プレゼント選び
また何日か経った。
今日は母さんの誕生日だ。
俺はカバンの中を確認した。
タオルはしっかり入っている。
「瑛斗、はやく行くぞ」
問題なのはこいつだ。
「・・・着いてくんなよ」
先を行くレオは止まった。
「いいじゃん、俺も見たいし」
「ったく・・・」
「それにお前が心配だしー」
「・・・うそつけ」
――――――――
来てしまったぜ・・・
「何ボーっとしてんだよ」
背中をど突かれた。
「うるさい!・・・は、入るぞ」
チリン
「いらっしゃいませー」
この声。
あの人だ。
奥のほうで何やら作業をしている。
「瑛斗?あの人か?」
「あの人・・・」
見すぎたのだろうか。
目が合ってしまった。
どうしていいかわからなくなった。
「・・・瑛斗、これ返すんだろ?」
見かねたレオが腕を引っ張った。
手にはあの時のタオル。
「そうだった・・・そうだよな」
自分に言い聞かせて彼女に近づいた。
「あのー・・・」
俺の声に店員さんは、もう一度俺を見た。
「はい、あの時のお客様ですよね」
久しぶりに見た笑顔。
やっぱ苦しくなる。
「これ、返しますね」
「あっ、すみません、ありがとうございます」
タオルを渡して、本題に入る。
「あ、えっと、前にも話したと思うんですけど」
「?」
「今日は母の誕生日で・・・」
パァッと更に明るい表情になる店員さん。
「そうでしたね、おめでとうございます」
久しぶりに女の人の素直な笑顔を見たのかもしれない。
作り笑いじゃないことを信じたい。
「お母様の好きな花とか知ってますか?」
好きな花・・・
なんだっけ?
「あ、前にここに来たことあったみたいで・・・」
「そうなんですか?」
「はい、それでオレンジの花が家にありました」
そういや母さん、オレンジ好きだよな。
「そうだ、少しお待ちください」
そういって、奥の方へ走っていった。
チラッと後ろを見ると、奴がニヤニヤしていた。
「・・・ニヤニヤすんな」
口パクだが通じたみたいだ。
「お待たせしました。今日の誕生花はバラですよ」
「誕生花・・・?」
「はい、それにオレンジです」
その手があったな。
しかも都合が良い。
「じゃあ、その花と他の花で花束っぽいの下さい」
――――――――
「こんな感じで、いかかですか?」
アバウトに伝えたが、出来が良すぎる。
「いい感じです」
ニコニコ顔がここまで似合う人はいるだろうか。
チリン
「ありがとうございました」
――――――――
「おいおいおいおい!」
店を出で数秒後、レオは叫んだ。
「・・・なんだよ」
「普通に可愛いじゃん!」
「・・・前にも言っただろ」
それにしても目立つ。
花束持つ男子校生。
しかも隣も男・・・
「いやー、お前さ、可愛い子もフッてたからー」
レオはお構いなしに話を続ける。
「正直、不安だったんだよなー、お前の趣味」
「・・・失礼な奴」