるか」
花屋のドアを開けた。
チリンと鈴が鳴る。
すべての始まりの音。