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乙女ゲームの束縛から抜け出す方法

「カナ!!」


「シュナ様!!」


ひしっと抱き合う恋人同士にしか見えない若い男女を、こっそり眺める。

私だけではなく、隣に同じように隠れて見ているリトもいるし、あの野良魔術師や副リーダーもどこかで見ているだろう。

それに何より、第一王子を護るために脇を固める人々がいるわけで。


「あぁ…何というか、哀れですね」


様々な意味で。

脇を固める人々は所謂近衛騎士だと思うのだが、彼らはあくまで仕事をしているだけだ。決して、第一王子とその恋人(?)とのイチャイチャを見たいわけでもないだろう。何せ、必死に顔を背けたり、淀んだ目で遠くを眺めたりしているので。

何だろう、元宰相といい第一王子といい、人に見せ付けたいという性癖でも持っているのだろうか。面倒な性癖である。


「うーん…魅力的な恋人が自分のものだって知らしめたいって気持ち、俺にもわかるよ。自分にその人の視線が集中しているところも、相手が人前で恥じらう姿も、一緒に見せ付けたいんだよな。他にも狙っているヤツがいるなら、なおさら」


リトの視線の先を見て、私も納得した。

幼馴染である護衛もこの場にいて、第一王子と自分の想い人の仲むずまじい姿を見て悲し気に微笑んでいる姿を見ればリトの意見もあながち間違っていないと思える。

でも、それが目的だとしたら第一王子の性格はかなり悪いんじゃ…。


「うっ…そんな目で俺を見ないで……っ!!」


「?」


第一王子の性格の悪さを思って顔を顰めていたら、リトが苦しそうに呻く。

今朝出してもらった朝食に、彼が幼い頃に苦手だった香草が入っていたのだが、苦しそうな様子はそれが原因なのだろうと私は推測する。やはり今も苦手でありながら、ムリして食べて気分が悪くなったらしい。まったく、そんな些細なことで呆れたりしないのに、リトは変なところで真面目だ。

後でそっと、昔好きだった蜜桃でも差し入れよう。


「それにしても、カナハ嬢はなかなかの演技派ですね」


「あー、ここのリーダーに比べれば確かにな。さっきの寸劇といい、今のやり取りといい。いい諜報員になれそうじゃないか?」


反政府組織のリーダーは相当、ヒロインに心を奪われてしまったようだ。

海千山千の魔物が跋扈する、さまざまな人間に監視されて行動を制限される窮屈な王宮にいるよりも、ここで自分が護っている方が良いか。

それとも、危険で野蛮な優雅さの欠片もない自分たちと行動を共にしているよりも、ぬくぬくと危険とはかけ離れたキレイなものに囲まれた箱庭での生活の方が良いか。

ひたすら考えた結果、彼はヒロインから手を離して王子の方へと彼女を預けることにした。別れの抱擁はまさに恋人同士のそれで、ヒロインをかき抱く腕の力の強さが彼の葛藤を思わせる。そして、それに応じるヒロインの頬に流れる涙の美しいことといったら…。


あの場面こそ『スチル』に残せばいいと思いつつ、リトの言葉に現実に戻された。

あれか、ハニートラップとか。

確かに、リーダーとのことも匂わせないその手腕は凄腕とも言えそうだ。見付からないように、接触しないようにしていたから副リーダーや野良魔術師からの情報からしか知りえないが、リーダーとアジトで過ごしていたときは本当の恋人同士にしか見えなかったらしい。


「もしくは、白杖のが欲しがりそうではありませんか?」


あれ(・・)って回復系使えたり、薬の知識持ってたっけか?」


「『あれ』……」


まさかのヒロインの呼び名に絶句するが、ひとまずはリトの問い掛けに答えた。


「いいえ、彼女の持つ祝福はそうではなかったと思いますよ」


異世界から渡って来た女性を『聖女』と呼び、彼女たちが持つ特別な力を女神さまから賜った『祝福』と称する。あくまで知識として知っているヒロインの祝福についてそう答えれば、彼は眉を顰める。


「だったら、もう一つの方でか?だったら尚更、シーアさんは欲しがらないだろうよ。あんな風に誰にでも乱れるような女に指導なんて不可能だろう」


「…………」


冷ややかな評価に、私は再び絶句する。今度ばかりは何も言えない。身に覚えがあり過ぎて今、きっと私の顔は血の気が引いて蒼褪めていると想像が付く。何せ、私はヒロインと違って直に触れられてもいないのに。


「セト!お前は違う!!」


両肩を掴まれ、至近距離で強い声をぶつけられた私はハッと我に返る。隣に立ってヒロインたちのやり取りを見ていたはずのリトが、真剣な眼差しで私の前に立っていた。


「お前は違う。だって、そうだろ?お前がそうなのは、俺がそうなるようにしたからだ」


彼が私と同じものを思い出していることに気付いて、私は蒼褪めていたであろう顔色を今度は赤くしたと思う。すごく顔が熱い。絶対に湯気が出ているはずだ!

あわあわと無意味に両手を胸の前で振って、私は口を開く。


「ですが、私は青秤のが準備してくれた厚手の布を介してなのに、あのようにみ…みだ」


「セト、そりゃ乱れて当然だろ?だって、俺があんなに必死こいて奉仕してんだよ。愛だってたっぷり籠ってんのに、それでお前が無反応だったら俺、泣いちゃう」


よよよっと、泣きマネをするリト。先程までの真剣そのものな顔付ではなく、そのおどけた口調に合う態度はきっと私の気持ちを少しでも軽くするためにしているとわかる。

彼はそうやって、私の気持ちを軽くするために道化に徹して軽く笑い声を立てた。


「ここは男の矜持を保てるように、俺の技術がすごいってことにしといて。ね?」


つんつんと私の唇を指先でつつき、茶目っ気たっぷりに片目を瞑る彼。何というか、道化と言うよりもチャラいイメージが先行してしまうその仕草…、似合う。


「そ、そうですね。リトはすごいです。私はまだまだ未熟で」


「いやー、俺だってまだ未熟だよ?まだまだ、父の愛に太刀打ち出来ないし」

「…?今、なんと?」


「いいや、何でもない!!だーいじょうぶだって!この仕事が終わったらシーアさんの講議速攻で受ければ十分、間に合うよ」


聞き逃した言葉は結局教えてもらえなかったけど、機嫌良くリトが笑っているのだから良いということだろう。

気付けばすでにヒロイン一行がいなくなっていたから、そろそろ副リーダーたちと合流して今後のことを話し合わなくては。


「はわわわわっ。ユダ様、あの二人はご兄弟ではないんですか!?あ、あんな親密で淫靡な」


「ハイハイ。まだ君には早いから、目と耳を塞いでおこうね?」


「……?どうされたのですか?」


意外に近くにいた副リーダーと野良魔術師に問い掛ければ、副リーダーの方が淀んだ目でこちらを見て大きな溜息を一つ吐いた。失礼ですね。

リト「父の愛=布の厚さ。ぜ、絶対に負けない!!」

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