表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/18

反政府組織の協力を得る方法

「あなた方を協力者として認めましょう」


あっさり。

実にあっさり、副リーダーがそう結論を下した。何故なにゆえ


「本来なら、ここのリーダーに伝えるべきでしょうが、彼はそれどころではないですし。私も自分の仕事以外が伸し掛かって来ているので、忙しいのですよ」


あぁ、全てはヒロインのせいか。

そして、リーダーの仕事を背負う羽目になっているらしい副リーダーの目に怒りの炎が燃え盛っている。笑顔なのに、器用なことだ。

相当、腹に据えかねているらしい。


しかし、すでにヒロインに落ちていると思われた副リーダーだが、だいぶ冷ややかな反応である。どういうことだろうか。


「あぁ、あれ?いつもの身体検査だよ」


「身体検査?」


忙しそうに去る副リーダーに世話係兼連絡役として付けられた野良魔術師に聞けば、やはり簡単に教えてくれた。

いや、こちらとしては助かるのだが…。副リーダーとリトが話し合った結果、私たちは協力者であってメンバーではないほぼ部外者という立場に収まったのだ。

つまり野良魔術師は、そんな相手に簡単に内情を教えてしまっているわけで。他人事ながら、素直過ぎる彼では人選ミスじゃないかと不安になった。


「何か隠してないかって服を脱がして確認してたの。ほら、隠す場所って服の下だけじゃない…でしょ?」


「えぇ、まあ」


顔を赤らめる野良魔術師の純情な態度に、私は何とも言えない返事しか出来なかった。だいぶ苦しいだろうが、喉に何かを仕込むことも出来るし、排出器官も頑張れば入る。そして女性なら…と、そこまで考えて思考を遮断した。

それであそこまで乱れるカナハ嬢は、なかなか豪胆だと思う。


「…あれ?ですが、何故わざわざリーダーと副リーダーが検分していたのですか?責任者とはいえ、年若い女性相手ですのに」


一応は、こういった検分でも同性がするべきだとも思う。若い女性ならば嫌がられるだろうし、そもそも男性が女性の身体に触れて正気でいられるか…。女性の扱いが慣れているはずのリトだって、私相手にときどき止まれなくなるのだから。


「ふむ…。つまり、『ただしイケメンに限る』というわけでしょうか」


「ふえ?」


「いえ、こちらの話です」


野良魔術師のマヌケでちょっと可愛い疑問符交じりの声に、私は笑顔で答えた。『イケメン』であればなんでも許されるという、前世の知識が言う。つまり、ルールも若い女性の感情もイケメンのために変わるのだ。


「あれが身体検査。私たちにはありませんでしたが…ところで、本当にそれだけなのですか?新参者である私たち如きがリーダーにお目通り出来るとは思ってはいませんが、ずいぶんと長く掛かっているように思いますけど」


いや、リトはともかく私は困る。一応、男としてここにいるのだから服を脱いだだけで一発でバレる。そして、何故隠していたかという話になると非常に困るのだから、身体検査なんてなくても良い。

しかし、本当に杜撰だと思う。私たちが国家の人間だったらどうするつもりだろうか。


私の言外に含めたことを正しく理解したらしい野良魔術師は、オロオロしながら何やら弁解しようとしていた。


「き、きっと奥の方に何か隠してるんだよ!ほら、あの女性ひとは王子たちのお気に入りだったから!」


まあ、人前…主に私の前で散々奥まで指を突っ込まれていたから。『どこに』とはあえて言わないが、そのときに何かしら挿入されていても不思議はないかもしれない。

それにしても、野良魔術師はリーダーに対する弁解をしているが、ヒロインに対しては結構つっけんどんな態度に思える。本来であれば、ここではヒロインを擁護するために食って掛かるところだろう。

もしや、私たち付きにされた弊害で、ヒロインとあまり接触出来ていないのだろうか。

だとしたら、なかなか良いタイミングでヒロインと野良魔術師を分断出来たというわけだ。


「…………」


野良魔術師がヒロインの世話役だとは言え、彼の立場はあくまで攻略対象者だ。知識の中には他の『乙女ゲーム』とやらが存在して、そこではヒロインの『サポートキャラ』という宿命を背負った者たちが暗躍していた。

そしてこの『堕華』にも『サポートキャラ』がいたのだが、彼は今、どこにいるのだろうか…。


私の脳裏に、あの映像が流れる。

悪役の最期を見届けたヒロインが、他の攻略対象者に引き摺られて去ろうとする中、逆の方向へ走り出す小柄な姿。ヒロインの必死な呼び掛けに燃え盛る炎にも負けない長い赤毛を靡かせて振り返ったその少年こそが『サポートキャラ』で……。


私は首を振って、その映像を振り払った。


リーダーのことを必死に弁解している野良魔術師には悪いが、どう考えても彼はヒロインに落ちている。彼女の身体検査を口実に、仕事もせずに部屋にこもっている時点でそうとしか考えられない。

前世の知識において『チョロい』としか言いようのない男性がリーダーであるこの組織の将来が若干不安になるぐらい、先程の『ただしイケメンに限る』に対して『ただしヒロインに限る』状態に陥っている。

それに対して、警戒心が残っているらしい野良魔術師と冷淡な副リーダーとの落差が際立っていた。


「あの、さっきの質問だけど。女の子相手に偉いとはいえ、男の人が身体検査をしている理由なんだけどね。貴族にひどい目に遭わされて人たちがいるから、過激なことをされるかもしれないってことと、王子たちから何かしらの指示を受けて探っているかもしれないってことで、リーダーたちが検査に入ったんだよ。別に、可愛い女の子だからって下心でリーダーたちがなんかしてるわけじゃないよ!!」


「ハイハイ」


副リーダーがリーダーの仕事を捌いている時点で、すでに『下心』を超越した状態になっているような気もしないでもないが、そこは野良魔術師には直接言わなかった。言わなくても、焦った様子で弁解している様子を見ると、彼もまた内心は同じように考えているのだろう。

まったく、こんなに慕われているというのに、リーダーはどこに目がついているのだか。こういう子にこそ、目を掛けてあげれば良いのに。


「あ…いや。僕はユダ様に面倒を見て頂いているので大丈夫!リーダーのことは、ユダ様がどうにかするって約束してくれたから、きっとどうにかしてくれるよ!!」


おや、ずいぶん他力本願。もとい、副リーダーに対する信頼度がすさまじい。


「だって、ユダ様がカノーゼ様のことを信頼されているから。だから、そんな方があんな女の子にのめり込んだままであるはずはないんだ!きっと、尋問して王子たちの企みを暴いている最中なんだ!!」


ものすごい信頼度は、副リーダーの方が圧倒的に上らしい。むしろ、副リーダーが信じているから、リーダーを完璧超人だと信じているようにすら思える。

リーダーはこの野良魔術師の信頼を裏切らないでほしいものだが、もう遅いような気がしないでもない。私からは何も言えないが。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ